28 / 35
26 襲撃
しおりを挟む
雨露に濡れ、輝く道を足を取られないよう慎重に、山荘へ戻っていく。
テレポートでスキップしてしまうのが嫌だったけど、ギルフォードも歩くことを嫌だとは言わなかった。
ジュリアたちは手を繋ぎ、身を寄せ合うように、互いの体を支え合うように歩いていた。
示し合わせるのではなく、どちらからともなく、そうすることを選んだのだ。
――恥ずかしい。こういう時って一体何を話せばいいの?
「これまでのこと、すまない。謝って済むことではないが」
ギルフォードが呟く。顔を見ると、謝り馴れない彼は耳を少し赤くしていた。
「……いいの。私が忘れていたことが悪いんだから」
「俺と儀式をしたにもかかわらず、お前は有象無象の男たちと会っていた。それがまるで俺を嘲笑っているように感じた。お前と会っても、儀式のことなんてなかったように俺と接するし……。突然、突きはなされたように思えた」
「言ってくれれば良かったのに」
「戸惑うばかりでそのうち、話しかけ辛くなったんだ……。俺たちの儀式は失敗したかもと思った。子どもだったから、何かミスをしたんだと思った。お前の気持ちだけ消えて、俺だけ一人おいてけぼりを食らっているかもしれないって」
ギルフォードの見せる臆病さが、驚きだった。
「ギルもそういう気持ちになったりするんだ……」
「お前は俺をなんだと思ってるんだ」
「ギルのイメージと違うから」
「当然だろ。不安にもなる」
「そうだよね。ごめん。私が悪いのに」
「悪くないだろ」
「でも忘れてたんだよ、こんな大切な気持ち」
「ただの物忘れとは違う。こんなに綺麗に忘れるはずがないだろ。まるでなかったみたいに」
「でも魔法の痕跡はなかったでしょ」
「考えられることはある」
「何?」
山荘が見えてきたその時、ギルフォードが不意に手を離したかと思うと、ジュリアの前に進み出た。
「ギル? どうしたの?」
「……お前を招待したつもりはない」
マクシミリアンが姿を見せた。彼だけではない。フードをかぶった魔導士たちが四人、マクシミリアンの背後に従う。
マクシミリアンたちのまとう敵意に、ジュリアは自然と剣の束に手をかけた。
「一帯なにをしに来たの?」
「公国の残党に手を貸していたのが誰なのか分かった」
「誰」
「ギルフォード・フォン・クリシィール。大人しく我々と来てもらおう。なぜ、そんな愚かな決断をお前がしたのか、聞かせてくれ」
「何を言ってるの!?」
ギルフォードが国を裏切る理由なんてない。あまりにも馬鹿馬鹿しすぎる。
「残党どもの痕跡を辿り、ついに見つけだした。ジュリア。これは真実だ」
「悪いけど、そんなのとても信じられないわ」
「君が信じるかどうかは関係ない。これは事実だ」
「マクシミリアン。特に、あなたの言葉は何もかも信用できない」
ジュリアが何を言っても、マクシミリアンは関係ないと、じっとギルフォードを見つめる。
「大人しくしたがってもらおう。ギルフォード。ここに出頭命令書がある。もし逆らえば、反逆者だ」
魔導士たちが飛びかかろうと腰を低くするのを見て、ジュリアは剣を抜く。
「愚かな選択をするな、ジュリア。君まで反逆者になりたいのか?」
「証拠をみせて。確たる証拠を。それが出来ないなら、私はギルを信じるっ」
「君にそんなことをする謂われはない。残念だよ」
マクシミリアンが顎をしゃくると同時に、魔導士たちが一斉に攻撃魔法を放つが、ギルフォードは防御魔法を展開して散らす。
爆風の向こうから魔導士が光の剣を手に飛びかかってくるのを、ジュリアは足を踏み込んで応戦した。
「ジュリア!」
ギルフォードはジュリアの手を握ると、テレポートする。
そのまま脇目もふらず、駆け出す。
「なんで逃げるの!?」
「魔導士は、魔力を追尾してくるっ」
たしかにすぐにマクシミリアンたちもテレポートで追いつき、攻撃魔法を繰り出してくる。大地を抉り、地響きによろめきそうになりながら、それでも足を動かし続ける。
ギルフォードも合間合間に攻撃魔法を放つが、相手は五人。攻撃魔法を打とうとすれば死角から攻撃され、うまく照準が定められなかった。
これ以上、逃げられない崖際まで追い詰められてしまう。
眼下にはさっきまで降り続けた大雨で増水した、濁流。
ギルフォードは肩で息をしていた。これまでマクシミリアンたちの魔法を防ぎながら応戦したことで、体力と魔力を消費していているのだ。
「もう追いかけっこは終わりにしよう。もうテレポートで逃げる魔力もないはずだ。ジュリア。正義はこちらにある。さっさと俺のもとへ来い。帝国の英雄が、謀反人を庇うのは見るに堪えない」
「……ジュリア、俺の無実を信じるか」
「当然じゃないっ」
「行くぞ!」
瞬時に何をしようとしたのかジュリアは察し、ギルフォードと一緒に濁流に向かって身を投げた。
「ジュリア!」
マクシミリアが血相を変えた顔で崖下を覗き込むのが見えた。
その顔をさせただけで、爽快感が胸に広がる。
空中でギルフォードがジュリアを庇うように抱きしめる。同時に、ジュリアたちを包み込むように防御魔法が展開される。
濁流の中にジュリアたちは呑み込まれた。
自分の体を抱きしめてくれるギルフォードのことだけを意識する。
防御魔法で守られながらも濁流の中が快適な空間になるわけでもなく。
木の葉のように錐揉みし、振り回され、息もできない苦しさに苛まれ、やがて意識を手放した。
テレポートでスキップしてしまうのが嫌だったけど、ギルフォードも歩くことを嫌だとは言わなかった。
ジュリアたちは手を繋ぎ、身を寄せ合うように、互いの体を支え合うように歩いていた。
示し合わせるのではなく、どちらからともなく、そうすることを選んだのだ。
――恥ずかしい。こういう時って一体何を話せばいいの?
