【完結】貧乏公爵(令嬢)マルゲリータの失踪

カズモリ

文字の大きさ
13 / 63
ダルマータ国

12.引っ越し

しおりを挟む
 ホテルのテーブルに膝をつき、猛獣のような顔つきでエドワードを睨む人物、いや、精霊がいた。

「……なんだ?」

 エドワードがたじろぎながら、食事をテーブルの上に下ろし、鞄を床へ置いた。

「なんで置いていったの? わかってるよね。店主が来て大変だったんだから」
 エドワードは、見られていたか、と息を吐く。

「やはりな……手を打っておいて正解と言ったところだな」
「何がだよ!」

 エドワードとリルルの会話は噛み合っていない。

 リルルは会話のすれ違いにむくれているが、トランクの掃除をしていた上に、店主がやたらと話しかけてきたので、すっかり疲れていた。

 店主はエドワードがいなくなってから、水は飲むか、不便なことはないか、なぜ、顔にあざができているのか、エドワードとどういう関係なのか、と、5分と置かずに聞いてくるので、苛立ちが溜まっていた。
 終いには、エドワードのDVから逃れるためにも、リルルに死んだ妻の代わりに後妻にならないか、と言ってきたので、そんなことをしたらエドワードが怒り狂う、と嘘をついて追い出した。

 リルルは頬を膨らませながら、エドワードが持ってきた朝食の袋を開けると、サンドウィッチを掴んで、頬にいれていく。
「いただきます。うわ、美味しい」

 ついさっきまで怒っていたというのに、に気分の乱高下が激しい、とエドワードは思った。

 エドワードは帽子を外すと、帽子を無造作にベッドの上に置き、髪をくしゃくしゃと掻き分け、元に戻す。

「それはすぐ解決するぞ」

 エドワードは鞄から一枚の紙を出し、サンドウィッチを頬張るリルルに手渡す。

「ふぇいやくふぉ?」
「そうだ。小さな教会を買い取った。パール家の慈善事業として」
 エドワードは髪の毛を触る。銀色の髪が光にあたり、輝いた。
「この街でも、この髪に使い道があったようだ」

 エドワードは意地悪そうかな笑ったので、リルルは頬を膨らませて、サンドウィッチを飲み込む。

「支度はできているな?」
「そりゃ、まあ」
「あ、痣つけておけよ。大袈裟なくらい」
「へ?」

 エドワードはリルルが食べ終わる前に部屋を後にして、階下へ降りる。

「どうも、店主。世話になりました」

 新聞を読んでいた店主が、エドワードの顔を見て、真っ青になった。
 店主に挨拶をした際、エドワードは敢えて銀髪のまま現れたのだ。


「で、へぇ。いや、とんでもないことです」

 店主はしどろもどろの回答しか出来ず、自分のしでかした事の重大さを悔いているようだ。
 それはそうだ。目の前に銀髪の青年が現れたのだから。
 この国の公爵は5つの家門しかないうえ、銀髪といえば間違いなく、パール家の出である事を子供でも容易く示唆できる。


 翠の瞳をもつエメラルド家、褐色の肌に黒色の髪、黒色の瞳を持つオニキス家、黄金の髪と瞳を持つシトリン家、赤色の髪と瞳をもつルビー家、そして銀髪を持つパール家だ。

 ダルマータ創生記 第一章にそのように記載がある。

 実際には、この世界に褐色の肌も、黄金の髪も黒色の髪も、赤毛もありふれているし、エドワードの黒曜石のような真っ黒な瞳もシトリン家の黄金の瞳も多くの人が有している。

 それは至極当たり前とも言える。
 長い歴史の中で、交配を繰り返しできたのだから、その遺伝子の発現が多様化するのは当然と言える。

 ただ、なぜかパール家の銀髪だけは、パール家の男子にしか発現していない。

「店主、私の連れがお世話になったようで、すまないね」

 エドワードはニコリと微笑み、部屋から荷物を持って降りてくるリルルにウィンクをした。

 リルルは苦虫を潰したように眉を寄せて険しい顔を見せた。

「店主、私たちがここに泊まっていた事を秘密にしてくれるなら、君の今回の行為は水に流そう」

 エドワードはその笑顔とは反して、優しい声色で店主に語りかける。

「私がこの者にしている処遇も含めて、の話しだが、どうかな?」

 店主は首を縦に振る。勢いよく何度も振るので、何回目かで、顎を机にぶつけてしまった。

「良かった。合意ができたようだ」
 エドワードはさらに甘い表情を見せ、帽子を目深に被る。

 リルルは話を察したように、店主にペコリ、と頭を下げる。
 店主はリルルの顔や首に青痣を見つけ、ひぃ、と言って再び目を逸らす。

「契約金も含めて宿代はここに置いておく」

 そう言って、エドワードとリルルは宿屋を後にした。

「エドワードって、結構たくましいよな」
 感心するリルルの言葉をエドワードが茶化す。
「惚れるなよ」

 あの店主の後先考えない行動だと、リルルを死に物狂いで探しかねない。
 リルルの見た目は人を惹きつけるし、店主の口な蓋をしなければ、いずれ誰かが、エドワード=フォン=パールにたどり着くだろう。
 そうなると、今後パルクルトでの活動がしにくくなる上、お忍びでの活動がしにくくなる。

