愛の形

来栖瑠樺

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第四章

あの方

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***
 今日は、帰りが遅くなってしまったな。生徒が増えるのは嬉しいが、その分仕事も増える。なるべく早く帰ろうと思っているが、今日みたいに遅くなることがある。
早足で家に向かう。
時子は、寂しがってるだろうか。
仕事のことは理解してくれてるが、帰りが遅くとなると、いつもより甘えてくる。
今日も甘えてくるだろうな。思い浮かべて口元が緩む。

 家が見えると違和感を感じる。
明かりがついてない。
もう、明かりが必要な時間なのに。
俺は急いで家まで走り、玄関の戸を開けた。
「時子!!!」
大声で呼ぶが反応がない。
こんな時間に出かけるなんて、ありえない!
家の中は暗くて、よく見えない。灯りをつけ、時子を探す。
「時子!どこにいる?!」
客間に来た時、息が詰まりそうになった。
時子が倒れていて、血がある。
俺は客間の灯りをつけ、時子に駆け寄り、上半身を抱き上げる。
冷たい。口元には血が流れた痕。傷痕はないから、毒を飲まされたのか!!!
「時子!時子!目を開けてくれ!!何があったんだ?!」
時子から、言葉が返ってくることはない。
冷たい感触が、彼女の死を表していた。
彼女の指先に血がついてるのを見つけた。
畳に{あの方の命令で}と書いてある。
あの方?誰だ?
その人物のせいで、時子は死んだのか!?

 「ああ。やっと帰ったか」 
「待ちくたびれたわよ」
男女の声が聞こえ顔を上げると、時子の両親が立っている。
「どうして、二人がここにいる」
二人を睨みつけ、警戒する。
「怖い顔。あの方の命令で、時子が死んでいる姿を見た時、お前が、どんな反応したかを報告する為に、待ってたのよ」
「あの方とは誰のことだ。時子を殺したのは、お前達か。それも、あの方の命令なのか」
「そうだ。時子が御殿から逃げ出した後、俺達は、さんざんな思いをした。この疫病神の娘のせいで。そんな俺達に、手を差し伸べたのが、あの方だ。名前は言えない。時子を殺せば、またお金をくれると言うから。死んでも役にたったな」 
「そうそう。浴衣があったわよ。今年の夏祭りに着るつもりだったのかしら。愛しい人と一緒に行けなくて残念ね」
時子の母は、浴衣を投げてきた。
その浴衣を見て、目を見開く。
時子が、一生懸命縫ってた浴衣。
浴衣を手に取ると完成している。
何もなければ、きっと浴衣のことを、嬉しそうに言ってきたのだろう。
そして、夏祭りの話をしただろう。
 どうしてだ?!
こんな目にあわないといけない!!!
もう時子と話すことができない。時子の、いろんな表情を見ることができない!!
裕福でなくても、愛しい人と一緒に過ごせるだけで・・・傍にいるだけで幸せなのに・・・・・。
時子の顔に、涙が落ちていく。
「時子、時子、時子!!!」
叫んだ後、時子を抱き締めた。

 「そろそろ帰る」
「時子のお墓参りよろしくね。お前しかいないのだから」 
時子の両親は、帰ろうとした。
「待て」 
相手を睨みつけ憤怒し、低い声で呼び止める。
それに、恐怖か威圧感か何かを感じたのか、二人とも顔を青くする。
俺は、二人に近づきながら話す。
「あの方の所に連れて行け」
「無理だ!手紙でやりとりしてただけで、本人に会ったことはない。あの方の使用人が、手紙のやりとりを経由してくれたから!」
俺は、護身用に持ってた小刀を、時子の父の喉に当てる。
「ほ、本当よ!名前な菊と名乗ってたわ!本名か分からないけど、私達は、お金さえ貰えれば、それで良かったから」
危機感が増したのか、時子の母は、あの方の名を出した。
菊。時子が側室の時に、侍女として仕えてた奴と同じ名だ。その人なのか?
「菊の家名は」
「知らないわ。武家の娘としか書いてなかった」
「・・・・・お前達の言うことが、本当と言う証拠はあるのか」
「家に、あの方の手紙が置いてある。処分するように言われてたが、何かの時に切り札になると思って保管している!家は〇〇の村の端っこだ。行けば分かる。だから命だけは助けてくれ!」
「お願いよ!私達が愚かだったわ。お金欲しさに、娘を手をかけるなんて。時子と貴方は幼なじみでしょ。一緒の村にいた時、いろいろ良くしてあげたじゃない」
懇願する二人を、冷たい目で見た。
お前らが、どんな対応をしようと、時子は戻ってこない。
時子の心を、何度も抉ることもしたのに。
ついには、金欲しさに殺した。
「お前らは非情な奴だ。助ける価値もない」 
そう言って、時子の父の喉を切り、次は、母の喉も同じように切った。
二人の返り血で、全身が血まみれだ。

 「さっきから大きな音がするけど、どうしたんだい?」
玄関から聞こえる。この声は隣人の声。
俺は、あの方・・・菊と言う人物を殺しに行かないといけない。
急いで、着替えを持ち裏口から出る。
「時子。すまない。生きてたら、お墓参りするから」
俺は、全速力で〇〇村に向かった。 
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