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第五章 桃園の謀
襲撃
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しばらく進めば、蹲《うずくま》った二人の見知った人物たちと遭遇した。
劉麗と慧星である。
二人は汗みずくになりながら、岩に腰掛けていた。足下には空になった瓢箪が転がっている。
旬果は足を止め、片膝をついて劉麗の顔を覗き込んだ。
「劉麗様、大丈夫ですか?」
劉麗は生気の無い顔を上げた。
「……あなたたち、追いついてきたのね」
「まあ、どうにか」
劉麗は立ち上がろうとするが、すぐに膝が笑って座り込んでしまう。
旬果は首を横に振った。
「もう諦めて、みんなで下山しましょう。こんなこと不毛です。陛下は酔っていたんですから、皇后候補を取り消すなんて戯れ……」
すると、慧星がキッとにらんできた。
「わ、わたくしたちは、あなたのような芋娘とは違うんですのよ! 皇后になる為に後宮へ召されたというのに……諦められるはずがないでしょう!」
劉麗は旬果をじっと見つめる。その熱い眼差しに、旬果はたじろいでしまう。
「な、何ですか?」
「あなた、まだ歩けるの?」
旬果は自嘲めかす。
「まあ、私は芋娘なんで……」
「だったら一人で上まで行って、花を取ってきて下さらない? そしてそれを私にちょうだい」
「は?」
「大丈夫。私が皇后になった暁には、あなたが望む物を何でも上げるから。私の傍に仕えさせて上げても良いわ」
「――それはずるいんではありませんの、劉麗様」
慧星が異を唱えた。
劉麗は表情を曇らせる。
「慧星様。今、何と? ずるい、と聞こえたんですが……」
「ええ。ずるい、と言ったんですわ。どうしてあなたにそんな権限が? 花を持ってきた者が皇后になれると、陛下は仰られたのですのよ」
劉麗は立ち上がり、慧星を睨んだ。汗に濡れた顔に黒髪が張り付き、凄みがあった。
「慧星様。もしかして、あなたが皇后になるおつもり?」
「私にも機会がある、と言っているんですの!」
劉麗は鼻で笑う。
「片田舎の貴族のご令嬢の出番は、ありませんことよ。私のおばさまは――」
「劉麗様。あなたは二言目にはおばさまおばさまと、それ以外の能はないんですの?」
「なっ!?」
愕然《がくぜん》とする劉麗を、慧星は嘲る。
「決めるのは陛下ですのよ。――旬果様。もしわたくしの為に花を持ってきて頂けるのでしたら、あなたには領地を与えて差し上げますわ」
劉麗が負けじと声を上げる。
「旬果様。慧星様の戯れ言になど耳を貸さないで下さい。私にはおばさまがついているんですよっ」
慧星が吠える。
「私が皇后になったら、劉麗様。まずあなたの口を噤ませますわ!」
「何ですって!?」
こういう人種の上から目線は一体何なのか。
金や位をちらつかせれば、誰でも手なずけられると信じて疑っていない。
事実、そんな奴ばかりいるのが、後宮なのだろう。
しかし旬果は迷う。
「いい加減にしなさいよね、あんたたち!」
旬果が声を張れば、慧星に睨まれた。
「何と言う減らず口! 今回の宴で全てを水に流して差し上げるつもりでしたのに、あなたという人は私たちが下手に出れば図に乗って……!」
旬果は声を上げる。
「どこが下手に出てるのよ! 終始、上から目線の嫌な女なのに!」
これには劉麗まで目を瞠った。
旬果は立て続けに言う。
「本当に、あなた達って姑息よね! 今のことことだけじゃない。袍のことや動物の血で濡らした紙を白鹿殿の門前に貼り付けて……一体どこまで性根が腐っているの!?」
怒りの余り、慧星は顔を紅潮させる。
「何と言う口の利き方ですのっ!!」
しかし一方で、劉麗は不思議そうな顔をする。
「動物の血で濡らした紙?」
旬果は劉麗を真っ直ぐに見据えた。
「今さらとぼけるつもり? 本当に腹黒ねっ!」
劉麗は目を瞠る。
「いい加減になさい。あなたは一体何様なの。私たちを侮辱するなんて……」
「あなたたちを瑛景の妻になんて、させられないわよ!」
慧星が目を剥く。
「陛下のお名前を軽々しく口にするなんて、無礼にもほどがございますよ!?」
「いくらでも言ってやるわよ。瑛景瑛景瑛景えいけ――」
その時、空から何かが降ってくる。
旬果ははっとして目をそちらへやれば、黒ずくめで目だけを覗かせた人間が崖の上から飛び降りてきたのだ。そして黒ずくめの一人が洪周の背後に立って、彼女の口を塞ぐ。
「洪周!」
別の方向から、慧星の悲鳴を上がった。
「いやあああああっ!」
洪周の背後に立っているのと同じ黒ずくめが、慧星を羽交い締めにしていた。
他の黒ずくめは劉麗を取り押さえ、さらに二人の黒ずくめが旬果に迫る。
「あなた達、何なのよっ!」
答える訳がないと分かりながらも、言わずにはいられない。
黒ずくめの一人が旬果を捕まえようと手を伸ばし、袖を掴まれてしまう。
旬果はそれでも無理矢理に踏み出せば、袖が破れた。男は破れた袖を放り出し、追いかけてくるが、間一髪の所で脇を潜り抜けて駆け出す。
しかしもう一人の黒ずくめに道を阻まれ、首筋めがけ手刀を叩き込まれてしまう。
「っ……」
旬果は地面に突っ伏すと同時に、意識を手放してしまった。
劉麗と慧星である。
二人は汗みずくになりながら、岩に腰掛けていた。足下には空になった瓢箪が転がっている。
旬果は足を止め、片膝をついて劉麗の顔を覗き込んだ。
「劉麗様、大丈夫ですか?」
劉麗は生気の無い顔を上げた。
「……あなたたち、追いついてきたのね」
「まあ、どうにか」
劉麗は立ち上がろうとするが、すぐに膝が笑って座り込んでしまう。
旬果は首を横に振った。
「もう諦めて、みんなで下山しましょう。こんなこと不毛です。陛下は酔っていたんですから、皇后候補を取り消すなんて戯れ……」
すると、慧星がキッとにらんできた。
「わ、わたくしたちは、あなたのような芋娘とは違うんですのよ! 皇后になる為に後宮へ召されたというのに……諦められるはずがないでしょう!」
劉麗は旬果をじっと見つめる。その熱い眼差しに、旬果はたじろいでしまう。
「な、何ですか?」
「あなた、まだ歩けるの?」
旬果は自嘲めかす。
「まあ、私は芋娘なんで……」
「だったら一人で上まで行って、花を取ってきて下さらない? そしてそれを私にちょうだい」
「は?」
「大丈夫。私が皇后になった暁には、あなたが望む物を何でも上げるから。私の傍に仕えさせて上げても良いわ」
「――それはずるいんではありませんの、劉麗様」
慧星が異を唱えた。
劉麗は表情を曇らせる。
「慧星様。今、何と? ずるい、と聞こえたんですが……」
「ええ。ずるい、と言ったんですわ。どうしてあなたにそんな権限が? 花を持ってきた者が皇后になれると、陛下は仰られたのですのよ」
劉麗は立ち上がり、慧星を睨んだ。汗に濡れた顔に黒髪が張り付き、凄みがあった。
「慧星様。もしかして、あなたが皇后になるおつもり?」
「私にも機会がある、と言っているんですの!」
劉麗は鼻で笑う。
「片田舎の貴族のご令嬢の出番は、ありませんことよ。私のおばさまは――」
「劉麗様。あなたは二言目にはおばさまおばさまと、それ以外の能はないんですの?」
「なっ!?」
愕然《がくぜん》とする劉麗を、慧星は嘲る。
「決めるのは陛下ですのよ。――旬果様。もしわたくしの為に花を持ってきて頂けるのでしたら、あなたには領地を与えて差し上げますわ」
劉麗が負けじと声を上げる。
「旬果様。慧星様の戯れ言になど耳を貸さないで下さい。私にはおばさまがついているんですよっ」
慧星が吠える。
「私が皇后になったら、劉麗様。まずあなたの口を噤ませますわ!」
「何ですって!?」
こういう人種の上から目線は一体何なのか。
金や位をちらつかせれば、誰でも手なずけられると信じて疑っていない。
事実、そんな奴ばかりいるのが、後宮なのだろう。
しかし旬果は迷う。
「いい加減にしなさいよね、あんたたち!」
旬果が声を張れば、慧星に睨まれた。
「何と言う減らず口! 今回の宴で全てを水に流して差し上げるつもりでしたのに、あなたという人は私たちが下手に出れば図に乗って……!」
旬果は声を上げる。
「どこが下手に出てるのよ! 終始、上から目線の嫌な女なのに!」
これには劉麗まで目を瞠った。
旬果は立て続けに言う。
「本当に、あなた達って姑息よね! 今のことことだけじゃない。袍のことや動物の血で濡らした紙を白鹿殿の門前に貼り付けて……一体どこまで性根が腐っているの!?」
怒りの余り、慧星は顔を紅潮させる。
「何と言う口の利き方ですのっ!!」
しかし一方で、劉麗は不思議そうな顔をする。
「動物の血で濡らした紙?」
旬果は劉麗を真っ直ぐに見据えた。
「今さらとぼけるつもり? 本当に腹黒ねっ!」
劉麗は目を瞠る。
「いい加減になさい。あなたは一体何様なの。私たちを侮辱するなんて……」
「あなたたちを瑛景の妻になんて、させられないわよ!」
慧星が目を剥く。
「陛下のお名前を軽々しく口にするなんて、無礼にもほどがございますよ!?」
「いくらでも言ってやるわよ。瑛景瑛景瑛景えいけ――」
その時、空から何かが降ってくる。
旬果ははっとして目をそちらへやれば、黒ずくめで目だけを覗かせた人間が崖の上から飛び降りてきたのだ。そして黒ずくめの一人が洪周の背後に立って、彼女の口を塞ぐ。
「洪周!」
別の方向から、慧星の悲鳴を上がった。
「いやあああああっ!」
洪周の背後に立っているのと同じ黒ずくめが、慧星を羽交い締めにしていた。
他の黒ずくめは劉麗を取り押さえ、さらに二人の黒ずくめが旬果に迫る。
「あなた達、何なのよっ!」
答える訳がないと分かりながらも、言わずにはいられない。
黒ずくめの一人が旬果を捕まえようと手を伸ばし、袖を掴まれてしまう。
旬果はそれでも無理矢理に踏み出せば、袖が破れた。男は破れた袖を放り出し、追いかけてくるが、間一髪の所で脇を潜り抜けて駆け出す。
しかしもう一人の黒ずくめに道を阻まれ、首筋めがけ手刀を叩き込まれてしまう。
「っ……」
旬果は地面に突っ伏すと同時に、意識を手放してしまった。
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