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幕間
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「ねぇ佐野。なんか、あんたがめちゃくちゃ渋りながら前に見せてくれたアキラ君、来てたみたいだけど?」
三年生のマネージャーの御崎さんに声を掛けられたオレは思わず人混みの中から玲を探そうとした。
宇野、ともう何年も呼んでいるけれど本当は玲と呼びたくて。まず玲が会うことのない大学の面々の前では玲と呼んでいた。
大学まで会いに来てくれたことなんて初めてで、どうかしそうなくらい嬉しいけれど、同時にオレに会いに来るなんて何かあったのだろうか、と心配になる。
玲はどうしようと思うくらい綺麗で律儀でちょっと変わっていて、頭が固いけれど優しい奴で。自覚したのは高校二年の夏だけれど。きっと……下手をするとバスケに誘ってくれた、初めて会ったあの日から。オレはずっと玲に恋をしている。
物心ついた頃にはもう両親は離婚して、オレは母親に引き取られていた。
ずっと家を空けがちだった母親と馬が合わなかったオレは食事をあまりもらえていなくて。小さかったし内気で、身だしなみもちゃんとできていなかった。
更に栄養が足りていなかったせいか、いつもなんだか霞がかかったように頭がぼんやりしていて、小学生の頃はそんな異質さが原因でひどくいじめられていた。
けれど定期的に会っていた、オレが幼い頃に離婚していた父親が異変に気付いてどうにかオレを引き取ってくれて。中学校は元居た場所から離れた学校に入学することになった。
小学校は五年生と六年生の半分くらいを不登校で過ごしていたし。父親と暮らし始めて三食食べられるようになったけれど、まだオレの体は小さかった。
中学に入学したオレはまたいじめられるのではないか、と不安でたまらなかった。
そんな気持ちでいたオレに、玲は……初めて話しかけてくれたのだ。
名前とか、どこの小学校かとか、どこに住んでいるのかとか。
そんな普通は訊くだろうと思うような諸々をすっ飛ばして。玲がオレに掛けてくれた第一声が『お前、手足長いな! 俺バスケ部に入る予定なんだけど、一緒に見学にいかない』だった。
正直言うとちょっとその唐突さが怖かったけれど。睫毛の長いまっすぐな眼差しを向けてくる目も短いけれど艶やかな髪も、見惚れてしまうほど綺麗だと思ったし。なにより左目の下にある泣き黒子を見て。何故かどうしようもなくドキドキして。オレは気づいたら頷いていた。
その気持ちが何なのかよくわからないままオレはずっと玲と一緒に居て。実は人気者の玲を他の友人に取られてしばしば悔しい思いをしながらバスケに打ち込んだ。
充実した日々を過ごすうちにオレの体はまるで……蔓植物のように伸びていって。中学一年生の冬には玲の背を追い越した。
ちょっとは縮め、と言いながらぐいぐいと玲に肩を押されて抱き着かれた拍子に初めて勃起した時は……本当にどうしようかと思った。
その時に玲のことを好きだと気付いていればよかったのに。大切な、嫌われたら死ぬと思うほど大好きな初めての友達に誤作動を起こすなんて怖いと思って……一時期、なるべく玲のことを考えないようにしていたのも……今となっては良い思い出だ。
玲はいま、ちゃんと考えて、答えをくれようとしている。
だから、焦る必要はないのだと今日もまたオレは自分に言い聞かせた。
「写真で見るよりずっと綺麗な子だったね。私も佐野の事情知らなかったら狙ってたなー」
聞き捨てならない言葉を聞いたオレは物思いから我に返った。
スポーツドクターを目指している御崎さんはとても美人でマネージャーとして優秀なのにどこか残念だ。
先輩と呼ばれるのを何故か嫌がるところからまずちょっと変わっていて。人の色恋に目がなくて後輩に声を掛けるときの決まり文句は『好きな子とかいないの?』だし、飲み会で過去に何があったのか……皆からは陰で畏怖と尊敬を込めて『女帝』と呼ばれている。
「なんていうの? なんかこう……アキラ君って体格とか普通なのに『いいようにしたい』気持ちになっちゃう色気がある。目つきかな、仕草かな? 泣き黒子、かわいいのになんかエロいよね」
「玲をそんな目で見ないでください」
何か思う前に声が出るのは、玲に関することくらいだ。
それが面白いのか御崎さんはわかりきった顔で揶揄ってくる。
こういう時は嫌な先輩だ、と思うけれど佐野の事情を知るや否や、他のマネージャー達がオレに恋をしないように真っ先にいろいろと手を回してくれた恩があるのでこのくらいは耐えなければいけないと思う。
「じゃあなんでまだ恋人になってないの? 告白したのにいつまで『イイコ』でいるつもりなの。このヘタレ……あとあんた、危機感なさすぎ。なんであの子、こっちに来ないの。あんたに会いに来たはずで。今は休憩中なのにちょっとでも顔を見せてくれないのはなんで」
頭一つちいさい御崎さんは腕を組んでこちらを見上げていて。綺麗な輪郭の目が三白眼になっている。
「行っておいで。今日このまま練習してても気もそぞろで怪我するから……監督には古い牛乳飲んでお腹壊したことにしておいてあげる」
