たとえ愛がなくても、あなたのそばにいられるのなら

魚谷

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 クリフォードは朝日の眩しさと共に、目覚める。
 王国に戻ってからはや数ヶ月。
 ベルでメイドを呼び、ぬるま湯で顔を洗う。
 服を着替え、それから屋敷に新しく造らせた祈祷室にこもる。
 祭壇の前で片膝をつき、神に祈りを捧げた。
 一度もかかしたことのない許しを求める時間。

(罪深き我らを救い給え。父の元に召されて罪を背負いし魂を、どうぞお救い下さいますよう。そのためならば、私の魂がどれほどの仕打ちを受けても……地獄の業火に灼き尽くされようとも構いません)

 クリフォードは祈りを終えると食堂で朝食を済ませ、王宮へ出仕する。
 第一騎士団は、国王ならびに王太子の警護の為に創設された。
 王の出席する公式行事などにも出ることが多いために、剣の腕前だけでなく、一人一人があらゆる儀礼に精通している。
 そのために、実力さえあれば出自を問わぬ第二騎士団とは違い、上級貴族出身者で構成されている。
 世間で言えば、実戦経験の少ない第一騎士団を嘲る向きもあるが、クリフォードは全て役割分担であると割り切ってもいるし、そして実力の点においても第二騎士団に決して劣らぬという自負がある。

「公爵様、今日の訓練はこの辺に」

 副官が声をかけてくる。

「いや、まだだ」
「ですが、これ以上時間を費やしますと、夜会に遅れてしまいます」
「……そうだったな」

 今日は別の者に国王ならびに王太子の警護の責任者を任せているから、クリフォードは公爵家の当主として出席するのだ。
 おそらく夜会には、ハイネも参加するはずだ。
 愛人を囲い、公爵家、ひいては兄であるラウーロの名前さえ穢すあの男の妻として。
 もっと早くハイネの苦境を知っていれば、彼女を救っていたのは自分だったはずだ。
(私が自分のことしか考えていなかったせいで……)
 ハイネが兄と弟を手玉に取る悪女と、口さがのない社交界の連中に言われるようなこともなかったはず。
 一度屋敷に戻って儀礼服に着替えて王宮へ。
 クリフォードが会場に入ると、令嬢たちの目の輝きが強くなるが分かった。
 だが彼にとってはどんな令嬢も路傍の石も同じ。
 視界に入ることはあっても、それだけ。別に気にするような存在もない。

「クリフォード様、お久しぶりでございます」
「覚えておいでですか、私は……」

 色めき立つ令嬢たちが我先にとクリフォードに迫るが、「申し訳ない。人を探しているので」と全く感情をともなわぬ声で、全員を下がらせた。
 大勢の招待客の中から追い求めるのは、ハイネだけ。

「!」

 一年ぶりにその目で見た彼女は、美しいドレス姿を見事に着こなしていた。
 彼女に比べれば、他の令嬢たちは路傍の石ほどの価値もないと分かる。
 しかしその傍らには、彼女を苦しめる元凶がいた。
 アーサー。
 ハイネがアーサーに何事か話しかけ、離れていく
 まるで見計らったようにアーサーに近づく女性が現れる。
 社交界の毒蛇、イザベル。

「妻を同伴しながら愛人の相手とは」
「まあ、借金の肩に手に入れた妻だ。愛人のほうが可愛いのだろうさ」

 口さがない連中が遠巻きにしながら言葉を交わす。
 今すぐ手袋を投げつけ、あの男の魔の手からハイネを救い出したい。
 しかし今はあんな男に構っている訳にはいかなかった。
 クリフォードはハイネと話す為に早足で会場を出た。



(人に酔ってしまうなんて情けないわ)

 さらに高いヒールの靴を履いていたこともあって、体勢を崩してしまう。
 そんな彼女を背後から伸びた手がゆっくりと抱き留めた。

「ハイネ嬢、平気ですか?」

 振り返ると、クリフォードの穏やかな笑みがあった。

「クリフォード様……」
「ひどい汗だ」

 クリフォードがハンカチを差し出してくれるが、ハイネはそれをやんわりと断り、自分のハンカチで額の汗を拭う。
 美しい金髪に、宝石のような鮮やかな青い瞳。人懐こい笑顔を浮かべた顔立ちには、見るものを安堵させるような大らかさがあった。
 ハイネは頭を下げた。

「お久しぶりです。そして、おかえりなさいませ、クリフォード様。お戻りになられていたのですね」
「つい先日。本当に平気ですか?」

 彼を心配させたくはなかった。

「大丈夫です。久しぶりの夜会で、人の熱気にあてられてしまったようで、少し気分が悪くなってしまっただけですので」
「……なら気分が持ち直すまで話しませんか?」
「よろしいのですか? 会場に行かれなくても」
「顔は出したものの、私も久しぶりのせいかどうも楽しめなくて」
「ああ……」

 ハイネは全てを察した。
 未だ未婚の公爵にして、第一騎士団の団長。それを飢えた狼のような令嬢たちが見逃すはずもない。

「――お気持ちの整理はつけられましたか……」
「まだ完全には……。でも公務にはどうにか戻ることができましたから」

 クリフォードがじっとハイネを見つめる眼差しに、陰が差す。

「それよりも、心配なのはあなたです」
「私……?」
「帰国してすぐに、あなたの事情を知りました。伯爵家のこと、そして借金の返済のために、あの男の元に嫁いだことを」
「私のことであれば、なにも心配ありません。公爵夫人として、なに不自由のない生活を送らせていただいているんです。私生児にすぎない私にはあまりに過ぎたことです」
「自分を卑下するような言い方はよしてください。あなたはもっと幸せになるべき……ならなければ、いけないんです。ラウーロもそれを誰より望んでいるはずだから」
「……私は十分、幸せです」

 クリフォードの眉間に縦皺が刻まれる。
 そんな訳がないと彼の顔は騙っていた。

「分かっているでしょう。あの男は君のことを愛してなどいません。ただの欲望の捌け口にされているだけなんです。あの男は平然と愛人と行動を共にしているんですよ」
 胸にぐさりと突き刺さる。
「……構いません。全てを承知の上で、この関係を受け入れたのですから」

 ぐ、とクリフォードの顔が歪んだ
 次の瞬間、逞しい腕でハイネは抱きしめられていた。

「っ!」

 ハイネは小さく息をこぼす。

「今すぐ私の元へ来てください。私なら、あの男よりもずっとあなたを幸せにできます。金の心配なら平気です。あの男が、あなたの実家に払った金額の数倍の金額を出しても構いませんっ」
「……ありがとうございます。ですが、無理をなさらないで下さい」
「無理なんてしていません。今の私には、あなたが無理をして笑い、日々を過ごしている姿を黙って見ているほうが、余程辛いんですっ」

 クリフォードの声に熱がこもる。
 本当に彼は、ハイネを心配してくれているのだ。
 それについてはどれほど感謝してもしきれない。
 ただ、ハイネは幸せだった。
 世間からすれば愚かで滑稽な悪女にしか見えないかもしれないが、それでも、彼の妻として過ごせているのだから。
 愛情はなくても、構わない。
 たとえアーサーがハイネのことを都合のいい形ばかりの妻と見なしているところで、ハイネのアーサーへの愛は変わらない。
 ハイネは、自分を心配してくれるクリフォードの右頬にそっと触れた。

「あなたは、ご自分の幸せを見つけてください。私のことはお気になさらず。それこそがお兄様が望んだことなんですから……」
「何をしている!」

 その時、怒声が廊下に響く。
 アーサーがまっすぐこちらへ近づいてくるや、クリフォードの胸ぐらを掴み、壁に叩きつけた。

「ぐ……っ」

 突然のことに、ハイネは動くことができなかった。
 フゥフゥ、と息を荒くさせ、アーサーがクリフォードを睨み付ける。
 はっと我に返ったハイネは、アーサーの背中にしがみつく。
 しかしどれだけ引っ張っても、その大きな体はびくともしない。

「やめて、アーサー! 私は何もされてない!」
「何も、だと? 俺にはこいつが、人の女に手を出そうとしているようにしか見えないがなっ!」

 クリフォードは口の端を持ち上げた。

「人の女? 妻を同伴しながら、愛人といちゃついていたくせによく言うなっ!」
「貴様……!」
「アーサー。お願い。ここは王宮よ。騒ぎを起こしたら……きゃっ」

 振り上げられた腕がぶつかり、ハイネはその場に尻もちをついてしまう。
 それに気付いたアーサーはクリフォードの胸ぐらから手を離すと、ハイネに駆け寄り、そしてクリフォードを睨み付けた。

