36 / 50
ロミオの純情
19
しおりを挟む
「ありがとうございました」
部活の終わりに、袴姿のコウが他の部員と共に畳に手をついて、部長である鷹司の方を向いてお辞儀をする。
菖蒲のようなコウの姿勢の美しさに、鷹司は思わず笑みを浮かべそうになりながらも、真面目な顔を作り、鷹司も部員たちに向かって、「ありがとうございました」と頭を下げる。
キリッとした顔を上げたコウに、
「コウ、今日は残らなくていいぞ」
と、鷹司がそう言うと、コウは少し残念そうな顔を見せた。
いつまでも個別の特訓でコウを贔屓にする訳にはいかない。
辛い決断だったが、仕方がなかった。
常に部員に対して公平公正でなければいけないと、
部長である鷹司はそう心がけていたからだ。
「おつかれさまでした!」
道場の隣の更衣室で着替えていた部員達が一人、また一人と帰っていき、結局、最後にコウと鷹司が残った。
「俺、今日は鍵当番なんで、最後に帰ります」
コウにそう言われた鷹司は
「じゃあ、俺も残って鍵締めを手伝ってやるよ。二人でやれば早い」
と、返事をすると、コウは嬉しそうな笑顔を見せる。
まるで向日葵のようにまぶしく輝いたコウの顔が、鷹司の心を明るくさせた。
着替え終わった二人は、道場の窓の鍵を全てチェックして、最後にドアの鍵をかける。
すっかり日も落ちた学院の薄暗い中庭を歩く帰り道、二人並んで歩く速度は、なんとなくいつもよりもゆっくりで、口数も少ない。
コウは今、どんな表情をしているのだろうか?
鷹司は、凛と背筋を伸ばして隣を歩く、美しい後輩の横顔を、チラリと盗み見する。
コウは何か考え事をしているかのようで、どこか上の空のように思えた。
「コウ、お前のルームメイトってどんな奴なんだ?」
鷹司が話しかけると、考え事をしていた風なコウはハッとしたように、意識をこちらに向ける。
「真面目でいい奴ですよ。ノーベル化学賞を受賞した美濃博士の孫で、彼も秀才です。俺も時々勉強を教えてもらっています」
「そうか」
鷹司の中で、眼鏡をかけた青白いヒョロヒョロとしたイメージの生徒が思い浮かび、なぜか、ほっと安堵する。
「ちょっと座ろうか」
鷹司がベンチを指差すと、コウは小さく頷く。
二人並んで座ると、鷹司はガサゴソと、いつものように、鞄から菓子箱を1つ取り出し、袋をあけて、中から一口サイズのパイのようなお菓子を1つ、摘まみ上げる。
「コウ」
呼び掛けて、こちらに振り向いたコウの形のよい唇に、鷹司はその菓子をもってゆく。
「?」
一瞬、不思議そうな顔をしたコウは、鷹司の意図を察すると、少しだけ顔を赤らめて、口を開き、雛鳥が餌を待つかのように、鷹司の指先から菓子が運ばれて来るのを待った。
やがて、コウの口の中に甘くて香ばしい菓子が鷹司の長い指によってポンと押し込まれ、コウは唇を閉じる。
コウの舌がチロリと鷹司の指先に当たり、鷹司の下腹部がズクリと疼いたが、鷹司は平静を装って
「味はどうか?」
とコウに尋ねた。
モグモグ…… と口を動かしていたコウは、驚いたように、目を丸くする。
「先輩、これ本当に美味いです!」
「だろう?」
鷹司はニコニコと満面の笑みを浮かべる。
「これ、まだ試作品なんだけど、米粉を使って、特殊な製法でミルフィーユみたいに何層にも焼き上げて、上からチョコをかけてある。米粉だからヘルシーで重くなくてサクッとした食感が出せるんだ」
少し得意げな鷹司の説明に、コウは
「さすが、リンベルですね」
と感嘆の声を上げる。
部活の終わりに、袴姿のコウが他の部員と共に畳に手をついて、部長である鷹司の方を向いてお辞儀をする。
菖蒲のようなコウの姿勢の美しさに、鷹司は思わず笑みを浮かべそうになりながらも、真面目な顔を作り、鷹司も部員たちに向かって、「ありがとうございました」と頭を下げる。
キリッとした顔を上げたコウに、
「コウ、今日は残らなくていいぞ」
と、鷹司がそう言うと、コウは少し残念そうな顔を見せた。
いつまでも個別の特訓でコウを贔屓にする訳にはいかない。
辛い決断だったが、仕方がなかった。
常に部員に対して公平公正でなければいけないと、
部長である鷹司はそう心がけていたからだ。
「おつかれさまでした!」
道場の隣の更衣室で着替えていた部員達が一人、また一人と帰っていき、結局、最後にコウと鷹司が残った。
「俺、今日は鍵当番なんで、最後に帰ります」
コウにそう言われた鷹司は
「じゃあ、俺も残って鍵締めを手伝ってやるよ。二人でやれば早い」
と、返事をすると、コウは嬉しそうな笑顔を見せる。
まるで向日葵のようにまぶしく輝いたコウの顔が、鷹司の心を明るくさせた。
着替え終わった二人は、道場の窓の鍵を全てチェックして、最後にドアの鍵をかける。
すっかり日も落ちた学院の薄暗い中庭を歩く帰り道、二人並んで歩く速度は、なんとなくいつもよりもゆっくりで、口数も少ない。
コウは今、どんな表情をしているのだろうか?
