愛の形

来栖瑠樺

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第四章

幸福

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 大将達と別れて、数年経った。その間に結婚をした。
肇は剣道の町道場に行き、そこの指導者の一人になった。
私は、家で家事をしながら、合間に機織りをして、出来上がった反物を売って生計を立てている。
暮らしは順調で幸せな時間。
今までの分を取り戻すように、空いた時間は、二人で他愛のない話をしている。
そろそろ、家族を増やそうかとも話しているし、思い描いたら口元が緩む。
「ただいま」  
「おかえり」
最愛の人の声が聞こえ、玄関まで走って出迎える。
勢いよく肇の胸に飛び込んだ。ちゃんと受け止めてくれる腕と、温かい体温に安心する。
「いつも走るなと言ってるのに、直さないと転んだ時心配だ。子供ができたら尚更」
「大丈夫よ。直すから」
「明日から、そうしてくれ」
「ええ?!明日から?!ずいぶん急ね」
「直らないからだろ。直さないと、お土産買ってこないぞ」
「・・・・・頑張るわ」
心配して言ってるのは分かる。
だけど、お土産に釣られている私の反応を楽しんでいるように見えるは、気のせいだろうか。

 「腹が減ったな」
「あ、夕飯できてるわよ。今日は、笹餅も作ったのよ」
「ありがとう。また、時子と一緒に笹餅が食べれるな」
「そうね」
二人で夕飯を食べながら、その日あった出来事を話すのも日課の一つ。
肇が出勤している町道場に生徒が増え、一人の担当人数が増えるようだ。
その為、出勤日数も増え、帰りも遅くなることがあるとのこと。
寂しいが仕方ない。
 食べ終わり、お茶を飲んでいる時に、話題を変えた。
「そうそう、新しい反物ができたの」 
肇の目の前で広げる。
「綺麗だな」
「ありがとう。いつも持って行く呉服屋さんにね、私の反物は人気だから、数を増やさないかと言われたの。嬉しい言葉だったけど、家事が疎かにならないか不安で、返事を保留にしてる・・・」
「やりたいんだろ。なら、やればいい。時子がしたいように。家事のことは気にするな。完璧は求めてないし、俺も、手伝えることがあればやるから」
「ありがとう」
「無理はしないこと。それが条件だ」
「うん」 
肇は、私の背中に回ると抱き締めた。肇の腕を私が握る。
肇は、いつも私のことを考えてくれる。
私も考えてるけど、もっと肇の何か力になれることないかと考える。本人に聞いても、充分とか言われそう。
 「時子」
「どうしたの?」
背中に回されてた腕が外され、後ろを見る。
そこには、穏やかな顔をした肇がいた。
「俺は、時子が傍にいてくれるだけで幸せだ」
「私もよ」
不意打ちで顔が赤くなったが、自分も同じだと伝えた。
元々近い距離にいたが、さらに近くなり、そのまま口付けをする。
幸福感で満ち溢れている。
好きな人と結ばれて、毎日が充実していて、穏やかな日々を過ごしている。
そんな日々が、これからも続くと思うくらい、当たり前になっていた。
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