64 / 97
三日目
人捜し⑨
しおりを挟む
頬をポリポリと掻きながら、冗談だということにする藤沢。
そのとぼけた表情を見たリュウは、口元を綻ばせながら「フフッ」と小さく笑った。
今日一番の、リュウの純粋な笑顔だったので、恵那も触発されたように肩の力が抜ける。
藤沢が真面目に考え抜いて出した結論が、ほぼ論外な理由だったために、意図せず和やかな空気になったみたいだ。
クレバーな印象が強かった藤沢から、まさか拍子抜けするような言葉が飛び出るとは、恵那もリュウも思わなかったのだろう。
この話をしたところで、何の答えも出そうにないと判断した恵那は、しれっと話題を切り替えることにした。
「そんなことより藤沢さん、リュウを街に帰らせたいんですけど、どうやって帰ればいいですか?」
「は? おい恵那、何言ってんだよ。一緒に帰るんだよ」
「私はまだ、ここから去るわけにはいかないから。リュウだけでも帰って」
「ふざけんな、俺は恵那を見つけ出すために、こんな危険な山奥まで来たんだぞ。ようやく会えたのに、ただで帰れるかよ」
「だから、余計なお世話なの! 私はもう戻りたくないから。だから……ほっといてよ」
巴先輩と、どんな形でもいいから、会うまでは絶対に帰れない……恵那の想いが晴れるまでは、この山小屋から立ち去るつもりは微塵もなかった。
いくらリュウが説得したとしても、平気でその厚意を無下にする自信がある。
再び声を荒げて言い合いを始める恵那とリュウの間に、やれやれと言いたげな藤沢が、スマートに止めに入った。
「喧嘩すんなって。落ち着いて話そうぜ。リュウ君だっけ? マルナの言い分も聞いてあげてくれないか」
「お兄さんには関係ないですよね。それに、俺の兄貴のことを、恵那は待ってるって言うんです。もう死んでるはずなのに」
「リュウは巴先輩のこと、信じてないんだね……まだ死んだと断定されてないのに、諦めちゃっていいの!?」
「しょうがないだろ! そういう運命なんだから!」
間に入っている藤沢の声は、リュウに簡単にあしらわれてしまった。
手の付けようがない二人の口喧嘩に、藤沢は完全に飲まれている。
藤沢が、どうにかして熱くなった二人を引き離す方法がないか考えていると、辺り一面が突然真っ暗になり出した。異常なほどの変化に、誰も喋らなくなる。
声を出す間もなく、全員が頭上に目を向けると、分厚くて黒々とした雨雲が、空間を覆っていた。
気づいた時から、ワンテンポ遅れて、猛烈な豪雨がその場を襲う。
「くそ、もうこんな時間か! おいマルナ、リュウ君、一旦小屋に入れ!」
「リュウ、藤沢さんの言う通り、山小屋に戻ろう!」
「ふざけんな! 俺は恵那を連れて帰るぞ!」
「リュウ君、こんな豪雨の中帰ったら、それこそ命が危ないよ。いいから、今は俺を信じて」
「……っち、わかったよ!」
すでにびしょびしょになった三人が、いつもの山小屋に戻る。
リュウは嫌々ながらも、とりあえずは藤沢の言うことを聞いてくれたみたいだ。
恵那が帰ることに前向きじゃないのが納得いかないのか、小屋に入っても尚、ムスッとした態度を取っている。
それぞれがタオルで髪を乾かしている中、コンコンと二回、扉をノックする音がした。
ーー今夜のお客様が、来店してしまったみたいだ。
そのとぼけた表情を見たリュウは、口元を綻ばせながら「フフッ」と小さく笑った。
今日一番の、リュウの純粋な笑顔だったので、恵那も触発されたように肩の力が抜ける。
藤沢が真面目に考え抜いて出した結論が、ほぼ論外な理由だったために、意図せず和やかな空気になったみたいだ。
クレバーな印象が強かった藤沢から、まさか拍子抜けするような言葉が飛び出るとは、恵那もリュウも思わなかったのだろう。
この話をしたところで、何の答えも出そうにないと判断した恵那は、しれっと話題を切り替えることにした。
「そんなことより藤沢さん、リュウを街に帰らせたいんですけど、どうやって帰ればいいですか?」
「は? おい恵那、何言ってんだよ。一緒に帰るんだよ」
「私はまだ、ここから去るわけにはいかないから。リュウだけでも帰って」
「ふざけんな、俺は恵那を見つけ出すために、こんな危険な山奥まで来たんだぞ。ようやく会えたのに、ただで帰れるかよ」
「だから、余計なお世話なの! 私はもう戻りたくないから。だから……ほっといてよ」
巴先輩と、どんな形でもいいから、会うまでは絶対に帰れない……恵那の想いが晴れるまでは、この山小屋から立ち去るつもりは微塵もなかった。
いくらリュウが説得したとしても、平気でその厚意を無下にする自信がある。
再び声を荒げて言い合いを始める恵那とリュウの間に、やれやれと言いたげな藤沢が、スマートに止めに入った。
「喧嘩すんなって。落ち着いて話そうぜ。リュウ君だっけ? マルナの言い分も聞いてあげてくれないか」
「お兄さんには関係ないですよね。それに、俺の兄貴のことを、恵那は待ってるって言うんです。もう死んでるはずなのに」
「リュウは巴先輩のこと、信じてないんだね……まだ死んだと断定されてないのに、諦めちゃっていいの!?」
「しょうがないだろ! そういう運命なんだから!」
間に入っている藤沢の声は、リュウに簡単にあしらわれてしまった。
手の付けようがない二人の口喧嘩に、藤沢は完全に飲まれている。
藤沢が、どうにかして熱くなった二人を引き離す方法がないか考えていると、辺り一面が突然真っ暗になり出した。異常なほどの変化に、誰も喋らなくなる。
声を出す間もなく、全員が頭上に目を向けると、分厚くて黒々とした雨雲が、空間を覆っていた。
気づいた時から、ワンテンポ遅れて、猛烈な豪雨がその場を襲う。
「くそ、もうこんな時間か! おいマルナ、リュウ君、一旦小屋に入れ!」
「リュウ、藤沢さんの言う通り、山小屋に戻ろう!」
「ふざけんな! 俺は恵那を連れて帰るぞ!」
「リュウ君、こんな豪雨の中帰ったら、それこそ命が危ないよ。いいから、今は俺を信じて」
「……っち、わかったよ!」
すでにびしょびしょになった三人が、いつもの山小屋に戻る。
リュウは嫌々ながらも、とりあえずは藤沢の言うことを聞いてくれたみたいだ。
恵那が帰ることに前向きじゃないのが納得いかないのか、小屋に入っても尚、ムスッとした態度を取っている。
それぞれがタオルで髪を乾かしている中、コンコンと二回、扉をノックする音がした。
ーー今夜のお客様が、来店してしまったみたいだ。
0
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
【完結】年収三百万円台のアラサー社畜と総資産三億円以上の仮想通貨「億り人」JKが湾岸タワーマンションで同棲したら
瀬々良木 清
ライト文芸
主人公・宮本剛は、都内で働くごく普通の営業系サラリーマン。いわゆる社畜。
タワーマンションの聖地・豊洲にあるオフィスへ通勤しながらも、自分の給料では絶対に買えない高級マンションたちを見上げながら、夢のない毎日を送っていた。
しかしある日、会社の近所で苦しそうにうずくまる女子高生・常磐理瀬と出会う。理瀬は女子高生ながら仮想通貨への投資で『億り人』となった天才少女だった。
剛の何百倍もの資産を持ち、しかし心はまだ未完成な女子高生である理瀬と、日に日に心が枯れてゆくと感じるアラサー社畜剛が織りなす、ちぐはぐなラブコメディ。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる