冷酷な王の過剰な純愛

魚谷

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若き王との生活(2)

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 朝食を終え、マリアがジクムントと別れて部屋に戻る途上、ルリが言う。

「私、あんな息の詰まるお食事の席は初めてでございます……」

「そうですね。やっぱり陛下と一緒に、というのは緊張していますものね」

「それもございますが、陛下が……その、ずっと、怖い顔をされて……。いつ、マリア様が怒鳴られてしまうかと考えると生きた心地がいたしませんでした……」

「怖い? ジーク様は私を心配していただけたし、怒ってなどいませんでしたよ? むしろ笑いかけてもけましたし」

「本当ですかっ」

 ルリは心底驚いたような顔をする。

「それは確かに、ジーク様は表情をお顔に出すことをあまりされない方だとは思いますが」

 ルリは不意に合点のいった顔をする。

「ヨハン様の仰られたことが分かったような気がします。マリア様だけがジクムント様のお気持ちを理解できる、と……」

「それは買いかぶりです。私は少しでもたったお一人で気丈に振る舞われているジーク様のお力になりたいと思っていますけど……それが出来たことなんて一度もありません」

「そうなのですか?」

「ええ。それにしても、ジーク様……」

 ふふ、っとマリアは思わず笑みをこぼす。

ルリが「何か?」と聞いてくる。

「あんなにもヨハン様のお屋敷でのことを聞かれるなんて。とても心配性になられたなと思いまして……。ヨハン様はとても優秀なお方で、ジーク様だってそれは誰よりもご承知のはずなのに」

 ルリはぽかんとした顔をする。

「マリア様、あれは……」

「ルリさん? どうしたの?」

「い、いえ。なんでもございません。きっとそれだけマリア様のことを心配に思われていたということなのでしょう。それにしてもマリア様、ご遠慮などされずに、欲しい物があれば何でも……という陛下の思し召し、ありがたくお受けになられればよろしいですのに」

「私は贅沢をするためにお城に上がった訳ではありませんもの」

「それは分かっておりますが。マリア様は欲がないのですね」

「欲ならありますよ」

「何ですか?」

「便箋《びんせん》を」

「え?」

「母に手紙を書きたいんです。無事に陛下とお会いすることが出来たと伝えないと」

「かしこまりました」

 ルリは微笑んだ。



ジクムントは朝食を終えてマリアと別れると執務室にいた。

 考えるのはマリアのことばかり。

 昨夜感じていた熱情は一時的なものではないことは、今朝マリアを見たことで確信できた。

 昨日、自分の腕の中で乱れた彼女のことを思い出してしまった。

 こんなにも自分が淫らな人間だったのかと驚いたほど、彼女を貪ってしまった。

 彼女が王都に来たという一報を耳にした時にはあれほど巻き込むなと考えていたのに、マリアを見た瞬間から自分の中の箍《たが》が外れ、歯止めが利かなくなっていた。

 今ではもうマリアを片時も手放したくないと思っている。

 その為にはどんなものも犠牲に出来ると。

 その時、扉を叩く音がした。

「入れ」

「――陛下、失礼いたします」

 ヨハンとゲオルグが書類の束を小脇に挟んで部屋に入ってくる。

 ヨハン・マージェント。

 ジクムントの忠実な右腕ではあるが、今は少し気持ち的には微妙である。

 何も手を出していないことは昨晩のマリアの姿から明らかだ。

 それでも長くない時間、ヨハンとマリアが広い屋敷とはいえ一つ屋根の下で暮らしていたことに変わりは無い。

つまらない感情だと思うが、どうしようもない。

 ヨハンが微笑んだ。

「どうした?」

「マリア様と朝食を楽しまれたとか」

「耳が早いな。間諜でも潜ませているのか」

「間諜《スパイ》など遣わずとも兵隊には逐一どのようなことも報告させておりますから」

「のぞきが趣味だとは知らなかったぞ」

 ジクムントの嫌みも、ヨハンは笑顔でさらりとかわす。

「陛下の側近としてどのようなことも頭に入れておくことが必要ですので」

「閨《ねや》のこともか」

「必要であれば」

(食えない奴だな)

 ジクムントは苦笑し、受け取った書類を広げた。
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