【完結】貧乏公爵(令嬢)マルゲリータの失踪

カズモリ

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ダルマータ国

22. 思い出5

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 アビーの部屋を出ようとしていたリルルの元にアビーが包帯やら消毒やら、治療道具を持って戻ってきた。
 どうやら治癒士ではなく、アビーが手当してくれるらしい。

 リルルはホッとして、力が抜けたように地べたに座り込むと、アビーは面白そうにクスクスと笑った。
「取り越し苦労ね」

 カーテンを開けると、アビーの瞳が赤色から翠色に変化していくのがわかった。
 窓から漏れる太陽の光を黄金色の髪が反射する。

 幻想的な光景に、リルルは思わず、息をするのも忘れるくらい見とれてしまった。

(ああ、美しいな……)


◆◆◆


「いてて」
 リルルは地面に座りながら、右膝を立て、右腕をアビーへ差し出している。アビーがリルルの腕に包帯を巻き付けているのだが、時々力加減が強くなるので、リルルはあまりの痛さに身を硬直させた。

「我慢してよ」
 リルルの腕に包帯を巻いているのだが、おぼつかない手元なので、アビーの翠色の瞳が少しだけ細くなる。どうやらかなり真剣らしい。

「我慢‥‥している。さっきも折れている肋骨を締め上げられた」
 リルルはわざとらしく、芝居がかって、胸をさする。

「仕方ないじゃない。悪いと思っているわ! だけど、私、こういうの初めてなの」
 
 それはそうだろう。王女なのだから、誰かの治療など、した事もないだろう。

 アビーは耳まで赤くして、「男の人の裸を見るのも初めてなのよ」と抗議する。

 裸と言っても上裸だ。肝心なところは隠れている。
そうやって言ってしまおうかと思ったが、アビーの恥じらう姿をリルルは揶揄からかってしまいたくなる。

「どうりで」

 生娘であることを揶揄われたと悟ったアビーふ、リルルの言葉に、しばらく黙り、包帯を静かに床に置く。
「じゃあ、別の者に頼むわ」

 そんなことをしたら、男だとバレてしまう。

 リルルは食い気味にアビーを呼び止める。
「待て待て待て」

 リルルの言葉に満足したらしく、アビーは再び地面に腰を下ろし、包帯を持った。

「いいよ、我慢する」

 リルルの言葉に不満があるらしく、アビーは包帯を巻きながら「言い方」と、愚痴る。

「嘘、ありがとう」
 リルルは心から感謝した。そして、軽く咳払いをする。

「それから、大切なものは、誰にもわからぬところにしまっておけ」
 リルルは自身の背中の壁に位置するチェストを指差した。

 アビーはリルルの言っているものが、何であるかを悟ったが、ゆっくりとチェストを開けた。

 アビーが誰を呼んでくるかわからないが、連れてきたものが、目の前にある宝物に対して全く興味がない、ということはないだろう。
 現に何度も盗まれているのだから。
 リルルはアビーが来る前に咄嗟にチェストの引き出しへティアラを隠しておいたのだ。

 アビーの瞳は翠色だから、リルルの腹の内などわからない。

 アビーが行ってきた犯罪については、許されざることだ。それでも、アビーの知っているリルルは、少なくとも信用できる。
 アビーは目頭が熱くなったので涙がこぼれ落ちないように、顔を赤くして、下をむき、唇を噛んだ。
「やっぱり貴方って、ずるいわ」

「そ。褒め言葉として捉えとく」

 リルルは照れ隠しのために鼻で笑った。


◆◆◆

 リルルがけがをしてから、10日目、包帯を取ると、リルルは腕を恐る恐る動かし、痛みがないことを確認する。

 大丈夫そうだ。痛くない。
「治った! やっと終わった」
 目の下にくっきりとした頑固なクマを蓄えながら、リルルは自室のベッドに倒れ込んだのは、リルルが怪我をしてから、10日ほど経った日のことであった。
 精霊は治癒能力が高く、半獣のリルルもその例外ではない。リルルの肋骨も腕も10日後には完治し、通常通り業務がこなせるようになっていた。

 リルルはこの10日間で並外れた精神力を培ったと自負することとなった。

 10日前、リルルが、再び暴漢に襲われることを懸念したアビーは、リルルを部屋付き侍女に昇格させていた。

  部屋付き侍女と言っても、アビーの部屋の隣をリルルの部屋とし、アビーが呼べばリルルがすぐに給仕できる状態だ。

 扉を挟んで隣であり、すぐに呼び出しに応じることができるよう、この扉も壁も非常に薄い。

 当然、風呂の音も聞こえてしまう。したくないのに、変な想像をすることを10日も耐えた。

 10日前、アビーの提案に「何考えてるんだよ」とリルルが否定したが、アビーは悪戯な笑みを浮かべて「私も殿方に慣れなければと思ったのよ」と、あっけらかんと言ってのける。

「あれを鵜呑みにするなよ」
「あら、それは冗談よ。貴方へ再度報復しようとしている奴らなのよ? 野放しにできるわけないでしょ」
「だからって」

 食い下がるリルルに、アビーはピシャリと言った。
「貴方は私の従者よ。従う者と書いて従者と読むのだけれど」
「わかった」

 リルルに拒否権などない。この王女が弱々しいと言ったのだろうか。十分すぎるほど逞しい。

 リルルはアビーの顎を左手で抑え、自身の鼻先をアビーの鼻先にあてた。

「男と暮らすというのはこういうこともある。覚えておけ」
 アビーは目を見開いたかと思うと、わざと色っぽく口を半開きにして、鋭い眼光でリルルを見る。

「やってみなさい。できるものならね」

 アビーはリルルの唇に自身の唇を近づける。唇が触れそうになった時、リルルが仰け反る。

「ったあ」

 打ちどころが悪く、右腕を思いっきり床にぶつけ、のたうち回っていると、アビーがしゃがみ込んでリルルの顔を覗く。

「ジェントルマンで安心したわ」

 リルルよりもアビーの方が上手だったのだ。


 リルルは骨がくっついたので、アビーに意気揚々と報告しに行くと、アビーは机に向かって書類に目を通していた。
「あ、治ったの? すごい、精霊って早いね。おめでとう」

(あ、うん? あれ? もう少しストレートに言った方が伝わる?)

  リルルはアビーの様子を伺うように、問いかける。
「だから、治ったから部屋はもう別でも、いいかな、と……」

アビーは「え? 犯人捕まってないのに、部屋を分けるという選択肢はないわよ」と言ってのけた。

「え」
 アビーは包帯をとったリルルを見た後、しれっと書類に視線を落とす。

「ほらー、もう、今は作業中だから、出て出て」

 リルルが部屋から出るのを確認すると、アビーは、安堵のため息を、ふう、とついた。

 リルルの手前、ああ言ったものの、実は犯人は既に捕まえている。
 日が落ちてから城内を歩けば、不穏な動きなど、簡単に見つけることができた。
 元々、リルルの心を読んだ時に侍女頭が絡んでいることは察していたので、侍女頭から、芋づる式に見つけた。

 侍女頭は金目のものに弱く、侍女頭にわざと仕事を頼み、彼女が興味のありそうな餌となる宝飾品を置いておいた。
 あとは、その宝飾品を向こうが懐に収めたら、アビーはそれを咎めたら良いだけだった。

 そして、仲間の名前を吐けば、罪を軽くすると囁くだけで、共犯者を簡単に見つけることができた。
 もっとも、そんなまどろっこしいことをしなくても、読心で共犯者を見つけることができるが、共犯者を取りこぼさないために、この手法を行なった。

 最初から共犯者全員を吐けば良いが、どういうわけか、大抵の者はリーダー格の名前を伏せる。
 そのため、リーダー格の名前を言わない場合は、知っているぞ、と揺さぶりに使うと、冷静となり、おまい出しもしなかった人物まで思い出して、洗いざらい話すようになった。

 アビーは確かに魔力は少ない。だが、その分、知恵を使って対抗する術を身につけていた。

 アビーが空を見上げると、夕暮れ時のため、橙色の空から紫色へと変わり始めていた。
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