「素直にありがとうと言えないお気遣い、ありがとうございます」
オレは苦笑を浮かべてちょっとにやけている御崎さんに礼を言い。監督とチームメイトに軽く挨拶をして玲を探した。
三年生のマネージャーの御崎さんに声を掛けられたオレは思わず人混みの中から玲を探そうとした。
宇野、ともう何年も呼んでいるけれど本当は玲と呼びたくて。まず玲が会うことのない大学の面々の前では玲と呼んでいた。
大学まで会いに来てくれたことなんて初めてで、どうかしそうなくらい嬉しいけれど、同時にオレに会いに来るなんて何かあったのだろうか、と心配になる。
玲はどうしようと思うくらい綺麗で律儀でちょっと変わっていて、頭が固いけれど優しい奴で。自覚したのは高校二年の夏だけれど。きっと……下手をするとバスケに誘ってくれた、初めて会ったあの日から。オレはずっと玲に恋をしている。
物心ついた頃にはもう両親は離婚して、オレは母親に引き取られていた。
ずっと家を空けがちだった母親と馬が合わなかったオレは食事をあまりもらえていなくて。小さかったし内気で、身だしなみもちゃんとできていなかった。
更に栄養が足りていなかったせいか、いつもなんだか霞がかかったように頭がぼんやりしていて、小学生の頃はそんな異質さが原因でひどくいじめられていた。
けれど定期的に会っていた、オレが幼い頃に離婚していた父親が異変に気付いてどうにかオレを引き取ってくれて。中学校は元居た場所から離れた学校に入学することになった。
小学校は五年生と六年生の半分くらいを不登校で過ごしていたし。父親と暮らし始めて三食食べられるようになったけれど、まだオレの体は小さかった。
中学に入学したオレはまたいじめられるのではないか、と不安でたまらなかった。
そんな気持ちでいたオレに、玲は……初めて話しかけてくれたのだ。
名前とか、どこの小学校かとか、どこに住んでいるのかとか。
そんな普通は訊くだろうと思うような諸々をすっ飛ばして。玲がオレに掛けてくれた第一声が『お前、手足長いな! 俺バスケ部に入る予定なんだけど、一緒に見学にいかない』だった。
正直言うとちょっとその唐突さが怖かったけれど。睫毛の長いまっすぐな眼差しを向けてくる目も短いけれど艶やかな髪も、見惚れてしまうほど綺麗だと思ったし。なにより左目の下にある泣き黒子を見て。何故かどうしようもなくドキドキして。オレは気づいたら頷いていた。
その気持ちが何なのかよくわからないままオレはずっと玲と一緒に居て。実は人気者の玲を他の友人に取られてしばしば悔しい思いをしながらバスケに打ち込んだ。
充実した日々を過ごすうちにオレの体はまるで……蔓植物のように伸びていって。中学一年生の冬には玲の背を追い越した。
ちょっとは縮め、と言いながらぐいぐいと玲に肩を押されて抱き着かれた拍子に初めて勃起した時は……本当にどうしようかと思った。
その時に玲のことを好きだと気付いていればよかったのに。大切な、嫌われたら死ぬと思うほど大好きな初めての友達に誤作動を起こすなんて怖いと思って……一時期、なるべく玲のことを考えないようにしていたのも……今となっては良い思い出だ。
玲はいま、ちゃんと考えて、答えをくれようとしている。
だから、焦る必要はないのだと今日もまたオレは自分に言い聞かせた。
「写真で見るよりずっと綺麗な子だったね。私も佐野の事情知らなかったら狙ってたなー」
聞き捨てならない言葉を聞いたオレは物思いから我に返った。
スポーツドクターを目指している御崎さんはとても美人でマネージャーとして優秀なのにどこか残念だ。
先輩と呼ばれるのを何故か嫌がるところからまずちょっと変わっていて。人の色恋に目がなくて後輩に声を掛けるときの決まり文句は『好きな子とかいないの?』だし、飲み会で過去に何があったのか……皆からは陰で畏怖と尊敬を込めて『女帝』と呼ばれている。
「なんていうの? なんかこう……アキラ君って体格とか普通なのに『いいようにしたい』気持ちになっちゃう色気がある。目つきかな、仕草かな? 泣き黒子、かわいいのになんかエロいよね」
「玲をそんな目で見ないでください」
何か思う前に声が出るのは、玲に関することくらいだ。
それが面白いのか御崎さんはわかりきった顔で揶揄ってくる。
こういう時は嫌な先輩だ、と思うけれど佐野の事情を知るや否や、他のマネージャー達がオレに恋をしないように真っ先にいろいろと手を回してくれた恩があるのでこのくらいは耐えなければいけないと思う。
「じゃあなんでまだ恋人になってないの? 告白したのにいつまで『イイコ』でいるつもりなの。このヘタレ……あとあんた、危機感なさすぎ。なんであの子、こっちに来ないの。あんたに会いに来たはずで。今は休憩中なのにちょっとでも顔を見せてくれないのはなんで」
頭一つちいさい御崎さんは腕を組んでこちらを見上げていて。綺麗な輪郭の目が三白眼になっている。
「行っておいで。今日このまま練習してても気もそぞろで怪我するから……監督には古い牛乳飲んでお腹壊したことにしておいてあげる」
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