ある復讐とその後の人生

来栖瑠樺

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第5章

クリスマスパーティ

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   「あ~、やっとテスト終わった~」
「真理奈のテスト前だけ勉強するのも終わったな」
「琉斗うるさい。紅音は勉強したの?」
「してない」
「嘘!してる!勉強できる人に限って、勉強してないなんて言うじゃない!」
そう言うものなのか?テスト前の世間に関しては知らない。
テスト期間が終わり、もうすぐ冬休みだ。その前にテストがある。
琉斗が言うには、真理奈は、直接に詰め込むため、終わったらすぐに忘れるらしい。
琉斗は普段から、それなりに勉強してるらしく、真理奈の勉強に付き合わせられているらしい。
私は、大学の勉強も終わっているため、特にする必要がない。

   「ところでさ、もうすぐクリスマスじゃない。あたし達の家でクリスマスパーティしようよ」
「良いな、それ」
「紅音も参加ね。せっかくだから、翼も呼ぼうよ。あとは、クリスマスプレゼント交換もしよう」
真理奈の提案に、琉斗は賛同するが、問題がいくつか出てくる。
「行けたら行く」
「ダメ!絶対!」
間髪を容れずに絶対と言われても、任務が入ると行けない。それは、翼も同じことだが、この2人には言えない。
ボスに頼めば、何とかしてくれる気はするが・・・。
   「ねえ、プレゼントは、どう言う系がいいの?」
「それは、特に決まりないぞ」
「・・・」
「プレゼントの中身は、サプライズだからね。買いに行くときは1人じゃないなら、パーティに参加しない人と買いに行くのがいいね」
「・・・難しい」
「まだ時間あるし、ゆっくり考えればいいと思うぞ」
会話はそこで終わってしまった。楽しみにしている2人を見ると、強く否定もできない。
 ボスに言うと許可が出たので、クリスマスパーティに参加が決まってしまった。
1番の問題はプレゼント探し・・・。
結婚式のお祝い品は、翼と一緒に買いにいった。今回はサプライズだし、1人で考えるのか。苦手だ・・・。

 その日、自分の部屋に戻ると、owlに電話をした。そしたら、ワンコールで出た。
「もしもし」 
「話があるから、私の部屋に来い」
「今すぐ行きます!」
言われた瞬間に、電話を切られた。そして少し時間が経つと、廊下がバタバタとうるさくなり、バンっと音を立てて開かれるドア。そして、肩で息をしながら、部屋に入り、ドアを閉めるowl。
「お前、ノックしないで入ってきたな。失礼な奴だ。それに、全力疾走してどうする。ムダに体力を使うな」
「紅音に呼び出されたら、急がずにはいられない。ノックしなかったのは、ごめん」
多少は落ち着いたようだ。
「ここは組織だぞ。コードネームで「2人きりのときは、名前でいいじゃないか。喋り方も含めて。喋り方は、いつも通りがいいなら、今までのいい」
owlは私の言葉を遮った。確かに2人きりだし、コードネームで呼ばなくても、問題ない。喋り方も私が上だから、命令口調ばかり。これからの翼に、その口調は違うと考え、言い返さなかった。
   「じゃあ、翼。早速本題に入るよ」
チラッと翼を見れば、軽く笑って私を見ている。
名前の呼び方と口調を変えただけなのに。笑う要素あるのか?と疑問に思ったが、言わずに話を進める。
「じつは、真理奈と琉斗からクリスマスパーティに誘われた。それで、翼も誘ってほしいと言われている。ボスには許可もらっているけど、行く?」
「・・・行く」
「間がある。嫌なら行かなくてもいいよ」
「行く。嫌じゃない。紅音も行くんだろ」
「行く」
嫌じゃないと言うくせに、ちょっと不貞腐れてないか?
「そう。それで、クリスマスプレゼント交換をすることになっているから、用意しないといけないんだよ。ちなみに、プレゼントの決まりはない。あ、プレゼントを誰かと買いに行くときは、同じパーティに参加しない人と買うのがいいらしい。サプライズになるからと言われた」
「分かった。じゃあ、今度一緒にプレゼント買いに出かけよう。店外にいれば、買ったもの分からないし、いいだろ」
「一緒に出かけるの?」
「嫌なのか?」
「嫌じゃない」 
「日程は後で伝えるよ。じゃあ、任務に行かないといけないから。俺は、これで」
「もう行っちゃうんだ・・・」
「紅音?」
そこで、ハッとした。何を言っているんだ。自分は。任務なんだから、時間になったら、行くのは当たり前だろう。
「なんでもないよ。任務いってらしゃい。気をつけてね」
「いってくるよ。紅音も任務のとき気をつけろよ」
翼は、私の頭に軽く手を置いた後、部屋を出ていった。その後、翼が何を思っていたのか知らずにいた。

