皇帝(実の弟)から悪女になれと言われ、混乱しています!

魚谷

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第三章 記憶の残り香

皇后(ライバル)たち

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 その二日後、旬果の元に後宮より使者が現れた。
 用件を取り次いだ菜鈴は、私室にいる旬果の元へやってくる。
「旬果様。後宮でお茶のお誘いがございました。いかがなさいますか?」
 菜鈴と一緒にやって来た泰風が、言う。
「旬果様。病を理由に断りを入れるべきです」
「そんなの嫌よ」
「旬果様っ」
「この間の服のことで尻尾を巻いて逃げ出したなんて、思われたくない」
 菜鈴が聞く。
「では、いかがするんですか?」
「どうせ嫌な女だって思われるんだから、やってやろうじゃない。――菜鈴。深衣でも襦裙でも袍でも良いから、持って来て」
 菜鈴は訝しい表情をした。
「……どうされるんですか?」
「仕返し」
「はい!」
 菜鈴はノリノリになって服を取りに、部屋を出て行く。
 泰風は心配そうな顔をした。
「旬果様……」
「心配しないで」

                         ※※※※※

 そして旬果は後宮へ入った。
 その手には、黒漆塗《くろうるしぬり》に、全面に唐花文様をあしらった印籠蓋《いんろうぶた》造りの献物《けんもつ》箱。

 向かった先に以前一度来た、人工の池に造られた亭閣。
 そこには劉麗、慧星、洪周の姿があった。
 堂々と歩みを進める旬果に、でことちびっ子が露骨にほくそ笑む。

 一方の洪周はと言えば、心配そうだった。
 でこが、旬果が持っているものに気付く。
「旬果様。それは?」
 ちびっ子が言う。
「お菓子かしら?」
「いいえ。この間、せっかく頂いた衣装を破ってしまいましたから、お返しに……と思いまして」

 旬果は箱から空色の襦裙を取り出す。
 ぼかしの手法が取り入れられ、裾に広がるにつれて、色が淡くなっている。

 でこは首を横に振る。
「……そんなこと構いませんのに」
「こんなもので、劉麗様が下さろうとした品の代わりにはならないとは思いますが、それでは私が自分を許せません……。是非、お受け取り下さい」
 でこは口ごもる。
「いえ、私は……」
「では一度、袖を通すだけでも」
 ちびっ子が叫ぶ。
「あなた、劉麗様に無礼とは思われないのですか! そのような安物で……」
「仰る通りではございますが……。では慧星様、着て頂けませんか」
「ひっ!」
 まるで差し出した襦裙から禍々しい気でも出ているかのように、ちびっ子は上半身を仰け反らせた。
「洪周様はいかがですか? 袖を通すだけでも……」
「え、ええ。それでは……」
 ちびっ子は声を上げた。
「洪周様。いけませんわ!」
「さあ。着るのをお手伝いいたします」
 そして洪周の右袖が通り、そして左袖が――。
「うん。よくお似合いです」
 洪周は微笑んだ。
「綺麗、ですね。これ、頂いても?」
「もちろんですとも」
 旬果は、唖然としている劉麗と慧星を振り返り、
「まさか、左袖が縫ってあると思われたのですか?」
 そう、にこりと笑いかければ、ちびっ子は顔を赤くして怒る。
「あ、あなた! わたくし達がこの間、そうやったとでも仰るのですか!?」
「されたのですか?」
「あ、あ……そ、それは……っ」
 その時のちびっ子の動揺ぶりは、旬果が拳を握って掌に爪をたてていなければ、吹き出しそうになってしまうほどだった。
「そんなことはありませんよね。さあ、お茶を頂きましょう」
 その日のお茶会では、普段よく喋る劉麗と慧星はかなり大人しかった。
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