虹色古書店

カズモリ

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5. 朱色⑤

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 朱里がいなくなってから、瑠璃子るりこは必死に探した。
 そして自分の子育てを反省した。いなくなってから反省したって遅いのに、悔いる事しかできなかった。

 もっと自由にしてあげれば良かった。できないものを数えるより、できるものを数えればよかった。

 粘り強くて、不満を口にしない。そんな子なのに、どうして、それを一言も誉めなかったのだろうか。

 そんな後悔がつらつらと頭から湧いてくる。

 自転車を漕ぎながら、溢れ出てくる後悔と自責の念が心を侵食する中、ほんの少しの希望だけが瑠璃子を突き動かした。

 瑠璃子が足を止めたのは一軒の古びた古書店だった。虹色古書店と、昭和によく見た色褪せた看板を店先に構え、彩り豊かなステンドグラスを扉に施している。

 瑠璃子はステンドグラスの扉をトントンと優しくノックをすると、数秒後にゆらりと影を映しながら、白髪の少女が扉を開けてくれる。

「こんばんは」
「すでに店じまいの時間ですが、どうかしましたか?」
「娘がこちらにお邪魔していると思いまして。失礼。中を見させていただきます」

 瑠璃子はそう言うと、良いとも、悪いとも返事をする前に店内へと押し入っていく。

 この店内は瑠璃子だって覚えている。

 瑠璃子がまだ朱里くらいの年頃の時、訪れたことがある。だから、朱里がこの店に興味があるような素振りを見せた時に「入ってはダメ」と理由も言わず、否定をした。

 だけれども、そんなことでは子供は気になるだろう。
 
 店内の奥へとズイズイ進んでいく瑠璃子の後ろ姿を見ながら「お会いするのはご無沙汰というのに、このような不躾な挨拶とは随分な対応ですね」カウンターに腰掛けていた少女が愚痴を漏らしたのだが、瑠璃子の耳には入ってこなかった。

 店の奥の小部屋を見つけると、瑠璃子は息を呑んで、ドアノブに指を触れ、ゆっくりと回した。キイという蝶番の音が響き、中には、見覚えのある赤色のランドセルが置いてあった。

 その近くには、本が開かれており、背表紙だけが開けられていた。

 やっぱり。

「ご存じと思いますが、朱里様はいま、中にいます」

 そんなこと知っている。
 そして戻ってくる条件も知っている。

「戻らなかったらどうなるの?」

 瑠璃子は知らなかった。戻らなかった時のことを知らされていない。
 瑠璃子がかつて本の中に入った時は、自らの意思で帰った。物語は途中だったが、戻らなければ、なんだか危険な感じがしたから、帰ってきたら。
 だから、物語が最後まで紡いだ時、戻れるのか否かもしらない。

「必ず戻ってきますよ。ただ、自分の意思で戻らなければ、この古書店から外に出られない。それだけです」

 そんなことさせない。そう言ってやりたいけれど、そんなことは言えなかった。

 瑠璃子はランドセルを抱きしめて、ゆっくりと椅子に座った。

「待たせてちょうだい。それくらいなら、構わないでしょう?」

 扉を開けてくれた少女が、コクリと首を縦に振って返事をしたので、瑠璃子は「ありがとう」と小さく礼を言った。

 大丈夫。戻ってくる。
 私だって戻ってこれたもの。朱里なら必ず戻ってくれる。

 瑠璃子は不安な気持ちを隠すようにランドセルをただぎゅっと握りしめた。
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