鷹司は、凛と背筋を伸ばして隣を歩く、美しい後輩の横顔を、チラリと盗み見する。
コウは何か考え事をしているかのようで、どこか上の空のように思えた。
「コウ、お前のルームメイトってどんな奴なんだ?」
鷹司が話しかけると、考え事をしていた風なコウはハッとしたように、意識をこちらに向ける。
「真面目でいい奴ですよ。ノーベル化学賞を受賞した美濃博士の孫で、彼も秀才です。俺も時々勉強を教えてもらっています」
「そうか」
鷹司の中で、眼鏡をかけた青白いヒョロヒョロとしたイメージの生徒が思い浮かび、なぜか、ほっと安堵する。
「ちょっと座ろうか」
鷹司がベンチを指差すと、コウは小さく頷く。
二人並んで座ると、鷹司はガサゴソと、いつものように、鞄から菓子箱を1つ取り出し、袋をあけて、中から一口サイズのパイのようなお菓子を1つ、摘まみ上げる。
「コウ」
呼び掛けて、こちらに振り向いたコウの形のよい唇に、鷹司はその菓子をもってゆく。
「?」
一瞬、不思議そうな顔をしたコウは、鷹司の意図を察すると、少しだけ顔を赤らめて、口を開き、雛鳥が餌を待つかのように、鷹司の指先から菓子が運ばれて来るのを待った。
やがて、コウの口の中に甘くて香ばしい菓子が鷹司の長い指によってポンと押し込まれ、コウは唇を閉じる。
コウの舌がチロリと鷹司の指先に当たり、鷹司の下腹部がズクリと疼いたが、鷹司は平静を装って
「味はどうか?」
とコウに尋ねた。
モグモグ…… と口を動かしていたコウは、驚いたように、目を丸くする。
「先輩、これ本当に美味いです!」
「だろう?」
鷹司はニコニコと満面の笑みを浮かべる。
「これ、まだ試作品なんだけど、米粉を使って、特殊な製法でミルフィーユみたいに何層にも焼き上げて、上からチョコをかけてある。米粉だからヘルシーで重くなくてサクッとした食感が出せるんだ」
少し得意げな鷹司の説明に、コウは
「さすが、リンベルですね」
と感嘆の声を上げる。
0
あなたにおすすめの小説
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
弟がガチ勢すぎて愛が重い~魔王の座をささげられたんだけど、どうしたらいい?~
マツヲ。
BL
久しぶりに会った弟は、現魔王の長兄への謀反を企てた張本人だった。
王家を恨む弟の気持ちを知る主人公は死を覚悟するものの、なぜかその弟は王の座を捧げてきて……。
というヤンデレ弟×良識派の兄の話が読みたくて書いたものです。
この先はきっと弟にめっちゃ執着されて、おいしく食われるにちがいない。
【完結】男の後輩に告白されたオレと、様子のおかしくなった幼なじみの話
須宮りんこ
BL
【あらすじ】
高校三年生の椿叶太には女子からモテまくりの幼なじみ・五十嵐青がいる。
二人は顔を合わせば絡む仲ではあるものの、叶太にとって青は生意気な幼なじみでしかない。
そんなある日、叶太は北村という一つ下の後輩・北村から告白される。
青いわく友達目線で見ても北村はいい奴らしい。しかも青とは違い、素直で礼儀正しい北村に叶太は好感を持つ。北村の希望もあって、まずは普通の先輩後輩として付き合いをはじめることに。
けれど叶太が北村に告白されたことを知った青の様子が、その日からおかしくなって――?
※本編完結済み。後日談連載中。
陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
まったり書いていきます。
2024.05.14
閲覧ありがとうございます。
午後4時に更新します。
よろしくお願いします。
栞、お気に入り嬉しいです。
いつもありがとうございます。
2024.05.29
閲覧ありがとうございます。
m(_ _)m
明日のおまけで完結します。
反応ありがとうございます。
とても嬉しいです。
明後日より新作が始まります。
良かったら覗いてみてください。
(^O^)
竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜
レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」
魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。
彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。
陰キャな俺、人気者の幼馴染に溺愛されてます。
陽七 葵
BL
主人公である佐倉 晴翔(さくら はると)は、顔がコンプレックスで、何をやらせてもダメダメな高校二年生。前髪で顔を隠し、目立たず平穏な高校ライフを望んでいる。
しかし、そんな晴翔の平穏な生活を脅かすのはこの男。幼馴染の葉山 蓮(はやま れん)。
蓮は、イケメンな上に人当たりも良く、勉強、スポーツ何でも出来る学校一の人気者。蓮と一緒にいれば、自ずと目立つ。
だから、晴翔は学校では極力蓮に近付きたくないのだが、避けているはずの蓮が晴翔にベッタリ構ってくる。
そして、ひょんなことから『恋人のフリ』を始める二人。
そこから物語は始まるのだが——。
実はこの二人、最初から両想いだったのにそれを拗らせまくり。蓮に新たな恋敵も現れ、蓮の執着心は過剰なモノへと変わっていく。
素直になれない主人公と人気者な幼馴染の恋の物語。どうぞお楽しみ下さい♪
【完結】勇者パーティーハーレム!…の荷物番の俺の話
バナナ男さん
BL
突然異世界に召喚された普通の平凡アラサーおじさん<山野 石郎>改め【イシ】
世界を救う勇者とそれを支えし美少女戦士達の勇者パーティーの中……俺の能力、ゼロ!あるのは訳の分からない<覗く>という能力だけ。
これは、ちょっとしたおじさんイジメを受けながらもマイペースに旅に同行する荷物番のおじさんと、世界最強の力を持った勇者様のお話。
無気力、性格破綻勇者様 ✕ 平凡荷物番のおじさんのBLです。
不憫受けが書きたくて書いてみたのですが、少々意地悪な場面がありますので、どうかそういった表現が苦手なお方はご注意ください_○/|_ 土下座!
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる