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京介編
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朝一番の飛行機で九州に飛んだ京介は、熊本市内にある私立病院で、久しぶりに優奈と対面していた。
「お兄ちゃん!」
優奈の顔が明るく輝く。
顔色もとても良く、今にも外に駆け出していきそうなほど元気で、京介もほっと安心する。
「優奈、手術頑張ったな」
京介が頭を撫でてやると、優奈は「うん」と頷いて、京介の胸に顔を埋める。
ほのほのと幼子の温もりが肌に伝わってきて、愛しさで、京介も胸がいっぱいになった。
「退院したら、遊園地に連れていってあげるからね」
「お兄ちゃん、本当?!嬉しい!」
京介の言葉を聞いて、優奈はキラキラと目を輝かせる。
その時、ナースが京介を呼びに来た。
「担当の井坂先生がお話をされたいそうです」
京介は頷くと、優奈の頭を一撫でしてから、病室を後にした。
「先生、ありがとうございました!」
若い白衣のドクターに向かって、京介は頭を深々と下げる。
「一之瀬尊くんの紹介の患者さんだからね。誰よりも最優先で手術を行ったよ ハッハッハッ」
冗談めかして医師の井坂は大きな声で笑う。しかし、冗談ではなく本当に最優先でやってくれたのだと京介は知っていた。
この井坂は若いながらも心臓外科の名医で、国内だけでなく、海外からも指名で患者が来るほどの腕を持ち、彼の手術を受ける順番待ちは年単位だと有名だった。
「ところで君は尊クンの何なのかな?」
興味深そうな視線を井坂は京介に投げかける。
「尊クンと僕が知り合いだという事は実はオフレコになっていてね。一之瀬家でも限られた人しか知らないんだ。だから、尊クンから君の妹さんを最優先で手術をして欲しいと頼まれた時には、正直驚いたよ。しかも、費用も一之瀬で持つなんてね」
京介の事を遠慮なく井坂は上から下までジロジロと眺める。
「私はただのボディーガードです」
京介がそう答えると
「ふぅん。“ただの” ねぇ…… 」
井坂は少し考え事をするように京介を眺めていたが、やがて立ち上がり、京介の肩をポンと叩く。
「妹さんの事は安心しなさい。もう少し入院は必要だけど、来月には退院出来ると思うから」
京介はそれを聞くと、改めて「ありがとうございます」と、深々とお礼のお辞儀をする。
「じゃあ、尊クンによろしくね」
そう言って、井坂医師は忙しそうに去っていった。
京介は病室に戻ると、幸せそうな顔で昼寝をしている優奈の寝顔を眺めてから、額にそっとキスをすると、羽田着の飛行機に間に合うように、急いで病院を飛び出した。
羽田空港から麻布の邸宅に戻ると、尊はまだ帰国していなかった。
誰もいない尊の寝室をモニター越しに眺めながら今後の事を真剣に考える。
優奈の件で礼も出来ずに去るなんて嫌だった。しかし、尊に必要とされていないのであれば、俺には一之瀬にいる資格は無い……
一体、どうしたら良いのか、尊本人の意思を聞くしか、結論は出ない気がした。
尊は残って欲しいと言ってくれるのだろうか…
答えを聞くのが酷く怖かった。
ぼんやりと考え事をしながらモニターをカチャカチャと操作していた京介は、
ふと、尊の書斎のデスクにファイルが何冊か積まれているのに気がつく。
“一之瀬は新しいボディーガードの選定を始めてる”
局長の言葉が思い出されて、京介の指先が僅かに震える。
恐る恐る尊の書斎に忍び込み、机の上のファイルを開くと、それは、京介が危惧していた通り、新しいボディーガード候補達の身上書だった。
● 身長 190cm 柔道・空手 師範クラス 射撃 優良 SP経験6年……
ファイルのどれもが選び抜かれた人たちだった。
所々、尊の字で丁寧にメモ書きがしてあり、真剣に選んでいる様子が伺えて、読んでいる京介は激しく落ち込む。
もう、俺はここには必要の無い人間なのだ――
ファイルをそっと元の場所に戻すと、京介は尊の部屋を出る。
尊との別れは近い。それは予感から確信へと変わっていた。
その時、京介は初めて、今まで見てみぬ振りをしてきた自分の心の中の感情と向き合った。
“俺は一之瀬尊を、愛している……”
しかし、その気持ちに気がついた時には、全てが遅すぎた。
お伽噺のような生活に終わりを告げるエンドロールが京介の目の前で流れ、夢物語は終りだと言わんばかりに、天鵞絨の緞帳が今、無情に下りようとしていた。
「お兄ちゃん!」
優奈の顔が明るく輝く。
顔色もとても良く、今にも外に駆け出していきそうなほど元気で、京介もほっと安心する。
「優奈、手術頑張ったな」
京介が頭を撫でてやると、優奈は「うん」と頷いて、京介の胸に顔を埋める。
ほのほのと幼子の温もりが肌に伝わってきて、愛しさで、京介も胸がいっぱいになった。
「退院したら、遊園地に連れていってあげるからね」
「お兄ちゃん、本当?!嬉しい!」
京介の言葉を聞いて、優奈はキラキラと目を輝かせる。
その時、ナースが京介を呼びに来た。
「担当の井坂先生がお話をされたいそうです」
京介は頷くと、優奈の頭を一撫でしてから、病室を後にした。
「先生、ありがとうございました!」
若い白衣のドクターに向かって、京介は頭を深々と下げる。
「一之瀬尊くんの紹介の患者さんだからね。誰よりも最優先で手術を行ったよ ハッハッハッ」
冗談めかして医師の井坂は大きな声で笑う。しかし、冗談ではなく本当に最優先でやってくれたのだと京介は知っていた。
この井坂は若いながらも心臓外科の名医で、国内だけでなく、海外からも指名で患者が来るほどの腕を持ち、彼の手術を受ける順番待ちは年単位だと有名だった。
「ところで君は尊クンの何なのかな?」
興味深そうな視線を井坂は京介に投げかける。
「尊クンと僕が知り合いだという事は実はオフレコになっていてね。一之瀬家でも限られた人しか知らないんだ。だから、尊クンから君の妹さんを最優先で手術をして欲しいと頼まれた時には、正直驚いたよ。しかも、費用も一之瀬で持つなんてね」
京介の事を遠慮なく井坂は上から下までジロジロと眺める。
「私はただのボディーガードです」
京介がそう答えると
「ふぅん。“ただの” ねぇ…… 」
井坂は少し考え事をするように京介を眺めていたが、やがて立ち上がり、京介の肩をポンと叩く。
「妹さんの事は安心しなさい。もう少し入院は必要だけど、来月には退院出来ると思うから」
京介はそれを聞くと、改めて「ありがとうございます」と、深々とお礼のお辞儀をする。
「じゃあ、尊クンによろしくね」
そう言って、井坂医師は忙しそうに去っていった。
京介は病室に戻ると、幸せそうな顔で昼寝をしている優奈の寝顔を眺めてから、額にそっとキスをすると、羽田着の飛行機に間に合うように、急いで病院を飛び出した。
羽田空港から麻布の邸宅に戻ると、尊はまだ帰国していなかった。
誰もいない尊の寝室をモニター越しに眺めながら今後の事を真剣に考える。
優奈の件で礼も出来ずに去るなんて嫌だった。しかし、尊に必要とされていないのであれば、俺には一之瀬にいる資格は無い……
一体、どうしたら良いのか、尊本人の意思を聞くしか、結論は出ない気がした。
尊は残って欲しいと言ってくれるのだろうか…
答えを聞くのが酷く怖かった。
ぼんやりと考え事をしながらモニターをカチャカチャと操作していた京介は、
ふと、尊の書斎のデスクにファイルが何冊か積まれているのに気がつく。
“一之瀬は新しいボディーガードの選定を始めてる”
局長の言葉が思い出されて、京介の指先が僅かに震える。
恐る恐る尊の書斎に忍び込み、机の上のファイルを開くと、それは、京介が危惧していた通り、新しいボディーガード候補達の身上書だった。
● 身長 190cm 柔道・空手 師範クラス 射撃 優良 SP経験6年……
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所々、尊の字で丁寧にメモ書きがしてあり、真剣に選んでいる様子が伺えて、読んでいる京介は激しく落ち込む。
もう、俺はここには必要の無い人間なのだ――
ファイルをそっと元の場所に戻すと、京介は尊の部屋を出る。
尊との別れは近い。それは予感から確信へと変わっていた。
その時、京介は初めて、今まで見てみぬ振りをしてきた自分の心の中の感情と向き合った。
“俺は一之瀬尊を、愛している……”
しかし、その気持ちに気がついた時には、全てが遅すぎた。
お伽噺のような生活に終わりを告げるエンドロールが京介の目の前で流れ、夢物語は終りだと言わんばかりに、天鵞絨の緞帳が今、無情に下りようとしていた。
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