***
 紅音に電話で呼び出されて、全力疾走で向かった。令和の切り裂きジャックの件で、紅音を見かけることが減った。ターゲットを尾行してたり、任務完了後は、殺し屋本部に行ったりで、紅音はバタバタしていた。ようやく落ち着いて、紅音から電話があったのだから、急がずにはいられず、ノックもせずに、部屋に押し入ってしまった。
 クリスマスパーティを聞いたときは、紅音と2人きりで過ごせたら良かったのにと思った。しかし、紅音の大切な友人達の誘いなので、断るのは良くないだろうと思い、気持ちを隠した。
 俺が、任務に行くことを伝えると、紅音は、少し寂しそうな顔をしていた。そんな顔をされると離れがたくなる。しかし、任務のため拒否はできない。紅音も分かっている。紅音の名前を呼べば、なんでもないと言われ、送り出してくれた。きっと、自分が、どんな顔をしているのか分かっていないだろう。俺は、紅音の頭に軽く手を置いて、首元を見て部屋を出た。俺とおそろいのネックレスを、あの日からずっと付けてくれている。
 戻ったら、紅音と買い物をする。そのために、今は任務に集中しよう。俺は、自分のネックレスを握りしめた。


 1週間後、私と翼の休みの日が重なり、クリスマスプレゼントを買いに出かけることになった。
「本当に今日行くの?」
「逆に悪いのか?」 
「私は悪くないけど、翼は、今回の任務ちょっと長めだったでしょ。終わった後の最初から休みだから、疲れてるんじゃないの?」
私が翼の顔を見るために、見上げると顔を逸らされた。
「疲れていない。俺より紅音の方が任務の数多いんだから、そっちの方が疲れてるんじゃないのか?」
「疲れていない。ハードなのは慣れてる」
「俺のことより、自分のことを大事にしろよ」
呆れた表情をされる。任務のスケジュールは慣れているし、自分を大事にしろって言われても難しい。
休みは、今日じゃなくても被る日はある。しかし、パーティが近い日で、欲しい物が売り切れるかもしれないとのことで今日になった。
「とにかく行くぞ」
そう言って、手を握られた。私が、握られた手を凝視していることに気づいた翼は、困ったように笑った。
「・・・ああ。ごめん。嫌なら言ってくれれば、やめる」
「別に、このままで良いよ」
「じゃあ、行こう」
嬉しそうに歩き始めた翼は、私の歩幅を合わせてくれる。
歩き始めて、周りがチラチラ見てくる。
なんだ?私達に何かあるのか?
そう思っていると、チラチラ見てくる人達から「美男美女カップル」と聞こえた。私達は、カップルに見えるのか。
「翼。皆が私達をチラチラ見て、美男美女カップルって言ってるのが聞こえた。美男は合っているけど、美女は間違ってる。皆、眼科に行った方がいいと思う」
それを聞いた翼は、溜め息をついて、一旦足を止め、私を見た。
「それを言うなら、紅音が眼科に行け」
「は?」
「いつになったら、自分の容姿に自覚するんだよ。紅音はもっと、自分の魅力に気づいた方がいい。分からないなら、もう自分の容姿のことを言うな」
そして、また歩き始めた。
それを言うなら、美男美女カップルは当てはまっていると言うことなのか。とりあえず、今は黙っておこう。

 歩き続けて、ショピングモールに着いた。2人ともプレゼントを買う物が、ここに揃っている。ここからは別行動で、後で合流することになっている。
「ここからは、別行動だが、変な奴に言い寄られても付いていくなよ」
「子供に言い聞かせるようなことを言わないで」
「そう言う意味じゃない」
「とにかく分かったから、1時間後にここに集合ね」
「なんか分かってなさそうで不安だ。じゃあ、またな」
まだ、不安を払拭できてないようだが、手を離し、エスカレーターに乗り上がっていった。

