女嫌いの騎士は呪われた伯爵令嬢を手放さない

魚谷

文字の大きさ
29 / 38

27 祭り当日(1)

しおりを挟む
 祭りの当日の朝、アリッサはシュヴァルツたちと一緒に警備のためにクリルにやってきた。

 快晴で、祭りには絶好の日。

 朝から街のあちこちで準備が進められ、木槌の音が絶えなかった。
 まさに町を挙げての祭りで、櫓や打ち上げ花火の準備など急ピッチで進められている。

「お祭りってワクワクしますよね!」

 アリッサはシュヴァルツとカーティスと一緒に、準備で賑わう街中を歩いていた。
 母と領地で開かれる収穫祭のことを思い出す。
 たくさんの市が並び、その季節に採れた野菜を使った料理やお酒が振る舞われるのだ。

 母が亡くなり、義母が嫁いできてからは、祭りに行くことさえ叶わなくなってしまったから、祭りの雰囲気を懐かしく思う。

 広場ではすでに大道芸人が夜の本番の予行演習とばかりに、子どもたち相手に芸を披露している。

「アリッサちゃん!」
「キャサリンさん! おはようございます!」
「おはよう。あなたが警備をしてくれるのね。心強いわ」
「俺たちもいるんですけどー?」

 カーティスが拗ねたように呟く。
 子どもをあやす母親のような笑みを、キャサリンは浮かべる。

「分かってるわよ。でもカーティスはところかまわず女の子に話しかけるし、シュヴァルツは顔が怖すぎ。ナンパ男は一睨みで追い返してくれるけど、女の子が怖がっちゃうでしょ。それに比べて、アリッサちゃんなら女の子たちも警戒しなくていいでしょ」
「がんばります!」
「ほんとうにアリッサちゃんてば可愛すぎ! 私の妹になる? 毎日、新しいドレスを着せてあげちゃうから!」
「そこまでだ」

 シュヴァルツが、アリッサの肩をつかむと、自分のほうへ引き寄せる。

「俺たちは屯所に行く。なにかあれば、そこにいるから」

 そう言ってアリッサの手を掴んで歩き出す。

「シュヴァルツ様!?」
「ふふ、またあとでね」

 屯所には、団員たちが揃っている。
 団員たちは祭りの雰囲気にあてられているのか、楽しそうに話している。

 しかしシュヴァルツがひとたび屯所に入れば、そんな賑やかな雰囲気はたちまち消え、ピリッとした緊張感に包ま
れた。

「気を抜くな。例年、大きな騒動が起こってないとはいえ、女性客へのいやがらせは起こっている。小さな問題から大きな問題に発展する恐れもある。全員、気を引き締めてかかれ!」
「は、はいっ!」

 シュヴァルツは広げられた地図を指でさしながら持ち場と交代時間を発表していく。

「以上だ。全員、夜まで待機だ」

 ――シュヴァルツ様と同じタイミングで休憩が取れる……。

 スケジュールを考えたのはシュヴァルツのはず。これは意図してのことだろうか。

「アリッサは残れ」

 屯所から出ようとすると、シュヴァルツに言われた。他の団員たちがいなくなるのを確認してから、彼が口を開く。

「夜の休憩時間に話がある」
「……今ではなくてですか?」
「そんな暇があるのか?」
「いえ! ありません!」
「用件は以上だ」

 失礼します、とアリッサはその場を後にした。

 ――夜に話って、なんだろう。

 思い当たることといえば、一つ。魔塔だ。
 あのことを知って、背中を押そうとしているのだろうか。

 ――どうしよう……。

「アリッサちゃん、あいつと何話してたんだ?」

 カーティスがぬっと顔を出すので、びくっとしてしまう。

「か、カーティス様、いきなり現れないで下さい。驚きました……」
「悪い。で?」
「夜の休憩時間中に話があると言われました」
「俺に感謝しろよな」
「? どうしてですか?」
「俺が手を入れて、二人の休憩時間が重なるようにしたんだよ。他の奴の時間も適当な理由をつけて入れ替えておいたから、怪しまれてなかったみたいだな」

