晶蒼花伝~孤独の少女は皇帝との愛に溺れる

魚谷

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媚薬の熱

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 蒼花はその場に箏《こと》がないのに、まるでそこにあるかのように指先を踊らせる。
 頭の中にはしっかりと調べが流れている。
 ギッ……。
 扉が軋む音に、指を止める。頭の中で奏でられていたものも終わった。

「蒼花様」
「蔡両。どうしたの」

 恭しい零をとった宦官は、跪く。

「実は、同僚からある話を聞きまして。蒼花様に是非、お知らせしたいと」
「なんですか」
「実は。羌大将軍が妹御を陛下のおそばへつけた、と……」

 ちらとこちらを見る宦官の目にはかすかな疑心が見てとれる。
 自分が外れ籤を引いていないかどうか。

「分かりました」

 蒼花は背筋を伸ばし、胸を張る。
 蔡両の視線が不思議そうに蒼花の動きを追いかけた。

「私が陛下の寵愛を失う、そうお前は考えているのね。貧乏くじを引いてはたまらないと」
「い、いえ、滅相もございません。そんなことは!」
「別に隠す必要はないわ。……それほど私の世話が損だというのであれば、陛下に言って別の者に替えてもらいましょう」
「蒼花様、今のお言葉に、他意は決してございませんっ! た、ただ、蒼花様が宮中の動きを探れと申しましたから、そうしたまでで……」
 お灸はこのあたりでいいだろう。

 あまりつつきすぎて恨まれるのも困る。

「蔡両」
「ははっ」

 その額で床を磨きあげんばかりに叩頭した。

「私をあまり値踏みしないほうがいいわよ」
「そ、そのようなことは……っ!」
「――何をしている」
「へ、陛下!?」

 素っ頓狂な声を出し、蔡両はひれ伏した。
 慌てたのは蔡両ばかりではなく、蒼花も床に跪く。

「今、蔡両が、参りまして、不足はないかと申しますので、ありません……そうお答えしましただけでございます」

 英麟は「そうか」と頷く。

「下がれ」

 蔡両はしずしずと部屋から出て行く。

「蒼花。今日はいつもより趣向をこらしてみようと思ってな」

 英麟は掌に収まる程度の大きさの赤茶けた壺を差し出してくる。
 蒼花はそれをおずおずと手にした。

(甘い、かおり……)

 壺の中には、蜂蜜を思わせるほんのりと黄色味を帯びた粘液が入っている。

「それを身体に塗り込め。安心しろ。毒じゃない。――さあ服を脱げ」

 言われるがまま、英麟の前で一糸まとわぬ姿になる。
 こうして自分から柔肌を晒すのは二度目だったが、馴れるということがない。
 震える吐息がこぼれてしまう。
 明かり取りから差し込む月明かりが柔肌を青白く染める。

「……綺麗だな」

 ぽつりと英麟が呟く。

「え?」
「なんでもない。続けろ」
「はい……」

 壺の中に指を差し入れた瞬間、その冷たさに思わず手を引っ込めてしまう。
「何をしている」
「は、はい……っ」

 小さく息を吸いこみ、もう一度、掬い上げる。

「……っ」

 雪解けの水のように冷たく、鳥肌が立った。

(まるで肌に刺さるみたいだわ……)

 それでも何とか掬い上げれば、糸を引きながらこぼれおちる。
 できうる限り、こぼすまいとすくいあげたものをまずは胸元へなすりつける。

「んっ……」

 熱い肌にひんやりしたものが染みいり、かすかに声が漏れた。

「しっかり塗り込めよ」
「は、はい……っ」

 ゆっくり、ゆっくりと塗り広げていく。
 胸だけではなく、腕やお腹、太ももから臑――。
 凍えてしまいそうなほどの冷たさを下唇を噛みしめ、必死にこらえながら。

(あ、あと、もうちょっとで、全部……)

 壺へ手を伸ばしたその時、トクン……と心臓が揺れた。
 それと同時に、身体へ塗りつけていた粘液がにわかに熱を持ち始める。

「え?」

 それまで冷水のようだったものが、まるで唐突に沸騰しはじめたように熱を持ち始める。
 その熱は肌の表面を灼くのではなく、内を焦がすような深さだ。
 たまらず、蒼花は自分の身体を抱きしめた。

「どうした?」

 英麟の声には一抹の驚きもなかった。
 すべては考えた通り、とその目が言っている。

「へ、陛下、熱い……です……」

 英麟が微笑をした。
「……それは媚薬だ。南方の朝貢国よりもたらされた秘薬らしい。疑わしかったが、それなりの効果はあるようだ
な?」

 英麟が近づいてくる。
 蒼花の息はますます荒さを増した。
 鼓動が痛いくらいに高鳴り、股の付け根が独りでに熱く潤んだ。

(身体が、燃える……っ!)

