ある復讐とその後の人生

来栖瑠樺

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第7章

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 愛莉に会ってから3ヶ月経っているが、未だに進展がない。ボスは、基本的に部屋にいるし、外出しても、私も任務や準備などで外出しているため、ボスの部屋を探れない。任務依頼や報告で、ボスの部屋にいるときに、さりげなく周りを見るが、変わったものはない。
そもそも、ボスの部屋にあるのだろうか?
隠し部屋の可能性はあるが、どこから入る?それとも別の場所か?
 自室で考えているときにボスに呼ばれ、部屋に向かう。ノックをして部屋に入ると、いつも通りのボスがいた。
「待っていたよ。Bloody rose」
「そこに座ってくれ」
「じつは、頼みがあって呼んだんだよ」
「なんですか?」
「3日後に、数日間ここを空けることになったんだよ」
ため息をつき、目線を下に向けるボスを、横目で見た。
「それは、今までもありましたよ。そのことと、頼みの関係はなんですか?」
「確かに、今までもあったんだけどね。でも、私が離れることで、ここを守る人がいないんだよ」
「・・・」
「ここ数ヶ月は、ここを離れるとき、Bloody roseも外出だから、ここにいなかった。でも、他にも君には力は劣るけど、ここを守れる人は、組織内に残してたんだよ。でも、今回は運悪く任務が重なってしまってね。組織内には他の人もいるけど、守るまでには力が足りない。だから、今回の君の任務は、他の人に振り分けるから、ここを守ってほしい」
「かしこまりました」
今までも、そう言うことあったな。ボスが、留守になるから調べるには良い機会だ。
「ありがとう。くれぐれも、よろしく頼むよ」
ボスは、私の頭に手を置いてきた。私は、ボスの手を頭の上から退かして頷く。
そして、そのまま部屋を後にした。

 3日後ボスが出かけた。私は、ボスの部屋に続く廊下に人がいないことを確認して、部屋に入った。
まずは、ボスが、いつも仕事している机の引き出しを開けるが、収穫はない。
この部屋に何か仕掛けはないのか?私は、辺りを見回す。しかし、それらしきものものは見つからない。私は、溜め息をつき、ボスがいつも座る椅子に腰を降ろし、たくさん本が並んでいる本棚を眺める。ボスは、時間を見つけると本を読む姿を、何度か見かけたことがある。
 そのときに、数年前の会話を思い出した。それは、ボスが、熱心に本を読んでいる姿を、何気なく眺めていた。視線に気づいたボスが、本から私に視線を向けた。
「君も読むかい?」
「読みません」
「そうかい?本は面白いよ。知識もつくし、新しい価値観や、時には考えさせられるときもあるよ」
「そうですか」
「やっぱり興味なさそうだね。まあ、想定内だよ。試しに、これとかどうだい?若者でも読みやすいよ。小説なんだけど、非現実的になれるかもしれないよ」
「結構です」
「やっぱりね。もし、気が変わったらいつでも言っておくれ。ここにない本なら、手配するよ」
「・・・」
「あ!でもこの本はダメだよ。若者向けではないから。君の場合は、そんな心配しなくていいか。今も興味なさそうだ」
ボスは、ある本を手に取り見せてきたが、私の変わらない興味なさそうな視線に、呆れ顔で、本を元に戻した。
 ボスは、あの本にだけは触らせなかった。あの本に何かあるのか、それとも本の向こう側を隠しているのか。私は、その本の場所に向かい、その本を手に取った。本をパラパラ捲ると、1枚の紙が落ちた。その落ちた紙を見て拾い見てみると、8桁の番号。愛莉に見せてもらった番号と違う。本の中に他の物は入っていなかった。その紙を元のページに戻した。その本が入っていた本棚を見ると、ボタンがある。このボタンを押せば何かあるだろう。

 【この先は行ってはいけない】
誰かに言われたわけではないのに、頭の中で警告するように、何度も繰り返される。
私は、しばらくの間、そのボタンを眺めた。
この先に行けば、後戻りはできないだろう。だけど、危険でもこの先に行かなければ、終わらないと思う。
最悪な結果にならないようにする。
 今まで、数え切れないほどの人を殺してきたが、自分が命を落とすのは、嫌だと考えるとはな。
自嘲した後に、ボタンを押した。すると本棚が動き、隠し通路が現れた。真っ暗で何も見えない。私は、スマホの懐中電灯機能を使って、通路を進んでいく。
 中は1本の廊下だけだ。どれくらい歩いただろうか。しばらく歩くと、1つの部屋へと繋がるドアが現れた。ドアの横には、暗証番号を入力する機械が設置されている。8桁の番号。先程見た番号を入力すると、ドアの鍵が開く音がした。ドアノブに手をかけ、ドアを開き部屋の中に入る。
 そこには、中央に金庫が1つ置かれているだけで、他に何もない。
私は、その金庫の前に立つ。これも8桁の番号が必要だ。次は、愛莉に見せてもらった番号だろうか。番号を押すために伸ばした手は震え、心臓がバクバクする。
【パンドラの箱】開けてはならない。
しかし、人は禁じられると開けたくなるもの。そして、後悔する。その金庫を視界に入れたときから思っていたこと。
私は、意を決して番号を入力して、金庫を解除した。そして、金庫の扉を開け、中身を全て取り出し、目を通す。
中身は、私の両親やその両親の殺害に関わった奴とその家族、threadの家族、真理奈と琉斗の殺害依頼書の原本。ボスに流れる不正賄賂。そして、ボスの名前が刻印されている日記。
日記の中身は、彼の心の中が、赤裸々に明かされていた。
ボスにとって、邪魔になる人物の名前。その人物に対しての殺す理由。
まずは、threadの家族。理由は、裏の世界で1番の情報屋なのに、家族ができてから、仕事が疎かなるところがあるから。私の両親の名前もある。殺す理由は、不正賄賂を、殺し屋の本部に告発されそうになったための口封じ。
私のことも書いてあった。両親を失い、復讐心しかなく、他の感情がほぼない私を殺し屋として育て、こき使う。1番使える駒。
その駒が、大学生活で真理奈と琉斗に出会い、徐々に感情が豊かになっている。友達ごっこしても、心の中はいつも冷たいBloody roseを求めていたのに。余計なものを与えた真理奈と琉斗を死ぬように仕向けた。状況次第ではowlも殺す。そのときも、Bloody roseに殺させる。そうすれば、彼女にとっての大切な人達はいなくなり、完全な廃人。今より、従順な最高な駒になるだろう。
deadly poisonは、Bloody roseの前では、悪態をついているが、折を見て、彼女と復讐を協力しようとしている目障りな奴。彼女の両親を殺害した奴らの家族も、殺しておく。余計なものや危険なものは、早く片付けなければならない。

 私は、日記を読み終えた後に、力強く握り締めていた。ボスが黒幕なのは分かってはいたが、彼の心が記された日記を読んで、憎しみが増す。
なんて身勝手な人間だ。彼が黒幕だと分かるずっと前は、彼に頼ることも何度もあった。周りから避けられる自分に、ボスだけが気にかけてくれたことが、嬉しいと思ったこともあった。少しでも、彼を信用してしまった自分が情けない。
 ここにあるものと、私が集めた証拠を持って殺し屋の本部に持っていく。そして、ボスの殺しを申請すれば、許可されるだろう。本当は、今すぐにでも殺しに行きたいが、幹部のため正当な理由を後出しても、認めてもらえるか分からない。
黒も白に変わるこの世界。私も殺されるかもしれない。死んだら約束が守れない。
 私は、金庫から出した物を集めて、金庫を閉めた。そして、戻るために後ろを向いた瞬間に目を見開いた。
「な・・んで」
「見てしまったんだね。残念だ。君まで裏切るなんて・・・・・。1番のお気に入りなのに・・・手放すのは惜しい。調教が必要だね」
不気味な笑顔で、私を見つめるボスに、背筋がゾクリとした。
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