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ダルマータ国
12.引っ越し
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ホテルのテーブルに膝をつき、猛獣のような顔つきでエドワードを睨む人物、いや、精霊がいた。
「……なんだ?」
エドワードがたじろぎながら、食事をテーブルの上に下ろし、鞄を床へ置いた。
「なんで置いていったの? わかってるよね。店主が来て大変だったんだから」
エドワードは、見られていたか、と息を吐く。
「やはりな……手を打っておいて正解と言ったところだな」
「何がだよ!」
エドワードとリルルの会話は噛み合っていない。
リルルは会話のすれ違いにむくれているが、トランクの掃除をしていた上に、店主がやたらと話しかけてきたので、すっかり疲れていた。
店主はエドワードがいなくなってから、水は飲むか、不便なことはないか、なぜ、顔にあざができているのか、エドワードとどういう関係なのか、と、5分と置かずに聞いてくるので、苛立ちが溜まっていた。
終いには、エドワードのDVから逃れるためにも、リルルに死んだ妻の代わりに後妻にならないか、と言ってきたので、そんなことをしたらエドワードが怒り狂う、と嘘をついて追い出した。
リルルは頬を膨らませながら、エドワードが持ってきた朝食の袋を開けると、サンドウィッチを掴んで、頬にいれていく。
「いただきます。うわ、美味しい」
ついさっきまで怒っていたというのに、に気分の乱高下が激しい、とエドワードは思った。
エドワードは帽子を外すと、帽子を無造作にベッドの上に置き、髪をくしゃくしゃと掻き分け、元に戻す。
「それはすぐ解決するぞ」
エドワードは鞄から一枚の紙を出し、サンドウィッチを頬張るリルルに手渡す。
「ふぇいやくふぉ?」
「そうだ。小さな教会を買い取った。パール家の慈善事業として」
エドワードは髪の毛を触る。銀色の髪が光にあたり、輝いた。
「この街でも、この髪に使い道があったようだ」
エドワードは意地悪そうかな笑ったので、リルルは頬を膨らませて、サンドウィッチを飲み込む。
「支度はできているな?」
「そりゃ、まあ」
「あ、痣つけておけよ。大袈裟なくらい」
「へ?」
エドワードはリルルが食べ終わる前に部屋を後にして、階下へ降りる。
「どうも、店主。世話になりました」
新聞を読んでいた店主が、エドワードの顔を見て、真っ青になった。
店主に挨拶をした際、エドワードは敢えて銀髪のまま現れたのだ。
「で、へぇ。いや、とんでもないことです」
店主はしどろもどろの回答しか出来ず、自分のしでかした事の重大さを悔いているようだ。
それはそうだ。目の前に銀髪の青年が現れたのだから。
この国の公爵は5つの家門しかないうえ、銀髪といえば間違いなく、パール家の出である事を子供でも容易く示唆できる。
翠の瞳をもつエメラルド家、褐色の肌に黒色の髪、黒色の瞳を持つオニキス家、黄金の髪と瞳を持つシトリン家、赤色の髪と瞳をもつルビー家、そして銀髪を持つパール家だ。
ダルマータ創生記 第一章にそのように記載がある。
実際には、この世界に褐色の肌も、黄金の髪も黒色の髪も、赤毛もありふれているし、エドワードの黒曜石のような真っ黒な瞳もシトリン家の黄金の瞳も多くの人が有している。
それは至極当たり前とも言える。
長い歴史の中で、交配を繰り返しできたのだから、その遺伝子の発現が多様化するのは当然と言える。
ただ、なぜかパール家の銀髪だけは、パール家の男子にしか発現していない。
「店主、私の連れがお世話になったようで、すまないね」
エドワードはニコリと微笑み、部屋から荷物を持って降りてくるリルルにウィンクをした。
リルルは苦虫を潰したように眉を寄せて険しい顔を見せた。
「店主、私たちがここに泊まっていた事を秘密にしてくれるなら、君の今回の行為は水に流そう」
エドワードはその笑顔とは反して、優しい声色で店主に語りかける。
「私がこの者にしている処遇も含めて、の話しだが、どうかな?」
店主は首を縦に振る。勢いよく何度も振るので、何回目かで、顎を机にぶつけてしまった。
「良かった。合意ができたようだ」
エドワードはさらに甘い表情を見せ、帽子を目深に被る。
リルルは話を察したように、店主にペコリ、と頭を下げる。
店主はリルルの顔や首に青痣を見つけ、ひぃ、と言って再び目を逸らす。
「契約金も含めて宿代はここに置いておく」
そう言って、エドワードとリルルは宿屋を後にした。
「エドワードって、結構たくましいよな」
感心するリルルの言葉をエドワードが茶化す。
「惚れるなよ」
あの店主の後先考えない行動だと、リルルを死に物狂いで探しかねない。
リルルの見た目は人を惹きつけるし、店主の口な蓋をしなければ、いずれ誰かが、エドワード=フォン=パールにたどり着くだろう。
そうなると、今後パルクルトでの活動がしにくくなる上、お忍びでの活動がしにくくなる。
向こうも公爵の連れを誘惑したなんて醜聞を知られたくないだろうし、私がリルルをDVしている、と言えば、彼は不敬罪に問われるだろう。
実際、殴っていないしな。
教会は多くの者が訪れる。だが、教会の奥は誰も来ない。
本来の姿で訪れても、教会の経営者なのだから、不自然ではないし、教会を保護する活動をパール家は行ってきているから、違和感はないだろう。
そして、豪奢な馬車を、走らせれば、よもや、私がここに残っているとは考えまい。
目立ちすぎると、他人は簡単に予測してしまい、本質を見ないため、容易に目くらましができるのだ。
パール家の銀髪に感謝だな。
教会に着くと、エドワードは祭壇の奥深くへと突き進み、裏口にまわる。裏口を抜けると小さな小屋があり、エドワードは小屋の中に入った。
小屋は鍵がかかっていて、エドワードはポケットから鍵を取り出し、小屋の扉を開ける。
「しばらく使っていなかったらしいから、埃があるかもしれないが、掃除をしたら使えるだろう」
「教会に小屋があるとは思わなかった。それも暮らせるような形で」
エドワードは埃を手で払うと、椅子に腰掛ける。
「普通は神父が暮らすものだからな」
エドワードが想像したよりも埃が多かったのか、少しむせる。
「この教会は何年も赤字で、ついには神父も雇えなくなったのだ。そこを私がパルクルトの街から買い取った、というわけだ」
「なるほど」
人があまり訪れず、仮に訪れても違和感がない程度の細工はある。
隠れて住むには適している環境である。
「母が趣味ではじめた慈善事業に感謝したのは、今回が初めてだ」
エドワードは立ち上がると、リルルに命じる。
「掃除をしておいてくれ。それから、水も使えるかを確認してくれ」
リルルはまたかよ、と嫌そうな顔をするが、半ば諦め、「わかりました」と回答をした。
「私はクリスタに会う前に、しておきたいことがある」
そう言って、リルルを小屋に残してエドワードは去っていった。
クリスタのことを考えると、少しだけ憂鬱な気持ちになった。
エメラルド家の翠の瞳もパール家の銀髪と同様、とても珍しいものだと思っていたが……、どうやら違っていたようだと、エドワードは思いながら、庭を歩く。
「……なんだ?」
エドワードがたじろぎながら、食事をテーブルの上に下ろし、鞄を床へ置いた。
「なんで置いていったの? わかってるよね。店主が来て大変だったんだから」
エドワードは、見られていたか、と息を吐く。
「やはりな……手を打っておいて正解と言ったところだな」
「何がだよ!」
エドワードとリルルの会話は噛み合っていない。
リルルは会話のすれ違いにむくれているが、トランクの掃除をしていた上に、店主がやたらと話しかけてきたので、すっかり疲れていた。
店主はエドワードがいなくなってから、水は飲むか、不便なことはないか、なぜ、顔にあざができているのか、エドワードとどういう関係なのか、と、5分と置かずに聞いてくるので、苛立ちが溜まっていた。
終いには、エドワードのDVから逃れるためにも、リルルに死んだ妻の代わりに後妻にならないか、と言ってきたので、そんなことをしたらエドワードが怒り狂う、と嘘をついて追い出した。
リルルは頬を膨らませながら、エドワードが持ってきた朝食の袋を開けると、サンドウィッチを掴んで、頬にいれていく。
「いただきます。うわ、美味しい」
ついさっきまで怒っていたというのに、に気分の乱高下が激しい、とエドワードは思った。
エドワードは帽子を外すと、帽子を無造作にベッドの上に置き、髪をくしゃくしゃと掻き分け、元に戻す。
「それはすぐ解決するぞ」
エドワードは鞄から一枚の紙を出し、サンドウィッチを頬張るリルルに手渡す。
「ふぇいやくふぉ?」
「そうだ。小さな教会を買い取った。パール家の慈善事業として」
エドワードは髪の毛を触る。銀色の髪が光にあたり、輝いた。
「この街でも、この髪に使い道があったようだ」
エドワードは意地悪そうかな笑ったので、リルルは頬を膨らませて、サンドウィッチを飲み込む。
「支度はできているな?」
「そりゃ、まあ」
「あ、痣つけておけよ。大袈裟なくらい」
「へ?」
エドワードはリルルが食べ終わる前に部屋を後にして、階下へ降りる。
「どうも、店主。世話になりました」