 まるで身体の奥底で火柱がたっているかのようで、今にも蒼花自身が灼きつくされてしまいそうな錯覚に陥ってしまう。

「蒼花、気分はどうだ?」

 顎をそっと掴まれ、顔を仰向かせられる。

「陛下……」

 口の中がカラカラだった。
 勝手に視界が揺らぐ。
 涙ぐんでいる。
 英麟の顔から目が離せず、はしたなくも、唾を飲み込んでしまう。

(これは、殿下の、かおり……?)

 かすかに汗を混ぜながらも、その青々としたかおりが、さらに身体を火照らせた。

「蒼花」

 口づけだ。

「ん……」

 青々とした香りが強くなる。
 舌が潜り込んでくれば、それに応えるように舌を伸ばす。まるでそうすることが礼儀であるかのような自然さで。

(身体が勝手に)

 彼の腕に手を這わせ、舌を熱心に絡め合わせてしまう。
 これまでこんなにも自分から積極的になったことなどない。
 いつだって英麟が命じるがまま。
 決して自分の意思ではない――しかし、今は違った。
 たとえ今の動きが媚薬の影響だったとしても身体の自由を奪われ、何かを強いられているわけではない。

(私の身体が、陛下を求めて……)

 唾液を注ぎこまれればそれを何のためらいもなく飲み下した。
 英麟の愛撫が胸に伸びる。
 知らず、ぷっくりと膨れた乳首を抓まれれば、

「はぁ、ぁあっ……」

 あられもない嬌声は出るそばから、英麟に吸いこまれてしまう。
 くちゅくちゅとお互いに舌を蠢かせ、絡ませることで淫靡な水音が弾けた。
 英麟の大きな手で身体を探られるだけでひくひくと身体が震え、たまらず上半身を仰け反らせてしまう。
 それほどに身体が敏感になっていた。

(おかしくなってしまうわ、私……)

 口づけと丹念な愛撫に汗が滲んだ。たったそれだけだというのに過呼吸になってしまいそうなり、涙がつつっと頬を伝ってしまう。
 あまりに敏感すぎて恐怖すら感じた。
 このまま死んでしまうのではないかという不安が胸を過ぎる。
 と、深い口づけが離れた。

「あ……」
「どうした?」

 蒼花は小さくかぶりを横に振ると、指先が頬を撫でるように指をすくわれた。

「いやらしい目をしているな」
「へ、い、か……」

 舌がうまく回らない。まるで幼児のような声が漏れた。

「口交だけではちっとも足りないようだな。どうだ」

 何も考えなければ欲しい、と言っていただろう。
 頭の半ばは桃色の霞の中に没しながらも、蒼花はそれでも自分を完全に忘れてはいなかった。

「……い、いえ」

 この媚薬の魔力に逆らわなければいけない。
 なけなしの理性でそう思うのだが、どうしても英麟から目を外すことが出来なかった。

「そうか」

 英麟は言うや、腰をもちあげた。

「陛下?」
「お前が何も求めていないんだったら何もする必要はないだろ。無理矢理、犯すのにも飽きた」

(そんな)

 性感の高まりの余り、目眩すら感じていた。
 勝手に火だけをともされ放っておかれたら、おかしくなってしまう。

「欲しいのか?」
「……」
「どうなんだ」

 小さく頷いた。

「言葉にしろ」

 蒼花は驚きと共に顔をあげるや、縋り付くような眼差しを向けてしまう。

(陛下、あんまりでございます……)

 心の中で思いながら、ゆっくりと口を開く。

「……欲しい、です」
「何が欲しい?」

 蒼花を見つめる英麟の眼差しに、情欲の光が閃いた。

「陛下が、欲しい、です」
「いいだろう」

 笑いかけた英麟に押し倒される。
 手が、股ぐらに触れられた。

「ぁあっ」

 まるで雷に打たれたような痺れが走り、身体が跳ねてしまう。

「とんでもない濡れ方だな」

 秘処を指でくすぐられれば、粘り着いた水音が間断なくはしった。

「ああっ、あぁっ、陛下、だ、駄目、ひゃ、あっ、ぁああ……!」

 身体がカアッと燃えあがった瞬間、頭の中で小さな爆発が起これば、たちまち果ててしまう。
 全身が緊張し、頭をゆるゆると揺らし、敷布を力一杯握りしめ、引き攣った吐息をこぼす。

「呆気ないな。……見ろ、お前の淫らさを」
「ああ……っ」

 当然としたため息が漏れた。
 英麟が示したのは、敷布に飛び散った無数の染みだった。
 頭の中が真っ白な光に呑み込まれた瞬間、爆ぜた……。

「陛下、でも、これは、陛下が、私に、媚薬を……盛ったから、では、ありませんかぁっ……」

 肩で息をしながら抗弁をした。
 しかし感極まったあとということもあって、その言葉は艶っぽく、まるで駄々をこねているような甘え声にしか聞こえない。

「本当にそうか? あれが本当に媚薬だと思うのか」
「え……?」
「本当はただの粘ついた液体、だとは思わないのか。こうして乱れているのは、蒼花、お前に元々ある、淫らさだとは考えないのか?」
「そ、そんなことは……んん」

 乳首をそっと抓まれただけで、物欲しげな声が口を突いて出てしまう。
 乳頭をくすぐり、そしてぐっしょりと潤んだ秘口を指でなぞるように掻き混ぜられる。
 英麟の指の動きに、蒼花の身体はどうしようもなく溺れさせられてしまう。
 しかし先程のように、決して高まらせてはくれなかった。
 わずかな身体の動きから絶頂の波を察し、もうすぐというところでお預けをさせられてしまうのだ。

(い、いやです、いやです……そんなにされてしまったら、く、狂ってしまいます……っ)

 もはや頭の中は妖しい彩りに包まれ、寂寥感などではなく激しい渇望に包まれていた。

「陛下ぁっ」

 快感がはしるのに、もどかしい。
 太ももを頻りに擦り合わせ、身動ぎ、英麟に眼差しを送っても、すべて肩すかしを食らってしまう。
 最早、指ごしにおくられる悦美は毒のように心身を蝕むものでしかない。

「どうした?」
「お、お願い、ございます。た、高まらせてください……もう、もどかしいままなのは、い、いやでございます……何でもいたしますから、どうかっ!」

 蒼花は柳眉をたわめ、涙ぐみ、求めてしまう。
 もはや身体を支配する悶々としたものが、媚薬なのか、これまでの英麟による手管によって開発されてしまった結果なのか、そんなことはどうでも良い。
 ただもどかしい思いを鎮めて欲しかった。
 そのためには今はどんな恥辱でも受けても構わないという気持ちになる。

「いいだろう」

 英麟は満足そうに頷くと服を脱ぐ。
 胡人の職人が彫り上げたよう石像を思わせる、見事な造形美を誇るしなやかな裸身が露わになった。
 引き締り、膨らんだ筋肉の張り、逞しく反り返った男根――すべて、女性にはないものだ。
 しかし押し倒してはくれなかった。
 英麟はその場に仰向けに寝そべったのだ。
 蒼花はただ戸惑うばかりだった。

「欲しければ、みずから呑み込んでみろ」
「陛下、そんな……っ」

 跨《また》がり、怒張を含むなど、そんな真似はとてもできない。
 蒼花は、それ以外ならばすると言っても、英麟は肯んじなかった。

「何でもすると言ったのは嘘だったのか? お前がほしかったのは、これではなかったのか?」
「ですが、そ、その格好では、陛下を、み、見下ろしてしまいます……っ」
「俺が構わんといっているんだ。そんなに言うのであればやめるか? その悶々とした気持ちを抱いたままこの石室で絶えられるのか?」

 英麟は挑発的に言った。
 今や、蒼花の心は全て丸裸になってしまっている。
 蒼花は生唾を呑み込んだ。

「わ、分かり、ました……」

 今にも身を滅ぼしてしまいそうな渇望の深さには勝てない。
 蒼花はしずしずと近づくと、そっと肉棒に触れた。

(びくびく震えて……すごく、熱い……)

 まるで火にかざした鉄の塊でも触れているようだった。
 ゆっくりと腰を陰茎へと寄せていく。
 熱気が秘園に伝わると、ぴくりと身体が震えてしまう。

(ああ、自分から受け入れるなんて、なんて卑猥なの……?)

