愛の形

来栖瑠樺

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第三章

奇襲

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 三日後、将軍様が来ることになった。反発していた人達を、最終的に捩じ伏せたらしい。仕事が片付いて空く夜が、その日と連絡があった。
そこまでして、私の所に来たいのか・・・。
「将軍様の前では、嘘で表情作って下さいね」
菊が近づき、私の隣に座る。
「菊」 
「ここで生きていくには、それしかありません」
「そうね」
ここを出ても、実家に帰れないし、行く宛てもない。
私の心に想い人がいるのを知っている。
菊も、それが分かった上で助言してくれる。
いづれ来ること。思ったより遅かっただけだ。

 三日後の夜がきた。侍女達が準備をした。私は将軍様が来るのを待っていた。
足音が近づいてきて部屋の前で止まる。
「入るぞ」
将軍様が部屋に入ってきて、私は頭を下げた。
「お待ちしておりました」
「面を上げよ」
顔を上げて、嘘の笑顔を貼り付ける。
「本当は、もっと早く来たかったのだが、邪魔する者達がいて、腹立たしい」
「私の為に、いろいろしていただき、ありがとうございます」
「気にすることはない。それより、早く始めよう」
将軍様は、私を布団に押し倒した。
今から好きでもない男に抱かれる。
余計なことは考えるな。
自分に言い聞かせるように、何度も心の中で唱える。
将軍様の手が、襟元にいき大きく広げられた時だ。

 廊下から慌ただしい音が聞こえる。
将軍様の手が止まり、部屋の外に歩き出す。
私は起き上がり、襟元を直した。
将軍様が襖を開けると、家来が切羽詰まった様子で報告した。
「奇襲です!すでに死傷者が出ています!」
「何者だ?!どこが動かしている!?」
「分かりません!相手が強者としか。このままでは、城が攻め落とされます!皆、指揮を待っています!」
「致し方ないな」
将軍様は舌打ちをした後、私を見た。
「時子。例え城が攻め落とされても、後で合流しよう。逃げ出すのは許さない」
私が返事をする前に、家来に私を守る為に、兵士をよこすことを命じて部屋を出た。

 兵士が部屋の外で警備してる時、外に避難する為、侍女達に質素な格好に着替えさせられた。侍女達も同じような格好をしている。
「気を確かに。落ち着いて下さい。いざとなれば、外に出ることになります」
「分かったわ」
菊が私の手を握る。
しばらくすると、刀が交わる音と悲鳴が聞こえる。
「ぐああ!!」
「うわああ!!」
兵士が襖を破って入ってきた。
そのまま兵士が、目の前で斬り殺された。
「逃げましょう!」
と誰かが言った時、敵の顔を見た。
「やっぱり、ここには将軍がいなかった。今日、ここを訪れると聞いたが城に戻ったな」
「まあ、そうだろうな」
「何をしてるんですか!早く逃げましょう!」
菊の声に敵が反応する。
私は無意識だった。
「肇?」
菊の手を振り払い、近づく。
「肇でしょう。私よ。時子よ。ほら、六年前、木登りして遊んだ時に助けてくれたでしょう。その後、貴方は村からいなくなったけど、覚えてないの?」 
「コイツは肇ではない!近づくな!」 
別の男が遠ざけようとした。
「・・・時子?」
頭を抑えながら、聞き返される。
「そうよ。貴方、面影があるから。これを見ても分からない?」
折り紙の鶴を見せたら、目を見開いている。
「おい!さっさと移動するぞ!」
周りの男達が叫ぶ。
「時子様!!」
菊は私の所に駆け寄る。そして、私と肇。肇の近くにいる男にも聞こえるように言った。
「時子様を連れて行って下さい。この方は、貴方のことを想い続けています。辛い思いもたくさんしてます。おそらく貴方は、記憶を失っているのでしょう。無理やり引っ張っていくようにして逃げて下さい」
「菊。そんなことしたら貴方は「私のことはいいのです。ご自身と記憶を取り戻す方法を考えて下さい。さあ、早く」」
私の言葉を遮り、この場を去るように周りに目配せする。
「時子様!!!」
菊は思いっきり、私の腕を引っ張る。
肇と思う人は反対の腕を引っ張り、自分の方に引き寄せ、そのまま走って行く。周りの男達も付いて行く。
後ろを振り返ると、菊が頷いた。
菊は、わざと逃がしてくれたんだ。
菊は罰せられないだろうか。
菊の今後が心配だが、せっかくの機会を無駄にできない。
男達の素性は知らないが、付いて行くしかない。
菊。ごめんなさい。ありがとう。


***
 「今夜、あの将軍と周りの者、家来も含めて殺す」 
大将の命令で皆頷く。
今夜、殺す者達は汚いことをいろいろしているようだし、自業自得だ。
「今夜、将軍は時子と言う女の所に行くらしい。城が攻撃されれば、戻って来るだろうが、お前達は一応女の所に行け。女は殺さなくていい」
大将が、城に行く部隊と女の所に行く部隊を選び、俺は女の所に向かうことになった。
時子・・・.。珍しくない名前だ。それなのに、聞き覚えがある。妙にしっくりくる。
この感じが意味が分からない。

 時間になり、女の所に行った。女を守っている兵士を斬り殺す。
部屋にいた女の一人が、俺が以前使っていた名前を呼ぶ。
『肇?』
そして近づいてきて、自分は時子だと。六年前のこと。村のことを伝えてきた。
ズキッと痛み頭を抑える。
初対面じゃないのか?
失くした記憶に、この女がいたのか?
分からない。思い出せない。
その後、紫の折り紙の鶴を見せてきた。
どうして、それを持っている。
どうして、こんなに動揺している。折り紙の鶴なんて、他にも持っている人はいるだろう。
頭の整理がつかないうちに、女の侍女が一人近づいてきた。
そして、想像してない言葉をかけられた。
時子を連れて行ってほしいと。時子は、俺のことを想い続けている。さらに、俺が記憶を失っていることを言い当てた。
こんなことになるなら、城の方に行きたかった。今更考えても仕方ないし、ここから移動するしかない。
 侍女の言葉を聞く義務はない。
それなのに、侍女の言葉に乗っかり、時子の腕を引っ張り、その場から去る。
まだ、そんなに離れてない時に、時子を見たら侍女を見て顔を前に戻したが、伏せ目だった。切なそうな顔。もう、あの侍女と会うことは可能性は低い。それを悟った顔だ。
侍女を見ると、俺の視線に気づき、頭を下げた。
まるで今後のことは、任せると言われてる気分になり、舌打ちすをする。
顔を前に戻し、集合場所に向かって走った。
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