愛の形

来栖瑠樺

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第一章

水面下

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 翌朝、両親の止める声を無視して、肇の家に向かった。そこには、人の気配はなく、外に置いてあった作業道具もない。雨戸は全部閉められている。
「肇!」
大声で呼ぶが、反応はない。
「貴方、肇君の幼なじみの子でしょ」
声の方に視線を向ける。村の住人だけど誰かしら。顔は見たことある。
「はい」
「あーやっぱりね。貴方と遊んでるの見たことあるし、幼なじみも聞いたことあるよ。それで、肇君ならご家族と一緒に村を出たよ」 
「どこに行ったのですか?」
「さあね。私は、たまたま荷作りしてるのを見かけて、声をかけた。そしたら、肇君のご両親が、この村には、疫病神がいるから安全な場所に行くとだけ言ってたよ」
「・・・・・」
「嫌だね。疫病神なんて・・・貴方、肇君から何も聞かされてないの?幼なじみなのに」
不思議そうに私を見ている。
疫病神は、私のことを言ってる。私が、何度も肇の家に行かなければ村に残ってくれたのかな・・・。
いや、肇に怪我をさせてる時点で、疫病神なんだ。
肇は、両親がそう思ってることを知ってるけど、私がさらに傷つくから、そのことを書かなかった。肇の想いが改めて伝わって、胸が締め付けられる。
「大丈夫?」
ずっと黙ってる私が心配になったのか、声をかけられたが、答える余裕がなく、その場を後にした。


 自室に引き篭もり、泣き続け、食事もまともに摂れない日々が続いた。
しばらくして、両親が話があると言って、部屋に入って来た。
「時子。もう悲しむのは止めなさない」
「そうよ。肇の家族は、もう戻ってこないわ」
「・・・・・」
両親は、どこか安心してる顔。
どうして、そんな顔してるの?
「貴方に言うか迷ったけど、これ以上無駄な涙を流してほしくないから言うわ」
「そうだな。いつまでも、そんな姿では、いつ噂になるか分からないし、店の経営に影響があると困る」
「二人とも、何を言ってるの?」
私の問いに両親はお互いを見て頷いた後、言われた内容は衝撃的だった。

 肇が、怪我をした日から村を出るまで、肇の両親が慰謝料を請求し続けてきて払っていたこと。時子に、肇にもう会わないように言い聞かせると言っても、それだと肇が、親が時子に何かしたと思われるから言うな。後に、肇と会わせないようにしても、しつこいし、挙句に肇から罵声を浴びせられたと言い、請求額は上がった。
時子は疫病神だから村を出る。資金援助まで言われた。断れば、お宅は商売繁盛で裕福だろう。援助しないなら、時子を疫病神として村中に言いふらすと言われ、お金を渡すのは、これが最後だと言って払った。
自分の知らないところで、こんなことが起きていたなんて。
頭が真っ白だ。しばらく呆然としてたと思う。
「時子」 
母に肩を揺さぶられ、現実に戻る。
「肇は知らないと思うわ。自分のせいで、こんなことになったなんて」
「肇の家族が村にはいないと広まる前、時子はすぐに家を出て行ったな。知ってたのか?それと、誰かに何か言われたか?」
「嫌な感じがしたから見に行っただけよ。そしたら、もう村にはいなかった。後、村の住人で見覚えはあるけど名前は知らない人が、肇の家族は村を出たことと、理由は、この村には、疫病神がいるからと言ってたと聞いたわ」
私は、肇の手紙は言わなかった。言ったら没収されると思ったから。
「あの親は、どこまでも根が悪い。時子。その時に話した村の住人の見た目を詳しく教えなさい」
「え」
「早く」
父が、憤怒しているのが伝わる。こんなに怒っているのは初めてだ。
私は、その人の見た目を詳しく伝えた。伝え終わると父は立ち上がり、こう言った。
「時子。肇のことは忘れなさい。一人で過ごしては、いろいろ考えてしまうだろう。ちゃんと食事を摂り、体力が戻ったら店を手伝いなさい」 
そう言って部屋を出て行く。
「時子。食事を持って来るわね。店の空き時間ができたら、様子見に行くから」
そう言って母も出て行った。

 今の気持ちをどう表現すればいいのだろうか。
複雑。簡単に言えばその一言。
でも、実際は、いろいろなことを思ってるけど、整理ができていない。この気持ちを誰かに言うことができない。親でさえも。
自分の心の中で、時間をかけて整理していくしかない。
私は、いろいろと迷惑を・・・
『自分を責めないでくれ』
肇の手紙に書いてあった言葉が脳裏を横切った。
肇は、今後のことも予想してたのかな?
肇、どこにいるの?
会いたいよ。話を聞いてほしいよ。
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