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反旗
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新月の夜。英麟は侍中と共に部屋にあった。
宣室殿の最奥にある私室においては外の物音は一つも聞こえない。
英麟が侍中たちに目配せをする。
侍中は顔を強張らせる。
英麟が笑いかけると、意を決したように頷く。
「うぁあっ!」
声をあげた侍中が英麟を突き倒し、馬乗りになった。
英麟は手足をばたつかせ、そばにあったものを次々に薙ぎ倒した。
「何をしているッ!」
部屋の前で警備をしていた二人の兵士が室内に飛び込んでくる。
「き、貴様ァッ、血迷ったかっ!」
英麟は血を吐かんばかりに声をあげた。
兵士が馬乗りになった侍中の腕を左右から掴んで、引き離そうとする。
侍中が離れた刹那、英麟は飛び起きるや懐に隠してあった短剣を抜き、一人の兵士の首筋に当てた。
表情を強張らせぎくりとした。
もう一人の兵士が侍中から手を離し、腰に帯びた剣に手をかけようとする。
すかさず英麟は剣を突きつけている兵士の剣を奪いとり、もう一人の鼻面へと突きだした。
「おい、そいつの剣をとれ」
英麟は二人の兵士を視線で牽制しつつ侍中に命じた。
侍中は言われたとおりにする。
「おい、お前ら、鎧を脱げ。早くしろ」
二人は焦りながら鎧を脱ぐ。
そのあとは二人を縄で縛り、床へ転がした。
「き、貴様、こんなことをして、どうなるか……」
長剣で空を斬り、黙らせた。
「口に気をつけろ。いいか、朕はまだ皇帝だ。士忠がそう決めた」
英麟は臥榻に敷かれている布を引き裂き、それを二人の兵士の口に押し込み、黙らせた。
それから英麟と侍中は鎧を着た。
普段なら鎧を身につけるなど戦時ぐらいだが、士忠は兵士たちを常に緊張させるために鎧を装着することを義務づけていた。
英麟が部屋を出たその時、前からやってくる兵士と鉢合わせた。
(くそっ!)
「貴様ぁっ!」
騒動は防ぎたかったが、仕方がない――抜剣し、身構えたその時。
二人の兵士それぞれに、背後から何かがとびかかるのを見た。
二人は苦しげに首を押さえる。
(あやかしか!?……ええい、何がなんだか分からないが……っ)
好機を逃すわけにはいかない。
英麟は床を蹴り、剣の腹を二人の兵士の脇腹へたたき込んだ。
兵士は白目を剥いてその場で仰向けになって昏倒した。
同時に、「んぐっ!」という呻きが聞こえた。
「……何者だっ」
「へ、陛下!?」
侍中が燭台をもってやってくる。
その灯りの中に浮かびあがるものに目を剥いた。
「……蒼花!? それに……お前は、蔡両……か?」
英麟は伸びている兵士を押しのけ、下敷きになっている二人を抱き起こす。
「大丈夫か、蒼花っ」
「……へ、陛下……良く、ご無事で……」
「それは、俺の言葉だ。お前こそ……良かった……」
英麟はこみあげるものに突き動かされ、蒼花を抱きしめた。
部屋に軟禁されて以来、久しぶりに感じる愛しい人の感触だ。
「へ、陛下……く、苦しい、です」
「すまない……っ」
慌てて腕の力を抜く。
「それで、お前たちはどうして?」
「私たちは……」
蒼花は脱走してきた経緯を話した。
「俺たちと同じようなものだな。――ひとまず、こいつらをどうにかしよう」
蒼花たちと共に兵士を部屋まで運びこみ、あらためて縄目を打ち、兵士の帯びていた剣を閂にして扉を閉じた。
これで少しは時間稼ぎにもなるだろう。
「……それで、お前たちはこれからどこにいこうとしていたんだ」
「禁軍の将軍のもとです」