新聞を読んでいた店主が、エドワードの顔を見て、真っ青になった。
店主に挨拶をした際、エドワードは敢えて銀髪のまま現れたのだ。
「で、へぇ。いや、とんでもないことです」
店主はしどろもどろの回答しか出来ず、自分のしでかした事の重大さを悔いているようだ。
それはそうだ。目の前に銀髪の青年が現れたのだから。
この国の公爵は5つの家門しかないうえ、銀髪といえば間違いなく、パール家の出である事を子供でも容易く示唆できる。
翠の瞳をもつエメラルド家、褐色の肌に黒色の髪、黒色の瞳を持つオニキス家、黄金の髪と瞳を持つシトリン家、赤色の髪と瞳をもつルビー家、そして銀髪を持つパール家だ。
ダルマータ創生記 第一章にそのように記載がある。
実際には、この世界に褐色の肌も、黄金の髪も黒色の髪も、赤毛もありふれているし、エドワードの黒曜石のような真っ黒な瞳もシトリン家の黄金の瞳も多くの人が有している。
それは至極当たり前とも言える。
長い歴史の中で、交配を繰り返しできたのだから、その遺伝子の発現が多様化するのは当然と言える。
ただ、なぜかパール家の銀髪だけは、パール家の男子にしか発現していない。
「店主、私の連れがお世話になったようで、すまないね」
エドワードはニコリと微笑み、部屋から荷物を持って降りてくるリルルにウィンクをした。
リルルは苦虫を潰したように眉を寄せて険しい顔を見せた。
「店主、私たちがここに泊まっていた事を秘密にしてくれるなら、君の今回の行為は水に流そう」
エドワードはその笑顔とは反して、優しい声色で店主に語りかける。
「私がこの者にしている処遇も含めて、の話しだが、どうかな?」
店主は首を縦に振る。勢いよく何度も振るので、何回目かで、顎を机にぶつけてしまった。
「良かった。合意ができたようだ」
エドワードはさらに甘い表情を見せ、帽子を目深に被る。
リルルは話を察したように、店主にペコリ、と頭を下げる。
店主はリルルの顔や首に青痣を見つけ、ひぃ、と言って再び目を逸らす。
「契約金も含めて宿代はここに置いておく」
そう言って、エドワードとリルルは宿屋を後にした。
「エドワードって、結構たくましいよな」
感心するリルルの言葉をエドワードが茶化す。
「惚れるなよ」
あの店主の後先考えない行動だと、リルルを死に物狂いで探しかねない。
リルルの見た目は人を惹きつけるし、店主の口な蓋をしなければ、いずれ誰かが、エドワード=フォン=パールにたどり着くだろう。
そうなると、今後パルクルトでの活動がしにくくなる上、お忍びでの活動がしにくくなる。
向こうも公爵の連れを誘惑したなんて醜聞を知られたくないだろうし、私がリルルをDVしている、と言えば、彼は不敬罪に問われるだろう。
実際、殴っていないしな。
教会は多くの者が訪れる。だが、教会の奥は誰も来ない。
本来の姿で訪れても、教会の経営者なのだから、不自然ではないし、教会を保護する活動をパール家は行ってきているから、違和感はないだろう。
そして、豪奢な馬車を、走らせれば、よもや、私がここに残っているとは考えまい。
目立ちすぎると、他人は簡単に予測してしまい、本質を見ないため、容易に目くらましができるのだ。
パール家の銀髪に感謝だな。
教会に着くと、エドワードは祭壇の奥深くへと突き進み、裏口にまわる。裏口を抜けると小さな小屋があり、エドワードは小屋の中に入った。
小屋は鍵がかかっていて、エドワードはポケットから鍵を取り出し、小屋の扉を開ける。
「しばらく使っていなかったらしいから、埃があるかもしれないが、掃除をしたら使えるだろう」
「教会に小屋があるとは思わなかった。それも暮らせるような形で」
エドワードは埃を手で払うと、椅子に腰掛ける。
「普通は神父が暮らすものだからな」
エドワードが想像したよりも埃が多かったのか、少しむせる。
「この教会は何年も赤字で、ついには神父も雇えなくなったのだ。そこを私がパルクルトの街から買い取った、というわけだ」
「なるほど」
人があまり訪れず、仮に訪れても違和感がない程度の細工はある。
隠れて住むには適している環境である。
「母が趣味ではじめた慈善事業に感謝したのは、今回が初めてだ」
エドワードは立ち上がると、リルルに命じる。
「掃除をしておいてくれ。それから、水も使えるかを確認してくれ」
リルルはまたかよ、と嫌そうな顔をするが、半ば諦め、「わかりました」と回答をした。
「私はクリスタに会う前に、しておきたいことがある」
そう言って、リルルを小屋に残してエドワードは去っていった。
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