全てはあの日から

来栖瑠樺

文字の大きさ
11 / 13
第5章

真実

しおりを挟む
***
 俺は、あの日計画を聞いていた。
selfish personが、あの薬を持っていた日に聞いた。
正直計画に納得はできなかった。
なぜ、そこまでするのか。
俺が、何を言おうと計画を実行するだろう。

 俺は、計画が実行されるのを隠しカメラで一部始終を車の中で見ていた。
selfish personが撃たれる様子、そして最後は倒れる姿。胸が傷んだ。
その後、車から降りて廃工場に入っていく。selfish personを撃った男。真木忍は、まだ俺に気づいていない。正直、アイツに銃弾を撃ち込みたい。その衝動を我慢する。
 俺の声に、真木忍は驚いてる。今、俺の存在に気づいたから。
俺は、真木忍を睨んだ後に言った。
「話があるから着いてこい」
「は?」
真木忍は、意味が分からない様子だ。当然の反応だが有無を言わせない。
「いいから着いてこい」
殺気を込めて言ったら、真木忍は後ずさったが頷いた。
俺は、selfish personを横抱きすると歩き出す。彼女の体は、冷たく息もしていない。
そんな彼女を見て、歯ぎしりをした。
彼女の計画ではあるが、悔しい。
彼女は、こんな目に合うべきではない。
真木忍が、知らない真実を伝えなければならないなんて。
それでも、俺は彼女の残したものを伝える。
それが俺ができる、せめてものの気持ちだから。

 俺の後ろを真木忍が着いていき、車に乗り込むと俺の店に向かった。
店に着くと、真木忍に適当なところに座るように伝える。
彼女は、ある部屋に置いてあるベッドの上に降ろす。
そして、真木忍のところに戻り、彼女が残したものを伝えるために、一息ついた後、話し始める。

 「お前が、銃で撃った女のことで話がある」
「矢口麻衣について?あの女は人殺しだ。実際にこの目で見た。俺の婚約者を殺し、5年前は俺の兄を殺した。兄のときは実際に見たわけではないが、あの女が自分で言っていた」
真木忍は、未だに憎悪の目をしている。
「その女を撃ったのに、まだそんな目をしているのか」
「殺したからって、憎しみはすぐにはなくならない。あの女は非道だ、そして人殺し」
俺は歯ぎしりをした。何も知らないくせに。
「確かに、彼女は、お前の兄貴や婚約者の命を奪った。実際は他にもいる」
「ほら、やっぱり非道じゃないか。あの女について何の話がある?それに、お前は誰だ?」
「お前に名前を教える気になれねえな。俺はお前が嫌いだ。でも、彼女のために怒りを抑えてるのが分からねえかな」
すると、真木忍の顔が青くなる。そんな奴を俺は一瞥する。
「恐怖を感じるのは勝手だが失神するなよ。彼女は、無差別で人を殺してないし、情報も渡してない。彼女は、自分のルールに反することはしない」
「・・・ルール?情報?」
首を傾げ、怪訝な表情を浮かべている。
「ああ。彼女は殺し屋兼情報屋だ。彼女のルールは、法で裁かれなかった者、まだ事件化されてないが犯罪を行った者。彼女が殺したり、情報を売るのは、そうゆう奴だけだ。それに、結果的に犯罪者が死んで助かった奴らも多いだろ」
「・・・」
「最近で言うと、売春グループのボスやリーダーが殺されただろ。ソイツらを殺したのは彼女だ」
「あの女が!?」
「ああ。そうだ。他にも、彼女のルールによって裁かれた奴らの資料だ」
俺は、真木忍の前に資料を置く。
真木忍は、目の前の資料を無我夢中で見ている。
そして、独り言のように「この事件も、こっちのも、あの女が・・・」などとブツブツ言っていた。
その後は呆然としているが、まだ聞いてもらわなければならない。俺は「おい!!!」と大声で言うと、我に返った真木忍が、こっちを見る。
「これにも目を通せ」
「これは・・・」
「お前の兄貴は、麻薬の売人だった。お前は気づいていねえが、弟のお前にも摂取されていた」
「は?」
「兄貴から定期的にタバコを貰ってただろ。あの中に麻薬が含まれてた。兄貴が麻薬をタバコに包む作業、売人の仕事をしているとき、お前に渡している写真と、作業してるときの音声はこれだ」
麻薬に関係してる写真と作業の音声から聞こえる声は、兄貴の声や名前を呼ばれるところもある。
「・・・お前、兄貴から貰ったタバコが吸えなくなって、どうなった」
「・・・・・他のタバコじゃ物足りなくて、あのタバコを求めるようになった。でも、どこで買えるか分からないし、体調不良や気分が憂鬱なこともあった」
「お前の場合は、麻薬がなくても、まだなんとか耐えられたんだな。良かったな。お前は2度も、彼女に助けられてるんだよ」
「・・・・・そんな・・あの女が・・・俺のことを2度も助けた・・・・・俺は・・・」
真木忍は、頭を抱え込み表情は見えないが、後悔が滲んでいることは分かった。
「ちなみに、お前の父親は、兄貴の不正を知っているが、権力で揉み消している。お前の周りはロクな奴がいねえな」
「・・・・・」
「お前は、自分を助けてくれた人に酷いことをした」
「・・・どうして、矢口麻衣は、このことを言わなかった」
「さあな。そこまでは俺も知らない。彼女にしか知らないことだ」
後悔すればいい。ずっと後悔の気持ちでいろ。
お前がselfish personを憎んだように、俺はお前が憎い。

真木忍は、しばらく項垂れたまま何も言わず、突然立ち上がって、フラフラした足取りで出ていった。
顔を上げた、あの男の顔は生気はなかった。

***
 廃工場に突然現れた男に驚いた。男は、矢口麻衣の遺体を悲しげに見ている。
矢口麻衣との関係性はなんだ?仲間か?
その後は俺を睨みつけ、着いてくるように言われた。有無を言わせない殺気のこもった声で。
俺は後ずさりしたが、男の言葉に同意し着いていった。知らない店に連れてかれ、適当なところに座るように言われる。
ここはどこだ?
そんなことを思っていると、男は矢口麻衣の遺体を、ある部屋に残すと戻ってきた。

 そして、男から言われた言葉は、全て衝撃的だ。
認めたくないが、証拠が男の言っていることが正しいと物語っている。
俺は、助けられた人達の1人だったのか。それも2度も。
救世主と思っていた人物は、矢口麻衣なのか。
どうして、言ってくれなかったんだ。
この証拠を見せてくれれば、彼女を痛めつけることもなく、5年間も恨むことはなかった。
今となっては、彼女以外誰も分からない事実。

 俺は、その後の記憶は朧気だ。どうやって家に帰ってきたのかは覚えてない。
覚えているのは、父と言い争いをした。兄が麻薬の売人だったことを言えば、父は驚いていた。誰も知らない事実を、なぜ知っているかを聞かれたが、答えなかった。そんな俺に苛立ちを感じたのか、俺の今までの功績は、父のでっち上げだと本人から言われた。警察のトップの息子が出来が悪いと困ると言う理由だ。
正義の欠片がない人が、警察のトップだなんて。
俺は、自ら退職して親子の縁を切った。母とも実際に会って、絶縁を伝えた。母は引き留めたが、この家とは関わりたくない。その気持ちは変わらず、母の制止を振り切った。
こうして、無職になって、どれくらい経っただろうか。

 俺は、今酷い顔をしてるだろうか。どんな顔だろうが、どうでもいい。
信じていた人達には裏切られ、助けてくれた人には酷いことをしてしまった。
恩を仇で返すことをしてしまった。
これから先、誰を信じればいいか分からない。
人間不信になっているかもしれない。
生きていたってしかたない。
俺は首吊り用の縄を作り、椅子に立った。
『矢口麻衣。ごめん』
心の中で彼女に謝った。
そして、椅子から足を離そうと片足動かそうとしたときだ。

「自暴自棄にならないようにって言ったでしょ」
もう聞くことはできないと思った声が聞こえた。
俺は、急いで首吊り用の縄から首を外し、声の方に振り向いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

いちばん好きな人…

麻実
恋愛
夫の裏切りを知った妻は 自分もまた・・・。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

初体験の話

東雲
恋愛
筋金入りの年上好きな私の 誰にも言えない17歳の初体験の話。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

処理中です...