 カーティスはウィンクをする。

「ど、どうしてそんなことを」
「そりゃあ、アリッサちゃんが告白できるように」
「う」
「その顔は告白を考えてみたいだなぁ。いやあ、俺ってばタイミング良すぎ。騎士やめて恋のキューピッドに専念しようかな」
「ま、まだ決めたわけではありませんっ。それより、シュヴァルツ様が私に話って何か心当たりがありますか?」
「さぁ。なんだろうな。もしかしてアリッサちゃんが魔塔へ行く話を聞いて、そのことかな」
「どうしてシュヴァルツ様が知ってるんですか!?」
「俺がそれとなく臭わしたから?」
「な、なんでそんなことを……」
「アリッサちゃんが悶々としてるみたいだから、事態の打破には起爆剤が必要だと思って。魔塔へ行くにしろ、行かないにしろ、シュヴァルツへの想いをはここにいる以上、膨らみ続けるだろう? 打ち明けたほうがいいに決まってる」
「……断られるのが分かってるのに……?」
「アリッサちゃんはそう思うわけ」
「だって、シュヴァルツ様が気にかけてくれるのは、呪紋があるからで」

 それ以外に、自分たちを繋ぐものは何もない。
 アリッサを苦しめた原因が、想い人との絆というのも皮肉な話だ。

「アリッサちゃんが想いを打ち明けるかどうかはアリッサちゃん次第。別にあいつの話がなんであれ、それを聞き終わったら別れればいいし、もっと一緒にいたいならいればいい。俺はお膳立てをしただけ。それから何をするべきかは、アリッサちゃん次第」
「……そうかもしれませんが」
「おまけにアリッサちゃんたちの休憩時間は花火の打ち上げとかぶるんだよ。じゃ、そういうことだから」

 シュヴァルツはひらひらと手を振って、あっという間に人混みに紛れていく。

「あ、ちょ……」

 アリッサはため息をつく。

 ――ちゃんと任務に集中しなきゃ。

 巡回を続けると、祭りの様子を見に来たカップルの姿がちらほらある。

 ――あんな風にシュヴァルツ様と接することができたら。

 このまま関係が壊れないことを選ぶのなら、告白はするべきではない。
 でも関係を進めたいなら、一歩踏み出す勇気を出すべきだ。

 ――一歩踏み出す勇気が持てる……?

 自問する。

 これまでのアリッサは義妹や義母からの虐待に対して、自分の本当の気持ちを押し殺し、嵐が過ぎ去るのをじっと待つという行き方をしてきた。でもその結果、やってきたのは不幸だけ。

 うまくいく保証はない。

 でもシュヴァルツが将来、自分でない誰かと結ばれた時、何もせずに指をくわえて、あの時告白していたら。そんな意気地のないことを思いたくない。

 ――勇気よ。騎士にとって最も大切なもの。

 悶々としているよりずっといいことのように思えてくる。
 カーティスがわざわざ協力してくれている。

 ――……こ、断られたら、魔塔へ行けばいい! そうよ!

 我ながら臆病の極みだが、そうでも思わなければ一歩を踏み出せない。

 アリッサは拳を握りしめ、決意を固めた。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

勘違い妻は騎士隊長に愛される。

更紗
恋愛
政略結婚後、退屈な毎日を送っていたレオノーラの前に現れた、旦那様の元カノ。 ああ なるほど、身分違いの恋で引き裂かれたから別れてくれと。よっしゃそんなら離婚して人生軌道修正いたしましょう!とばかりに勢い込んで旦那様に離縁を勧めてみたところ―― あれ?何か怒ってる? 私が一体何をした…っ!?なお話。 有り難い事に書籍化の運びとなりました。これもひとえに読んで下さった方々のお蔭です。本当に有難うございます。 ※本編完結後、脇役キャラの外伝を連載しています。本編自体は終わっているので、その都度完結表示になっております。ご了承下さい。

【完結】呪いを解いて欲しいとお願いしただけなのに、なぜか超絶美形の魔術師に溺愛されました!

藤原ライラ
恋愛
 ルイーゼ=アーベントロートはとある国の末の王女。複雑な呪いにかかっており、訳あって離宮で暮らしている。  ある日、彼女は不思議な夢を見る。それは、とても美しい男が女を抱いている夢だった。その夜、夢で見た通りの男はルイーゼの目の前に現れ、自分は魔術師のハーディだと名乗る。咄嗟に呪いを解いてと頼むルイーゼだったが、魔術師はタダでは願いを叶えてはくれない。当然のようにハーディは対価を要求してくるのだった。  解呪の過程でハーディに恋心を抱くルイーゼだったが、呪いが解けてしまえばもう彼に会うことはできないかもしれないと思い悩み……。 「君は、おれに、一体何をくれる?」  呪いを解く代わりにハーディが求める対価とは?  強情な王女とちょっと性悪な魔術師のお話。   ※ほぼ同じ内容で別タイトルのものをムーンライトノベルズにも掲載しています※

