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第三話 遠山蘭子の冬
⑧
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「遠山さんどうしたの? 悪いことじゃないのに」
「あ、いえ……今は日報を書かなきゃいけない時間だったので、余所見してしまったと思いまして」
「ああ、学生じゃあるまいし、そんなことで怒らないよ。トイレ行く時に、わざわざトイレ行ってきていいですかって聞くかい?」
「確かに、それは学生までですね」
「だろ? 遠山さんは立派な社会人になったわけだ。自主性が大事な社内で、自ら進んで勉強をしていた……怒るどころか、褒めようとしたところだよ」
良かった……怒られないで済んだ。いや、私が彼の営業報告書だけを読んでいるという事実に、勘づかれなくて良かった。
課長に礼を言った後、続きの日報を書こうとする。真剣にやらないと、帰りが遅くなるだろう。
再びキーボードに手を置いて、仕事モードに入ろうとした時、後ろから誰かが私の肩を叩いた。
「え、はい?」
「遠山さん……何か課長から様子見てくれって言われて。何かわからないところでもあるの?」
声が小さく、もさっとした髪型。前髪くらい上げてくればいいのに、どうして目を隠すのか。社内でバリバリ営業を取ってくる先輩とはかけ離れているくらいに暗い。基本俯き気味だけど、顔は悪くなかった。三白眼が特徴的で色白。どちらかと言えば好みな方だ。
そんな彼としっかり話すのは、この時が初めてに近かった。
「あ、いや……今、日報書いていて」
「日報……だから課長は僕を呼んだのか。ど、どこまで書いた?」
「ま、まだ何も」
「そっか……まずは業務内容を箇条書きで書いて、その後に所感を書いていった方がいいよ。まあわかっているとは思うけど一応伝えておくね」
早口でそれだけ言って、そそくさと自分の席に戻ろうとする彼。私は彼に教えてもらったことが嬉しくて、ついその背中を止めてしまった。
「北浦さん!」
「……どうした? まだ何かわからないところある?」
「あ、いや、その……上手な文章の書き方、今度教えてくれませんか?」
周囲に同僚がいなくて助かった。他のみんなは先に帰っていたから、こんなことが言えたのだ。
「あ、いえ……今は日報を書かなきゃいけない時間だったので、余所見してしまったと思いまして」
「ああ、学生じゃあるまいし、そんなことで怒らないよ。トイレ行く時に、わざわざトイレ行ってきていいですかって聞くかい?」
「確かに、それは学生までですね」
「だろ? 遠山さんは立派な社会人になったわけだ。自主性が大事な社内で、自ら進んで勉強をしていた……怒るどころか、褒めようとしたところだよ」
良かった……怒られないで済んだ。いや、私が彼の営業報告書だけを読んでいるという事実に、勘づかれなくて良かった。
課長に礼を言った後、続きの日報を書こうとする。真剣にやらないと、帰りが遅くなるだろう。
再びキーボードに手を置いて、仕事モードに入ろうとした時、後ろから誰かが私の肩を叩いた。
「え、はい?」
「遠山さん……何か課長から様子見てくれって言われて。何かわからないところでもあるの?」
声が小さく、もさっとした髪型。前髪くらい上げてくればいいのに、どうして目を隠すのか。社内でバリバリ営業を取ってくる先輩とはかけ離れているくらいに暗い。基本俯き気味だけど、顔は悪くなかった。三白眼が特徴的で色白。どちらかと言えば好みな方だ。
そんな彼としっかり話すのは、この時が初めてに近かった。
「あ、いや……今、日報書いていて」
「日報……だから課長は僕を呼んだのか。ど、どこまで書いた?」
「ま、まだ何も」
「そっか……まずは業務内容を箇条書きで書いて、その後に所感を書いていった方がいいよ。まあわかっているとは思うけど一応伝えておくね」
早口でそれだけ言って、そそくさと自分の席に戻ろうとする彼。私は彼に教えてもらったことが嬉しくて、ついその背中を止めてしまった。
「北浦さん!」
「……どうした? まだ何かわからないところある?」
「あ、いや、その……上手な文章の書き方、今度教えてくれませんか?」
周囲に同僚がいなくて助かった。他のみんなは先に帰っていたから、こんなことが言えたのだ。
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