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第一章
贈り物
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目を覚ました肇に会ってから、週に何日か訪問している。本当は毎日行きたいけど、相手の家にも迷惑かかるし、肇の両親が私を快く思ってないことは分かっている。肇の前では、そんな態度とらないが、いないところでは嫌悪感で見るだけで何も言ってこない。それはそれで怖いけど、いつものように口にする。
「肇に会いに来ました」
「「・・・・・」」
眉根を寄せられるが、家に入れてくれる。会釈をして家に入ってから、肇の部屋に向かう。後ろから、視線を感じながら。
「おう!来たか」
肇は、座布団の上に座っていて、私に気づくと手を上げた。
「肇。もう布団から出て大丈夫なの?」
「大丈夫だよ。皆心配しすぎ。歩けるし、本当は時子の家や、また一緒に遊びたいけど親が許してくれなくて。まだ駄目だと言う」
肇の両親の心配も分かる。まだ完治してるわけじゃない。また何かあれば大事になる。それに、完治しても、私と遊ぶことは許してくれないだろう。今、こうして会えるのは、肇が目覚めて会いに行った時、私と肇の両親の前で、私を守ってくれたから。あの言葉がなかったら、会うのは難しかったかもしれない。
「俺の両親は、時子に何かしてないか?態度とか他のことでも」
「大丈夫よ」
「されてるのか」
肇の声が低くなる。
「されてないわ」
「嘘が下手だな。聞かなくても、何かあることくらい分かる・・・親と話してくる」
「駄目!!!」
立ち上がろうとした肇の腕を掴んだ。
「肇の両親は、貴方を大切にしてるし、心配してるから。子供に何かあって、対象があれば、そっちにいい感情は持たないもの」
「それでも、時子を傷つけるのは親であっても許さない」
「私は、肇と両親が、これ以上溝を深めてほしくないのよ!今も、こうして会えてるのだって、肇が私を守ってくれたから。それで充分。暴力も罵声もないし、私は大丈夫よ」
「・・・・・」
しばらく私の顔を見た後、渋々と言った様子で座ってくれた。
「ねえ、お腹空いてる?」
「突然どうした?」
想定外の話題が出た為、不思議そうな顔をしている。
「あのね、笹餅作ったの。肇の好物でしょ。今お腹空いてないなら、後でもいいから」
笹餅の包みを机の上に置く。
「今食べる」
「お腹減ってるの?」
「今食べたい」
なんだか答えになってない気がするけど、無理して食べる様子ではなさそうだから、これ以上は聞かないでおこう。
笹餅の包みを開き、一つ手に取り、口に入れる肇を眺めていた。
「美味しい」
味の感想を聞く前に笑顔で答えてくれた。
本当に美味しそうに食べる。その顔が、とても嬉しくて私も笑う。
「時子も一緒に食べよう」
笹餅を一つ手に取り、私に渡そうとするが、首を振った。
「肇の分が減っちゃうわよ」
「時子と一緒に食べたい」
真っ直ぐ見られると断れず、受け取ると口に入れる。
肇は、その姿を見て満足したようで、自分の分を食べ続ける。
「ご馳走様。また作ってほしい。時子の笹餅が一番美味しい。また一緒に食べたい」
笹餅が全て無くなった後に言われた言葉に赤面した。
「顔が赤いな」
肇は余裕の笑みで私を見ている。
私は、肇に自分の気持ちを伝えたことないのに、お見通しと言うことか。
そういえば、肇は私のこと、どう思ってるんだろう。
「揶揄ってるんでしょ。肇は私のこと・・・」
その先を知りたいようで知りたくない。
気まずくなりたくない。
だから言えなかった。視線を下げた。
「時子のことが好きだよ」
「え?」
視線はすぐに上に向き、肇を瞳を捉える。
そこには、さっきとは真逆の表情。真剣な顔をしていた。
「俺が時子に対する気持ちを聞きたかったんだろ。時子は?俺のこと、どう思ってる?」
「私・・・私も肇のことが好き」
肇の目を見たまま答えた。
肇は、優しく笑い私の手を握る。
「良かった。本当は、俺から言おうと思ってたのに」
「そうなの?」