呪われた悪女は獣の執愛に囚われる

藤川巴/智江千佳子
恋愛
獣人嫌いとして知られるフローレンス公爵家の令嬢であり、稀代の悪女と呼ばれるソフィアには秘密があった。それは、獣の類の生き物に触れてはならないという悍ましき呪いを体に宿していることだ。呪いを克服しようと試行錯誤を繰り返す日々の中、ソフィアは唯一の友人を救うため、ついに獣に手で触れてしまう。彼女は呪いの発現に苦しみ死を覚悟するが——。 「貴女の身体はまた俺を求めるようになる。貴女はもう、人間のものでは満足できない身体に作り替えられた。この俺によって」 悪女ソフィアに手を差し伸べたのは、因縁の獣人である、獣軍司令官のルイス・ブラッドだった。冷たい言葉を吐きながらも彼の手つきはぎこちなく優しい。 「フィア。貴女の拒絶は戯れにしか見えない」 「——このまま俺と逃げるか?」 「もう二度と離さない」 ※ムーンライトノベルズさんにも掲載しております。

贖罪の花嫁はいつわりの婚姻に溺れる

マチバリ
恋愛
 貴族令嬢エステルは姉の婚約者を誘惑したという冤罪で修道院に行くことになっていたが、突然ある男の花嫁になり子供を産めと命令されてしまう。夫となる男は稀有な魔力と尊い血統を持ちながらも辺境の屋敷で孤独に暮らす魔法使いアンデリック。  数奇な運命で結婚する事になった二人が呪いをとくように幸せになる物語。 書籍化作業にあたり本編を非公開にしました。

十年間虐げられたお針子令嬢、冷徹侯爵に狂おしいほど愛される。

er
恋愛
十年前に両親を亡くしたセレスティーナは、後見人の叔父に財産を奪われ、物置部屋で使用人同然の扱いを受けていた。義妹ミレイユのために毎日ドレスを縫わされる日々——でも彼女には『星霜の記憶』という、物の過去と未来を視る特別な力があった。隠されていた舞踏会の招待状を見つけて決死の潜入を果たすと、冷徹で美しいヴィルフォール侯爵と運命の再会! 義妹のドレスが破れて大恥、叔父も悪事を暴かれて追放されるはめに。失われた伝説の刺繍技術を復活させたセレスティーナは宮廷筆頭職人に抜擢され、「ずっと君を探していた」と侯爵に溺愛される——

襲われていた美男子を助けたら溺愛されました

茜菫
恋愛
伯爵令嬢でありながら公爵家に仕える女騎士イライザの元に縁談が舞い込んだ。 相手は五十歳を越え、すでに二度の結婚歴があるラーゼル侯爵。 イライザの実家であるラチェット伯爵家はラーゼル侯爵に多額の借金があり、縁談を突っぱねることができなかった。 なんとか破談にしようと苦慮したイライザは結婚において重要視される純潔を捨てようと考えた。 相手をどうしようかと悩んでいたイライザは町中で言い争う男女に出くわす。 イライザが女性につきまとわれて危機に陥っていた男ミケルを助けると、どうやら彼に気に入られたようで…… 「僕……リズのこと、好きになっちゃったんだ」 「……は?」 ムーンライトノベルズにも投稿しています。

婚約破棄された夜、最強魔導師に「番」だと告げられました

有賀冬馬
恋愛
学院の祝宴で告げられた、無慈悲な婚約破棄。 魔力が弱い私には、価値がないという現実。 泣きながら逃げた先で、私は古代の遺跡に迷い込む。 そこで目覚めた彼は、私を見て言った。 「やっと見つけた。私の番よ」 彼の前でだけ、私の魔力は輝く。 奪われた尊厳、歪められた運命。 すべてを取り戻した先にあるのは……

ただの政略結婚だと思っていたのにわんこ系騎士から溺愛――いや、可及的速やかに挿れて頂きたいのだが!!

藤原ライラ
恋愛
 生粋の文官家系の生まれのフランツィスカは、王命で武官家系のレオンハルトと結婚させられることになる。生まれも育ちも違う彼と分かり合うことなどそもそも諦めていたフランツィスカだったが、次第に彼の率直さに惹かれていく。  けれど、初夜で彼が泣き出してしまい――。    ツンデレ才女×わんこ騎士の、政略結婚からはじまる恋のお話。  ☆ムーンライトノベルズにも掲載しています☆

処理中です...