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4. 朱色④
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肩までの黒髪を揺らしながら、スーツを着た女性がスマートフォンを片手に持ち「ありがとうございます。もし、何かわかったら、教えてください」と言って息をあげながら、道路を走っていた。
彼女は左手につけた腕時計の時刻を確認すると19時をすぎていた。
「アカリ」
女性の名前は飯田 瑠璃子。娘の朱里が学校から帰ってこないので、真っ青な顔で、近所を走り回って探していた。
瑠璃子は会社員で、娘の朱里は2年生だ。瑠璃子はなるべく18時には家に帰るようにしているのだが、今日は残業で帰宅が遅くなった。
帰りの電車に乗る直前、朱里の塾から電話があり、娘が来ていないことを知った。
私の帰りが遅いから、塾に行かなかったのか。そんな風に思っていたのだが、帰宅をして家の中を探しても朱里の姿どころかランドセルもなかった。
「え」
胸騒ぎがした。それを隠すように、友達の家で遊んでいるのだろう。だって、そんな、まさか。
瑠璃子は朱里のクラスメイトの親に電話をかけて行くが、誰も知らないと言っていたし、朱里は来ていない、という回答ばかりだ。
ひとり、また一人とかけては情報が得られず、落胆してはまたかけていた。
朱里の友達にかけ終わったあとで、瑠璃子は深く息を吐き、遂に想像していた言葉を口にした。
「誘拐? ランドセルもないもの……」
嫌な想像が頭を駆け巡り、心臓は太鼓のようにドクドク音を立てる中、瑠璃子は藁をもすがる思いで、学校に電話をすると、担任の教師が「はい」と明るい声で受話器を取ったので、なんだか、涙が溢れ出そうになった。
「朱里さんなら、15時半には帰りましたよ」
担任のつげたその言葉は、瑠璃子の希望を摘むのに充分ほどの威力があった。
「やっぱり」と思うと、瑠璃子の手からスマートフォンが滑り落ちた。
それは、まるで瑠璃子の人生のようで、今まで積み上げできたものが手元からするりと滑り、あっという間にフローリングの床にゴツンという音ともに、粉々となったスマホの画面が瑠璃子を見上げていた。
(じゃあ、あの子はどこに行ったの?)
視界が徐々に色を失っていき、視界が徐々に真っ白になっていく。
「お母さん、大丈夫ですか?」
スマホからそんな声がして、瑠璃子は通話中であることを思い出したので、スマートフォンを拾いあげようと、瑠璃子は割れた画面に触れたのだが、割れた破片で指を切ったのか、指先に痛みが走り、思わず手を離した際、スピーカーにしていた。
先ほどよりも大きい声で「お母さん、もしもし、いかがしましたか?」と担任の声が聞こえてきた。
ただ事ではないと察したのだろう。どうやら先ほどよりも声に緊張感があった。
「娘が帰ってないの」
「え」
瑠璃子は小さく呟き、朱里の担任が低い声をもらした。
朱里は18時には塾に行っているはずなのに、塾から電話があった時は、朱里が休んでいると聞いた時には、きっと家でサボっているのだろう、と思っていた。どうして、もっと別のことを考えなかったのか。
そんな後悔と、警察に知らせるべきか、とか色々考えていた。
「とにかく、私も生徒たちに聞いてみます。お母さんは警察にご連絡ください」
「はい……」
先ほど、クラスメイトには散々電話をした。けれど誰も知らなかった。
全校生徒だと違うかもしれないけれど、当初の遊んでいるとか無事でいるという前提の話は崩れ去り、生死を問う話だと、思考回路が止まっている瑠璃子でもわかる。
どうして。うちの子が。
瑠璃子は警察に電話をしようと、息を深く吐き、画面のガラスが割れているスマホを持ち番号を押そうとしたその時、スマートフォンがブルブルと震え出し、瑠璃子は思わず受電した。
「はい」
「ああ…飯田さん。うちの子が、朱里ちゃんが、路地裏の本屋に入るのを見たっていうの」
「え? 本当ですか?」
瑠璃子は少しだけホッとして、電話の主の声に尋ねた。
「ええ。あの、ステンドグラスが綺麗な『虹色古書店』ってところ。あそこに入ったのを見たって。でも、16時くらいだったから、今はだいぶ時間が経ってしまっているけれど」
「いえ。ありがとうございます」
まさか……。けれども、これだけ時間がかかっていることを考えると、あり得ない話ではない。
瑠璃子はお礼を言うとスマートフォンをポケットに突っ込み、バッグから家の鍵を取り出し、外に出た。ドアの鍵を手早く閉めると、自転車に跨り、走っていく。
虹色古書店………。
瑠璃子は唇を噛み締めて、勢いよく夜の闇へと消えていった。
彼女は左手につけた腕時計の時刻を確認すると19時をすぎていた。
「アカリ」
女性の名前は飯田 瑠璃子。娘の朱里が学校から帰ってこないので、真っ青な顔で、近所を走り回って探していた。
瑠璃子は会社員で、娘の朱里は2年生だ。瑠璃子はなるべく18時には家に帰るようにしているのだが、今日は残業で帰宅が遅くなった。
帰りの電車に乗る直前、朱里の塾から電話があり、娘が来ていないことを知った。
私の帰りが遅いから、塾に行かなかったのか。そんな風に思っていたのだが、帰宅をして家の中を探しても朱里の姿どころかランドセルもなかった。
「え」
胸騒ぎがした。それを隠すように、友達の家で遊んでいるのだろう。だって、そんな、まさか。
瑠璃子は朱里のクラスメイトの親に電話をかけて行くが、誰も知らないと言っていたし、朱里は来ていない、という回答ばかりだ。
ひとり、また一人とかけては情報が得られず、落胆してはまたかけていた。
朱里の友達にかけ終わったあとで、瑠璃子は深く息を吐き、遂に想像していた言葉を口にした。
「誘拐? ランドセルもないもの……」
嫌な想像が頭を駆け巡り、心臓は太鼓のようにドクドク音を立てる中、瑠璃子は藁をもすがる思いで、学校に電話をすると、担任の教師が「はい」と明るい声で受話器を取ったので、なんだか、涙が溢れ出そうになった。
「朱里さんなら、15時半には帰りましたよ」
担任のつげたその言葉は、瑠璃子の希望を摘むのに充分ほどの威力があった。
「やっぱり」と思うと、瑠璃子の手からスマートフォンが滑り落ちた。
それは、まるで瑠璃子の人生のようで、今まで積み上げできたものが手元からするりと滑り、あっという間にフローリングの床にゴツンという音ともに、粉々となったスマホの画面が瑠璃子を見上げていた。
(じゃあ、あの子はどこに行ったの?)
視界が徐々に色を失っていき、視界が徐々に真っ白になっていく。
「お母さん、大丈夫ですか?」
スマホからそんな声がして、瑠璃子は通話中であることを思い出したので、スマートフォンを拾いあげようと、瑠璃子は割れた画面に触れたのだが、割れた破片で指を切ったのか、指先に痛みが走り、思わず手を離した際、スピーカーにしていた。
先ほどよりも大きい声で「お母さん、もしもし、いかがしましたか?」と担任の声が聞こえてきた。
ただ事ではないと察したのだろう。どうやら先ほどよりも声に緊張感があった。
「娘が帰ってないの」
「え」
瑠璃子は小さく呟き、朱里の担任が低い声をもらした。
朱里は18時には塾に行っているはずなのに、塾から電話があった時は、朱里が休んでいると聞いた時には、きっと家でサボっているのだろう、と思っていた。どうして、もっと別のことを考えなかったのか。
そんな後悔と、警察に知らせるべきか、とか色々考えていた。
「とにかく、私も生徒たちに聞いてみます。お母さんは警察にご連絡ください」
「はい……」
先ほど、クラスメイトには散々電話をした。けれど誰も知らなかった。
全校生徒だと違うかもしれないけれど、当初の遊んでいるとか無事でいるという前提の話は崩れ去り、生死を問う話だと、思考回路が止まっている瑠璃子でもわかる。
どうして。うちの子が。
瑠璃子は警察に電話をしようと、息を深く吐き、画面のガラスが割れているスマホを持ち番号を押そうとしたその時、スマートフォンがブルブルと震え出し、瑠璃子は思わず受電した。
「はい」
「ああ…飯田さん。うちの子が、朱里ちゃんが、路地裏の本屋に入るのを見たっていうの」
「え? 本当ですか?」
瑠璃子は少しだけホッとして、電話の主の声に尋ねた。
「ええ。あの、ステンドグラスが綺麗な『虹色古書店』ってところ。あそこに入ったのを見たって。でも、16時くらいだったから、今はだいぶ時間が経ってしまっているけれど」
「いえ。ありがとうございます」
まさか……。けれども、これだけ時間がかかっていることを考えると、あり得ない話ではない。
瑠璃子はお礼を言うとスマートフォンをポケットに突っ込み、バッグから家の鍵を取り出し、外に出た。ドアの鍵を手早く閉めると、自転車に跨り、走っていく。
虹色古書店………。
瑠璃子は唇を噛み締めて、勢いよく夜の闇へと消えていった。
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