ツンデレギャルが目を覚ますと、黒光りした大きくて硬い鎌を握っていました~転生先はロリッ子死神?! それでもエールちゃんは死を司る~

雄太朗

文字の大きさ
1 / 1

女神なんて糞くr……

しおりを挟む
 はぁーい! こんにちは!
 美女死神こと主人公の、エールちゃんで~す!!

 ……。

 なによ?
 なんだこいつって顔で見ないでくれない?

 なんでそんなポップなのかって?
 そんなもんコメディだからに決まってるじゃない。

 なに? エチエチな物語でも期待してるわけ?
 そんな野蛮な奴は、今すぐここから消えなさい!

 ……。

 えっ、ほんとに帰っちゃうの?
 いや待ってよ、エールちゃんがちょっとサービスするからさ!

 ……そもそもどんな話かって?
 そりゃ~エールちゃんの前世がイケイケって物語よ!

 ……そんな話は聞きたくない?
 仕方ないわね。それなら死神になってからのことでも話しましょうか?

 ゴホンッ! え~っと。
 死神になったエールちゃんに課せられた初仕事。
 それは、イケメン勇者の首を斬り落とすことでした。

 ……なんでそんなことになったかって?
 急かすんじゃないわよ。だからあんた達はいつまでも童貞なのよ。

 いい? 黙って最後まで聞いてなさいよ?

 それはね、あの糞女神との出会いが始まりだったの。



「ここ……どこ?」

 目が覚めると、そこは柔らかなベッドの上。白いシーツが首元までかけられ、見知らぬ黒い天井が私を見下していた。全体的に薄暗い部屋は、淡いピンク色の蛍光灯がいやらしい雰囲気を作り上げていたわ。

 まぁ、ハッキリいって第一印象は古くさいラブホみたいな部屋ってとこね。
 ……えっ? いちいち個人的な感想で割り込んでくるなって? うるさい蝿ね。続けるわよ。

 状況が分からないまま起き上がろうと頭を動かすと、強い痛みがこめかみを襲ってきたの。何事かと左手で額を押さえると、あやふやな記憶が頭を駆け巡ったわ。

(確か……昨日は久しぶりの合コンだったんだ。全然いい男がいなかったから、ただ酒を飲みまくって~……やば~、ぜんっぜん思い出せない)

 とりあえず起き上がろうと、両手に力を入れて支えにしようとした時、硬い感触が右手に伝ったの。驚いた私は思わずビクッと肩を弾ませると、右手に当たった何かを恐る恐る握ってみたわ。

 棒状の形をしたそれは、とても硬いのになんだかしっくりと手にフィットする。そして自らを主張するように、大きく真っ直ぐ伸びていた。
 過去に何度か触ったことのあった感触に、しまったと落胆したわ。

(うわ~……やらかした~。もしかして誰かにお持ち帰りされた? まじ最悪……。どいつよ、泥酔した女の子に手をかける糞ゴミ男は? 裁判起こして金もぎ取ってやるんだから)

 湧き出す怒りが右手の握力を強くした。絶対に逃がさないぞと心に決めると、残っていた左手で勢いよくシーツを捲ったわ。

(その顔、見せてもらうからね!)

 ……。
 ……。
 ……。

「な、なんじゃこりゃーーーー!!」

 今世紀で一番の叫び声をあげたかもしれない。
 だってそうでしょ?
 なにがいた……いや、なにがあったと思う?
 私が右手に握っていたのは、黒々とつや光した、硬くて、おっきなおっきな……大鎌でした。

「な、な、な、なんじゃこりゃーーーー!!」

 いやほら、そりゃ叫ぶよね?
 どこの誰だったら右手に大鎌を携えて寝てるわけ?

 慌てて飛び起きた私は、頭痛なんてすっかりどこかに飛んでしまっていた。
 握っていた大鎌から手を離すと、急ぎ足でベッドから距離をとったの。すると、何ともいえない違和感に包まれたわ。

(あれ? 何かおかしい。視点が低いっていうか……私、なんかちっちゃくない?)

 私は175cmの高身長に、ぼんっきゅっぼんっと、不○子ちゃんにも負けないグラマラスボディの持ち主。
 顔だって、キリッとした瞳にスンッと高い鼻。ふっくらとした唇に、涙黒子まで完備した超絶美ギャルよ?

 そこらへんの男が軽々と声をかけれるような、平凡スペックじゃないの。なのに、いつもと比べると世界が大きく見えるわね。
 劇的に小さいってほどじゃないけど、身長150cmくらい?
 いつもよりかなり視点が低い気がする。

 ふと部屋の片隅を見ると、縦長の大きな鏡が都合良く置いてある。トコトコとヒヨコのように歩くと、鏡の前にたどり着いて、思わず叫び声をあげたわ。

「なによこれぇぇぇえぇええぇぇぇぇ……!!」
(なによこれぇぇえぇ……!)
((なによこれぇぇ……))
(((なによこれ……)))

 自分の叫びが、やまびこのように部屋の中でこだましている。
 鏡に映った私の姿。仕方ないから分かりやすいように説明してあげるわ。

 見た目は中学生くらいかしら。
 身長は予想通り150㎝くらい。気持ち悪いくらい真っ黒で、なんの模様もない不細工なワンピースを着こなしている。
 綺麗に染めあげていた金色の長い髪は、この世のものとは思えないほどファンキーなエメラルドグリーン一色に。
 極めつけは、豊満な私のお胸が……まな板みたいに……絶壁。

「なんじゃこりゃーーーー!!」

 なによこれ。どこのロリっ子?
 唯一許せるといったら、ぱっちり二重のくりくりな瞳くらいじゃないの。
 ぱちぱちと瞬きをすると、鏡越しに可愛い瞳が自分を見つめている。
 うん、このお眼目はなかなかいかして……。

「だからそうじゃなぁーーい!!」

 だいたい私は誰に語りかけているのよ。
 もう叫びすぎて喉がカラカラなんですけど。
 考えるのも嫌になってきた私は、ゆっくりとそのまま意識を失うことにしたわ。

(そう……これは夢だわ。もう一回寝れば全て元通りに……)

『やめてくれない? やっと起きたのに、また寝るとか本当に勘弁してほしいわ』
「ひゃぁいっ!!」

 突然現れた女性の声に、私は思わずへんな声をあげてしまった。
 鏡越しに後ろを確認すると、真っ白で綺麗なドレスで着飾った美しい女性が立っていたの。変質者を見るような目つきで振り返ると、女性は頬を引きつらせながら私をガンつけていたわ。

「あなた……誰?」
『はぁっ? 女神ですけど?』

 なによこいつ。まじ気持ち悪いんですけど?
 ちょっと綺麗な顔してるからって、自分のこと女神って言う普通?
 いや、確かに私も自分の事を超絶美ギャルだって自負はしてるけどね?

「女神? あんた何言ってるの?」

 ひとまず率直に思った疑問をぶつけてみよう。
 今は分からないことが多すぎるからね。

『理解が遅いわね、今時ならサクッと理解しなさいよ。て、ん、せ、い!! あなた死んだから、私が転生させてあげたの!』

 はい、謎が増えただけでした。
 もう意味分からないが渋滞しすぎて、頭の中が年末年始の帰省ラッシュよ。

「ちょっと待ってよ! 転生って、ラノベとかによくあるやつ? あれって冴えない童貞おっさんが、異世界でイケメンこしらえてヒーハーするやつでしょ? 何で私みたいな美女が……それより、私いつ死んだの?!」
『…………はぁ』

 何よそのやる気ないため息?
 まじこの女神に激おこなんですけど。
 えっ? まさか説明するの面倒くさい感じ?
 ムカ着火ファイヤーしちゃうよ私?

 女神は何か閃いたように手を叩くと、得意げに人差し指を突き立てて説明を始めたの。

『あなた今日から死神だから。とりあえず頑張ってね』

 そしてぶりっ子のようにウインクをすると、満足したように振り返りどこかへ帰ろうとしやがった。

「いや、ふざけるなし。なによ死神って?! お姫様とか、もっとまともな転生先はなかったわけ?!」

 そこが重要なのかって?
 当たり前じゃない。何よ死神に転生って!? 元々はピチピチの超絶美ギャルよ私?
 性別もよく分からない死神って!
 なに? 「ふっふっふ、貴様の命を頂きにきたぞ」って厨二病まき散らしながら新たな人生を満喫しないといけないの?!

『転職先みたいに言わないでくれる? あ~、いくつかルールがあるから。それ守らないと、あなた死んじゃうからね?』

 女神が急に提示した3つのルール。
 その1。頭の上にドクロマークが見えた人物は、死神の手によって命を刈りとること。
 その2。殺す方法は、必ず死神の鎌を使って首を斬り落とすこと。
 その3。今この瞬間から、自分の一人称は名前呼びとすること。

「いやいや。その1とその2に比べて、その3がほんわか過ぎるんですけど。そもそも名前って……」
『あ~あなたの名前? そうね~……エールちゃんね』

 ……。
 ……。
 ……。

 とても冷めきった空気が2人を包みこんでいるわ。
 この女神がどこまで真剣なのか、私が理解できることは一生ないと思う。

「な、なによその今ぱっと思いつきましたって恥ずかしい名前?! エールちゃん? 殺す相手のことを応援でもしろっていうの?!」

 このままではこのとんでもない名前が一人称になってしまう。
 ここは両手を大にして、盛大に否定するしかないわね。

『え……エールだから応援エールって……そんな安直な』

 必死に慌てるエールちゃんを、女神はさげすむように見下している。
 いや、その顔はもう引いていると言っても過言ではないわ。

(うっとうしいわ~この顔。なにこれ? 私がおかしいわけ? もう処していい? この女神の首を、私の鎌で斬り落としていい??)

 イライラがファイヤーしているエールちゃんを他所に、女神は空中に文字のようなものを書き始めたの。その文字が瞬く間に円形を組むと、漫画に出てきそうな魔法陣のように輝きを放ち始めたわ。

『細かいことを気にしてないで、さっさとお仕事してきなさい。ちょうど初仕事に相応しい人を見つけたから、特別にそこまで運んであげるわ』

(は? 私の初仕事はあんたの首ですけど?)

 殺意を目に宿し、大鎌を握りしめた瞬間だった。エールちゃんは、瞬間移動のようにどこか分からない不気味な城に飛ばされたの。

「くそ……逃げられた」

 ペッと唾を吐くと、ひとまず目の前に現れた気色の悪い城に目を向けてみることにした。

 エールちゃんが転送されたのは、とある魔王城。
 これぞ悪の根城だと言わんばかりに禍々しい悪魔の形をした正門。だけど、それは何者かに破壊されたように大穴を開けているわ。

 お化け屋敷や心霊スポット、霊的なものは基本へっちゃらなエールちゃん♪ それでもさすがの薄気味悪さに少し足がすくむわね。というよりも、右手に持っている大鎌が重たすぎてまともに歩けないのが現実。

(なんでこの鎌こんなに重たいのよ! これ私の武器でしょ? 特殊能力的なあれでしょ? 引きずりながら歩くので精一杯なんですけども!)

 魔王城に乗り込んだエールちゃんは、血生臭い廊下を歩きながら辺りを見渡したの。そこには、至る所に肉片が散らばっている。壁には緑色やら青色の血液が、子供の落書きのように塗りたくられているわ……。

(ぐえ~気持ちわるぅ~。なんかデッカイ虫みたいな死骸もそこら中に転がってるし、これ魔物っていうの? キモすぎてワロタもでませんわ~)

 一直線に伸びた廊下を永遠と歩くと、突きあたりには、先の見えない長い長~い階段が現れたの。
 いうまでもない。こんな階段を、こんな重たい鎌片手に上れるかと嫌気がさす。
 段々と阿保らしくなってきたエールちゃんは、回れ右をして家路に帰ることにしたの。

「……ありえないんですけど。何か見えない壁があるんですけど。ナニコレ? 後ろに下がる事を許さない初代マリ〇かなにか? これもあの糞女神の仕業?」

 帰ろうと足を進めるも、何かにつっかえて進むことができない。そりゃ思わず独り言で愚痴をこぼしちゃうよね?

「あーもうっ!! 分かったわよ! 上ればいいんでしょ?!」


 ──あれから、何年の月日が流れただろうか。
 ……あっ、感覚的な話ね?
 実際は十数分だったわよ。それでもね、まじ死ぬかと思ったんだから。

「ぐへぇ……ぐがぁ……もう……無理……まじ卍」

 獣の様なうめき声をあげながら、ついに階段を上りきったエールちゃん。上層階の大広間にたどり着くと、糸が切れたように力尽きたわ。
 途中で階段から鎌を投げ捨ててやろうかと思ったけど、万が一あの糞女神が取りに行ってこいとか言い出したら、絶望で自滅を選択しちゃいそうだもん。なんかそれはそれであいつに負けた気分になるから最悪よね。

「な……もしかして、君は?」

 誰かがエールちゃんを呼んでいる。男の声ね。けっこうイケボじゃないの。
 でもね、今のエールちゃんは額から尋常じゃなく滴り落ちてくる汗で前が見えないのよ。分かる? 体力の全くない女学生が、いきなりフルマラソンを強要された気分よ。
 地べたにうつ伏せでへばりつくエールちゃんは、震える老婆のように顔だけを必死に起こしたわ。滴る汗をゴシゴシとふき取ると、目に映りこんだ男性の姿に口を開けて放心したの。

「大丈夫かい? さぁ、手を」

 エールちゃんは放心したまま差し出された手を握ると、とても力強く逞しい腕に体を引き起こされる。勢いよく立ち上がったエールちゃんは、足元がふらついちゃったの。倒れるかと思った時、今度は反対の腕がエールちゃんの腰を支えたわ。
 まじ胸キュン。

 男は190㎝ほどありそうな高身長。戦いでもしていたのか、破れ焦げた上半身の服の隙間から、いやらしいほどに鍛え上げられた筋肉が見え隠れしているわ。
 茶色い髪は寝ぐせとは無縁とばかりに整っていて、乙女心を貫くような透きとおった瞳。鼻筋が高いだとかそんな情報はこれ以上語る必要はないわね?

(な、な、な! 何よこのイケメン?! これが異世界パワーなの?! これが異世界の標準?! ちょちょ、チョベリグーー!!)

 いかんいかん、あまりのイケメンに思わず死語がとびだしたわ。チョベリグとか、いつの時代の言葉よ。やば、興奮したら鼻血でそう。

「大丈夫? 顔が赤いよ?」
「はぁあー?! な、何言ってんのよ!! てか、き、気安く触らないでくれない?!」

 急に男が顔を覗き込むものだから、興奮したエールちゃんは慌てて男を突き飛ばしちゃった。男は勢いよく尻もちを突くと、髪をくしゃくしゃと掻きあげながら、爽やかな笑顔で微笑んでいたわ。

(やっちまったー! 久々に悪い癖がでちゃった! だっ、だってあんないきなり顔を覗かれたら、思わずツンツンしちゃうじゃない! てか突き飛ばしたのに、なんでそんな爽やか笑顔なわけ? ドМなの?! このイケメンが!!)

 一人頭を抱えながらエールちゃんは天を見上げたわ。あっ、天っていっても天井ね?
 そんな姿に、男は声をだして笑いだしたの。

「な、なに笑ってくれてるわけ?! わ、わ、わた……あれ?」
(おかしい……私って言葉が口からでてこない。まさか……まじであれやらないといけないわけ?!)

 男は立ち上がると、エールちゃんに身長を合わせるように片膝を床に突いたの。何度見ても飽きない爽やかな笑顔を作ると、握手を求めるように手を伸ばしてきたわ。

「初めまして、俺はリル。一応この世界では、勇者って呼ばれているんだ。君は死神さんだよね?」
「えっ、なんで死神って分かるの?」

 まぁ、冷静にエールちゃんの姿を見れば何となく死神と分からなくもない。真っ黒な服に巨大な鎌。まさにザッ死神って感じよね。

「魔王を倒しに来たんだけどさ、占い婆さんに言われていたんだよ。魔王を倒したら、俺の命を死神が刈りとりにくるって」

 いや、見た目で判別したんじゃないのかい。何その優秀な占い婆さん。うちの女神と交換してほしいんですけど?

「な、なによ! 確かに死神よ? 怖くないの?!」
「いや~骸骨みたいな顔の死神だったら嫌だけど、こんな可愛い女の子だとは思わなかったからね」

 かぁ~言ってくれるじゃないの。さり気に可愛いなんて言っちゃったりしてさ。エールちゃんが聞き逃すとでも思ったの? 馬鹿ね、そんな軽い言葉でエールちゃんの心を掴めるとでも?

「どうしたの? そんなニヤニヤして?」
「キィーー!!」

 顔を真っ赤に染めたエールちゃんは、奇声をあげながらリルの頬を勢いよくビンタしたわ。

(あぁ! またやってしまった!)

 リルは数mほど吹き飛ぶと、また笑いながら立ち上がったの。

「元気がいいね。死神さんは名前あるの?」
「わ、わ、わ? たしたし、の名前は……エール……ちゃん」

 私といった単語が出てこないエールちゃんは、片言に喋りながら名前をぼそぼそと口にしたわ。リルは名前を聞くと、目をキラキラさせながら凄い勢いで近寄ってきて、エールちゃんの手を優しく握ったの。

「エールちゃん? 凄い可愛い名前だね! 宜しく、エールちゃん」

 エールちゃんの顔から煙あがってない?
 激辛料理食べた時より顔がホットホットしてるんだけど。

(また可愛いっていいやがったな。エールちゃんは聞き逃さないって言ったでしょ! あっ、言ってはないか)

 それにしても何なのよ。いくらこいつがイケメンだからって、ここまで羞恥心全開になったこと一度もないわよ?
 あの女神、エールちゃんの体に変な特性添付してないでしょうね?!

「そ、そんなことより! エールちゃんはあんたの命を刈りとりにきたのよ?! 覚悟は良くって?!」

 エールちゃんがリルの頭上に目を向けると、そこには黒いドクロマークがはっきりと見えたの。それは、リルが死神の標的になっている証拠よ。
 必死な想いで運んできた大鎌を両手で持つと、決め台詞でも言うかのように声をあげたわ。

「エ、エールちゃんが今からあなたの命を刈りとってあげるわ!(照)」

 なんでこんな台詞を急に叫んだかって?
 そんなもん、エールちゃんだって分からないわよ!
 こっちだってガチガチに緊張してるんだから!

「んー!! ん~!! んーんーー!! こんな重たい鎌を持ち上げれるわけないでしょーー!!」

 ここまで引きずってくるので必死だったのに、そんなものを景気よく振り回せるはずがないのよ。ムカついたから、鎌を投げ捨てて地団駄をふんで怒りを発散させたわ。

「エールちゃん? もしかして、魔力を使ってないの?」
「えっ? 何それ?」
「その鎌に魔力を流せば、軽く持てると思うよ?」

 はぁ? 何その設定。聞いてないんですけど? 女神って何でこんな無能野郎なの?
 ここまで来るのどんだけ大変だったか分かんないの?
 私が雇い主だったら、パワハラ地獄に陥れてやりたいんですけど。

 戸惑うエールちゃんの腕を、リルが優しく握ってきたの。そのまま目を閉じて集中してる。こんないかした男にソフトタッチされたら、エールちゃんもうガチガチよ。

「どう? 感じる? この暖かい感じ」

 いやいや、緊張しすぎて何も分からないんですけど!
 感じる? ですって??
 なによその卑猥な言葉。さすがのエールちゃんもこれくらいでは感じたりしませんから!!

「か、か、か、感じるわけないで……あれ? 何だか腕が暖かいような」
「分かった!? これが魔力だよ! きっとエールちゃんも、ちょっと集中すれば簡単に使えるさ」

 リルに言われるがまま、エールちゃんも目を閉じて集中したの。何となく体から湧きだすエネルギーを感じたわ。そのままゆっくりと右手に握った大鎌を意識したの。

 すると、先程まで鉄の塊のように重たかった鎌が、布切れのように軽くなったのよ。
 感動したエールちゃんは、その場で跳びはねながら満面の笑みを浮かべたわ。

「なにこれ、すごぉーい! リルっ凄いよ!!」
「あはは、やっと笑ってくれたね」

 リルの言葉にハッと我に返ったわ。油断して不細工な笑顔を作っただけにあらず、さりげにリルって呼び捨てにしてしまった。

「べ、べつに感謝なんか……し、してないんだからね!!」

 焦ったエールちゃんは、相変わらずの冷たい言葉を投げつけて誤魔化したわ。だけど、リルはそんなことを全く気にもしていないようで、そのままエールちゃんに質問をしたの。

「エールちゃんは何で死神になったの?」
「……なんでっていうか」

 二人はその場に座り、お互いの成り行きを語り始めたの。
 エールちゃんは溜まりにたまっていた女神への愚痴を、機関銃のように吐き散らしたわ。
 もう、ほんとにスッキリした♪
 それをひたすら頷いて聞いていたリルも、自分が勇者になった経緯を語ったの。

「実は俺も転生者なんだ。元々はただの高校生で、気づいたら勇者に」

 リルは元々この世界の住人だと思い込んでいたエールちゃんは、ただ驚くことしかできなかったわ。言われてみて気づく。何も自分だけが特別な存在ではないのね。

「俺は数年前からずっとこの世界に閉じ込められて、勇者だからって魔王を倒すことを強要された。毎日魔物と戦って傷だらけになって、痛くて痛くて、ずっと死にたいって思っていたんだ」
「だから……死神と会えるって言われてここに?」

 リルは小さく頷くと、情けなさそうに口をへの字に歪めたの。

「はは、みっともないよね。自殺だって考えたけど、怖くてさ。こんな臆病者の俺が、勇気ある者だって言うんだから、笑っちゃうよね」

 ……なによそれ。
 そんな辛そうな顔しないでよ。

「初めは死神っていわれても、ピンとこなかったけど、エールちゃんみたいな子に命を刈りとって貰えるなら、悔いはないかな」

 リルはエールちゃんの正面に立つと、片膝を突いて両手を拡げたわ。自らの最後を、エールちゃんに託したのよ。
 その顔は、決して臆病者の顔じゃない。
 信頼した仲間に全てを託すような、まさに勇者と呼ぶに相応しい凛とした顔。

(なによ、何一人で勝手に納得してるわけ? どいつもこいつも。エールちゃんの気持ちなんて二の次なんでしょ? 無理よ! いきなり俺を殺せって言われたって、そんな)

 自らの意思だけを主張するリルに、どうすればいいか分からない。
 なによ……その満足げな顔。
 エールちゃんの気持ちなんて何だっていいわけ? ちょっとでもリルに心を許してしまった自らが妬ましい。
 リルにとって、エールちゃんはただの死神なんだ。

「もういい! 分かったわよ! やってやるわよ! これがエールちゃんの宿命なんでしょ?! どうせやらないとエールちゃんが死ぬんだし! ふざけるんじゃないわよ! あんたみたいな奴、エールちゃんが命を刈りとってやるんだから!!」

 エールちゃんは勢いよく鎌を振りかざす。
 どうにでもなれっと投げやりに振り回した死神の鎌は、いとも簡単にリルの首を斬り落とした。
 黒光りした大鎌は返り血で真っ赤に染まって、ゴロンと無造作に首が転がり落ちたの。

 エールちゃんは、心のどこかでこの世界がゲームか何かと思い込んでいたのね。
 なんだかんだいって大丈夫なんでしょ? っと考えていた甘い気持ちは、凄まじい斬れ味によって両断された。

 生々しい感触がエールちゃんの手を伝い、それが脳まで届いた時、体の芯から感情が溢れだしてくる。

「えっ……うそっ……エールちゃんが……エールちゃんがリルを殺した? ほんとうに……殺しちゃったの? こんな……簡単に」

 大粒の涙が瞳に溜まると、堪えきれずに頬を伝い滴り落ちたの。それと同時に、エールちゃんの膝も力なく崩れ落ちた。

「うぅ……うぁ……うぁあぁぁあ……うぅぁぁ」

 拭いても拭いても溢れてくる涙に、圧し殺された声が呻きをあげている。
 初めて人を殺した。それは、自分を本当に死神だと認めてしまったのと同意であった。

「大丈夫? エールちゃん?」

 大丈夫なわけないでしょ?
 人を殺したのよ?
 しかも、リルを……。
 たぶん、好きになりかけていた。
 ここまで人を好きになれそうになったのなんて、初めてかもしれない。

 …………えっ?

 エールちゃんがふと顔を上げると、そこには首の繋がったリルが平然と立っていた。

「……。……。……。ぎぃやぁぁぁーー!!」
「ごめんごめん。そういえば俺、不死身の体のチート能力者だった」
「ぎぃやぁぁぁーー!!」

 その後は、ただひたすらに鎌を振り回した。
 不死身??
 なに平然と笑ってるのこの男??
 頭おかしいんじゃないこいつ??
 エールちゃん、一気に冷めたんですけど。

 何故かエールちゃんが首を落としたことによって、リルにあったドクロマークは消えていた。
 なんともいい加減な話。こいつ死んでないからね?

 リルはリルで、「1回死んだらスッキリした! ありがとう!」とか言ってるし。
 なに賢者タイム入ってるわけ?
 エールちゃんまじ激おこぷんぷん丸なんですけど?

 そんな感じで収まらない怒りに任せて暴れまわっていると、タイミングを見計らったように女神が目の前に現れた。
 女神は来てそうそう『終わった? はよ帰るわよ』っと面倒くさそうに言って、エールちゃんを再び瞬間移動させたの。
 リルにいたっては、女神とのやり取りを見ながら、満面の笑みを浮かべて「ばいば~い」って手を振ってやがる。

 本当にふざけた恋ばなだったわ。

 初めに目が覚めたいやらしい部屋に戻ってくると、エールちゃんはゆっくりベッドに腰かけたの。
 女神は鏡の前に立つと、髪の毛をくりくりさせながら身だしなみを整えているわ。

『仕事が遅いのよ。私このあとデートなんだから』

 腹が立つ反面、憎たらしい女神の言葉は何故かあまり響かない。リルのことを思い出すと、胸の奥がまだドキドキと鼓動を繰り返すの。

「エールちゃん……リルに惚れてたのかな?」
『……なんで?』
「だって、こんな気持ち……初恋の頃のよう。こんな恥じらいがまだエールちゃんにあったなんて」
『あぁ、それ? あなたが生意気だったから、うぶっ子属性つけといたのよ』

 ……。……。……。

「この腐れ女神がぁーー!!」


 お・わ・り。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中

桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。 やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。 「助けなんていらないわよ?」 は? しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。 「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。 彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。

幼馴染みの婚約者が「学生時代は愛する恋人と過ごさせてくれ」と言ってきたので、秒で婚約解消を宣言した令嬢の前世が、社畜のおっさんだった件。

灯乃
ファンタジー
子爵家の総領娘である令嬢の前に、巨乳美少女と腕を組んだ婚約者がやってきた。 曰く、「学生時代くらいは、心から愛する恋人と自由に過ごしたい。それくらい、黙って許容しろ」と。 婚約者を甘やかし過ぎていたことに気付いた彼女は、その場で婚約解消を宣言する。 前半はたぶん普通の令嬢もの、後半はおっさんコメディーです。

夫から『お前を愛することはない』と言われたので、お返しついでに彼のお友達をお招きした結果。

古森真朝
ファンタジー
 「クラリッサ・ベル・グレイヴィア伯爵令嬢、あらかじめ言っておく。  俺がお前を愛することは、この先決してない。期待など一切するな!」  新婚初日、花嫁に真っ向から言い放った新郎アドルフ。それに対して、クラリッサが返したのは―― ※ぬるいですがホラー要素があります。苦手な方はご注意ください。

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

処理中です...