【R18】拳銃と犬 〜御曹司とボディーガードの淫らな関係

瀬能なつ

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京介編

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「一之瀬グループは今から100年前に起こした石炭事業で会社を大きくしたと言われています。しかし、それは表向きの話で、実際は、初代が得意としたのは諜報活動でした。 その活動で得た世界中の要人達の秘密を上手く使いながら、この国を操り、また、会社を大きくしていきました」

 尊は京介の目を見つめたまま、話を続ける。

「収集された情報は、通称『Book』と呼ばれているものに書き記されていて、この世界の何処かに隠され、また、内容は日々更新されています」

「それを狙う輩が大勢いるって事か?」

「ええ。 それに、要人の秘密を知れば、口封じで狙われる恐れが出てきます。 そこで、一之瀬は代々、ある仕掛けを仕込みました」

「仕掛け……?」

 京介は尊の話にすっかりと引き込まれる。


「一之瀬の当主が正統な引き継ぎ無く不慮の事故などで死んだ場合、その“Book”が世界に向けて公表されるようになっています」

「つまり、“Book”に名前を記載されている要人達は、秘密が漏れないよう、必死で社長の命を守ろうとするわけか」

 京介は呟く。

「そうです。そのお陰で一之瀬の当主は安泰のはずでした。 しかし、最近になってある団体が既存の権力体制をひっくり返そうと動きだしました」

「それは一体、誰なんだ? 」

 拳をぎゅっと京介は握りしめる。

「 彼らの名前は、“Lichtリヒト” この世界をネオナチの手で権力を握ろうと企む者達です」
  
 尊は静かに答える。

「 そのリーダーは誰なんだ?  なぜ野放しにされているんだ?」

 京介は気色ばむ。

「やっかいな事に特定のリーダーはいないんです。既存権力を壊して理想郷を作ると主張するLichtに共鳴した信奉者達が個々に動いているので、こちらも対処が難しいのです」

「竹中局長もLichtだったのか?」

「恐らくそうです。“Book”が公表されれば、警察庁長官の篠山さんは失脚する。そうすれば、次期長官のポジションに一番近いのが竹中局長です。 長官になれば、この国をLichtの理想とする国へと変える事も可能だと考えたのでしょう 」

 尊の話しが事実なら、竹中局長は自ら姿を消したのだろう……

「京介さん、あなたが僕の暗殺に失敗した時点で、竹中局長が貴方を口封じに闇に葬る可能性がありました。 だから、一之瀬で貴方を保護する事に決めたのです」

「社長……」

 つまり、尊を警護しているつもりが、守られていたのは自分の方だったという訳か。

 しかし、優奈の件にしろ、なぜここまで尊は自分に手厚く親切にしてくれるのか、疑問だった。

 他に何か意図でもあるのだろうか……

「それは、貴方が職務に忠実で、正義感と忠誠心が強い人だからですよ」

 尊は京介の疑問に答えるかのように呟き、椅子から立ち上がって、その手を京介の胸元へと伸ばす。

「何故、嗣春から渡された防弾ベストを着けないのですか?」

 そう言って京介の筋肉質に引き締まった胸を撫で付ける。

 今朝、着替えもそこそこに家を飛び出したせいで、防弾ベストを着るのを京介は忘れていた。

 京介の身体の上で色っぽく蠢く尊の手と指に、京介の体は再び固まる。

「“Book”の存在を知る事になった今、貴方の命も危険に晒されています。 敵はどこにいるか分からないのですよ」

 尊の白く美しい人差し指がツーッと滑り、京介の心臓の真上で止まる。

 既に尊の妖しい色気に魅入られていた京介の心臓は、バクンバクンと大きな音を立てそうな勢いで跳ね上がっていた。

「しゃ、社長…… あれほど… 大人をからかうなと…」
  
 硬直した京介の体の脇から汗が流れる。

「僕はからかってなどいませんよ。京介さん」

 尊は清んだ鈴の音のように優しい声を響かせながら、そっと京介の凛々しい顔へと唇を近づける。
  
 窓から射し込む月の光が尊を照らす様は、まるでアルテミスを思わせる美しさで、京介はこの世の者とは思えない、尊のみやびな姿をぼんやりと眺める。

 その時、ふわっと、京介の唇に柔らかな何かが触れた。



  これは… 今のは… もしかして……

  キス…… なのか……?


 しばらく思考が停止していた京介は、ハッと気がつく。
  
「ッ!  しゃ、社長…… !  今、何を?!」

 京介が気がついた時には、尊は既に元の椅子に腰かけて、ニッコリと微笑みながら京介を眺めていた。

「お休みなさいのキスです。 今日の任務はこれで終了です。明日もよろしくお願いします。京介さん」

  首を軽く傾げて、すました笑顔の尊に、京介は、
「あぁ…… 」
 と呑まれたように頷くと、


「そ、それでは失礼します」

 逃げ出すように尊の部屋を京介は退出する。


 部屋を出てからも、京介の心臓はまだバクバクと鳴り響いていた。

 年下の尊に軽いキスだけで翻弄されるなんて……!

 恋愛経験は一応それなりにあるこの俺が、キス1つで冷や汗かいて、右往左往するなんて、くそっ!


 動揺しながら、京介は自室に戻り、並べられた防犯モニターを見ると、まだ書斎にいた尊はちょうど伸びをして、パソコンの電源を切るところだった。

 部屋を出た尊は、そのままシャワールームに向かう。

 暫くしてから、シャワーを浴びて出てきた尊は、例のごとく、昨日と色違いの、自分の体にサイズが合わない、ブカブカの少し大きめのパジャマの上だけを羽織っていた。

 尊はベッドに入ると、いつものように黒い犬の縫いぐるみを抱き締めて、犬の口元にキスをすると、京介が眺めている防犯カメラの方に視線をやり、軽くウィンクをする。

 その唇は、“おやすみなさい” と動いていた。

 モニター越しに尊と目があった京介は、ようやくハッと気がつく。


 やっぱり俺はからかわれていたのだ!

  
  はぁ…… 

 脱力するようにガックリと肩を落とす。

 俺は一体何を期待してたんだ?  まだ少年のあどけなさが残る尊との恋愛か?

  しっかりしろ! 

 京介は自身に渇を入れる。

 尊が命を狙われている事は事実であるし、尊の言っていた、“Book”の存在も恐らく本当なのであろう。
  
 恋だの愛だのに浮わついている場合ではない。

 しっかりと尊を護らなくては。

 職務を思い出した京介は、やっと自分を取り戻して眠りについた。

 
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