別に弱くはない

ぷんすけ

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1章 シーム村

#5 今からでも

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 あの日以来、俺は変わった。

「もうへばったのか?昨日はもっと耐えてたろ!」
 木剣に魔力を込めビリーの隙だらけのお腹に叩き込む。

「お前剣術向いてないよ。せっかく魔力が多いんだから魔法学びなよ」
 ビリーはまだ魔力の流れが理解できていない。

 先生が言っていた。『最初は魔力を少しでも感じる必要がある』と。『何が魔力なのか?魔力とはなんなのか?を知る必要がある』と。
 俺はたまたま説明だけで魔力の流れを理解できただけで他の子もまだ魔法が使えない子ばかりだ。

 魔力量の関係で体から放出する事が難しく自分自身に魔力を纏わせるか、木剣程度の大きさの物に纏わせるかのみだ。
 だから俺は回復魔法が得意では無かった。
 魔力が少な過ぎたそのせいで相手に対して使う事が出来ない。
 今まではビリーに手荒な事はしたくなかったし回復魔法を1番最初に習ったつもりだった。

 その結果俺が導き出した答えが変身魔法でビリーに扮し剣術で凄い所を見せてビリーが落ちこぼれで無い事を見せようとしてた。
 今となってはそれが逆効果になるであろう事は理解できる。

 もし俺が王都へ行ったらビリーをいつも守ってくれる人は居なくなる。
 お母さんは村に残ってくれるだろうが学校では授業に着いて行けず心配になる。

 手荒な事になっても!もし!もし、ビリーが魔法を使える様になれば一緒に王都へ行けるかもしれない。
 もし行けなくても自分をお母さんを妹のペケを守るだけの力は身に付くかもしれない。

「まだまだ本気じゃないぞ?……立てっ!!」

『1週間だ。今週中に答えを出せ』
 最後にそれだけをお父さんに言われた。
 近い内に王都からの大預言者様がこの村に来るとの事だ。

 1週間。あと1週間以内でビリーが王都へ行けるか行けないのかの結果を出さなければならない。

「うわぁぁぁぁ!!!」
 雄叫びを上げたビリーは俺の方へとは向かわずに真逆の方向に逃げて行った。

「逃げるなビリー!」
 ビリーは俺の声も聞かず走り去って行く。

 まだ、まだ時間はある。
 俺は決してビリーを追いかけない。
 追いかけたらもっと遠くへ逃げて行くだけだから。
 あの先は村を出ると魔物が多く住む森がある為あそこに行かせる訳にはいかなかった。

 その日は俺も直ぐに帰らずその場に留まりひたすら魔力を増やす修行をしていた。
 その方法とはひたすら魔力を消費して体内の魔力を空にする事で魔力が回復する時に元の魔力量より増えて回復する。

「ぼろぼろぼろほろろぉぉぉぉぉ!!!」
 ビリビは魔力を使い切ると同時胃に残っていた物を吐き出した。

「もう、ビリーの事は諦めよう。はぁ、……死にたい」
 魔力が空っぽになるとネガティブになってしまう。
 そしてはいつの間にか意識を失う。





 目を覚ますと辺りは大分暗くなっていた。
 あと何回ここでビリーと特訓出来るだろうか?
 そんなのどうでも良いか……特訓なんかしても疲れるだけだし。
 目が覚めても魔力はほんの少ししか回復して居ないし、ビリビはまだネガティブのままだ。

 ぐるるぅ~。
「お腹減ったな。でも食欲無いな」
 自分が先程吐き出した形跡が目にはいってしまった。
 臭い……。
 フラつきながらも家に帰り水を飲む。

「全然増えて無いなぁ」
 まだ回復しきっていないとは言えこの感じでは魔力量の変化は少ないはずだ。

 こんな事いくら繰り返しても全然増えないんだから意味無いじゃん。
「はぁ、生きてる意味無いのか……」
 自分で思った『意味無い』を『生きてる意味無い』に変換してしまう。

「おかえりなさい。ビリーとは一緒じゃなかったのね」
 家に着くとお母さんが直ぐに出迎えてくれる。

「まだ、帰って来てないの?」
 ここ最近帰りが遅くなる事があったが今日は違う。

 僕なんかが探しても嫌がられるだけだよな~。
 そもそも行くのダルいしな~。
 行きたく無いな~。
 でもお兄ちゃんだしな~。
「はぁ、……ちょっと探してくる」

 どうせ見つかりっこ無いしな~。
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