「お前とはいずれ決着をつける。それまでは見過ごしてやる」
「それはこちらの言葉だ」
「行くぞ、ハイネ」
「え、ええ……」

 どうやら尻もちをついた拍子にヒールの踵が折れてしまったようだ。
 抱き上げられた瞬間、変な声が出てしまう。
 アーサーは勝ち誇るように自分を睨み付けるクリフォードを一瞥すると、構わず歩き出す。

「ど、どこに行くの」
「帰るんだ。そんな靴じゃ歩けないだろ」

 アーサーはそのまま玄関まで行くと、馬車に乗り込んだ。
 そうしている間も、ハイネを抱き上げるのをやめなかった。

「もう、平気だから。恥ずかしいから下ろして……」
「黙っていろ」

 やがて馬車が屋敷に帰り着くと、そのまま屋敷へ入っていく。

「公爵様、お早いお帰りですが……」
「部屋に誰も近づけさせるな」

 アーサーはハイネを抱き上げたまま階段を上がり、自分の部屋へ入った。そして真っ直ぐ寝室へ向かうと、ハイネをベッドへ横たわらせる。

「あいつに何をされた」
「本当に何もされてないっ」
「俺には抱きしめられているように見えたが、あれは見間違いか?」
「私が転びそうになったのを支えて下さっただけ」
「……どうして拒絶しなかった。あいつは紳士ぶったいい子ちゃんだからな。拒絶されればすぐに体を離したはずだ」
「私が望んで抱きしめられたとでも言いたいの? 私はあなたの妻よ。分かっているでしょ」
「どうだかな。身を預けているように見えたが」
「そんなこと……んん……!」

 唇を塞がれた。
 抗おうとしても手首を強く掴まれ、ベッドに押しつけられた。

「あいつのつけた香水をまとわせて、ただ支えられただけなどとよくそんなことが言えるな。あいつの優しさにほだされたか? 悪いな、お前は俺のものだ。俺の元から逃げだせると思うなよ。たとえ何があっても、お前を手放してやるつもりはないんだっ」

 アーサーの目が野獣のように爛々と燃えるように輝いていた。
 常とは違う彼の様子に体が震えた。
 なのに、彼の激しい口づけと、ドレスごしに激しく体をまさぐってくる手つきで、体が熱くなってしまう。
 ドレスのスカートが乱暴にたくしあげられ、下着を探られた。

「ンン……!」
「あの上品が取り柄の男は知らないだろうな。お前が乱暴にされて、濡れるような女だってことに」
「別に乱暴にされて喜んでいる訳じゃ……」
「本当か?」

 恥ずかしさで消えてしまいたかった。自分でもどうしてこんなにも体が反応してしまうのか分からなかった。
 下着ごしに秘処をいじられれば、悩ましい熱で下腹が疼く。
 下着が取り払われると、こぽりと蜜が溢れてベッドに染みを作ってしまう。
 恥ずかしさに逃げようとするが、すぐに腰を掴まれて抱き寄せられた。
 アーサは、ハイネは四つん這いの格好にさせた。
 お尻を掴まれ、熱い息遣いが、濡れそぼつ秘肉をかすめたかと思えば、アーサーが秘処へむしゃぶりついてくる。

「……ひゃうぅっ!?」

 ハイネは恥ずかしい声をあげさせられてしまう。
 分厚い舌が媚粘膜を刺激し、溢れる蜜をぢゅるぢゅると音をたてて啜り飲まれた。

「そ、そんな音たてないで……いやっ!」

 恥ずかしさにますます顔が火照る。

「いやらしい汁を、次から次へと溢れさせて何を言ってるんだ」
「そんなところを舌でいじらないで……き、汚いわ……」
「ふしだらだな。こんなにも蕩けさせてるなんて」
「あ、ああ……いやっ。アーサ-、やめてっ……」
「グチョグチョだな。まるで漏らしてるみたいだっ」

(本当に恥ずかしくて嫌なのに、どうして私の体はこんなにも熱く……)

 いくら相手がアーサーとはいえ、こんなにも下品な真似をされているのに、体が分かりやすいくらい蕩けてしまう。
 アーサーのうねる舌はますます激しく膣肉を擦り、掻き混ぜ、蜜を促す。
 ベッドに突っ伏したハイネはシーツに顔を押しつけ、羞恥心に苛まれる一方で、疼く奥が放置されたままという状況に、切ない気持ちが募っていく。

