19 / 35
アップルパイ(レオン視点)
しおりを挟む
無事に会議が終わり、レオンとゾーイは廊下を歩く。
「それにしても、マリアさんとマリアンヌちゃん、まるで本当の親子みたいに仲が良かったですね。とても微笑ましかったです」
ゾーイが不意にそんなことを言い出す。
「……確かにな」
レオン以外には決して懐かなかったはずのマリアンヌが、不思議とマリアになつく。
特別なことをしている訳でもない。
相性がいい、と彼女は言っていたが、これまで何人もの世話係をつけてきたが、誰ひとりとしてマリアンヌと打ち解けられた者はいなかった。
本当の親子というのは言い過ぎだろうが、特別な絆があると言われれば納得してしまいそうな親密さがあった。
「……団長、奥様の行方はどうなんですか?」
「相変わらずだ」
手がかりはない。家に残された彼女の服だけ。しかしそれも特別珍しい品ではない。
八方塞がりだった。
(アップルパイ、か)
マリアが、何度か作ってくれた。
もう一度あのアプルパイを味わいたい。
「ん?」
窓から見える馬場のあたりに人だかりが出来ていた。
「おい、今日は馬場で何かやっているのか?」
「いえ。いつも通りのはずですが、またぞろ障害物レースで賭け事でもしているのかもしれませんね」
「あいつら……」
小さく溜息をついたレオンは外へ出た。
基本、レオンは部下の自主性に任せてうるさく言わないようにしてはいるが、さすがに規律を乱すような行為を黙って見逃す訳にはいかない。
「おい、お前ら! 何をやってるんだ!」
レオンの怒声に、騎士たちは背筋を伸ばして道を空ける。と、その人だかりの中心にいたのはマリアたちだ。
「二人とも、残っていたのか」
どうやらマリアンヌの愛らしさに、騎士たちや軍馬たちはすっかり骨抜きになってしまったようだ。
「あ、レオン様、申し訳ございません。マリアンヌちゃんが馬を見たいと言っていたので。つい長居を」
「そうだったのか。で、お前らは何なんだ?」
騎士たちは互いに顔を見合わせる。
「いやあ、マリアンヌ様が可愛くて。な?」
「え、ええ。それに……マリアさんも」
「ていうか、そっちがむしろ本命はそっち、というか」
つまり、マリアンヌにかこつけて、マリアに近づこうとしていたのか。
レオンは苛立ちを覚えた。
「お前ら、ずいぶん余裕があるようだな! なら、訓練場を日が暮れるまで走れ! さっさと行けっ!」
レオンの鋭い号令に、騎士たちは半泣きになりながら「はいいぃぃ!」と悲鳴にも似た声を上げて走り出した。
「すみません。勝手なことを。でもこれはあくまで私たちがみなさんの好意に甘えてしまっただけで、ジョセフさんたちが悪い訳ではないので……」
どうやらマリアは自分が騎士たちにそれとなくアタックをかけられていたということには無自覚だったらしい。
「分かっている。せっかくだ。一緒にアップルパイを食べよう」
「ですがあれは」
「あの馬鹿どもに、君のアップルパイを食べさせるなんてもったいないからな。マリアンヌ、アップルパイ、食べたいか?」
「うん!」
「よし」
という訳で、団長室に戻ると、アップルパイを食べる。
ゾーイが紅茶を淹れてくれた。
「では頂くか」
「ど、どうぞ」
「そんな緊張することはない」
「……お口に合えばいいのですが」
レオンはアップルパイを頬張った。甘みと酸味が口に広がる。
「うまい」
「あぁ、良かったです」
マリアはほっと息をつく。
ただのアップルパイだ。それなのに、どうしても妻のことを思い出してしまう。
思えば、アップルパイはもう何年も、妻を思い出すから口にしなかったというのに。
そのことが妻を捜し続ける自分の気持ちが揺らいでいるような錯覚に陥り、美味しいはずなのに、苦い気持ちが胸に広がってしまう。
「まいあぬもたべる!」
「あ、そうだったね。レオン様、マリアンヌちゃんはりんごは大丈夫ですか?」
「ああ、他の食材に関してもアレルギーも特にない」
マリアはアップルパイを切り分けると、マリアンヌに食べさせる。
「んぅ~っ! おいひー!」
マリアンヌはぱくぱくと美味しそうに食べる。
「ふふ、マリアンヌちゃんにも美味しいって言ってもらえてすごく嬉しいです」
「マリア、すきぃ」
ぎゅっと抱きつく。
マリアはびっくりしながらも、「ありがとー」と微笑み、マリアンヌを抱きしめた。
レオン自身も微笑ましくなって、マリアを見つめ、はっと我に返った。
(俺は何を見とれて……)
「それにしても、マリアさんとマリアンヌちゃん、まるで本当の親子みたいに仲が良かったですね。とても微笑ましかったです」
ゾーイが不意にそんなことを言い出す。
「……確かにな」
レオン以外には決して懐かなかったはずのマリアンヌが、不思議とマリアになつく。
特別なことをしている訳でもない。
相性がいい、と彼女は言っていたが、これまで何人もの世話係をつけてきたが、誰ひとりとしてマリアンヌと打ち解けられた者はいなかった。
本当の親子というのは言い過ぎだろうが、特別な絆があると言われれば納得してしまいそうな親密さがあった。
「……団長、奥様の行方はどうなんですか?」
「相変わらずだ」
手がかりはない。家に残された彼女の服だけ。しかしそれも特別珍しい品ではない。
八方塞がりだった。
(アップルパイ、か)
マリアが、何度か作ってくれた。
もう一度あのアプルパイを味わいたい。
「ん?」
窓から見える馬場のあたりに人だかりが出来ていた。
「おい、今日は馬場で何かやっているのか?」
「いえ。いつも通りのはずですが、またぞろ障害物レースで賭け事でもしているのかもしれませんね」
「あいつら……」
小さく溜息をついたレオンは外へ出た。
基本、レオンは部下の自主性に任せてうるさく言わないようにしてはいるが、さすがに規律を乱すような行為を黙って見逃す訳にはいかない。
「おい、お前ら! 何をやってるんだ!」
