全てはあの日から

来栖瑠樺

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第5章

真実

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***
 俺は、あの日計画を聞いていた。
selfish personが、あの薬を持っていた日に聞いた。
正直計画に納得はできなかった。
なぜ、そこまでするのか。
俺が、何を言おうと計画を実行するだろう。

 俺は、計画が実行されるのを隠しカメラで一部始終を車の中で見ていた。
selfish personが撃たれる様子、そして最後は倒れる姿。胸が傷んだ。
その後、車から降りて廃工場に入っていく。selfish personを撃った男。真木忍は、まだ俺に気づいていない。正直、アイツに銃弾を撃ち込みたい。その衝動を我慢する。
 俺の声に、真木忍は驚いてる。今、俺の存在に気づいたから。
俺は、真木忍を睨んだ後に言った。
「話があるから着いてこい」
「は?」
真木忍は、意味が分からない様子だ。当然の反応だが有無を言わせない。
「いいから着いてこい」
殺気を込めて言ったら、真木忍は後ずさったが頷いた。
俺は、selfish personを横抱きすると歩き出す。彼女の体は、冷たく息もしていない。
そんな彼女を見て、歯ぎしりをした。
彼女の計画ではあるが、悔しい。
彼女は、こんな目に合うべきではない。
真木忍が、知らない真実を伝えなければならないなんて。
それでも、俺は彼女の残したものを伝える。
それが俺ができる、せめてものの気持ちだから。

 俺の後ろを真木忍が着いていき、車に乗り込むと俺の店に向かった。
店に着くと、真木忍に適当なところに座るように伝える。
彼女は、ある部屋に置いてあるベッドの上に降ろす。
そして、真木忍のところに戻り、彼女が残したものを伝えるために、一息ついた後、話し始める。

 「お前が、銃で撃った女のことで話がある」
「矢口麻衣について?あの女は人殺しだ。実際にこの目で見た。俺の婚約者を殺し、5年前は俺の兄を殺した。兄のときは実際に見たわけではないが、あの女が自分で言っていた」
真木忍は、未だに憎悪の目をしている。
「その女を撃ったのに、まだそんな目をしているのか」
「殺したからって、憎しみはすぐにはなくならない。あの女は非道だ、そして人殺し」
俺は歯ぎしりをした。何も知らないくせに。
「確かに、彼女は、お前の兄貴や婚約者の命を奪った。実際は他にもいる」
「ほら、やっぱり非道じゃないか。あの女について何の話がある?それに、お前は誰だ?」
「お前に名前を教える気になれねえな。俺はお前が嫌いだ。でも、彼女のために怒りを抑えてるのが分からねえかな」
すると、真木忍の顔が青くなる。そんな奴を俺は一瞥する。
「恐怖を感じるのは勝手だが失神するなよ。彼女は、無差別で人を殺してないし、情報も渡してない。彼女は、自分のルールに反することはしない」
「・・・ルール?情報?」
首を傾げ、怪訝な表情を浮かべている。
「ああ。彼女は殺し屋兼情報屋だ。彼女のルールは、法で裁かれなかった者、まだ事件化されてないが犯罪を行った者。彼女が殺したり、情報を売るのは、そうゆう奴だけだ。それに、結果的に犯罪者が死んで助かった奴らも多いだろ」
「・・・」
「最近で言うと、売春グループのボスやリーダーが殺されただろ。ソイツらを殺したのは彼女だ」
「あの女が!?」
「ああ。そうだ。他にも、彼女のルールによって裁かれた奴らの資料だ」
俺は、真木忍の前に資料を置く。
真木忍は、目の前の資料を無我夢中で見ている。
そして、独り言のように「この事件も、こっちのも、あの女が・・・」などとブツブツ言っていた。
その後は呆然としているが、まだ聞いてもらわなければならない。俺は「おい!!!」と大声で言うと、我に返った真木忍が、こっちを見る。
「これにも目を通せ」
「これは・・・」
「お前の兄貴は、麻薬の売人だった。お前は気づいていねえが、弟のお前にも摂取されていた」
「は?」
「兄貴から定期的にタバコを貰ってただろ。あの中に麻薬が含まれてた。兄貴が麻薬をタバコに包む作業、売人の仕事をしているとき、お前に渡している写真と、作業してるときの音声はこれだ」
麻薬に関係してる写真と作業の音声から聞こえる声は、兄貴の声や名前を呼ばれるところもある。
「・・・お前、兄貴から貰ったタバコが吸えなくなって、どうなった」
「・・・・・他のタバコじゃ物足りなくて、あのタバコを求めるようになった。でも、どこで買えるか分からないし、体調不良や気分が憂鬱なこともあった」
「お前の場合は、麻薬がなくても、まだなんとか耐えられたんだな。良かったな。お前は2度も、彼女に助けられてるんだよ」
「・・・・・そんな・・あの女が・・・俺のことを2度も助けた・・・・・俺は・・・」
真木忍は、頭を抱え込み表情は見えないが、後悔が滲んでいることは分かった。
「ちなみに、お前の父親は、兄貴の不正を知っているが、権力で揉み消している。お前の周りはロクな奴がいねえな」
「・・・・・」
「お前は、自分を助けてくれた人に酷いことをした」
「・・・どうして、矢口麻衣は、このことを言わなかった」
「さあな。そこまでは俺も知らない。彼女にしか知らないことだ」
後悔すればいい。ずっと後悔の気持ちでいろ。
お前がselfish personを憎んだように、俺はお前が憎い。

真木忍は、しばらく項垂れたまま何も言わず、突然立ち上がって、フラフラした足取りで出ていった。
顔を上げた、あの男の顔は生気はなかった。

***
 廃工場に突然現れた男に驚いた。男は、矢口麻衣の遺体を悲しげに見ている。
矢口麻衣との関係性はなんだ?仲間か?
その後は俺を睨みつけ、着いてくるように言われた。有無を言わせない殺気のこもった声で。
俺は後ずさりしたが、男の言葉に同意し着いていった。知らない店に連れてかれ、適当なところに座るように言われる。
ここはどこだ?
そんなことを思っていると、男は矢口麻衣の遺体を、ある部屋に残すと戻ってきた。

 そして、男から言われた言葉は、全て衝撃的だ。
認めたくないが、証拠が男の言っていることが正しいと物語っている。
俺は、助けられた人達の1人だったのか。それも2度も。
救世主と思っていた人物は、矢口麻衣なのか。
どうして、言ってくれなかったんだ。
この証拠を見せてくれれば、彼女を痛めつけることもなく、5年間も恨むことはなかった。
今となっては、彼女以外誰も分からない事実。

 俺は、その後の記憶は朧気だ。どうやって家に帰ってきたのかは覚えてない。
覚えているのは、父と言い争いをした。兄が麻薬の売人だったことを言えば、父は驚いていた。誰も知らない事実を、なぜ知っているかを聞かれたが、答えなかった。そんな俺に苛立ちを感じたのか、俺の今までの功績は、父のでっち上げだと本人から言われた。警察のトップの息子が出来が悪いと困ると言う理由だ。
正義の欠片がない人が、警察のトップだなんて。
俺は、自ら退職して親子の縁を切った。母とも実際に会って、絶縁を伝えた。母は引き留めたが、この家とは関わりたくない。その気持ちは変わらず、母の制止を振り切った。
こうして、無職になって、どれくらい経っただろうか。

 俺は、今酷い顔をしてるだろうか。どんな顔だろうが、どうでもいい。
信じていた人達には裏切られ、助けてくれた人には酷いことをしてしまった。
恩を仇で返すことをしてしまった。
これから先、誰を信じればいいか分からない。
人間不信になっているかもしれない。
生きていたってしかたない。
俺は首吊り用の縄を作り、椅子に立った。
『矢口麻衣。ごめん』
心の中で彼女に謝った。
そして、椅子から足を離そうと片足動かそうとしたときだ。

「自暴自棄にならないようにって言ったでしょ」
もう聞くことはできないと思った声が聞こえた。
俺は、急いで首吊り用の縄から首を外し、声の方に振り向いた。
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