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京介編
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九州から戻って三日後の夜、霞が関の本庁から麻布の邸宅に帰ってきた京介は、ようやく尊の姿を見る事が出来た。
尊はプライベートリビングのソファに腰掛け、尊の側には嗣春と、そして、スーツを着た男たちが六人ほど集まって、手元の書類を見ながら、何事か真剣に話し合っていた。
濃紺やグレーの色の地味なスーツ姿の男達は、その落ち着いた雰囲気から、銀行や証券会社などの金融関係者らしく、丸の内のオフィスでなく、麻布の私邸で会議をしているのを見ると、極秘で何事か進めている案件があるのだろう。
自分はここにいてはいけない人間だと察した京介は、足早にその場から立ち去ろうとすると、ふと、尊と目が合った。
京介が軽く会釈をすると、尊は微笑みを浮かべ、形の良い唇が「おかえりなさい」と動く。そして、すぐに視線を手元の資料に移した。
ただ、それだけの事なのに、京介の気持ちは輝いて弾んだ。
そして、それから、まるで高校生の初恋のように胸をときめかせている自分の心に京介は苦笑する。
尊の前に来ると、過去の自分の恋愛経験だとか、そう言ったものは全て吹き飛んでしまい、ただの木偶の坊のように、立ち尽くすしか出来なくなってしまう。
それが酷く苛立たしくもあり、また、自分の中にまだこんな初な一面があったと気づかされたことは、新鮮でもあった。
京介は自室に戻ると、部屋の電気もつけず、革靴を履いたまま、薄暗いベッドにゴロンと倒れ込んで手で顔を覆い、目を閉じる。
(俺の後任のボディーガードに、尊はどんな人物を選ぶのだろうか? 俺にしたように、新しいボディーガードにもキスを与えるのだろうか……)
京介は、ベッドの上の尊と見知らぬ男を想像する。
体を盾にして自分を守る屈強な男の肌の上で、滑るようにして蠢く尊の美しい指先ーー
その指はやがて、男の体の最も熱く硬い部分をそっと握りしめる。
尊はうっとりと恍惚の表情を浮かべ、濡れた赤い唇は、僅かに煙草の香りを漂わせている男の薄い唇にそっと重なる……
新しいボディーガードと尊の秘め事を想像をすると、嫉妬で京介は胸が張り裂けそうになり、悪夢にうなされたように、いつまでも呻き声をあげ続けた。
その日の夜、尊と話が出来ると期待していたものの、尊は、スーツの男達とのミーティングが終わると、「まだ仕事が残っているので、今日は嗣春のマンションに泊まります」と言って、再び嗣春と共に出かけていった。
それでもまだどこかに、尊の傍に居ることの出来る希望はあるのではないかと、京介は心密かに思っていたが、次の日の夜の出来事で、それは完全に打ち砕かれた。
翌日の夜、麻布の邸宅の車寄せに見たこともない黒塗りの車が一台止まり、京介が迎えに出ると、車の中から60代ぐらいの身なりの良い男と、尊が降りてきた。
男は酷く酒に酔っているように見えた。
顔を赤らめ、目をトロンとさせながら、体を尊に下品にすり寄せている。
「深瀬社長、もうここで結構ですよ」
尊がやんわりと言い、足元のふらついている男を車内に戻そうとするが、男は尊を腕の中に抱き込み、
「…ヒック…まだ、お休みをする時間には早いだろぅ…ヒック… 一之瀬社長、今夜はじっくりと今後の事について、話し合いましょうよ…ヒック……」
そう言って、尊の白い頬に、自分の厚ぼったい唇をびちゃりと押し付け、そのまま皺くちゃの唇を尊の耳にもってゆくと、ふぅーっと酒臭い息を吹きかける。
そして尊の仕立ての良い、白いシャツの胸元をまさぐった。
尊の美しい顔に困惑の表情が浮かぶが、相手が重要な取り引き先相手なのか、どうする事も出来ずに、身動きせずに、じっと耐えていた。
それを目の前で見ていた京介は、頭にカッと血が上る。
尊が見知らぬ男に穢されることに激しく我慢がならなかった。
ギリギリのところで己を抑えると、男と尊の間に入り込み、尊から酒臭い男を無理やり引き剥がそうと手を伸ばす。
「な、なんだね…君は!」
酔った男は、突然に割って入って来た京介に向かって不満そうな声をあげる。
「ここまでにしてください」
押し殺したような声で京介が男を制すると、男は怒りで顔を赤黒くし、
「この一之瀬社長は、身体で仕事を取ると専らの評判なんだ!儂も遊んで何が悪い!」
そう唾を飛ばしながら醜く捲くし立てた。
その言葉を聞いた瞬間、京介の怒りに震えた右手の拳が、
ドスッ!!
と勢い良く、男の腹にめり込む。
男は、「グッふゥッッッ」と呻いて、その場にしゃがみこんだ。
「深瀬社長っ!!」
驚いた声をあげて、尊が男に駆け寄ろうとするのを、京介は遮るように、スッと背中で制止する。
「京介……」
尊は困惑した声を出す。
男は腹を押さえながら、ゆらりと立ち上がると
「いいか! 覚えてろ!」
と憎々しそうに、京介と尊を睨みつけ、
「今回の取引は全部、無しだ!!」
捨て台詞のように大声で叫ぶと、よろよろと黒塗りの車に乗り込む。
男を乗せた車は急発進すると、そのまま、あっという間に、二人の視界から消えた。
今更になって、自分のしでかした事に呆然となっている京介に向かって、尊は、まるで小さな悪戯をした子供を叱るように、優しい声で、「京介、あんな事しちゃ、駄目」と窘めると、クルリと踵を返して、突然、勢い良く部屋に向かって全速力で走り出す。
我に返った京介も、慌てて尊の背中を必死で追う。
尊は走りながら、携帯電話を取り出すと、「嗣春ですか? 例の件、失敗しました! 敵対的TOBで行きます! ホワイトナイトとポイズンピルを阻止して下さい!」
と受話口に向かって叫ぶ。
その言葉を聞いた京介は青ざめる。
さっきの一発の拳で、尊達が密かに進めていた買収の案件をぶち壊してしまったのだ!
尊は書斎に飛び込むと、京介も後に続く。
「あの、社長! 申し訳ありませんでした!」
京介が頭を下げると、尊は「謝罪は後です。京介はこれを手伝って下さい!」
そう言って、一枚の紙をプリントアウトし、その表に書かれている人物、一件一件に電話をして、麻布の邸に集まるよう伝えて欲しいと、指示を出した。
言われた通り、京介はリストの上から震える指先で電話をかけてゆく。
電話口の相手は、夜中にかかって来た電話に、ある者は不機嫌そうに、ある者は不審そうな声で対応したが、「麻布の一之瀬の家に集まって欲しい」と告げると、緊急事態だということを即座に察して、誰もが「すぐに伺います!」と返事をして電話を切った。
やがて、例のスーツの男達と、嗣春、そして尊が揃うと、深夜にも関わらず、直ちに緊急会議が始まり、東京株式市場が始まる午前9時前には、深瀬社長の会社に対する敵対的TOB、いわゆる、“会社乗っ取り” の手筈が速やかに整い、裏から深瀬社長に “非合法的手段” で嗣春が脅しをかけたおかげで、白旗を揚げた深瀬社長が、「一之瀬に株を全て売却する」とプレスリリースを出して、この件はなんとか無事に乗り切る事ができた。
その日の夜、尊は帰って来ると、真っ先にシャワーを浴び、ブカブカの父親のパジャマを羽織ってシャワールームから出てくると、監視カメラに向かって、京介に、自分の部屋に来るようにと、手招きをする。
それをモニター越しに見ていた京介は、覚悟を決める。
ーーいよいよ、俺はクビを言い渡されるのだな。
今日一日、尊に邸にいるよう謹慎を命じられていた。
尊の大切な取引先の相手をぶん殴ってしまったのだから、相応の処分がある事は簡単に予想が出来た。
京介は重い腰を上げて部屋を出ると、勇気を出して尊の部屋のドアをノックする。
「どうぞ」
中から尊の声が響き、京介は鉛のようなズシンと沈んだ心でドアを開ける。
尊は艶めかしい素足の両足を軽く揃えて、 少年のような、あどけない佇まいで、部屋の中央に置かれたキングサイズのベッドの端に腰掛けていた。
黒いスーツ姿の京介は尊の前に立つと、もう一度
「社長、申し訳ありませんでした」
と、深々と頭を下げる。
「京介」
尊に名を呼ばれて、京介は顔を上げる。
目の前には尊の美しい顔があった。
魅惑的な黒い瞳が、京介をじっと見つめる。
尊の部屋の大きなシャンデリアの灯りは消されていて、ベッドの脇のサイドボードに置かれた、グリーンのシェードの小さなランプだけが、今はこの部屋の光となっていた。
薄暗い部屋の中で、ぼんやりと浮かび上がる、美しい尊の姿ーー
京介は、こんな状況なのにも関わらず、思わず、息を呑んで尊の姿に見惚れる。
「京介……」
尊は真っ白な両腕を伸ばすと、パチン!と軽く京介の顔を両手の掌で挟む。
「暴力はダメ」
「は、はい……」
「でも……」
尊は両手で京介の顔を挟み続けながら、言葉を続ける。
「あの時の僕を守ってくれた京介、とても男らしかった……」
尊は白魚のような真っ白な手で、挟みこんだ京介の顔を、グイッと自分の方へと引き寄せる。
うっとりとした表情の尊の唇と、戸惑い気味の京介の唇が重なる。
尊の体から発せられる甘い香りは、どこまでも魅惑的でーー
艶めかしい尊の赤い舌が京介の唇をこじ開けて、そろりと侵入してきた瞬間、京介の理性は吹き飛んだ。
「社長……!」
尊の頭に手を添えると、夢中で尊の舌を自分の舌で舐めまわし、吸い尽くし、しゃぶり尽くしてこれ以上にないほどに味わう。
ちゅるり……と透明の蜜を吸うと、それはまるで瑞々しい桜桃のように甘く……
京介の脳はジンジンと痺れる。
尊が「あぁ……」と喘いで仰け反った瞬間、京介は、ハッとする。
「し、失礼しましたっ……」
慌てて顔を尊から離そうとした瞬間、身につけていた濃紺のネクタイを尊にグイッと引っ張られる。
「っ?!」
「京介、今度は逃がさない」
そう言うと、尊は京介のネクタイを握ったまま、ゆっくりとベッドに後ろ向きに倒れ込む。
ネクタイを引っ張られた京介も、そのまま尊に覆い被さるようにして、尊の上にドサリと倒れ込んだ。
「京介」
「社長……」
二人の視線が再び交わる。
もう、京介を止める理性は残っていなかった。
「っんんんんッ」
互いの存在を確認し合うように、京介と尊は再び夢中で熱い唇を重ねる。
「んっ…んん……」
尊は右手で京介のネクタイを握りしめながら、京介のズボンのベルトを外そうと左手を伸ばす。
カチャカチャとなんとかそこを外そうとしていたけれど、片手なので上手く外せない。
難儀をしていると、尊に覆い被さっていた京介が、左手で自分の体を支えながら、右手で器用に自分のズボンのベルトをシュルリと外す。
ゆるめられたズボンの隙間から、尊は手を差し込むと、下着をくぐり抜けて、京介の既に半分硬くなっている大きなそこを、キュッと握りこむ。
「ッつ……」
京介の腰に甘い快感が走る。
尊の指先はそのまま、キュッキュッと長く太い筒を扱くように動くと、だんだんと、京介の陰茎は質量を増してくる。
淫らな尊の指先が、ぬるぬると濡れだした先端に刺激を与えると、痺れるような快感に、京介は眉を寄せ
「っく」
と呻いて尊を抱きしめた。
尊の美しい指が、自分の猛ったペニスに絡みついている……
まるで現実とは思えなくて、ぼんやりとこの夢のような光景を眺めていると、
「京介、僕を抱いて」
尊の美しい瞳が真剣な眼差しで京介を見つめる。
「…あ、ああ……」
京介は覚悟を決めると、頷いて、尊の赤い唇にキスをそっと落とした。
尊はプライベートリビングのソファに腰掛け、尊の側には嗣春と、そして、スーツを着た男たちが六人ほど集まって、手元の書類を見ながら、何事か真剣に話し合っていた。
濃紺やグレーの色の地味なスーツ姿の男達は、その落ち着いた雰囲気から、銀行や証券会社などの金融関係者らしく、丸の内のオフィスでなく、麻布の私邸で会議をしているのを見ると、極秘で何事か進めている案件があるのだろう。
自分はここにいてはいけない人間だと察した京介は、足早にその場から立ち去ろうとすると、ふと、尊と目が合った。
京介が軽く会釈をすると、尊は微笑みを浮かべ、形の良い唇が「おかえりなさい」と動く。そして、すぐに視線を手元の資料に移した。
ただ、それだけの事なのに、京介の気持ちは輝いて弾んだ。
そして、それから、まるで高校生の初恋のように胸をときめかせている自分の心に京介は苦笑する。
尊の前に来ると、過去の自分の恋愛経験だとか、そう言ったものは全て吹き飛んでしまい、ただの木偶の坊のように、立ち尽くすしか出来なくなってしまう。
それが酷く苛立たしくもあり、また、自分の中にまだこんな初な一面があったと気づかされたことは、新鮮でもあった。
京介は自室に戻ると、部屋の電気もつけず、革靴を履いたまま、薄暗いベッドにゴロンと倒れ込んで手で顔を覆い、目を閉じる。
(俺の後任のボディーガードに、尊はどんな人物を選ぶのだろうか? 俺にしたように、新しいボディーガードにもキスを与えるのだろうか……)
京介は、ベッドの上の尊と見知らぬ男を想像する。
体を盾にして自分を守る屈強な男の肌の上で、滑るようにして蠢く尊の美しい指先ーー
その指はやがて、男の体の最も熱く硬い部分をそっと握りしめる。
尊はうっとりと恍惚の表情を浮かべ、濡れた赤い唇は、僅かに煙草の香りを漂わせている男の薄い唇にそっと重なる……
新しいボディーガードと尊の秘め事を想像をすると、嫉妬で京介は胸が張り裂けそうになり、悪夢にうなされたように、いつまでも呻き声をあげ続けた。
その日の夜、尊と話が出来ると期待していたものの、尊は、スーツの男達とのミーティングが終わると、「まだ仕事が残っているので、今日は嗣春のマンションに泊まります」と言って、再び嗣春と共に出かけていった。
それでもまだどこかに、尊の傍に居ることの出来る希望はあるのではないかと、京介は心密かに思っていたが、次の日の夜の出来事で、それは完全に打ち砕かれた。
翌日の夜、麻布の邸宅の車寄せに見たこともない黒塗りの車が一台止まり、京介が迎えに出ると、車の中から60代ぐらいの身なりの良い男と、尊が降りてきた。
男は酷く酒に酔っているように見えた。
顔を赤らめ、目をトロンとさせながら、体を尊に下品にすり寄せている。
「深瀬社長、もうここで結構ですよ」
尊がやんわりと言い、足元のふらついている男を車内に戻そうとするが、男は尊を腕の中に抱き込み、
「…ヒック…まだ、お休みをする時間には早いだろぅ…ヒック… 一之瀬社長、今夜はじっくりと今後の事について、話し合いましょうよ…ヒック……」
そう言って、尊の白い頬に、自分の厚ぼったい唇をびちゃりと押し付け、そのまま皺くちゃの唇を尊の耳にもってゆくと、ふぅーっと酒臭い息を吹きかける。
そして尊の仕立ての良い、白いシャツの胸元をまさぐった。
尊の美しい顔に困惑の表情が浮かぶが、相手が重要な取り引き先相手なのか、どうする事も出来ずに、身動きせずに、じっと耐えていた。
それを目の前で見ていた京介は、頭にカッと血が上る。
尊が見知らぬ男に穢されることに激しく我慢がならなかった。
ギリギリのところで己を抑えると、男と尊の間に入り込み、尊から酒臭い男を無理やり引き剥がそうと手を伸ばす。
「な、なんだね…君は!」
酔った男は、突然に割って入って来た京介に向かって不満そうな声をあげる。
「ここまでにしてください」
押し殺したような声で京介が男を制すると、男は怒りで顔を赤黒くし、
「この一之瀬社長は、身体で仕事を取ると専らの評判なんだ!儂も遊んで何が悪い!」
そう唾を飛ばしながら醜く捲くし立てた。
その言葉を聞いた瞬間、京介の怒りに震えた右手の拳が、
ドスッ!!