「これまでのこと、すまない。謝って済むことではないが」
ギルフォードが呟く。顔を見ると、謝り馴れない彼は耳を少し赤くしていた。
「……いいの。私が忘れていたことが悪いんだから」
「俺と儀式をしたにもかかわらず、お前は有象無象の男たちと会っていた。それがまるで俺を嘲笑っているように感じた。お前と会っても、儀式のことなんてなかったように俺と接するし……。突然、突きはなされたように思えた」
「言ってくれれば良かったのに」
「戸惑うばかりでそのうち、話しかけ辛くなったんだ……。俺たちの儀式は失敗したかもと思った。子どもだったから、何かミスをしたんだと思った。お前の気持ちだけ消えて、俺だけ一人おいてけぼりを食らっているかもしれないって」
ギルフォードの見せる臆病さが、驚きだった。
「ギルもそういう気持ちになったりするんだ……」
「お前は俺をなんだと思ってるんだ」
「ギルのイメージと違うから」
「当然だろ。不安にもなる」
「そうだよね。ごめん。私が悪いのに」
「悪くないだろ」
「でも忘れてたんだよ、こんな大切な気持ち」
「ただの物忘れとは違う。こんなに綺麗に忘れるはずがないだろ。まるでなかったみたいに」
「でも魔法の痕跡はなかったでしょ」
「考えられることはある」
「何?」
山荘が見えてきたその時、ギルフォードが不意に手を離したかと思うと、ジュリアの前に進み出た。
「ギル? どうしたの?」
「……お前を招待したつもりはない」
マクシミリアンが姿を見せた。彼だけではない。フードをかぶった魔導士たちが四人、マクシミリアンの背後に従う。
マクシミリアンたちのまとう敵意に、ジュリアは自然と剣の束に手をかけた。
「一帯なにをしに来たの?」
「公国の残党に手を貸していたのが誰なのか分かった」
「誰」
「ギルフォード・フォン・クリシィール。大人しく我々と来てもらおう。なぜ、そんな愚かな決断をお前がしたのか、聞かせてくれ」
「何を言ってるの!?」
ギルフォードが国を裏切る理由なんてない。あまりにも馬鹿馬鹿しすぎる。
「残党どもの痕跡を辿り、ついに見つけだした。ジュリア。これは真実だ」
「悪いけど、そんなのとても信じられないわ」
「君が信じるかどうかは関係ない。これは事実だ」
「マクシミリアン。特に、あなたの言葉は何もかも信用できない」
ジュリアが何を言っても、マクシミリアンは関係ないと、じっとギルフォードを見つめる。
「大人しくしたがってもらおう。ギルフォード。ここに出頭命令書がある。もし逆らえば、反逆者だ」
魔導士たちが飛びかかろうと腰を低くするのを見て、ジュリアは剣を抜く。
「愚かな選択をするな、ジュリア。君まで反逆者になりたいのか?」
「証拠をみせて。確たる証拠を。それが出来ないなら、私はギルを信じるっ」
「君にそんなことをする謂われはない。残念だよ」
マクシミリアンが顎をしゃくると同時に、魔導士たちが一斉に攻撃魔法を放つが、ギルフォードは防御魔法を展開して散らす。
爆風の向こうから魔導士が光の剣を手に飛びかかってくるのを、ジュリアは足を踏み込んで応戦した。
「ジュリア!」
ギルフォードはジュリアの手を握ると、テレポートする。
そのまま脇目もふらず、駆け出す。
「なんで逃げるの!?」
「魔導士は、魔力を追尾してくるっ」
たしかにすぐにマクシミリアンたちもテレポートで追いつき、攻撃魔法を繰り出してくる。大地を抉り、地響きによろめきそうになりながら、それでも足を動かし続ける。
ギルフォードも合間合間に攻撃魔法を放つが、相手は五人。攻撃魔法を打とうとすれば死角から攻撃され、うまく照準が定められなかった。
これ以上、逃げられない崖際まで追い詰められてしまう。
眼下にはさっきまで降り続けた大雨で増水した、濁流。
ギルフォードは肩で息をしていた。これまでマクシミリアンたちの魔法を防ぎながら応戦したことで、体力と魔力を消費していているのだ。
「もう追いかけっこは終わりにしよう。もうテレポートで逃げる魔力もないはずだ。ジュリア。正義はこちらにある。さっさと俺のもとへ来い。帝国の英雄が、謀反人を庇うのは見るに堪えない」
「……ジュリア、俺の無実を信じるか」
「当然じゃないっ」
「行くぞ!」
瞬時に何をしようとしたのかジュリアは察し、ギルフォードと一緒に濁流に向かって身を投げた。
「ジュリア!」
マクシミリアが血相を変えた顔で崖下を覗き込むのが見えた。
その顔をさせただけで、爽快感が胸に広がる。
空中でギルフォードがジュリアを庇うように抱きしめる。同時に、ジュリアたちを包み込むように防御魔法が展開される。
濁流の中にジュリアたちは呑み込まれた。
自分の体を抱きしめてくれるギルフォードのことだけを意識する。
防御魔法で守られながらも濁流の中が快適な空間になるわけでもなく。
木の葉のように錐揉みし、振り回され、息もできない苦しさに苛まれ、やがて意識を手放した。
19
あなたにおすすめの小説
これって政略結婚じゃないんですか? ー彼が指輪をしている理由ー
小田恒子
恋愛
この度、幼馴染とお見合いを経て政略結婚する事になりました。
でも、その彼の左手薬指には、指輪が輝いてます。
もしかして、これは本当に形だけの結婚でしょうか……?
