愛の形

来栖瑠樺

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第一章

違和感

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 最近、肇の家を訪ねても誰も出てこない。外出かと思う時もあったけど、居留守されてると分かる時もあった。
今日も誰も出てこないか・・・。帰ろうと思った時、引き戸が開いた。
「もう来ないで!」 
「突然どうしてですか?!」
「元々来てほしくなかった。肇の願いだから、一時的に会うのを許してただけだ」
今、肇の両親と言い争いになってる。
肇は、家の中にいるのだろうか。こんなに大きな声で言い争ってたら、聞こえるはず。私を悪く言えば、怒ってやってきそうだけど来ない。
「・・・どうしても、会わせてもらえないですか?」
肇の両親は頷いた。
「それなら、せめて文通だけでも・・・それと、この笹餅は、肇の好物だから作ったんです。また作ってほしいと頼まれて、渡してもらえませんか」
笹餅の包みを母親の前に出すと、一度受け取り地面に落とし、踏みつけられた。母親が足を離すと今度は父親が踏みつけた。踏みつけられた笹餅はぐちゃぐちゃで見るのも辛い。
「貴方からの贈り物なんて渡すはずないでしょう。文通もさせないわ。穢れる」
「もう家には来るな」
そこで引き戸がピシャリと閉められた。
「待って下さい!開けて下さい!!」
引き戸を叩くが、無視される。
 私は諦めて、ぐちゃぐちゃの笹餅を拾い上げる。そのまま自分の家に帰ると、自室に行き、腰を降ろし、持って帰ってきた笹餅を見て涙が零れ落ちる。
『時子の笹餅が一番美味しい。また一緒に食べたい』と言ってたのに。
叶わない。肇は、どこまで知ってるのかな。さっき家にいたなら、聞こえてるはずだから、また親に何か言うのかな。そしたら、また会えるのかな。
そのことを考えてる自分に自嘲する。前は『肇と両親が、これ以上溝を深めてほしくない』と言ってたのに。自分が困ると、また肇に頼ってしまう。
肇の両親は充分過ぎるくらい、私と肇を会わせるのを許した。もう我慢の限界がきたんだろう。
こんなことになるなら、私をどう思ってるか聞かなければよかったな。肇が私の気持ちを知ってても否定すればよかった。両想いで嬉しかったのは、ほんの一時。そうは思っても気持ちは簡単に消せない。いつか平気になるかな・・・・・。

 その日から、肇の家に行かなくなった。行っても、門前払いだろうし、肇から来ることもないだろう。
自然消滅かな。
その夜、窓から音がして開けると窓枠の淵に封筒が置いてある。辺りを見回すが誰もいない。封筒を手に取り、差出人を見て目を見開く。肇からの手紙。
急いで窓を閉める。持っている手が震え、心臓の鼓動が早くなる。私は落ち着くまで深呼吸をして、封筒を開ける。

《時子。
この手紙を読んでいる時には、もう俺はあの家にはいない。もしくは、この村からいない。朝になれば分かるだろう。
俺と両親は、この村を出た。行き先は告げられない。理由は、両親の勝手な考えのせいだ。
時子が俺に会えなくても、何度も家に訪れてたことは知ってる。時子に会いたいと言えば殴られ、家に来ている時は、玄関に行けないように縛られていた。
笹餅を作ってくれたのに、酷いことになって、すまない。文句を言えば殴られるのは分かっていたが、我慢できずに両親に罵声を浴びせた。親に、あれ程の罵声を言ったことはなかったから、唖然としていたよ。
時子と最後に会った日。両親が、引越しを検討していることを数日前に盗み聞きしたんだ。まだ、決定ではなかったし、白紙になってほしかった。でも、様子がおかしいのを見せてしまったから、時子も気づいたんだろう。聞きたいけど、俺の母が近くにいるから、聞けなかったんだよな。
俺は、あの日、お互いの気持ちを伝えて後悔している。両想いと分かって嬉しかったけど、会えなくて、文通もできないなら、あんな言動すべきじゃなかった。
それと、俺が怪我したことは、時子のせいじゃない。周りがなんと言おうと、俺にこの先何かあろうと、自分を責めないでくれ。
俺のせいで、たくさん苦しめて、傷つけて、すまない。
時子の為に作った折り紙の鶴を、捨ててもかまわない。俺のことを憎んでもいいし、忘れてもいい。この手紙も破り捨ててもかまわない。
最後に、身体に気をつけて過ごせよ。時子に幸せが訪れますように。
               井上肇》

 泣くのを我慢しながら、手紙を読んだ。読み終わると涙が溢れた。一度目を通してるのに、また読んでしまう。読めば読むほど辛いのに、どうしてだろう。受け入れたくないから?
でも、村にいないのは事実だろう。すぐにでも家を出て、肇の家に行きたいが、両親がいて行けない。早く朝になれ。と思った。見たら、また辛くなるのは分かってる。
見たいと見たくない気持ちが交互する。
布団に入り、眠ろうとするが手紙の内容で、なかなか眠りにつけない。何度も寝返りをうつ。私は布団を頭から被った。やけに長く感じる時間。何度か眠っている時間はあったが、浅い眠りを繰り返してた。
夢で肇が出てくることがあった。肇が少し離れた所にいて、背を向けて離れていく。私は追いかけてるけど、少しも距離は縮まらず、距離は広がり見えなくなった。
他にも肇の夢を見たけど、やっぱり肇は近くにいることはない。
そのたびに、目を覚まし、呼吸が荒くなる。夢への恐怖心を抱きながら、枕を濡らし、再び眠りにつくのを待った。
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