と勢い良く、男の腹にめり込む。
男は、「グッふゥッッッ」と呻いて、その場にしゃがみこんだ。
「深瀬社長っ!!」
驚いた声をあげて、尊が男に駆け寄ろうとするのを、京介は遮るように、スッと背中で制止する。
「京介……」
尊は困惑した声を出す。
男は腹を押さえながら、ゆらりと立ち上がると
「いいか! 覚えてろ!」
と憎々しそうに、京介と尊を睨みつけ、
「今回の取引は全部、無しだ!!」
捨て台詞のように大声で叫ぶと、よろよろと黒塗りの車に乗り込む。
男を乗せた車は急発進すると、そのまま、あっという間に、二人の視界から消えた。
今更になって、自分のしでかした事に呆然となっている京介に向かって、尊は、まるで小さな悪戯をした子供を叱るように、優しい声で、「京介、あんな事しちゃ、駄目」と窘めると、クルリと踵を返して、突然、勢い良く部屋に向かって全速力で走り出す。
我に返った京介も、慌てて尊の背中を必死で追う。
尊は走りながら、携帯電話を取り出すと、「嗣春ですか? 例の件、失敗しました! 敵対的TOBで行きます! ホワイトナイトとポイズンピルを阻止して下さい!」
と受話口に向かって叫ぶ。
その言葉を聞いた京介は青ざめる。
さっきの一発の拳で、尊達が密かに進めていた買収の案件をぶち壊してしまったのだ!
尊は書斎に飛び込むと、京介も後に続く。
「あの、社長! 申し訳ありませんでした!」
京介が頭を下げると、尊は「謝罪は後です。京介はこれを手伝って下さい!」
そう言って、一枚の紙をプリントアウトし、その表に書かれている人物、一件一件に電話をして、麻布の邸に集まるよう伝えて欲しいと、指示を出した。
言われた通り、京介はリストの上から震える指先で電話をかけてゆく。
電話口の相手は、夜中にかかって来た電話に、ある者は不機嫌そうに、ある者は不審そうな声で対応したが、「麻布の一之瀬の家に集まって欲しい」と告げると、緊急事態だということを即座に察して、誰もが「すぐに伺います!」と返事をして電話を切った。
やがて、例のスーツの男達と、嗣春、そして尊が揃うと、深夜にも関わらず、直ちに緊急会議が始まり、東京株式市場が始まる午前9時前には、深瀬社長の会社に対する敵対的TOB、いわゆる、“会社乗っ取り” の手筈が速やかに整い、裏から深瀬社長に “非合法的手段” で嗣春が脅しをかけたおかげで、白旗を揚げた深瀬社長が、「一之瀬に株を全て売却する」とプレスリリースを出して、この件はなんとか無事に乗り切る事ができた。
その日の夜、尊は帰って来ると、真っ先にシャワーを浴び、ブカブカの父親のパジャマを羽織ってシャワールームから出てくると、監視カメラに向かって、京介に、自分の部屋に来るようにと、手招きをする。
それをモニター越しに見ていた京介は、覚悟を決める。
ーーいよいよ、俺はクビを言い渡されるのだな。
今日一日、尊に邸にいるよう謹慎を命じられていた。
尊の大切な取引先の相手をぶん殴ってしまったのだから、相応の処分がある事は簡単に予想が出来た。
京介は重い腰を上げて部屋を出ると、勇気を出して尊の部屋のドアをノックする。
「どうぞ」
中から尊の声が響き、京介は鉛のようなズシンと沈んだ心でドアを開ける。
尊は艶めかしい素足の両足を軽く揃えて、 少年のような、あどけない佇まいで、部屋の中央に置かれたキングサイズのベッドの端に腰掛けていた。
黒いスーツ姿の京介は尊の前に立つと、もう一度
「社長、申し訳ありませんでした」
と、深々と頭を下げる。
「京介」
尊に名を呼ばれて、京介は顔を上げる。
目の前には尊の美しい顔があった。
魅惑的な黒い瞳が、京介をじっと見つめる。
尊の部屋の大きなシャンデリアの灯りは消されていて、ベッドの脇のサイドボードに置かれた、グリーンのシェードの小さなランプだけが、今はこの部屋の光となっていた。
薄暗い部屋の中で、ぼんやりと浮かび上がる、美しい尊の姿ーー
京介は、こんな状況なのにも関わらず、思わず、息を呑んで尊の姿に見惚れる。
「京介……」
尊は真っ白な両腕を伸ばすと、パチン!と軽く京介の顔を両手の掌で挟む。
「暴力はダメ」
「は、はい……」
「でも……」
尊は両手で京介の顔を挟み続けながら、言葉を続ける。
「あの時の僕を守ってくれた京介、とても男らしかった……」
尊は白魚のような真っ白な手で、挟みこんだ京介の顔を、グイッと自分の方へと引き寄せる。
うっとりとした表情の尊の唇と、戸惑い気味の京介の唇が重なる。
尊の体から発せられる甘い香りは、どこまでも魅惑的でーー
艶めかしい尊の赤い舌が京介の唇をこじ開けて、そろりと侵入してきた瞬間、京介の理性は吹き飛んだ。
「社長……!」
尊の頭に手を添えると、夢中で尊の舌を自分の舌で舐めまわし、吸い尽くし、しゃぶり尽くしてこれ以上にないほどに味わう。
ちゅるり……と透明の蜜を吸うと、それはまるで瑞々しい桜桃のように甘く……
京介の脳はジンジンと痺れる。
尊が「あぁ……」と喘いで仰け反った瞬間、京介は、ハッとする。
「し、失礼しましたっ……」
慌てて顔を尊から離そうとした瞬間、身につけていた濃紺のネクタイを尊にグイッと引っ張られる。
「っ?!」
「京介、今度は逃がさない」
そう言うと、尊は京介のネクタイを握ったまま、ゆっくりとベッドに後ろ向きに倒れ込む。
ネクタイを引っ張られた京介も、そのまま尊に覆い被さるようにして、尊の上にドサリと倒れ込んだ。
「京介」
「社長……」
二人の視線が再び交わる。
もう、京介を止める理性は残っていなかった。
「っんんんんッ」
互いの存在を確認し合うように、京介と尊は再び夢中で熱い唇を重ねる。
「んっ…んん……」
尊は右手で京介のネクタイを握りしめながら、京介のズボンのベルトを外そうと左手を伸ばす。
カチャカチャとなんとかそこを外そうとしていたけれど、片手なので上手く外せない。
難儀をしていると、尊に覆い被さっていた京介が、左手で自分の体を支えながら、右手で器用に自分のズボンのベルトをシュルリと外す。
ゆるめられたズボンの隙間から、尊は手を差し込むと、下着をくぐり抜けて、京介の既に半分硬くなっている大きなそこを、キュッと握りこむ。
「ッつ……」
京介の腰に甘い快感が走る。
尊の指先はそのまま、キュッキュッと長く太い筒を扱くように動くと、だんだんと、京介の陰茎は質量を増してくる。
淫らな尊の指先が、ぬるぬると濡れだした先端に刺激を与えると、痺れるような快感に、京介は眉を寄せ
「っく」
と呻いて尊を抱きしめた。
尊の美しい指が、自分の猛ったペニスに絡みついている……
まるで現実とは思えなくて、ぼんやりとこの夢のような光景を眺めていると、
「京介、僕を抱いて」
尊の美しい瞳が真剣な眼差しで京介を見つめる。
「…あ、ああ……」
京介は覚悟を決めると、頷いて、尊の赤い唇にキスをそっと落とした。
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