 これまでは無理矢理、英麟に犯された。屈強な男の力。しかし相手は皇帝、逆らうことなど許されない――自分はそんなことは望んでいなかったと、自分自身に対して言い訳が出来たが、もはや、それも通じない。
 戦慄く砲身の鉾先が、秘部と重なる。

「んぅ……っ!」

 皇帝に仰ぎ見られる背徳感が肌が粟立ち、それにあわさるように蜜唇がきゅんきゅんと震えた。

「さあ、蒼花。来いっ」

 腰をゆっくりと落とす。
 くちゅり、というかすかな水音と共にこれまで何度と啼く秘処を蹂躙してきた、雄々しいけだものに再び占領される。

「んっ……ぁあっ……はぁぁっ……!」

 爛熟した膣壁を刮ぐように剛直が、胎内を押し広げる。
 怜悧な官能の迸りに、たまらず仰け反ってしまう。
 豊かな胸がたぷんと弾んだ。

(こ、これ……っ)

 受け入れたくはない、認めたくない、どう考えようとも、この乱暴な摩擦感こそ蒼花が待っていたものだった。
 太竿を根元まで受け入れた刹那、頭の中が淡い色にそまり果ててしまう。
 それは恥じ入らんほどの収縮運動となって、英麟の分身をきつく締め付ける。

「平気か。もう満足だとは言わないよな」

 ふらふらし、目が眩まんばかりの悦美に翻弄されながらも、蒼花は下唇を噛んだ。

「動け」
「え?」
「腰を動かして俺を愉しませてみろ」
「そんな……」

 手ずから受け入れることだけでも勇気を振り絞ったのだ。その上、腰まで振るなんて、とてもできない。

「できないならば抜くだけだ」
「陛下……」

 腰に手がかかると、英麟の胴体を太ももで締め付けてしまう。
 英麟はにやりと笑う。
 媚薬によって昂ぶり放題になった身体は二度の小さな絶頂程度ではとても、平静には戻れないのだ。
 肉杭に貫かれたまま、息を切らせながら腰をゆっくりと前後に動かす。

「んっ!」

 挿入しているだけで柔らかく蕩けている蜜壺のさまざまな場所に、細かな凹凸を帯びた怒張が擦れ、糸引くような濁った音が弾け、結合部では体液が白く泡立った。

「ん、んんうぅっ!」

 英麟の痛いほどの視線が突き刺さる。
 これまで何度も恥をかかされながら、蒼花は喘ぎをこぼすまいと唇を噛み縛った。
 と、不意にお尻で小さな衝撃がはしり、「ひゃんっ!」と喘ぎを漏らしてしまった。
 少し遅れて、英麟に尻を軽く立たれたことに気づく。

「自分で動くのはどういう気分だ?」

 その深い漆黒の双眸に嗜虐の光が瞬く。
 それはいつも蒼花が感じ、身も世もなく乱れる様をつぶさに観察する、ふしだらな眼差し。
 蒼花が口を噤んででもじついていれば、再びお尻への打擲がとんだ。

「ひゃぁっ!」

 視界の中で光が爆ぜる。

「どうだ?」

 促す声に、蒼花は目を伏せ、切れ切れに声をこぼす。

「わ、分かりません……ぁあっ、私、どうしてしまったのか……腰が、とまらないんです……っ!」
「乱れろ、もっと、牝になれ」
「い、いやです、陛下……や、やめてください……っ」
「やめろ? お前が腰を振ってるじゃないか。それに、こぼれでる蜜の多さはどうだ? これが不承不承やっているものの反応か?」

