50 / 114
第二話 多和田佑介の秋
⑳
しおりを挟む
これからいくつもの荒波を乗り越えていくところだったのに、美優に待ち構えているのは超えられそうにない高波だ。
美優の余命宣告を聞いた日の夜、俺は一睡もできなかった。
どうしたら美優とずっとずっと生きていけるかを考えて、全く答えは出てこない。
頭の中が鈍く、靄がかかっているみたいだ。美優は、先の見えない暗闇を歩いている。俺は美優を、助けることができないのか。
病魔というやつは、簡単に幸せを壊す。俺なんかには、美優を救うことなんてできないのかもしれない。
自問自答しながら目を閉じた。少しずつ薄れていく意識。
眠りの世界についたのは、おそらく始発が動き出した時間帯くらいだ。
「おい、多和田! お前、まさか諦めるつもりじゃないだろうな?」
森岡? 何だよ、くだらない理由で姿を晦ましやがって……急に夢の中に現れて、俺に説教するつもりか?
「多和田、お前それでいいのか? 美優ちゃんの方が何倍も辛いのに、お前は闘わなくていいのかよ」
いや、わかっている。わかっているけど、どうすることもできないじゃないか。俺だって、美優を助けられるなら助けたい。でも、物理的に無理だって……。
「確かに、多和田は命を救うことはできない。だけどな、美優ちゃんを楽しませることはできる。あんなに明るくポジティブな美優ちゃんを、悲しませたままにしとくのか? お前が幸せな人生だったと思わせないとダメだろ」
俺が、美優を幸せに……。
残り僅かの美優の人生、美優から逃げるなんてありえない。そうだ、森岡の言う通りだ。
俺が弱気になってどうするというのだ。美優の余命を変えることなんてできないから、だったらそれを受け入れて、残りを全力で生きよう。
「そう。多和田は、独りじゃないからな」
決心した俺を見届けた森岡は、ニコッと笑って霧の中に消えていった。
目が覚めたのは午後一時。俺がスッキリとした頭で起きるのは珍しい。健やかな寝起きだった。
起きてからすぐに、美優にメッセージを送る。
『これからは楽しい思い出だけを作ろう。辛いことなんて、俺が吹き飛ばしてやる! 俺と一緒に、いつか函館に行こうな』
美優の余命宣告を聞いた日の夜、俺は一睡もできなかった。
どうしたら美優とずっとずっと生きていけるかを考えて、全く答えは出てこない。
頭の中が鈍く、靄がかかっているみたいだ。美優は、先の見えない暗闇を歩いている。俺は美優を、助けることができないのか。
病魔というやつは、簡単に幸せを壊す。俺なんかには、美優を救うことなんてできないのかもしれない。
自問自答しながら目を閉じた。少しずつ薄れていく意識。
眠りの世界についたのは、おそらく始発が動き出した時間帯くらいだ。
「おい、多和田! お前、まさか諦めるつもりじゃないだろうな?」
森岡? 何だよ、くだらない理由で姿を晦ましやがって……急に夢の中に現れて、俺に説教するつもりか?
「多和田、お前それでいいのか? 美優ちゃんの方が何倍も辛いのに、お前は闘わなくていいのかよ」
いや、わかっている。わかっているけど、どうすることもできないじゃないか。俺だって、美優を助けられるなら助けたい。でも、物理的に無理だって……。
「確かに、多和田は命を救うことはできない。だけどな、美優ちゃんを楽しませることはできる。あんなに明るくポジティブな美優ちゃんを、悲しませたままにしとくのか? お前が幸せな人生だったと思わせないとダメだろ」
俺が、美優を幸せに……。
残り僅かの美優の人生、美優から逃げるなんてありえない。そうだ、森岡の言う通りだ。
俺が弱気になってどうするというのだ。美優の余命を変えることなんてできないから、だったらそれを受け入れて、残りを全力で生きよう。
「そう。多和田は、独りじゃないからな」
決心した俺を見届けた森岡は、ニコッと笑って霧の中に消えていった。
目が覚めたのは午後一時。俺がスッキリとした頭で起きるのは珍しい。健やかな寝起きだった。
起きてからすぐに、美優にメッセージを送る。
『これからは楽しい思い出だけを作ろう。辛いことなんて、俺が吹き飛ばしてやる! 俺と一緒に、いつか函館に行こうな』
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
BL 男達の性事情
蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。
漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。
漁師の仕事は多岐にわたる。
例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。
陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、
多彩だ。
漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。
漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。
養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。
陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。
漁業の種類と言われる仕事がある。
漁師の仕事だ。
仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。
沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。
日本の漁師の多くがこの形態なのだ。
沖合(近海)漁業という仕事もある。
沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。
遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。
内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。
漁師の働き方は、さまざま。
漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。
出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。
休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。
個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。
漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。
専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。
資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。
漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。
食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。
地域との連携も必要である。
沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。
この物語の主人公は極楽翔太。18歳。
翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。
もう一人の主人公は木下英二。28歳。
地元で料理旅館を経営するオーナー。
翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。
この物語の始まりである。
この物語はフィクションです。
この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる