夫はマウンテンパーカーを欲しがる

成木沢 遥

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「でも……ちょっと言い過ぎちゃったかな」

 スーパーの中で、食材を選びながら独り言を口にする。
 食材を選びながら、さっきのやり取りを思い出していた。
 ちょっと一方的に怒り過ぎたかもしれないと、唐突に反省モードになる。

 ムカついたり、反省したり、起伏が激しい自分が嫌になった。
 でもこれは仕方ない。夫が自己中心的なのも悪いんだ。これはお相子だろう。
 夫は、一度でも私のことを考えてくれたことがあるのだろうか……。
 それを考えながら、店内をグルッと回っている。

 初詣に行きたいと言い出したことだってそうだ。

 夫はまず初めに、金運アップのことを考えただろう。
 いや、そうじゃなくて、第一に家内安全のことを考えてほしかった。

 あの一言によってガックリきたから、つい口をついて喧嘩になってしまった。

 きっと夫は、私なんてただの家政婦くらいにしか思えてないんだろう。

 まあ、家計を支えているのは夫なわけだから、些細なことでへそを曲げるのはいけないことだとは思うけど……今まで散々我慢してきた。
 少しくらい、怒ってもいいはず。
 
 無理矢理自分を肯定するように考えていた時、ちょうどお肉コーナーのところで、考えていたことが一瞬で飛んだ。

「え、ステーキ肉が特売になってる……安い……」

 ……喧嘩したとはいえ今日は記念日なわけだし……何か特別なものを作らないと。
 このステーキ、結婚記念日にピッタリかも。
 私は綺麗なサシの入ったステーキ用牛肉を、迷わずカゴに入れた。

 あとは、頼まれていた缶ビール。
 発泡酒を一度手に取った後、それを置いて生ビールに変える。
 いくらなんでも、結婚記念日の日に発泡酒は可哀想だ。

 その他にも今日のために使う食材を買って、スーパーを出た。
 自転車置き場の前にある宝くじ売り場に目が入る。

 今ならスクラッチで、一等が百万らしい。
 百万あったら、こんな割引のステーキではなくて、人気の鉄板焼き屋さんで良いお肉が食べられるな……頭でそんなことを考えながら、再び自転車を漕ぎ始める。

 ステーキなんて、家で食べることはない。
 いつも質素な食卓だったから、今日の奮発は多めに見てくれるだろう。
 久しぶりに、夫とまったりする時間が過ごせると思う……。
 ステーキ肉を見たら、さっきまでの怒りは、いつの間にか収まっていた。

「ただいまー」

 今日の食材がびっしりと入っているエコバックを、ソファーの上に置く。
 いつもの気怠そうな「おかえり」が聞こえてこなかった。
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