レオンの怒声に、騎士たちは背筋を伸ばして道を空ける。と、その人だかりの中心にいたのはマリアたちだ。
「二人とも、残っていたのか」
どうやらマリアンヌの愛らしさに、騎士たちや軍馬たちはすっかり骨抜きになってしまったようだ。
「あ、レオン様、申し訳ございません。マリアンヌちゃんが馬を見たいと言っていたので。つい長居を」
「そうだったのか。で、お前らは何なんだ?」
騎士たちは互いに顔を見合わせる。
「いやあ、マリアンヌ様が可愛くて。な?」
「え、ええ。それに……マリアさんも」
「ていうか、そっちがむしろ本命はそっち、というか」
つまり、マリアンヌにかこつけて、マリアに近づこうとしていたのか。
レオンは苛立ちを覚えた。
「お前ら、ずいぶん余裕があるようだな! なら、訓練場を日が暮れるまで走れ! さっさと行けっ!」
レオンの鋭い号令に、騎士たちは半泣きになりながら「はいいぃぃ!」と悲鳴にも似た声を上げて走り出した。
「すみません。勝手なことを。でもこれはあくまで私たちがみなさんの好意に甘えてしまっただけで、ジョセフさんたちが悪い訳ではないので……」
どうやらマリアは自分が騎士たちにそれとなくアタックをかけられていたということには無自覚だったらしい。
「分かっている。せっかくだ。一緒にアップルパイを食べよう」
「ですがあれは」
「あの馬鹿どもに、君のアップルパイを食べさせるなんてもったいないからな。マリアンヌ、アップルパイ、食べたいか?」
「うん!」
「よし」
という訳で、団長室に戻ると、アップルパイを食べる。
ゾーイが紅茶を淹れてくれた。
「では頂くか」
「ど、どうぞ」
「そんな緊張することはない」
「……お口に合えばいいのですが」
レオンはアップルパイを頬張った。甘みと酸味が口に広がる。
「うまい」
「あぁ、良かったです」
マリアはほっと息をつく。
ただのアップルパイだ。それなのに、どうしても妻のことを思い出してしまう。
思えば、アップルパイはもう何年も、妻を思い出すから口にしなかったというのに。
そのことが妻を捜し続ける自分の気持ちが揺らいでいるような錯覚に陥り、美味しいはずなのに、苦い気持ちが胸に広がってしまう。
「まいあぬもたべる!」
「あ、そうだったね。レオン様、マリアンヌちゃんはりんごは大丈夫ですか?」
「ああ、他の食材に関してもアレルギーも特にない」
マリアはアップルパイを切り分けると、マリアンヌに食べさせる。
「んぅ~っ! おいひー!」
マリアンヌはぱくぱくと美味しそうに食べる。
「ふふ、マリアンヌちゃんにも美味しいって言ってもらえてすごく嬉しいです」
「マリア、すきぃ」
ぎゅっと抱きつく。
マリアはびっくりしながらも、「ありがとー」と微笑み、マリアンヌを抱きしめた。
レオン自身も微笑ましくなって、マリアを見つめ、はっと我に返った。
(俺は何を見とれて……)
764
あなたにおすすめの小説
冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない
くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、
軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。
言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。
――そして初めて、夫は気づく。
自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。
一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、
「必要とされる存在」として歩き始めていた。
去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。
これは、失ってから愛に気づいた男と、
二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。
――今さら、遅いのです。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
【完結】愛人の子を育てろと言われた契約結婚の伯爵夫人、幼なじみに溺愛されて成り上がり、夫を追い出します
深山きらら
恋愛
政略結婚でレンフォード伯爵家に嫁いだセシリア。しかし初夜、夫のルパートから「君を愛するつもりはない」と告げられる。さらに義母から残酷な命令が。「愛人ロザリンドの子を、あなたの子として育てなさい」。屈辱に耐える日々の中、偶然再会した幼なじみの商人リオンが、セシリアの才能を信じて事業を支援してくれる。
私達、婚約破棄しましょう
アリス
恋愛
余命宣告を受けたエニシダは最後は自由に生きようと婚約破棄をすることを決意する。
婚約者には愛する人がいる。
彼女との幸せを願い、エニシダは残りの人生は旅をしようと家を出る。
婚約者からも家族からも愛されない彼女は最後くらい好きに生きたかった。
だが、なぜか婚約者は彼女を追いかけ……
【書籍化】番の身代わり婚約者を辞めることにしたら、冷酷な龍神王太子の様子がおかしくなりました
降魔 鬼灯
恋愛
コミカライズ化決定しました。
ユリアンナは王太子ルードヴィッヒの婚約者。
幼い頃は仲良しの2人だったのに、最近では全く会話がない。
月一度の砂時計で時間を計られた義務の様なお茶会もルードヴィッヒはこちらを睨みつけるだけで、なんの会話もない。
お茶会が終わったあとに義務的に届く手紙や花束。義務的に届くドレスやアクセサリー。
しまいには「ずっと番と一緒にいたい」なんて言葉も聞いてしまって。
よし分かった、もう無理、婚約破棄しよう!
誤解から婚約破棄を申し出て自制していた番を怒らせ、執着溺愛のブーメランを食らうユリアンナの運命は?
全十話。一日2回更新 完結済
コミカライズ化に伴いタイトルを『憂鬱なお茶会〜殿下、お茶会を止めて番探しをされては?え?義務?彼女は自分が殿下の番であることを知らない。溺愛まであと半年〜』から『番の身代わり婚約者を辞めることにしたら、冷酷な龍神王太子の様子がおかしくなりました』に変更しています。
煤かぶり姫は光の貴公子の溺愛が罰ゲームだと知っている。
朝霧心惺
恋愛
「ベルティア・ローレル。僕の恋人になってくれないかい?」
煌めく猫っ毛の金髪に太陽の瞳、光の貴公子の名を欲しいがままにするエドワード・ルードバーグ公爵令息の告白。
普通の令嬢ならば、嬉しさのあまり失神してしまうかもしれない状況に、告白された令嬢、ベルティア・ローレルは無表情のままぴくりとも頬を動かさない。
何故なら———、
(罰ゲームで告白なんて、最低の極みね)
黄金の髪こそが美しいという貴族の価値観の中で、煤を被ったような漆黒の髪を持つベルティアには、『煤かぶり姫』という蔑称がある。
そして、それは罰ゲーム結果の恋人に選ばれるほどに、貴族にとっては酷い見た目であるらしい。
3年間にも及ぶ学園生活も終盤に迫ったこの日告白されたベルティア、実家は伯爵家といえども辺境であり、長年の凶作続きにより没落寸前。
もちろん、実家は公爵家に反抗できるほどの力など持ち合わせていない。
目立つ事が大嫌いでありながらも渋々受け入れた恋人生活、けれど、彼の罰ゲームはただ付き合うだけでは終わらず、加速していく溺愛、溺愛、溺愛………!!
甘すぎる苦しみが、ベルティアを苦しめる。
「どうして僕の愛を疑うんだっ!!」
(疑うも何も、そもそもこの恋人ごっこはあなたへの罰ゲームでしょ!?)
【完結】愛しき冷血宰相へ別れの挨拶を
川上桃園
恋愛
「どうかもう私のことはお忘れください。閣下の幸せを、遠くから見守っております」
とある国で、宰相閣下が結婚するという新聞記事が出た。
これを見た地方官吏のコーデリアは突如、王都へ旅立った。亡き兄の友人であり、年上の想い人でもある「彼」に別れを告げるために。
だが目当ての宰相邸では使用人に追い返されて途方に暮れる。そこに出くわしたのは、彼と結婚するという噂の美しき令嬢の姿だった――。
新聞と涙 それでも恋をする
あなたの照らす道は祝福《コーデリア》
君のため道に灯りを点けておく
話したいことがある 会いたい《クローヴィス》
これは、冷血宰相と呼ばれた彼の結婚を巡る、恋のから騒ぎ。最後はハッピーエンドで終わるめでたしめでたしのお話です。
第22回書き出し祭り参加作品
2025.1.26 女性向けホトラン1位ありがとうございます
2025.2.14 後日談を投稿しました
侯爵令嬢ソフィアの結婚
今野綾
恋愛
ソフィアは希少なグリーンアイを持つヴィンセントと結婚したが、これは金が欲しいソフィアの父の思惑と高い爵位が欲しいヴィンセントの思惑が一致したからに過ぎない
そもそもヴィンセントには美しい恋人がいる
美男美女と名高いヴィンセントとその恋人は身分に大きな差があるために結婚することは叶わないのだ
その事をソフィアも耳にしており、この結婚が形ばかりのものであることを知っていた
結婚して早々、ソフィアは実家から連れてきた侍女夫婦とあばら家に住むように言われて…
表紙はかなさんです✨
ありがとうございます😊
2024.07.05
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる