愛の形

来栖瑠樺

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第一章

後悔

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 「ちょっと待ってよ・・・」
「なんで泣きそうな顔になってるんだよ」
下には呆れ顔で私を見上げる少年。
井上肇(いのうえ はじめ)
「だって・・・」
そんな私を見て溜め息をつく肇。
私だって、こうなるとは思ってなかった。
肇が、よく木登りしてたから真似したら怖くて下りれなくなったなんて。
「早く下りてこいよ。時子」
肇が私の名を呼ぶ。私の名は、
前田時子(まえだ ときこ)
私と肇は幼なじみで十歳の時の出来事。
「分かったわよ・・・」
 恐る恐る枝に足をかけ慎重に下りていく。少しづつ地面に近づいていき、恐怖心も薄れていく。そこで気を許してしまったからだろう。次の足場にする枝に足をかけたつもりが滑り、宙ぶらりんの状態になり悲鳴をあげる。
「落ち着け!焦るな!もう一度枝に足をかけろ!」
肇の顔を一瞥すると焦った顔が見えた。同時に地面までの距離があり、まだ飛び下りるには高さがあることが分かった。
「無理よ・・・届かないわ」
恐怖で涙が溢れ落ちていく。
「だったら・・・・・俺に向かって飛び下りろ!時子を受け止める!」
驚いて、もう一度、肇を見ると真剣な顔をしていた。
「何言ってるのよ!?そんなことしたら、肇まで怪我するわ!」
「俺は、何度も木登りして、その高さで落ちたこともある!多少の受け身は分かってる。今すぐ飛び下りろ!」
「で、でも・・・」
「もう、時子の手も限界だろ!」
肇の言う通り、手が痺れている。
肇を信じるしかない。
「肇。行くわよ」
肇が頷いたのを確認すると、手を離した。
思ったより衝撃は少なくて、恐る恐る目を開けた。
「時子。大丈夫か?」
頭の上から声がして見上げると、肇が受け止めてくれてた。でも、肇の腕や足、そして頭からは血が流れている。
「無事よ・・・あ・・・こんなに怪我までさせちゃって、ごめんなさい」
「謝り・・より・・・お礼が・・聞きたいな」
そう言うと目を閉じてしまった。
「肇?肇?!」
体を揺さぶっても反応がない。
顔から血の気が引いた。しかし、すぐに行動しなければ。
「待ってて!!すぐに大人を呼んでくるから」
肇の手を握り締めると、微かに握り返した気がした。
 私は、すぐに村に帰り、自分の両親と肇の両親に説明した。お互いの両親は、血相を変えて、肇を迎えに行き村まで連れて帰ると、医者に診てもらった。
医者からは「しばらく安静に」「頭を打っているので、後遺症が残る可能性がある」と言われた。
私は、自分の行いに悔いて、肇の両親に謝ることしかできなかった。
「肇が目覚めたら連絡する」と言われ、家から追い出されてしまった。
私は家に帰り、肇の連絡を待っている間、両親は、腫れ物を触るような扱いをしている。居心地が悪かったが、自分が招いたことなので耐えるしかなかった。

 一週間後、肇が目を覚ましたと連絡を受け、会いに行く。
肇の両親は、嫌悪感で私を見た後、案内してくれた。
当然だ。大切な子供を怪我させてしまい、医者には、あんなこと言われたのだから。
前みたいに、子供の幼なじみで笑って対応してくれるわけない。
案内された部屋に入ると、肇は布団に横たわっていて、包帯が頭や手にも巻かれてる。きっと足にも巻かれてる。痛々しい姿を目にして、視線を落とす。
「時子。こっち来いよ」
肇は優しい笑顔で声をかけてきた。
どうして?
こんな目にあってるのに、そんな顔をするの?
重い足取りで、肇の近くに座る。
「肇。ごめんなさい。たくさんの怪我させてしまったし、頭も・・・今後どうなるか・・・」
膝の上で拳を作り、涙がその上に落ちていく。
「時子のせいじゃないから、謝らなくていい」
「でも「俺が自分を過信していた。あの時大人を、すぐに呼びに行けばよかったんだ」」
私の言葉を遮った後、自嘲しながら、自身の手を見つめていた。
その後「その涙を拭ってやれたらな」と呟いていた。
重い空気が流れる中、肇が口を開いた。
「それに、言ったじゃないか。謝りより、お礼が聞きたいって」
懇願された顔。その時の状況を思い出す。私は涙を拭い笑顔で肇に伝える。
「肇。助けてくれて、ありがとう」
私の顔と言葉で、満足そうな顔を見せた。
 その時、障子が空いた音がして振り向くと、肇の両親が立っていた。
「肇。大丈夫?」
「気分悪くないか?」
肇の両親は、心配そうに話しかけている。
「大丈夫」
肇の返事を聞いて一安心しているのを見せた後、私に嫌悪感を向け、声をかける。
「肇と話できたし、もういいでしょう。帰りなさい」
「はい」
立ち上がろうとした時、肇の声が聞こえた。
「時子に、そんな態度をとるな。この怪我は時子のせいじゃない」
肇は両親を睨んで言った。
「でも、貴方の怪我は「これ以上、時子を邪険に扱うなら、自分の両親でも許さない」」
肇の母親の言葉を遮り、伝えられた言葉に「分かった」と渋々答えていた。
「時子。また会いに来てくれよ」
肇に顔を向けると、両親に向けた顔とは正反対で穏やかな顔をしている。
「うん」
頷いて笑顔を見せた後、立ち上がる。
そして、部屋を出ようとした時
「またな」
と後ろから聞こえた為、振り向き「またね」と返し部屋を出た。
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