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最終話 相武ミオの春
㉕
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桜の木の下で、二人共立ったまま、しんみりしてしまった。
元井さんのお母様のことを思い出すと、私も悲しい。もっと長生きして、あのサロンを見届けてほしかったと思ってしまう。
私はただ、この街に来ただけ。東京にいる両親から離れようが、勝手に生きていける。元井さんはお店を受け継いで、お母様の魂を胸に働いている。
元井さんの、両親を大切にしてという言葉……大事にしまっておこうと思えた。
そして、その言葉を受け止めた上で、元井さんに言いたい言葉ができた。
「元井さん……」
「う、うん?」
「私は……函館に来て、良かったですよ」
ここに来て、新たな自分になれた。疲れている人が笑顔になって帰っていくところ、時には涙して、心に溜め込んでいたものを発散していく人。そんな瞬間に立ち会えるなんて、リフレクソロジーサロンにこなかったら体験できなかったかもしれない。
だから、函館に来て良かったと告げた。
それは元井さんと、このお店を作ってくれた天国のお母様にも聞こえるように言った。
元井さんは、私の言葉を受け止めた後、その場にしゃがみ込んで立っている私の顔を見上げた。
「ふーん、嬉しいこと言ってくれるね」
その言い方は、今までにない、ちょっと意地悪な顔つきだった。下から顔を覗くように見られるのは慣れていない。
まじまじと見ている元井さんの目が気になって、私は目を逸らした。
「まあ、でも……母さんに言われたからさ。死ぬ間際に」
「死ぬ間際に? 何て?」
「この坂を上ってきた人は、お疲れの方が多い。だから、あなたの持てる力で精いっぱい癒してあげなさいね……ってね」
「……しっかり、受け継いでいますね」
坂道だから、疲れたでしょう? 元井さんがよく言う言葉。
施術を始める前に、疲れた人間を優しく受け止めてあげる。元井さんはお母様の教えを、ちゃんと守っているのだ。
だから、ここに来て良かったと思える。
心から、そう思う。
「じゃあそろそろ帰ろうか、混んできたしさ」
元井さんのお母様のことを思い出すと、私も悲しい。もっと長生きして、あのサロンを見届けてほしかったと思ってしまう。
私はただ、この街に来ただけ。東京にいる両親から離れようが、勝手に生きていける。元井さんはお店を受け継いで、お母様の魂を胸に働いている。
元井さんの、両親を大切にしてという言葉……大事にしまっておこうと思えた。
そして、その言葉を受け止めた上で、元井さんに言いたい言葉ができた。
「元井さん……」
「う、うん?」
「私は……函館に来て、良かったですよ」
ここに来て、新たな自分になれた。疲れている人が笑顔になって帰っていくところ、時には涙して、心に溜め込んでいたものを発散していく人。そんな瞬間に立ち会えるなんて、リフレクソロジーサロンにこなかったら体験できなかったかもしれない。
だから、函館に来て良かったと告げた。
それは元井さんと、このお店を作ってくれた天国のお母様にも聞こえるように言った。
元井さんは、私の言葉を受け止めた後、その場にしゃがみ込んで立っている私の顔を見上げた。
「ふーん、嬉しいこと言ってくれるね」
その言い方は、今までにない、ちょっと意地悪な顔つきだった。下から顔を覗くように見られるのは慣れていない。
まじまじと見ている元井さんの目が気になって、私は目を逸らした。
「まあ、でも……母さんに言われたからさ。死ぬ間際に」
「死ぬ間際に? 何て?」
「この坂を上ってきた人は、お疲れの方が多い。だから、あなたの持てる力で精いっぱい癒してあげなさいね……ってね」
「……しっかり、受け継いでいますね」
坂道だから、疲れたでしょう? 元井さんがよく言う言葉。
施術を始める前に、疲れた人間を優しく受け止めてあげる。元井さんはお母様の教えを、ちゃんと守っているのだ。
だから、ここに来て良かったと思える。
心から、そう思う。
「じゃあそろそろ帰ろうか、混んできたしさ」
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