 私も、目的の店まで歩いていく。私が買いにきたのは、アロマキャンドルだ。プレゼントは悩んだ。
誰に当たっても、使える物がいいだろう。アロマキャンドルなら、疲れたときに、多少は癒しになると思ったから。
 店内に入れば、様々な香りのアロマキャンドルがある。
どう言う系がいいだろう。
店内をウロウロしていると、店員に声をかけられた。
「何かお探しですか?」
「・・・特に決まってないんですけど、クリスマスプレゼント用に」
「良いですね。渡す相手は、彼氏さんですか?」
「いえ、友達と・・・」
「友達と?」
「友達です」
翼は友達ではない。かと言って関係性を聞かれると、なんと言うのが正しいのか分からない。しかし、店員に説明する気はないし、友達で押し切った。おすすめの商品を教えてもらい、ラッピングしてもらって、翼との待ち合わせ場所に向かう。まだ、翼は来てなかった。時間は余ってるし、他の店を見ようかと思ったが、1人で見てもつまらない。私は近くの椅子に座り、翼を待つことにした。

   「ねえ、お姉さん美人だね」
声の方を向けば、知らない男2人組。そのまま無視する私。
「無視しないでよ。さっきから見てたけど、ずっと1人じゃん。俺達と遊ぼうよ」
面倒だ。手を出せば、余計に面倒になるよな。睨めばいいか。それを、周りに見られたら、私の印象は悪くなるだろう。私だけならいい。しかし、戻ってきた翼も、印象悪くなってしまうだろうか・・・。
「連れがいるから」
それだけ言って、すぐに目を逸らした。
「連れ?そんな嘘つかな」 
男達の言葉が途中で止まったため、また視線を戻せば、顔が真っ青になっている。
すると、頭上からの声が聞こえた。
「俺の連れだから」
振り向こうとしたら、頭に手を置かれて阻止される。
男達は、そのまま、どっかに去っていく。
頭に置かれた手はなくなり、視界に入ったのは、隣に座ろうとしている翼だ。
「やっぱり、変な奴に言い寄られてる」
眉間に皺を寄せて、私を見ようとしない。
「付いていってない」
「当たり前だろ。それより、紅音なら、睨んで追い返すのかと思った」
「あー、それは」
「それは?」
「睨んで追い返そうとしたけど、周りが見てたら、私の印象が悪くなる。それは別にいい。でも、戻ってきた翼が私と関わったら、翼の印象が悪くなるかと思って、何もしなかったんだよ」
翼は戻ってきてから、ようやく私を見た。
「・・・俺のためか。俺は、そんなこと気にしてない」
「・・・そっか」
いらない気遣いをしてしまったと思った。
「でも、嬉しかった。紅音が俺のことを思ってくれたことが」
翼の手が伸びてきて、また頭に手を置くのかと思った。そしたら、頭を撫でられる。頭を撫でられるのも、悪い気はしない。
 そういえば、翼はさっきの男達を睨んで追い返したんだろう。
でも、こっちに見せようとしなかったのは、なぜか?
疑問は残っているけど、今は心地良いから、聞くのはやめよう。
 その後は、ショピングモールを散策して外に出た。すると、街中が輝いている。
「今頃は、イルミネーションの時期だな」
「そうだね。こうして、ゆっくり見るのは久しぶり」
いつも、外に出るのは任務のときくらい。しかし外に出ても、明るいところは避けているため、実際に見るのはほとんどない。
「また、来年も2人で来よう」
「うん」
また来年か。1年後の楽しみができた。
イルミネーションを見ながら帰り道を歩く。
繋がれた手と心に温もりを感じながら。

 当日、翼と一緒に、新しい住まいのマンションに向かった。
「新しい住まいになったんだな」
「令和の切り裂きジャックの好きな人が、真理奈だからね。写真をいっぱい撮って、同じマンションに引越ししていたから、無理もないよ」
「そうだな。あの2人も災難だ」
「これからは、幸せになることを願うよ」
「そういえば、もうすぐ結婚式だったな。紅音は、参列するんだろ。新郎新婦になる2人の写真を撮ってきてほしい」 
「分かった」
翼は、あの2人で会う回数は少ないが、悪い気はしていないようだ。琉斗と会話しているのを、よく見かける。口には出さないが、楽しみにしてるし、祝福しているだろう。

 そして私達は、新しいマンションの玄関まで来た。新しいマンションはオートロックだ。部屋番号を押し、インターホンで来訪したことを伝えると、開けてくれた。
部屋まで行くと、先にドアが開いた。出迎えてくれたのは、琉斗だ。
「よく分かったな」
「そろそろかと思っただけだ」
翼は、先にドアが空いたことに驚いていたが、琉斗は澄ました顔で答えた。先に私達が部屋に入り、リビングに向かう。ドアが開いたときから思っていたが、美味しそうな匂いが漂っている。リビングに着けば、お肉、ケーキ、お菓子、お酒が並んでいる。私達も何か持っていくと言ったが、プレゼントだけ用意をすればいいと言われてしまった。
「紅音、翼。いらっしゃい」
リビングのソファーに座っていた真理奈が、立ち上がり歓迎の言葉をくれる。
「じゃあ、早速パーティ始めるから、2人とも座って。あ、プレゼントは、こっちで預かる」
後ろに続いてやってきた琉斗が、私と翼からプレゼントを預かり、少し離れた棚に置く。そこには、別のプレゼントが2つ。すでに置いてあった。
全員着席すると、それぞれお酒を手に取る。
「皆、用意はいい?それじゃあ、いくわよ!」
「「「「メリークリスマス!」」」」
真理奈の合図に合わせて、全員で掛け声。
クリスマスパーティが開幕し、それぞれ、呑んだり、食べたりしている。
「2人とも、遠慮せずに食べろよ」
「そうだよ。特に紅音は、しっかり食べるんだよ!細いんだから!」
2人に言われるまま、食べようとは思うが、どれにするか迷う。
「ほら」
横から差し出された皿。皿には、お肉やサラダなどオードブルに並べられている料理が、盛られている。私がその皿を受け取ると、次はケーキを取ってくれ、私の手前の空いてるところに置かれた。
「ありがとう」
「どういたしまして」
「次は私がする」
皿を取り、お肉を多めに盛り、ケーキを別の皿に置く。
「はい」
「ありがとう」
メインが盛られている皿を渡し、空いているところに、翼の分のケーキの皿を置く。私と翼はお互いの分を、それぞれ盛り付けた。その様子を見ていた真理奈と琉斗から、凝視されていることは、2人とも気づいていたが、知らないふりをした。

 パーティが開始してから、しばらく経った頃だ。
「そろそろ、プレゼント交換を始めるから 」
琉斗が、立ち上がりプレゼントが置いてある棚に向かう。棚からプレゼントと、上に穴が空いた箱を持ってきた。
「翼から順に箱を回していくから、1枚紙を取って。もし、自分のプレゼントが、当たったらやり直し。紙取った後、開かないでね」
真理奈に言われた通り、1枚紙を取って、箱を回していく。袋には、番号の紙がとめてある。
そして、最後に一斉に紙を開く。
プレゼント交換の相手はこうなった。
紅音は①の紙→真理奈のプレゼント
琉斗は②の紙→翼のプレゼント
真理奈は③の紙→紅音のプレゼント
翼は④の紙→琉斗さんプレゼント
そして、プレゼントが全員に行き渡り、それぞれ開けていく。
「紅音のプレゼント可愛い!アロマキャンドルだ!近々使う!」
「翼のは、爽やかな香りのバスタブセットだ。今夜から使わせてもらう」
「琉斗のは、ハンドクリーム。この時期は、特に活躍するから助かる」
「真理奈のプレゼントは、マグカップが2つある」
「「「・・・」」」
今まで賑わっていたのに、急に静かになり、全員が私を見る。
「なに?」
「誰と?」
「気になる」
琉斗と翼の言葉に首を傾げる。
「それペア物だよ」
真理奈が、2つある意味を教えてくれた。
「うん。そうだよね」
しかし、問題はペア物だが、誰とすればいい?
いっそ、気分で変えようかな。
「翼とペアで使えば、良いんじゃないか」
琉斗は、私と翼を交互に見た。
翼とベアのマグカップ?嫌ではないが、翼は使うのか?
「・・・使う?」
「使う」
翼に問いかければ、即答だ。
「俺はコーヒーで、紅音は紅茶だな。コーヒー飲めないからな」
「うるさい。一言多い」
からかうように笑う翼を睨んでも、表情は変わらない。
 その後、真理奈に呼ばれ、翼と琉斗から距離をとった。
「ねえ、最近、翼とはどうなの?」
「・・・どう?か・・・・あ、クリスマスプレゼントの買い物が終わった後に、イルミネーション見た。来年も2人で来ようって言われた」
「ええ!良いじゃない!!」
「声が大きい」
「ごめん、ごめん。他は?」
「・・・ナンパを助けてもらって、手を繋いだ」
「やっぱり良いじゃない!ねえ、紅音は気づいてる?」
「なにが?」
「2人とも、お互い見る目が優しいとこ。あとは、紅音は無自覚かもしれないけど、翼にも色んな表情を見せているよ。特に笑っていることが多い」
それを聞いて、目を見開く。私が翼に色んな表情を見せてる?
「・・・」
「頑張ってね」
真理奈は、翼と琉斗のところに戻っていく。後を追うように私も付いていき、元の席に座る。
「なに話してたんだ?」
「内緒」
真理奈との会話が気になる翼が聞いてきたが、私は答えなかった。
しばらく経ってから、パーティはお開きになり、翼と手を繋ぎ一緒に帰った。

 組織に戻り自分の部屋に着くと、翼にペアのマグカップを渡し、別れようとした。
「すぐに戻るから、部屋で待ってて」
マグカップを受け取ると、翼はどこかに走っていく。
私は、言われるまま自分の部屋のソファーに座り、待っている。
待っている間、せっかくだから、プレゼントで貰ったマグカップに紅茶を注ぐ。
外の寒い空気で冷えた体が、温かい紅茶で暖まってくる。
 すると、部屋のドアがノックされた。待っててもドアが開かないので「どうぞ」と声をかけた。開かれたドアには、予想通り翼がいて部屋に入ってきた。
「今日は、ドアをノックしたんだね。しかも、入室の許可待っていた」
「常識だからな」
「その常識は、今までないことが多かった」
翼は、気まづそうな顔をして、立ち尽くした。
「とりあえず、座れば?」
言われるまま座った翼は、先程渡したマグカップにコーヒーを入れている。それをテーブルに置いた。
   「それで?」
「え?」
「何か用事があるんじゃないの?」
「ああ。これ」
何かが入った袋を渡される。
「これは?」
「開ければ分かる」
言われた通り、袋の中の箱を開けると。
「スノードーム」
スノードームの中には、雪の中にクリスマスツリーと家が入っている。下の方にある、つまみを動かせば、クリスマスソングが流れた。私は、色んな角度から眺めた。
「可愛い。綺麗。ありがとう」
翼に笑顔でお礼を言うと、顔を逸らされた。
「私、変な顔している?」
真理奈に、色んな表情していると言われた。笑えてなかったのか。変な顔だから見れないとか?
「していない!」
「じゃあ、なんで顔を逸らすの?」
「それは・・・・・可愛いから・・・いつも可愛いけど、さっきの笑顔はヤバかった」
よく見ると、耳まで真っ赤になっている。
それより、いつも可愛いと思われているとは・・・笑顔がヤバい・・・。
言われると、こっちも少し照れる気がする。
まさか、翼みたいに顔が赤くなっていないよな。なっていたら、恥ずかしすぎる。
   「そ、そう。これは、クリスマスプレゼント?」
「そうだ」
お互いに恥ずかしくて、話題を変えると顔が向き合う。
「私、何も準備してない」
「いいよ。気にしてないから。じゃあ、もう遅いから、俺は帰るよ」
「おやすみ」
「おやすみ」
翼は、自分のマグカップを持ち、ドアに向かって歩いていく。私は、後ろから付いていき、見送った。
翼が帰った後、止まった音楽を再度流し、紅茶を飲みながら、スノードームを眺めた。

 これから、何が起こるか知らずに。
未来なんて分からない。誰が、あんな未来を予想しただろうか。
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