「どうしてさっきからお尻を振ってるんだ?」
「ふ、振ってなんか……」
「振ってるさ。まるでメス犬のようにな。舌だけじゃ物足りないか?」
「も、もう、十分だから……っ」

 ハイネは精一杯の拒絶の気持ちで答えたつもりだったが、その切なくもどかしい嬌声が、アーサーの劣情の炎をさらに大きいものにするとは思いもしなかった。
 ずるり、と舌が抜けた。

「ひゃう……っ」

 ビクンッ、と体を震わせたハイネは、柳眉をたわめる。

「その物欲しげな顔は、俺にしか見せるなよっ」

 アーサーは裸になる時間さえ厭うように、スラックスのチャックを開けると、反り返った怒張を露わにした。
 さんざん舌先で舐り回された秘口へ亀頭をぐりぐりと押しつけられてしまう。

「ひゃうぅぅ!」
「いやらしい汁が次から次へと溢れてとまらないみたいだな。シーツがベチョベチョだぞ」

 ハイネの中に押し入ってきた。

「はあぁぁ……っ」

 四つん這いの格好で貫かれてしまう。
 奥を力強く突かれた刹那、頭の中が真っ白になる。
 ただ挿入されただけなのに呆気なく昇り詰めてしまったのだ。
 ビクビクッと総身を汗まみれにさせながら、痙攣させてしまう。

「はぁはぁ……」

 ずっと満たされなかった最奥を突かれ、強い快感に全身がばたつく。

「こんなはしたない格好……だめっ」

 半ばろれつの回っていない声を漏らす。

「俺のに絡みついてぎゅうぎゅう食い締めてきているくせに何がだめなんだっ? 聞こえるだろ。こんな
にもぐしょぐしょなんだ」

 腰を動かし、胎内を掻き混ぜてみせる。
 グチャ、ヌチャ。
 腰の動きに合わせ、糸を引くような水音が寝室に響く。
 その音に、ハイネは自分が本当にいやらしいもののように思えてしまうのだ。

「ようやくだな」
「え?」
「あいつの妙にお高くとまった香水の匂いがようやく消えた。お前のいやらしい匂いのお陰だ」

 どうして彼はこんなにも意地悪く、ハイネを抱くのだろう。
 初めての夜から、アーサーはこうして言葉で翻弄し、その様子を楽しんでいるようにさえ思えた。

「動くぞ」

 四つん這いにさせられたまま、腰が動かされる。
 彼の手が、乱暴に胸を鷲掴み、すでに硬くなっている乳首を痛いくらいの力で抓んできた。

「ひあっ、あああっ、はあぁっ、い、一緒にいじらないでっ」

 奥を突かれると同時に、充血した乳首を痛いくらいに刺激されてしまう。
 本来であれば痛みさえ感じてしまうような強い刺激にもかかわらず、快感に蕩けた体にとっては極上の甘美だった。
 ハイネは上擦った声混じりに身悶える。
 初夜の時よりもずっと深く、アーサーを感じてしまう。
 奥を突かれ、こねられるたび、秘裂がますます逸物を締め付けた。
 気の遠くなるような愉悦に、あられもない声を止められない。
 逞しい腰でお尻を叩かれながら、膣内を攪拌され、弱い最奥を抉られる。

「ひあっ……あああっ……そんなに激しくされたら……ひいっ、ひいい……っ」

 ハイネはシーツが皺くちゃになるくらい、強く握り締め、息も絶え絶えになった。

「出すぞ……受け止めろっ」
「きちゃう……もう、だめえ……」

 ドクドクッ、と最奥で、子種が解き放たれる。

「……っ!」

 ハイネは満たされる想いに身も心も満たされながら、絶頂を遂げた。
 眩暈のするような快感の中、しなやかな筋肉に包まれたアーサーの腕の中で、全身を激しく痙攣させた。



 抱き潰すように激しく交わり、何度も絶頂を遂げたハイネは、意識を失っている。
 鼻を寄せると、強い汗の香りで、クリフォードがつけていた香水の匂いが綺麗に上書きされていることに、アーサーは喜びを覚えた。
 他人に奪われかけたものをもう一度、自分のものだと証明できたような満足感と支配欲。

(匂いと同じように、記憶も何も塗りつぶせればいいのに)

 そうすれば兄との記憶を塗り潰し、身も心も全て、アーサーのものに出来るのに。
 愛した女を激しく犯した後、その心が永遠に手に入らないという事実に、虚しい気持ちにならずに済むのに。
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