坂の上のサロン ~英国式リフレクソロジー~

成木沢 遥

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最終話 相武ミオの春

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「なるほど……幼馴染と付き合い、そして別れたのですね」
「はい。そのショックが大き過ぎて、函館まで来てしまいました」
「自分を見つめ直すのに、旅は最適だと思います。この街は、特に人の心を包んでくれる街です」
 確かに、心が温かくなる。函館はそんな街だと感じた。施術をしてくれている元井さん、街の人だって人当たりがいいし、優しい。
 私はその言葉を肯定し、そして目を閉じた。瞼の中には、優斗との日々が思い出される。
「相武様、その彼のことは、まだ好きですか?」
「好き、というか……彼との将来をずっと考えていたので……なんか、目の前から消えて茫然としてしまっている。そんな感じですね」
「なるほど。区切りはつけたつもりでも、まだ心の傷は癒えていないということですかね?」
「はい、もう、おっしゃる通りで」
 元井さんは私の気持ちを汲み取ってくれて、一緒に考えながら施術をしてくれるみたいだった。
 私に寄り添ってくれる元井さんに、ふと、聞きたくなる。
「男の人って、一人の女性を愛すことは不可能なのでしょうか?」
「え?」
 真剣な眼差しで足裏を見つめていた元井さんが、私の質問によって目を丸くさせた。
 しまった、ちょっと変な質問をしてしまったみたいだ。
「そうですね……」
 質問の内容の意図がわかったのか、考え込むように下を向く。その間も指の動きは止めない。ノールックでも施術ができる。これがプロの仕事みたいだ。
「世間一般に言うと、最初に付き合った人と結婚するみたいなのは、少ない話なのかもしれません。でも全くいないわけではないですよね」
「確かに、知り合いに一組はいるかもしれないレベルですかね」
「そう、だから、可能性としては普通にあり得る話ですよね」
 うーん……優斗と、最後までゴールすることも、あり得た話ではあったのか。
 でも、そこまでいかなかったのは、優斗が私にだけ捧げる人生が嫌だったから。だから、浮気して、別れ際あんなセリフを吐いた。一人の女だけしか知らないで結婚するなんて、耐えられない……それは心からの本音だったと思う。
 優斗は男として、遊びたかったのだ。でも、私という存在が邪魔をした。その葛藤の中で、浮気行為を働かせた。たまたま私にばれてしまったから壊れたものの、もし私がその現場を見つけなかったら、その事実を知らないまま未だに付き合っていたかもしれない。
 どっちがいいのだろう。私が彼の浮気に気づかなければ、もしかしたら彼との人生を続けることができたかもしれない。
 悪いのは、浮気していることに気がついた私の方なのか。
 元井さんと話していたら、そんな疑問が浮かぶまでになってしまった。あれ、何で私が、私のことを責めているのか。
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