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最終話 相武ミオの春
㉖
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「はい!」
結構な時間だというのに、まだまだ人はやってくる。それほど夜桜は地元民に愛されているみたいだ。
タクシーに乗って、八幡坂の前まで行った。どうして上まで上ってもらわないのかと元井さんに問うと、元井さんは笑いながら一緒に上りたいからと言ってきた。
春先でも、夜は冬並みの寒さだ。鼻頭が冷たくなっている。
元井さんと同じ歩幅で、その急な傾斜を上がっていった。
「私にも……夢ができました」
無言を嫌うように、声を出した。何も考えずに発してしまったけど、まあそれはそれでいいかと納得する。
元井さんにちょうど、言いたいことがあったから。
「夢? 相武さんの新しい夢か……一体何かな?」
「元井さんの夢が、私の夢です。だから、一人でも多くの人を、サロン・ラペで救っていきたいと思います。私はただの受付ですけど」
照れが入ったように聞こえたかもしれないけど、本心だった。私ができること、それは、ただ元気に、サロンに来店されたお客様を迎えること。
それだけは、人生を捧げてでも、全うする気だ。
元井さんが私を救ってくれたから。
私の夢を聞いた元井さんは、鼻水を啜りながら小さく「よろしくお願いいたします」と呟いた。そして、恥かしながらも、二十センチほど低い位置にある私の頭を撫でる。
「こ、こちらこそ……」
元井さんの手の温もりを、頭皮に感じる。相変わらず温かい手だった。
八幡坂の上った先の道を横道に逸れると、西洋文化の中でも浮いたデザインをしている建物が現れる。それが、英国式リフレクソロジーの、サロン・ラペだ。
足裏に記録されているお疲れの証を、元井さんの確かな技術で癒していく。
私はそうやって、人々が笑顔になっていく様子を、元井さんの近くで見ていきたいと思っている。
だって私も、元井さんに笑顔にされた人の一人だから……。
〈了〉
結構な時間だというのに、まだまだ人はやってくる。それほど夜桜は地元民に愛されているみたいだ。
タクシーに乗って、八幡坂の前まで行った。どうして上まで上ってもらわないのかと元井さんに問うと、元井さんは笑いながら一緒に上りたいからと言ってきた。
春先でも、夜は冬並みの寒さだ。鼻頭が冷たくなっている。
元井さんと同じ歩幅で、その急な傾斜を上がっていった。
「私にも……夢ができました」
無言を嫌うように、声を出した。何も考えずに発してしまったけど、まあそれはそれでいいかと納得する。
元井さんにちょうど、言いたいことがあったから。
「夢? 相武さんの新しい夢か……一体何かな?」
「元井さんの夢が、私の夢です。だから、一人でも多くの人を、サロン・ラペで救っていきたいと思います。私はただの受付ですけど」
照れが入ったように聞こえたかもしれないけど、本心だった。私ができること、それは、ただ元気に、サロンに来店されたお客様を迎えること。
それだけは、人生を捧げてでも、全うする気だ。
元井さんが私を救ってくれたから。
私の夢を聞いた元井さんは、鼻水を啜りながら小さく「よろしくお願いいたします」と呟いた。そして、恥かしながらも、二十センチほど低い位置にある私の頭を撫でる。
「こ、こちらこそ……」
元井さんの手の温もりを、頭皮に感じる。相変わらず温かい手だった。
八幡坂の上った先の道を横道に逸れると、西洋文化の中でも浮いたデザインをしている建物が現れる。それが、英国式リフレクソロジーの、サロン・ラペだ。
足裏に記録されているお疲れの証を、元井さんの確かな技術で癒していく。
私はそうやって、人々が笑顔になっていく様子を、元井さんの近くで見ていきたいと思っている。
だって私も、元井さんに笑顔にされた人の一人だから……。
〈了〉
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