「お前たちが行ってどうする……?」
「羌士忠からの使者と偽って参り、陛下を慕うものを将軍にするんです」
とんでもない物言いに、英麟は思わず笑ってしまう。
「何を考えているんだ。そんな簡単にできるはずがないだろう」
「文章は用意しておりますし」
「いくらなんでも怪しまれるだろう」
「陛下。安心してください。今の朝廷内では誰もがいつ左遷され、地位を奪われるか戦々恐々としているんです。それだけ、羌大将軍の恐怖政治は浸透しているんです。そんなものにけちをつけるものなどいるはずがありません。抗弁しようものなら……」
英麟は、蒼花のあまりの胆力に舌を巻いてしまう。
いや、よくよく考えてみれば蒼花は元々単独で商家をとびだし、皇帝暗殺をくわだるほどなのだ。度胸の良さに驚くのは今さらだ。
「陛下こそどうなさるおつもりだったのですか?」
「禁軍が俺だということを示して味方にさせる」
「……それだけ、ですか」
「ああ」
「……確かに今の禁軍の状況なら、それに従う者もいるでしょうが……さすがにそれでは将軍の元に向かうまでに捕らえられてしまうと思います」
「そうなのか……?」
「さっきも兵士に飛びかかられたではありませんか」
「そうだな。……しかし、それで終わってしまえばそれまでだ。俺にはその程度の器しかなかったと思うしかない」
皇城内の外に設けられた禁軍本営へ向かう。
厳重な警戒な警備が敷かれてはいたが、羌士忠からの使いだというとその効果は絶大だった。
誰もが今や士忠という名に恐れ戦いている。
(それだけの人間の血がこの宮廷で流されたということだ……俺が不甲斐ないばかりに……っ)
一刻も早く何とかしなければならない。
将軍の元へいよいよ通された。
そいつの顔には覚えがないし、鎧を着られないほどにでっぷりと腹の膨れた姿からして文官だろうと思えた。
「――大将軍からの使いとして参りました」
蒼花は声をあげ、書状を取り出す。
「大将軍からっ!?」
将軍はその肥え太った身体を小さくして叩頭した。
蒼花は朗々と文章を読み上げ将軍の解任、そしてその前任の将軍・袁壮の復職を命じた。
しかし将軍の表情は怪訝なものになり蒼花の顔を見る。
「お前、宦官だな」
「そう……ですが」
「宦官如きに大将軍が重要な使いをやらせるはずがないっ! お前ら、何者だっ!」
将軍が抜剣し躙り寄ってきた。その目は昂奮で充血しきっている。
「そこまでだ」
英麟が蒼花を庇って、躍り出た。
「何だ、貴様っ! どけっ! この私の言うことが聞けないのかっ!!」
「黙れっ」
抜きはなった長剣を一閃し、男の手から剣をはねあげた。
男はその衝撃で仰向けに倒れ、不自由そうに両手両脚をじたばたさせて足掻いていた。まるでひっくり返った亀だ。
英麟はその男の胸を踏みつけ、首筋に剣先を近づける。
「ひ、ひいいいいい……っ」
男は口角から泡を滲ませ、目を瞠ったまま情けない悲鳴を上げた。
(こんな奴を禁軍の将軍につけるとは……)
物音に兵士たちが駆けつける。
遠巻きにされた英麟は兜を脱ぎ、顔を露わにする。
「……朕の顔を知らない者はいるか」
「へ、陛下……」
兵士の中から一人、部将格と思しき男が進み出てきた。袁壮だ。
「え、袁壮! こいつは賊だ! 早く討てェッ!」
太っ腹な禁軍将軍が叫んだ。
「袁壮。朕に従うか。羌士忠に従うか……ここで決めよ」
ここで袁壮に背かれれば、ここで終わりだ。
自分などどうでもいい。しかし、ここには蒼花もいる。
袁壮が剣を抜く。
(駄目かっ)
英麟が飛びかかろうと身構えたその時、目にもとまらぬ早さで袁壮は左右に居並ぶ兵士たちを斬りつけた。
訳も分からなかったが、英麟は反射的に袁壮に襲いかかろうとする兵士を背後より斬り伏せた。
あっという間に五体の死体が転がると袁壮は叩頭した。
「……陛下に忠節を」
「よくぞ、言った。……袁壮。速やかに禁軍の兵をまとめよ。賊軍、士忠を討つ」
「はっ」
※
禁軍の掌握は速やかに行われた。
このままいけば士忠たちに気づかれぬことなく動くことができる。
(そうだ。流れる血はこれ以上は無用だ)
そして全軍を統率する英麟はあらためて将校の軍装に身を包み、禁軍の本営にいた。
これから行動を起こす兵士一人一人の昂奮が熱気となって汗ばむほどだった。
もちろんこれ以上、蒼花たちと一緒に行動はできない。
英麟は禁軍の一部に蒼花たちを守るよう言いつけていた。
「……陛下」
二人の姿は本営の奥にあった。
これは英麟が無理をして、つくってもらった時間。
もしかしたらこれが最後になるかもしれない――その不安は拭いきれない。
「蒼花……」
「ご無事を、お祈りしています」
もっと何か言うべきなのは知っている。
それでもなんと言えば良いのか分からなかった。
言葉は浮かぶそばから闇へ吸いこまれてなくなってしまう……。
「では、私は……」
頭を下げ、蒼花は立ち去っていく。
その背が遠ざかっていく。
「――蒼花ッ」
振り返る少女を抱き寄せ唇をふさぐ。
「ん……っ」
蒼花はかすかに鼻にかかった吐息をこぼした。
「きっと、生きて戻る……」
「は、ぃ……っ」
お前のために――胸の中の呟きが、静かに響いた。
英麟は蒼花と共に本営を出た。
目の前には威儀を正し、緊張感に顔を強張らせる兵士たちの顔。
英麟は何千という兵士に見守られながら白馬に跨がった。
新月の晩。
篝火の明かりが目に染みるほどだ。
風が出る。軍旗がはためく音がと響いた。
英麟はすっと息を吸い、
「――全軍、出陣ッ!
奸賊、羌士忠を討つッ!」
剣を抜き去ると共に、叫んだ。
宣室殿の最奥にある私室においては外の物音は一つも聞こえない。
英麟が侍中たちに目配せをする。
侍中は顔を強張らせる。
英麟が笑いかけると、意を決したように頷く。
「うぁあっ!」
声をあげた侍中が英麟を突き倒し、馬乗りになった。
英麟は手足をばたつかせ、そばにあったものを次々に薙ぎ倒した。
「何をしているッ!」
部屋の前で警備をしていた二人の兵士が室内に飛び込んでくる。
「き、貴様ァッ、血迷ったかっ!」
英麟は血を吐かんばかりに声をあげた。
兵士が馬乗りになった侍中の腕を左右から掴んで、引き離そうとする。
侍中が離れた刹那、英麟は飛び起きるや懐に隠してあった短剣を抜き、一人の兵士の首筋に当てた。
表情を強張らせぎくりとした。
もう一人の兵士が侍中から手を離し、腰に帯びた剣に手をかけようとする。
すかさず英麟は剣を突きつけている兵士の剣を奪いとり、もう一人の鼻面へと突きだした。
「おい、そいつの剣をとれ」
英麟は二人の兵士を視線で牽制しつつ侍中に命じた。
侍中は言われたとおりにする。
「おい、お前ら、鎧を脱げ。早くしろ」
二人は焦りながら鎧を脱ぐ。
そのあとは二人を縄で縛り、床へ転がした。
「き、貴様、こんなことをして、どうなるか……」
長剣で空を斬り、黙らせた。
「口に気をつけろ。いいか、朕はまだ皇帝だ。士忠がそう決めた」
英麟は臥榻に敷かれている布を引き裂き、それを二人の兵士の口に押し込み、黙らせた。
それから英麟と侍中は鎧を着た。
普段なら鎧を身につけるなど戦時ぐらいだが、士忠は兵士たちを常に緊張させるために鎧を装着することを義務づけていた。
英麟が部屋を出たその時、前からやってくる兵士と鉢合わせた。
(くそっ!)