 言いながら、右手をもたげて軽やかな指使いで胸のいただきをつまみ、左手では愛液でてらてらとぬめり輝く蜜畝の中で真っ赤に熟した姫蕾を弾く。

「ぁあああんっ!」

 双つの性感帯を一緒に弄ばれ、随喜の震えが総身を貪る。
 腰が砕けてもおかしくないような激悦の奔流に襲われるにもかかわらず、腰のうねりが激しいものになって、とめられなくなってしまう。
 その熱気にあてられたように、英麟の愛撫にも力がこもった。
 と、脳天まで劈くような愉悦にたちまち体勢をくずしてしまう。

「ひ、ん……っ」

 それを受け止めてくれたのは英麟で、その硬く逞しい体躯が蒼花を包み込んだ。
 目には見えない手に導かれるように蒼花はその胸のうちにとびこむようにしなだれかかり、英麟の首に齧り付いた。
 さっき鼻腔をくすぐった時よりもずっと濃密な汗の香りがかおる。
 身体がばらばらにされてしまう。
 膣腔を攪拌する怒張の猛々しさにはね飛ばされまいと、英麟にしがみつく。
 ぢゅぶ、じゅぐっ……と、攪拌される水音に、蒼花は今にも溺れ死んでしまいそうになり、悶絶した。
 英麟の荒々しい息づかいが首筋にかかる。
 浮いた汗が熱く燃え上がる。

「ぁっ、んっ、んんっ!」

 蒼花は知らず知らずのうちに、英麟の腰遣いに会わせて桃尻を弾ませていた。
 しかしそんな自分に戸惑うことはなかった。
 滾る官能に任せ、全身を遣って英麟の逸物を受け止めつづける。

「ぁあ、陛下ぁっ、陛下ぁっ……!」

 子宮の入り口にはちきれんばかりの雄渾が突き立つたび、腰骨が戦慄き、脊髄が熱く撚れ、脳髄が沸騰するような熱気に冒される。
 二人の汗ばんだ身体がぶつかりあうたび、瑞々しい破裂音が爆ぜた。

「あっ、はあっ、だ、だめえっ!」

 逞しい肉の楔で突かれるたび、出したくない恥の声がとめどもなく溢れた。
 もうそれをとめる気力も精彩もない。
 休む暇を与えない揺さぶりに息ができなくなり、全身にはしりぬける蕩けるような甘美に揉みしだかれるがままにされる。
 それでも蒼花の相を満たすのは悦びだった。
 そしてすぐ間近に見る、汗を額に浮かべ、双眸を細める英麟は、くぐもった呻きを漏らす。
 そこには野性味のある掘削運動とは裏腹な、余裕のなさが見てとれた。

(陛下……)

 その瞳に吸いこまれていく己を意識しながら唇を奪った。
 その汗のしたたった唇を擦り合わせ、そのしょっぱみを味わうように貪る。
 か細く漏れる湿った吐息を吸い取るように。

「っぐ……」

 収斂する蜜壁に絞りあげられるように胎内めがけ子種が撒き散らされた。

「……っ!」

 蒼花は全身を歓喜の火柱に燃やし尽くされながら、昇り詰めた。
 長い長い痙攣のあと、ぐったりとして、英麟に抱かれるがままになる。
 すでに蒼花は意識を手放していた。



 胸元にもたれ込んできた蒼花を腕一杯に受け止める。
 失神した蒼花は静かな息をたてていた。

(蒼花……っ)

 健やかで無垢な息づかいと、英麟の鼓動が重なり、響き合うような気がした。
 英麟は、そっと蒼花の背中に回した腕に力をこめる。
 胸の中には愛おしさでいっぱで、息が苦しかった。

「んん……」

 かすかに声を漏らす反応に腕から力を抜くと、右手をそっと頭にのせ、ゆっくりと、その艶めく黒髪をなで上げる。

「……蒼花」

 起こしてしまうことを恐れるように、そっと呟く。
 まるでさっきまで挑発し、嬲っていた時とはまったく違い、憑き物がおちてしまったかのようだった。
 前髪をそっと撫で、額に口づけをした。
 臥榻へそっと寝かせ、裸身の肩まで布をかけてやり、立ち上がった。
 青ざめた月明かりに照らし出されるその姿を顧み、それから部屋を出た。
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