 向こうも公爵の連れを誘惑したなんて醜聞を知られたくないだろうし、私がリルルをDVしている、と言えば、彼は不敬罪に問われるだろう。

 実際、殴っていないしな。

 教会は多くの者が訪れる。だが、教会の奥は誰も来ない。

 本来の姿で訪れても、教会の経営者なのだから、不自然ではないし、教会を保護する活動をパール家は行ってきているから、違和感はないだろう。

 そして、豪奢な馬車を、走らせれば、よもや、私がここに残っているとは考えまい。

 目立ちすぎると、他人は簡単に予測してしまい、本質を見ないため、容易に目くらましができるのだ。

 パール家の銀髪に感謝だな。

 教会に着くと、エドワードは祭壇の奥深くへと突き進み、裏口にまわる。裏口を抜けると小さな小屋があり、エドワードは小屋の中に入った。

 小屋は鍵がかかっていて、エドワードはポケットから鍵を取り出し、小屋の扉を開ける。

「しばらく使っていなかったらしいから、埃があるかもしれないが、掃除をしたら使えるだろう」
「教会に小屋があるとは思わなかった。それも暮らせるような形で」

 エドワードは埃を手で払うと、椅子に腰掛ける。

「普通は神父が暮らすものだからな」

 エドワードが想像したよりも埃が多かったのか、少しむせる。
「この教会は何年も赤字で、ついには神父も雇えなくなったのだ。そこを私がパルクルトの街から買い取った、というわけだ」

「なるほど」

 人があまり訪れず、仮に訪れても違和感がない程度の細工はある。
 隠れて住むには適している環境である。

「母が趣味ではじめた慈善事業に感謝したのは、今回が初めてだ」

 エドワードは立ち上がると、リルルに命じる。

「掃除をしておいてくれ。それから、水も使えるかを確認してくれ」

 リルルはまたかよ、と嫌そうな顔をするが、半ば諦め、「わかりました」と回答をした。

「私はクリスタに会う前に、しておきたいことがある」

 そう言って、リルルを小屋に残してエドワードは去っていった。

 クリスタのことを考えると、少しだけ憂鬱な気持ちになった。

 エメラルド家の翠の瞳もパール家の銀髪と同様、とても珍しいものだと思っていたが……、どうやら違っていたようだと、エドワードは思いながら、庭を歩く。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生令嬢の食いしん坊万罪!

ねこたま本店
ファンタジー
   訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。  そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。  プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。  しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。  プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。  これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。  こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。  今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。 ※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。 ※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。

【コミカライズ決定】愛されない皇妃~最強の母になります!~

椿蛍
ファンタジー
【コミカライズ決定の情報が解禁されました】 ※レーベル名、漫画家様はのちほどお知らせいたします。 ※配信後は引き下げとなりますので、ご注意くださいませ。 愛されない皇妃『ユリアナ』 やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。 夫も子どもも――そして、皇妃の地位。 最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。 けれど、そこからが問題だ。 皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。 そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど…… 皇帝一家を倒した大魔女。 大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!? ※表紙は作成者様からお借りしてます。 ※他サイト様に掲載しております。

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

追放された『ただの浄化係』、実は国中の魔石を満たしていた精霊姫でした〜今さら戻れと言われても、隣国のイケメン皇帝が離してくれません〜

ハリネズミの肉球
ファンタジー
「おい、城の噴水が止まったぞ!?」 「街の井戸も空っぽです!」 無能な王太子による身勝手な婚約破棄。 そして不毛の砂漠が広がる隣国への追放。だが、愚かな奴らは知らなかった。主人公・ルリアが国境を越えた瞬間、祖国中の「水の魔石」がただの石ころに変わることを! ルリアは、触れるだけで無尽蔵に水魔力を作り出す『水精霊の愛し子』。 追放先の干ばつに苦しむ隣国で、彼女がその力を使えば……不毛の土地が瞬く間に黄金のオアシスへ大進化!? 優しいイケメン皇帝に溺愛されながら、ルリアは隣国を世界一の繁栄国家へと導いていく。 一方、水が完全に枯渇し大パニックに陥る祖国。 「ルリアを連れ戻せ!」と焦る王太子に待っていたのは、かつて見下していた隣国からの圧倒的な経済・水源制裁だった——! 今、最高にスカッとする大逆転劇が幕を開ける! ※本作品は、人工知能の生成する文章の力をお借りしつつも、最終的な仕上げにあたっては著者自身の手により丁寧な加筆・修正を施した作品です。

処理中です...