「時子の気持ちは知ってたから。でも、いざ言おうとしたら恥ずかしくて言い出せなかった。結果的に今知ったけど、気持ちを聞けて良かったよ」
「私も」
その後は、お互い気恥しいけど、照れ隠しのように笑った。
そんな余韻の中、もう一つ渡したい物があり、取り出した。
「折り紙の鶴?」
「うん。本当は千羽鶴にしたかったけど、さすがに量が多くて無理だから・・・。長寿、平和、幸福、他にも、いろんな良い意味があるみたい」
そう言って、赤の鶴を渡した。
「ありがとう。大切にする。俺も、折り紙の鶴を贈るよ。何色がいい?」
「何色でもいいよ」
肇が立ち上がって取りに行こうとする。負担をかけないようにする為、私が取りに行き、言われた色の折り紙を渡し、隣に座る。
「紫なのね」
「ああ。紫には、守りと導きの意味がある。赤は元気と健康。赤と迷ったけど、時子には、この色がいいかなと思ったんだ」
「お揃いの赤でも良いと思うけど・・・肇が選んだ色が紫なら、それでもいいわ」
折り紙を折っていた肇の手が止まり、顔も一瞬だが影を落とす。
「肇?」
「・・・ほら、できたぞ」
そう言って私に紫の折り紙の鶴を渡した。
さっき見た顔の陰りは無くなってる。
「ありがとう」
折り紙の鶴を見つめた後、さっきのことが気になって聞こうとしたら、障子の向こうから、肇の母親の声が聞こえた。
「もうすぐ暗くなるわよ。そろそろ帰りなさい」
私は返事をして立ち上がると、肇も立ち上がった。
「玄関まで送っていく。これくらい大したことない」
私が言うことを先読みして言われた。
障子の向こうには、まだ母親がいることが分かる。
頷いた後、玄関に向かって歩いていく。肇の後ろには母親も付いてきている。
玄関までくると、母親には会釈をして、肇に声をかける。
「またね」
「・・・ああ・・・またな」
顔は笑顔なのに、どこか寂しげ。
いつもなら間を空けずに〔またな〕と返してくれるのに。
気になるけど、母親が近くにいて聞けない。
これ以上この場にいられないので、引き戸に手をかけ、振り返る。
すると表情は変わらないが、手を振ってくれた。私も手を振って、肇の家を出て、自分の家に帰る。
私は、あの時どんな顔をしてたんだろう。戸惑っている顔をしてたんだろうか。そんな気がする。
この日は、嬉しい出来事と気になる出来事で終わった。
「肇に会いに来ました」
「「・・・・・」」
眉根を寄せられるが、家に入れてくれる。会釈をして家に入ってから、肇の部屋に向かう。後ろから、視線を感じながら。
「おう!来たか」
肇は、座布団の上に座っていて、私に気づくと手を上げた。
「肇。もう布団から出て大丈夫なの?」
「大丈夫だよ。皆心配しすぎ。歩けるし、本当は時子の家や、また一緒に遊びたいけど親が許してくれなくて。まだ駄目だと言う」
肇の両親の心配も分かる。まだ完治してるわけじゃない。また何かあれば大事になる。それに、完治しても、私と遊ぶことは許してくれないだろう。今、こうして会えるのは、肇が目覚めて会いに行った時、私と肇の両親の前で、私を守ってくれたから。あの言葉がなかったら、会うのは難しかったかもしれない。
「俺の両親は、時子に何かしてないか?態度とか他のことでも」
「大丈夫よ」
「されてるのか」
肇の声が低くなる。
「されてないわ」
「嘘が下手だな。聞かなくても、何かあることくらい分かる・・・親と話してくる」
「駄目!!!」
立ち上がろうとした肇の腕を掴んだ。
「肇の両親は、貴方を大切にしてるし、心配してるから。子供に何かあって、対象があれば、そっちにいい感情は持たないもの」
「それでも、時子を傷つけるのは親であっても許さない」
「私は、肇と両親が、これ以上溝を深めてほしくないのよ!今も、こうして会えてるのだって、肇が私を守ってくれたから。それで充分。暴力も罵声もないし、私は大丈夫よ」
「・・・・・」
しばらく私の顔を見た後、渋々と言った様子で座ってくれた。
「ねえ、お腹空いてる?」
「突然どうした?」
想定外の話題が出た為、不思議そうな顔をしている。
「あのね、笹餅作ったの。肇の好物でしょ。今お腹空いてないなら、後でもいいから」
笹餅の包みを机の上に置く。
「今食べる」
「お腹減ってるの?」
「今食べたい」
なんだか答えになってない気がするけど、無理して食べる様子ではなさそうだから、これ以上は聞かないでおこう。
笹餅の包みを開き、一つ手に取り、口に入れる肇を眺めていた。
「美味しい」
味の感想を聞く前に笑顔で答えてくれた。
本当に美味しそうに食べる。その顔が、とても嬉しくて私も笑う。
「時子も一緒に食べよう」
笹餅を一つ手に取り、私に渡そうとするが、首を振った。
「肇の分が減っちゃうわよ」
「時子と一緒に食べたい」
真っ直ぐ見られると断れず、受け取ると口に入れる。
肇は、その姿を見て満足したようで、自分の分を食べ続ける。
「ご馳走様。また作ってほしい。時子の笹餅が一番美味しい。また一緒に食べたい」
笹餅が全て無くなった後に言われた言葉に赤面した。
「顔が赤いな」
肇は余裕の笑みで私を見ている。
私は、肇に自分の気持ちを伝えたことないのに、お見通しと言うことか。
そういえば、肇は私のこと、どう思ってるんだろう。
「揶揄ってるんでしょ。肇は私のこと・・・」
その先を知りたいようで知りたくない。
気まずくなりたくない。
だから言えなかった。視線を下げた。
「時子のことが好きだよ」
「え?」
視線はすぐに上に向き、肇を瞳を捉える。
そこには、さっきとは真逆の表情。真剣な顔をしていた。
「俺が時子に対する気持ちを聞きたかったんだろ。時子は?俺のこと、どう思ってる?」
「私・・・私も肇のことが好き」
肇の目を見たまま答えた。
肇は、優しく笑い私の手を握る。
「良かった。本当は、俺から言おうと思ってたのに」
「そうなの?」
「時子の気持ちは知ってたから。でも、いざ言おうとしたら恥ずかしくて言い出せなかった。結果的に今知ったけど、気持ちを聞けて良かったよ」
「私も」
その後は、お互い気恥しいけど、照れ隠しのように笑った。
そんな余韻の中、もう一つ渡したい物があり、取り出した。
「折り紙の鶴?」
「うん。本当は千羽鶴にしたかったけど、さすがに量が多くて無理だから・・・。長寿、平和、幸福、他にも、いろんな良い意味があるみたい」
そう言って、赤の鶴を渡した。
「ありがとう。大切にする。俺も、折り紙の鶴を贈るよ。何色がいい?」
「何色でもいいよ」
肇が立ち上がって取りに行こうとする。負担をかけないようにする為、私が取りに行き、言われた色の折り紙を渡し、隣に座る。
「紫なのね」
「ああ。紫には、守りと導きの意味がある。赤は元気と健康。赤と迷ったけど、時子には、この色がいいかなと思ったんだ」
「お揃いの赤でも良いと思うけど・・・肇が選んだ色が紫なら、それでもいいわ」
折り紙を折っていた肇の手が止まり、顔も一瞬だが影を落とす。
「肇?」
「・・・ほら、できたぞ」
そう言って私に紫の折り紙の鶴を渡した。
さっき見た顔の陰りは無くなってる。
「ありがとう」
折り紙の鶴を見つめた後、さっきのことが気になって聞こうとしたら、障子の向こうから、肇の母親の声が聞こえた。
「もうすぐ暗くなるわよ。そろそろ帰りなさい」
私は返事をして立ち上がると、肇も立ち上がった。
「玄関まで送っていく。これくらい大したことない」
私が言うことを先読みして言われた。
障子の向こうには、まだ母親がいることが分かる。
頷いた後、玄関に向かって歩いていく。肇の後ろには母親も付いてきている。
玄関までくると、母親には会釈をして、肇に声をかける。
「またね」
「・・・ああ・・・またな」
顔は笑顔なのに、どこか寂しげ。
いつもなら間を空けずに〔またな〕と返してくれるのに。
気になるけど、母親が近くにいて聞けない。
これ以上この場にいられないので、引き戸に手をかけ、振り返る。
すると表情は変わらないが、手を振ってくれた。私も手を振って、肇の家を出て、自分の家に帰る。
私は、あの時どんな顔をしてたんだろう。戸惑っている顔をしてたんだろうか。そんな気がする。
この日は、嬉しい出来事と気になる出来事で終わった。
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