愛の形

来栖瑠樺

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第三章

新たな役目

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 しばらく走ると、肇と同じ格好してる人達が集まってる。
その場に着くと、左目に眼帯している男が、私を見て鋭く睨む。
威圧感を感じビクッと肩を揺らすと、手を繋いでくれてる肇がギュッと少し力を込めてきた。
肇を見ると、真っ直ぐ眼帯の男を見てるだけだ。
眼帯の男は、こちらに近づき、肇に話しかける。
「これは、どう言うことだ?女を攫ってこいなんて言ってないぞ」
「この女の侍女に、連れて行ってほしいと頼まれて」
眼帯の男が溜め息をつく。
 「あ、あの肇を、この人達を責めないで下さい」 
眼帯の男が、私に視線を移した。
「この男の名前は、剛だ。肇じゃない」
「・・・それは、ここでの名前ですか?私は、前田時子と申します。彼が、六年前まで一緒の村にいた、井上肇に見えます。彼の面影を感じる。彼が私の名前を聞いた時や、この鶴を見せた時も反応がありました。彼は記憶を失っているようなので、幼なじみの私のことも分からない。でも、そうなったのは私を守る為に、頭を怪我したのが原因だと思います。彼が私を連れて来たのは、菊が、いえ私の侍女の言葉を聞いてくれたから。その侍女は、私の境遇を知ってるから、逃がしたかったのでしょう」
眼帯の男は、ジッと私を見ている。他の男達は、様子を見守るだけ。
「賊に今後を託す侍女も、付いて来たお前も馬鹿だな。何があるか分からないのに」
「もう会えないと思ってた人が、目の前にいます。彼が賊になっていようが、付いていきたいです」
「ただの幼なじみに?」 
「好きな人です」 
「・・・・・」
眼帯の男は、無言だが何かを考えて込んでいるようだった。何度か視線が下がっている。
何を考えているのだろう。
しばらくした後、眼帯の男が口を開いた。
「この女を炊事係として、来てもらう」
「・・・」
「「「は?」」」
予想しない言葉に、周りが戸惑っている。
「ここに置いていって、城の奴らに捕まっても面倒だ。ただ連れて行っても仕方ないからな。仕事をしてもらう。それが炊事だ」
「分かりました」
私が承諾すると、視線が隣にいく。
「剛。時子の監視役だ・・・・・守ってやれよ」
「はい」
彼が返事すると眼帯の男は離れていき、賊の集団はそのまま移動した。


***
 移動を何度もして、拠点が変わっていく。そのたびに、食料調達をする。
俺と時子の二人で。
時子が食材を選び、俺が荷物持ち。時子が、何か持つと言ってくるが毎回断る。
そんな細い腕に負担をかける必要はない。
それに、これくらい俺だけで余裕だ。
「ありがとう。はじ・・・剛」
時子は、俺の新しい名前が言いにくそうだ。まだ慣れてないだろうが、時子にとっては〔肇〕が、しっくりくるのだろう。
自分の名前なんて、こだわりはない。
でも、言いにくそうな姿を、何度も見てるせいだろうか。
「二人きりの時は、肇でいい」
「え?」
驚いたような表情を浮かべている。
「呼び方」
「ありがとう。肇」
嬉しそうな顔で、俺の前の名前で呼んだ。
どうしてだろう。
時子に〔肇〕と呼ばれるのが、心地良いと思うなんて。

 時子は、俺の前の名前を知っているし、色違いの折り紙の鶴を大切に持っている。
六年前まで一緒の村にいたと言う。その時に、鶴を俺から渡したのか・・・?
時子から俺との思い出話を聞いたことがある。でも、思い出すこともなく、初めて時子の名前を聞いた時や、御殿で会った時のような感覚にならない。
俺が反応ないと、隠してるつもりかもしれないが、少し浮かない顔をする。
その顔を見ると胸が苦しくて、自分に苛立つ。
知りたい。時子を。思い出したい。
 「肇。難しい顔してるけど、どうしたの?」
「なんでもない」
時子は首を傾げて聞いてきたが、答えなかった。
どこまで言えば、時子は傷つかないだろうか。
俺が頭を怪我したのが原因で、記憶を失ったかもしれない話も聞いてみたい。
しかし、前にその話になった時、躊躇っていたから聞くのを止めた。
 時子は、俺のことを想い続けていると、あの侍女が言ってた。大将の前でも、好きな人とハッキリ答えた。
時子にとっては、そう言う存在だが、俺にとっては・・・?
時子が来てから、俺の心に大きく空いた穴が完全ではないが、ある程度埋まった。
記憶が戻れば、完全に穴は埋まるのか・・・?
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