ある復讐とその後の人生

来栖瑠樺

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第7章

関係者

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   「あー、やっと来てくれた」
男は、くたびれたスーツを着ており、虚ろな目で私を見ている。
任務でターゲットは、ここに出没する確率が高いため来たが、いつも殺す奴と違う。
今までは、死に恐怖を感じて命乞いをしたり、逃げたりする奴が多かった。
しかし、この男は真逆だ。殺されることを願っている。
「君が、僕の死神さん?」
「死神ではない。お前、今までのと違う。死にたいのか」
「そうさ。殺してくれるのは君だね。殺し屋さん」
「なぜ、私だと?」
男は自嘲した。そして、間を置いてから言った。
「だって僕が依頼主だから。自殺する勇気がないから、代わりに殺してくれる人を探してたんだ。君がここに来たのは、僕を殺すためだよね」
「・・・」
「変わってる奴だと思うだろう。僕はね、人生にうんざりしているから、終わりにしたいんだよ。ごめんよ。こんなこと君に言っても、くだらない話だけど、最後くらい誰かに聞いてほしい。もうちょっと僕の話に付き合ってくれるかな」
「それで気が晴れるなら」
「優しいね」
「思い残しは少ない方がいい気がする」
男は軽く笑った。
「じゃあ、お言葉に甘えて。僕の家庭は、父が自殺してから、母は、それが原因で気が狂って、精神科に入院中。家族のことも分からない。
僕は、営業の仕事なんだが、全く向いてなくて、ノルマが達成できない。転職しても、上手くいかない。もちろん恋人もいない。毎日、職場の人と母に罵倒され、実家に帰って寝る。その繰り返し。希望なんてない。慰められたって惨めになるだけ。だから、生きるのが嫌になって死ぬことにした。僕が死んだって、誰も悲しまない。でも、僕は臆病者で自殺ができないから、殺し屋に依頼したってわけさ」
「そうか」
「僕のこと軽蔑する?人生が嫌になったからって、母を残す奴だよ」
「軽蔑しない。世間の目なんて気にするな。終わり方にルールなんてないだろ。あまり手の込んだやり方でなければ、希望の死に方にしてやる」
「殺し屋は、冷たい奴ばかりのイメージだけど、君は違うね。さっきも言ったけど、優しい。ある意味殺し屋ぽくない」
「・・・希望の死に方はあるか」
「一撃で死ねるのがいいな」
「分かった」
「これで、全員揃った」
「どう言う意味だ」
「ある事件に関わった奴らの子供達が、皆殺されてる。家族がいる奴は、ソイツらも」
「ある事件?」
「僕も、その1人なんだよ。どんな事件かは知らない。父が生きてたときに、聞いたことあるだけ。父と複数の人が、ある事件に関わって、自分や家族も危ないから気をつけろと。そのときに、名前も教えてもらったから、最近のニュースを見て驚いたよ。父が言っていた奴らだったから。だから、次は僕の番かなって思った。いつ殺されるか分からないから、自分から申し込みしたよ」
「その言ってた名前と言うのは?」
男に尋ねると、スラスラと名前を言った。それを聞いて驚いた。皆、私が殺した奴らだ。
「あれ?心当たりでも?」
「今の奴らは、私が殺した」
「へえ。そして最後に僕か。偶然なのかも怪しいね」
薄ら笑いを浮かべて、虚ろな目が、僅かに揺れる。
「おい、お前の父親は何か残してないか?なんでもいい」
「さあ?知らないな。あるとしたら、地下室かな。父は、何か隠したい物があると、そこに置いていたから。昔、地下室に近寄って怒られたことある。お礼にならないだろうけど、これを渡すよ。地下室にあるものも譲るよ。その部屋に保管されている物が、価値があるものだと分かる人は、家族にはいない」
男は、鞄からキーケースを取り出し渡した。そして、鍵の説明をしてくれた。

   「そろそろ時間だ」
「そうか。よろしく頼むよ。ありがとう」
男は目を閉じた。それを合図に銃を取り出し、頭に1発撃ち放つ。そして倒れる男。
男の願いは叶った。男の遺体を眺めながら、届かないメッセージを送る。
『お前の父親が、何を残したかは分からない。もし、使える物ならお前は、最後に人助けをした。どちらにしろ、お前は道しるべを1本残してくれた。こちらこそ、ありがとう』

 男を殺した後、ターゲットが、住んでいた家に向かった。室内に入り、懐中電灯を点ける。あまり、掃除や換気もされておらず、埃ぽいし空気が悪い。
 男の言っていた、地下室に続く階段を降り、ドアを開けた。そこには、中央に1つの机と椅子。それ以外は、たくさんの引き出しがある。
これを全部見るのは、骨が折れる作業だな。しかし、ボスに繋がる何かがあれば、そんなことは言ってられない。
 私は、まず机の引き出しから探し始めたが、使える物は何もなし。次に、周りを取り囲むようにある、引き出しの中を見ていく。
中身は、今まで担当していたターゲットの資料のコピーが多かった。通常は、任務が終われば破棄するが、稀に保管してしている奴もいる。本来であれば不正である。不正ではあるが、この中から何か見つけたい。そう思いながら、探していると、ある資料に目が止まる。両親の資料とthreadの家族の資料だ。依頼主は、ボスの名前が書いてある。やっぱりボスが黒幕だった。他の引き出しも、次々と開けていく。しかし、ボスに繋がりそうなものはなかった。でも、両親とthreadの家族の資料が、見つかっただけでも成果になる。私は、地下室の物を元の場所に戻した。そして資料を持って、deadly poisonの、父親の日記と息子宛ての手紙を隠している場所に行き、今回の資料も追加で隠した。

 threadに家族を殺したのが、ボスだと伝えるべきか迷った。
threadは、deadly poisonの、監禁から解放して以降会っていない。
黒幕を教えれば、ボスを殺してほしいと頼むだろう。そして、何か自分も役に立つことをしようとして行動する。それが、ボスの目にとまれば、threadの命が危ない。それに、私の動きがバレる可能性があるし【手放す】に入ってしまうだろう。
threadに黙っているのは、心苦しかったが、今後のためと自分に言い聞かせて、組織に戻った。
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