「貴様ぁっ!」
騒動は防ぎたかったが、仕方がない――抜剣し、身構えたその時。
二人の兵士それぞれに、背後から何かがとびかかるのを見た。
二人は苦しげに首を押さえる。
(あやかしか!?……ええい、何がなんだか分からないが……っ)
好機を逃すわけにはいかない。
英麟は床を蹴り、剣の腹を二人の兵士の脇腹へたたき込んだ。
兵士は白目を剥いてその場で仰向けになって昏倒した。
同時に、「んぐっ!」という呻きが聞こえた。
「……何者だっ」
「へ、陛下!?」
侍中が燭台をもってやってくる。
その灯りの中に浮かびあがるものに目を剥いた。
「……蒼花!? それに……お前は、蔡両……か?」
英麟は伸びている兵士を押しのけ、下敷きになっている二人を抱き起こす。
「大丈夫か、蒼花っ」
「……へ、陛下……良く、ご無事で……」
「それは、俺の言葉だ。お前こそ……良かった……」
英麟はこみあげるものに突き動かされ、蒼花を抱きしめた。
部屋に軟禁されて以来、久しぶりに感じる愛しい人の感触だ。
「へ、陛下……く、苦しい、です」
「すまない……っ」
慌てて腕の力を抜く。
「それで、お前たちはどうして?」
「私たちは……」
蒼花は脱走してきた経緯を話した。
「俺たちと同じようなものだな。――ひとまず、こいつらをどうにかしよう」
蒼花たちと共に兵士を部屋まで運びこみ、あらためて縄目を打ち、兵士の帯びていた剣を閂にして扉を閉じた。
これで少しは時間稼ぎにもなるだろう。
「……それで、お前たちはこれからどこにいこうとしていたんだ」
「禁軍の将軍のもとです」
「お前たちが行ってどうする……?」
「羌士忠からの使者と偽って参り、陛下を慕うものを将軍にするんです」
とんでもない物言いに、英麟は思わず笑ってしまう。
「何を考えているんだ。そんな簡単にできるはずがないだろう」
「文章は用意しておりますし」
「いくらなんでも怪しまれるだろう」
「陛下。安心してください。今の朝廷内では誰もがいつ左遷され、地位を奪われるか戦々恐々としているんです。それだけ、羌大将軍の恐怖政治は浸透しているんです。そんなものにけちをつけるものなどいるはずがありません。抗弁しようものなら……」
英麟は、蒼花のあまりの胆力に舌を巻いてしまう。
いや、よくよく考えてみれば蒼花は元々単独で商家をとびだし、皇帝暗殺をくわだるほどなのだ。度胸の良さに驚くのは今さらだ。
「陛下こそどうなさるおつもりだったのですか?」
「禁軍が俺だということを示して味方にさせる」
「……それだけ、ですか」
「ああ」
「……確かに今の禁軍の状況なら、それに従う者もいるでしょうが……さすがにそれでは将軍の元に向かうまでに捕らえられてしまうと思います」
「そうなのか……?」
「さっきも兵士に飛びかかられたではありませんか」
「そうだな。……しかし、それで終わってしまえばそれまでだ。俺にはその程度の器しかなかったと思うしかない」
皇城内の外に設けられた禁軍本営へ向かう。
厳重な警戒な警備が敷かれてはいたが、羌士忠からの使いだというとその効果は絶大だった。
誰もが今や士忠という名に恐れ戦いている。
(それだけの人間の血がこの宮廷で流されたということだ……俺が不甲斐ないばかりに……っ)
一刻も早く何とかしなければならない。
将軍の元へいよいよ通された。
そいつの顔には覚えがないし、鎧を着られないほどにでっぷりと腹の膨れた姿からして文官だろうと思えた。
「――大将軍からの使いとして参りました」
蒼花は声をあげ、書状を取り出す。
「大将軍からっ!?」
将軍はその肥え太った身体を小さくして叩頭した。
蒼花は朗々と文章を読み上げ将軍の解任、そしてその前任の将軍・袁壮の復職を命じた。
しかし将軍の表情は怪訝なものになり蒼花の顔を見る。
「お前、宦官だな」
「そう……ですが」
「宦官如きに大将軍が重要な使いをやらせるはずがないっ! お前ら、何者だっ!」
将軍が抜剣し躙り寄ってきた。その目は昂奮で充血しきっている。
「そこまでだ」
英麟が蒼花を庇って、躍り出た。
「何だ、貴様っ! どけっ! この私の言うことが聞けないのかっ!!」
「黙れっ」
抜きはなった長剣を一閃し、男の手から剣をはねあげた。
男はその衝撃で仰向けに倒れ、不自由そうに両手両脚をじたばたさせて足掻いていた。まるでひっくり返った亀だ。
英麟はその男の胸を踏みつけ、首筋に剣先を近づける。
「ひ、ひいいいいい……っ」
男は口角から泡を滲ませ、目を瞠ったまま情けない悲鳴を上げた。
(こんな奴を禁軍の将軍につけるとは……)
物音に兵士たちが駆けつける。
遠巻きにされた英麟は兜を脱ぎ、顔を露わにする。
「……朕の顔を知らない者はいるか」
「へ、陛下……」
兵士の中から一人、部将格と思しき男が進み出てきた。袁壮だ。
「え、袁壮! こいつは賊だ! 早く討てェッ!」
太っ腹な禁軍将軍が叫んだ。
「袁壮。朕に従うか。羌士忠に従うか……ここで決めよ」
ここで袁壮に背かれれば、ここで終わりだ。
自分などどうでもいい。しかし、ここには蒼花もいる。
袁壮が剣を抜く。
(駄目かっ)
英麟が飛びかかろうと身構えたその時、目にもとまらぬ早さで袁壮は左右に居並ぶ兵士たちを斬りつけた。
訳も分からなかったが、英麟は反射的に袁壮に襲いかかろうとする兵士を背後より斬り伏せた。
あっという間に五体の死体が転がると袁壮は叩頭した。
「……陛下に忠節を」
「よくぞ、言った。……袁壮。速やかに禁軍の兵をまとめよ。賊軍、士忠を討つ」
「はっ」
※
禁軍の掌握は速やかに行われた。
このままいけば士忠たちに気づかれぬことなく動くことができる。
(そうだ。流れる血はこれ以上は無用だ)
そして全軍を統率する英麟はあらためて将校の軍装に身を包み、禁軍の本営にいた。
これから行動を起こす兵士一人一人の昂奮が熱気となって汗ばむほどだった。
もちろんこれ以上、蒼花たちと一緒に行動はできない。
英麟は禁軍の一部に蒼花たちを守るよう言いつけていた。
「……陛下」
二人の姿は本営の奥にあった。
これは英麟が無理をして、つくってもらった時間。
もしかしたらこれが最後になるかもしれない――その不安は拭いきれない。
「蒼花……」
「ご無事を、お祈りしています」
もっと何か言うべきなのは知っている。
それでもなんと言えば良いのか分からなかった。
言葉は浮かぶそばから闇へ吸いこまれてなくなってしまう……。
「では、私は……」
頭を下げ、蒼花は立ち去っていく。
その背が遠ざかっていく。
「――蒼花ッ」
振り返る少女を抱き寄せ唇をふさぐ。
「ん……っ」
蒼花はかすかに鼻にかかった吐息をこぼした。
「きっと、生きて戻る……」
「は、ぃ……っ」
お前のために――胸の中の呟きが、静かに響いた。
英麟は蒼花と共に本営を出た。
目の前には威儀を正し、緊張感に顔を強張らせる兵士たちの顔。
英麟は何千という兵士に見守られながら白馬に跨がった。
新月の晩。
篝火の明かりが目に染みるほどだ。
風が出る。軍旗がはためく音がと響いた。
英麟はすっと息を吸い、
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