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第二話 多和田佑介の秋
⑧
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その出会いは、朝晩に肌寒さを覚えるようになり始めた秋のことだ。
いつものように、授業を終えてバイト先であるバーに向かった。大学二年の春からバイトを始めたから、かれこれ一年半は働いていた。
学校に友達は一人だけ。唯一の友達である森岡は、俺と違ってキャンパス内に多くの友達を抱えていた。
「多和田、ジントニックおかわり。ってか、今日何時までバイトなの?」
「えーと、今日はラストまでだから、朝五時までか」
「お前、明日の一限またサボる気じゃないだろうな?」
「まあ、行かないよね」
「おい、来いよ! あの授業、多和田がいないとしんどいぞ」
森岡は毎週水曜日に、俺のバーに飲みに来てくれる。何故なら木曜日の一限目にある、地域経済の授業に、どうしても俺を誘いたいから。
地域経済の授業はグループワークで考える時間が多く、だいぶ厄介な授業なのだ。単位に余裕のある俺は早々に地域経済の授業を諦めた。
一方の森岡は単位を捨てる余裕がなく、何とか俺を口説くために店に来てくれるのだ。
「多和田酷いぞ! いつも女紹介してあげているのに!」
「それとこれとは別だろ? 別に俺がいなくても、森岡コミュ力高いから大丈夫だって」
「いや、あの授業だけは特殊だ。オリエンテーションの時にお前がいてくれてどれほど助かったか……頼むから来てくれよ!」
どうしようか、悩みに悩む。一限目は朝九時からで、バイトが終わってからちょっとしか寝ることができない。
確かにいつも、俺のことを誘ってくれるのは森岡だけだし、広いキャンパス内で孤独を感じずにいられるのは、明らかに森岡のおかげだった。
まあ授業に出るだけだ。損をするのは朝の時間だけ。ここまで懇願されたら、さすがに断るわけにはいかないか。
「わかったよ。でも明日だけだからな」
「まじ? ありがとう多和田! また女紹介するからよ!」
「いいって、そんなの」
「じゃあせめて何か奢らせてくれ! 何でも好きなもの飲んでいいぞ!」
森岡の言葉に甘えて、季節のカクテルを自分で作って飲んだ。スパークリングワインをベースに、巨峰の果汁を合わせる。シュワシュワ感と巨峰の濃厚さが、渇いた喉にパンチを効かせた。我ながら、最高の出来だ。
いつものように、授業を終えてバイト先であるバーに向かった。大学二年の春からバイトを始めたから、かれこれ一年半は働いていた。
学校に友達は一人だけ。唯一の友達である森岡は、俺と違ってキャンパス内に多くの友達を抱えていた。
「多和田、ジントニックおかわり。ってか、今日何時までバイトなの?」
「えーと、今日はラストまでだから、朝五時までか」
「お前、明日の一限またサボる気じゃないだろうな?」
「まあ、行かないよね」
「おい、来いよ! あの授業、多和田がいないとしんどいぞ」
森岡は毎週水曜日に、俺のバーに飲みに来てくれる。何故なら木曜日の一限目にある、地域経済の授業に、どうしても俺を誘いたいから。
地域経済の授業はグループワークで考える時間が多く、だいぶ厄介な授業なのだ。単位に余裕のある俺は早々に地域経済の授業を諦めた。
一方の森岡は単位を捨てる余裕がなく、何とか俺を口説くために店に来てくれるのだ。
「多和田酷いぞ! いつも女紹介してあげているのに!」
「それとこれとは別だろ? 別に俺がいなくても、森岡コミュ力高いから大丈夫だって」
「いや、あの授業だけは特殊だ。オリエンテーションの時にお前がいてくれてどれほど助かったか……頼むから来てくれよ!」
どうしようか、悩みに悩む。一限目は朝九時からで、バイトが終わってからちょっとしか寝ることができない。
確かにいつも、俺のことを誘ってくれるのは森岡だけだし、広いキャンパス内で孤独を感じずにいられるのは、明らかに森岡のおかげだった。
まあ授業に出るだけだ。損をするのは朝の時間だけ。ここまで懇願されたら、さすがに断るわけにはいかないか。
「わかったよ。でも明日だけだからな」
「まじ? ありがとう多和田! また女紹介するからよ!」
「いいって、そんなの」
「じゃあせめて何か奢らせてくれ! 何でも好きなもの飲んでいいぞ!」
森岡の言葉に甘えて、季節のカクテルを自分で作って飲んだ。スパークリングワインをベースに、巨峰の果汁を合わせる。シュワシュワ感と巨峰の濃厚さが、渇いた喉にパンチを効かせた。我ながら、最高の出来だ。
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