表紙はぱくたそ様のフリー素材、フォントは簡単表紙メーカー様のものを使用しております。
全年齢作品です。
ベリーズカフェ公開日 2022/09/21
アルファポリス公開日 2025/06/19
作品の無断転載はご遠慮ください。
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました
Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。
順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。
特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。
そんなアメリアに対し、オスカーは…
とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。
【完結】騎士団長の旦那様は小さくて年下な私がお好みではないようです
大森 樹
恋愛
貧乏令嬢のヴィヴィアンヌと公爵家の嫡男で騎士団長のランドルフは、お互いの親の思惑によって結婚が決まった。
「俺は子どもみたいな女は好きではない」
ヴィヴィアンヌは十八歳で、ランドルフは三十歳。
ヴィヴィアンヌは背が低く、ランドルフは背が高い。
ヴィヴィアンヌは貧乏で、ランドルフは金持ち。
何もかもが違う二人。彼の好みの女性とは真逆のヴィヴィアンヌだったが、お金の恩があるためなんとか彼の妻になろうと奮闘する。そんな中ランドルフはぶっきらぼうで冷たいが、とろこどころに優しさを見せてきて……!?
貧乏令嬢×不器用な騎士の年の差ラブストーリーです。必ずハッピーエンドにします。
【完結】モブのメイドが腹黒公爵様に捕まりました
ベル
恋愛
皆さまお久しぶりです。メイドAです。
名前をつけられもしなかった私が主人公になるなんて誰が思ったでしょうか。
ええ。私は今非常に困惑しております。
私はザーグ公爵家に仕えるメイド。そして奥様のソフィア様のもと、楽しく時に生温かい微笑みを浮かべながら日々仕事に励んでおり、平和な生活を送らせていただいておりました。
...あの腹黒が現れるまでは。
『無口な旦那様は妻が可愛くて仕方ない』のサイドストーリーです。
個人的に好きだった二人を今回は主役にしてみました。
仕事で疲れて会えないと、恋人に距離を置かれましたが、彼の上司に溺愛されているので幸せです!
ぽんちゃん
恋愛
――仕事で疲れて会えない。
十年付き合ってきた恋人を支えてきたけど、いつも後回しにされる日々。
記念日すら仕事を優先する彼に、十分だけでいいから会いたいとお願いすると、『距離を置こう』と言われてしまう。
そして、思い出の高級レストランで、予約した席に座る恋人が、他の女性と食事をしているところを目撃してしまい――!?
年増令嬢と記憶喪失
くきの助
恋愛
「お前みたいな年増に迫られても気持ち悪いだけなんだよ!」
そう言って思い切りローズを突き飛ばしてきたのは今日夫となったばかりのエリックである。
ちなみにベッドに座っていただけで迫ってはいない。
「吐き気がする!」と言いながら自室の扉を音を立てて開けて出ていった。
年増か……仕方がない……。
なぜなら彼は5才も年下。加えて付き合いの長い年下の恋人がいるのだから。
次の日事故で頭を強く打ち記憶が混濁したのを記憶喪失と間違われた。
なんとか誤解と言おうとするも、今までとは違う彼の態度になかなか言い出せず……
王弟殿下の番様は溺れるほどの愛をそそがれ幸せに…
ましろ
恋愛
見つけた!愛しい私の番。ようやく手に入れることができた私の宝玉。これからは私のすべてで愛し、護り、共に生きよう。
王弟であるコンラート公爵が番を見つけた。
それは片田舎の貴族とは名ばかりの貧乏男爵の娘だった。物語のような幸運を得た少女に人々は賞賛に沸き立っていた。
貧しかった少女は番に愛されそして……え?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる