【18禁】淫らに濡れた梅雨の日。Hな玩具で喘がされて…【完結】【短編】

瀬能なつ

文字の大きさ
1 / 7

プロローグ

しおりを挟む
 雨が東京の裏路地をしつこく叩いていた。

 傘を持つ手が震え、指先は冷え切っている。深く差したはずの傘の隙間からは容赦なく水滴が入り込み、濡れたコートの裾が足に貼りついて気持ちが悪い。

 もう、どうでもよかった。何もかもが、どうでもいい。

 ユキは、黙って古びた看板を見上げた。
 《紅茶館 ル・サロン・ルージュ》――看板の文字は赤く剥げ、まるで長い間、誰にも気づかれなかった秘密のようだった。こんな場所に、どうして自分は立っているのか。答えは簡単だった。逃げたのだ、すべてから。現実から、自分自身から。

 誰も見ていないことを確認し、ユキは重い木の扉に手をかけた。濡れた髪が頬に貼りついている。まるでずぶ濡れの野良猫が雨宿りでもするかのようだった。

 相手は美術サークルの先輩だった。
 入学式のあと、サークルの勧誘でチラシを手渡されたときから、ずっと惹かれていた。
 絵が上手いわけでもないのに、美術サークルに入ったのは、その人がそこにいたから。
 理由なんて、そんなものでよかった。憧れは、いつしか密かに燃える恋心になっていた。

 そして今日、初めて知った。
 先輩には恋人がいる――という事実を。

 噂でも、友人づてでもなかった。
 本人の口から、ごく自然に語られた。

「昨日、彼女と根津美術館に行ってさ。あそこ、やっぱり良かったよ」

 ただ思い出を語っただけの、何気ない一言。
 悪意なんてひと欠けらもなかった。
 柔らかな笑顔で、彼は幸せそうに話していた。

 ユキは、うまく笑えなかった。
 頬がひきつり、声は喉の奥でかすれた。
 滲みそうになる涙を、瞬きで必死にごまかす。

 胸の奥で、何かが静かにひび割れた気がした。

 ――私には、魅力がないんだ。

 ぽつりと落ちたその呟きが、自分という存在を内側から壊していく。
 足元が崩れ落ちるような感覚。
 どこにも逃げ場はなく、しがみつける場所もなかった。
 このまま消えてしまいたいと、心のどこかで思っていた。

 気がつけば、サークルの部室を飛び出していた。
 どうやってその場を離れたのかも、覚えていない。

 ただ、すべての記憶を消し去りたくて。
 なにもかもなかったことにしたくて。
 ユキは、雨に濡れながら街を彷徨っていた。

 ――どこでもいい。ここじゃない場所に行きたい。

 そう願ったその時、視界の隅に、小さな看板が浮かび上がったのだった。

 扉を押すと、雨音が一気に遠ざかり、甘く温かな空気がユキを包み込んだ。まるで別世界のようだった。紅茶の香り、淡く漂うジャスミンとムスク。暖色の光が落ちる天井から、古風なシャンデリアが静かに揺れている。まるで異国の貴族が集うサロンのようだった。
 そこに、黒いサテンのドレスを纏った女主人がいた。

「ようこそ、雨の日の迷い子さん」
 女の声は低く艶やかで、まるでチェロの音色のようだった。銀の髪が波打ち、緑の瞳がユキを見つめる。その瞳には、見透かされるような鋭さと、不思議な温もりが同居していた。

 女主人は、日本人とも西洋人ともつかない、不思議で妖艶な顔立ちをしていた。

 ドレスの胸元は深く開き、光を受けた肌が艶めく。言葉にならない何かが、ユキの心を強く揺らした。

 ――ここ、どこ……?

 逃げたい気持ちと、引き寄せられる衝動。

 雨に濡れながら立ちすくむユキを、女主人はやさしくカウンター席へ導いた。赤いベルベットのクッションが、ずぶ濡れのユキの身体をそっと受け止める。柔らかな香煙がくゆり、ユキの心に触れてくる。鏡に映る自分――濡れた髪、青白い頬、伏せた瞳。その姿に、恥ずかしさと哀しみがないまぜになる。

「紅茶でよいかしら」
 カップを手渡されたユキは、震える指先で受け取る。温もりが掌に沁みた。ダージリンにバラとバニラが溶け合った香り。ふっと肩から力が抜ける。こんなに優しく扱われたのは、いつぶりだろう。

「名前は?」
 女主人の声がふたたび響く。ユキはびくりとし、小さく答えた。
「ユ……ユキ、です」
 声は壊れかけのガラス細工のように脆く、震えていた。

 女主人は一拍おいて、慈しむように口にした。
「――ユキ」
 まるでその名に触れた瞬間、心の奥の何かがほどけていくようだった。

「ユキ。雪のように白く、儚く、美しい名前ね。こんな雨の日に、なぜこんな場所へ?」

 返せなかった。痛みが、喉を塞ぐ。
 けれどその沈黙さえも、彼女は見透かしていた。

「なにか、心に傷を抱えているのね」

 ユキの心が、ぶつ、と軋む。
「……先輩に……好きな人がいて……私なんて、きっと、愛されない……」

 自分の声とは思えなかった。張り裂けそうな胸の奥から、言葉が流れ出た。

「魅力がない? そんなことはないわ、ユキ」
 セシルと名乗った女主人は、甘く、やさしく、ユキを慰める。

 その声は、どこか媚薬のようだった。
「あなたは白い花のよう。濡れても、踏みにじられても、なお咲き続ける花よ。傷ついた心こそ、真に愛される資格があるの」

 ユキの視界が滲む。
 ――本当に、そう思ってくれるの……?

 セシルは新たな紅茶を淹れ、差し出す。
 その香りは、先ほどとは違っていた。より濃密で、どこか甘美で、抗えない誘惑を孕んでいる。ユキは迷いながらも、セシルの瞳に押されて口をつける。

 一口、また一口。
 紅茶の熱が喉を滑り、脳を痺れさせる。身体がふわふわと軽くなり、胸の痛みが遠ざかっていく。紅茶が、心の隙間を満たしていくようだった。

「どう? 素敵な気分でしょう?」
 セシルの声が囁く。
「さあ、もっと素敵な世界を見せてあげる」

 女主人のセシルはそっと手を差し出した。
 白く長い指、爪の先にはわずかに紅を差したような艶。まるで夜の蝶が羽根を広げるように、優雅で、静かで、誘惑的だった。

 ユキはその手を見つめたまま、動けなかった。
 頭のどこかで警鐘が鳴っていた。


 知らない場所に連れて行かれる。危ないかもしれない。
 だけど、胸の奥では、もう一つの囁きがこだましていた。

 ――でも、こんなふうに手を差し伸べられたこと、あった?

 セシルはユキの戸惑いを感じ取っているようだった。
 そして、そっと微笑んだ。

 その笑みは、どこまでもやさしく、包み込むようで、それでいて危うい色香を纏っていた。

 見てはいけない宝石を覗き込んでしまったような――そう、心が震えるほどの美しさだった。

「怖くないわ、ユキ。私はあなたを、傷つけたりしない。むしろ……大切にするわ」

 ユキは、息を呑んだ。
 脚が勝手に動いていた。
 怖い。でも、行きたい。この先にある世界を、ほんの少しだけ覗いてみたい。そう思ってしまったのだ。

 そして、そっと――指先が重なる。
 セシルの手は温かく、柔らかかった。

 引かれるまま、ユキは立ち上がり、二人はカウンターの向こうの、深紅のカーテンの奥へと歩き出した。


 重いカーテンをくぐった先は、まるで現実から切り離された異界だった。
 四方の壁に張り巡らされた鏡が、シャンデリアの柔らかな光を何重にも反射し、眩いほどに空間を包み込む。
 部屋の隅に置かれた赤いサテンのソファ、漂うジャスミンとムスクの香。

 香炉の煙がゆらめいている。

 外の雨音だけが、ここがまだ現実だと告げていた。

 ユキはセシルに手を引かれ、ふらふらと鏡の前に立たされる。

「見て、ユキ。これがあなたよ。こんなにも可憐で、美しいのよ」

 視線を上げたくなかった。だが、気づけば鏡が、自分の全身を映し返していた。

 ――その姿に、ユキは息を飲んだ。

「……最低……」

 雨に濡れて色が滲んだスカート。水を吸って重たくなった髪が頬に貼りつき、ファンデーションは流れ、目元は涙でにじんでいる。
 真っ赤に充血した瞳。泣き腫らした顔。唇の色は悪く、肌は青白い。

 こんなにも惨めな女が、自分だったのか。

 愛する人に選ばれなかった、道化師みたいな敗北者…

 涙が止まらなかった。
 嗚咽が喉をせり上がり、鏡の中の自分を睨みつける。

「……嫌…っ! こんな自分、見たくない……!」

 言葉にすると、余計に胸が軋んだ。
 誰にも必要とされない。愛される価値なんてない。
 鏡はそれを証明しているようだった。

 だが、その横から、セシルの落ち着いた声が降ってくる。

「違うわ、ユキ。あなたは……ひどく傷ついてる。でも、それがあなたの美しさを否定する理由にはならない」

 ユキは首を横に振った。

「こんなの、美しくなんかない……
 濡れて、泣いて、グチャグチャで、プライドもズタボロで……
 こんな姿、誰にも見られたくないのに……!」

 自分でも声が震えているのが分かった。
 泣きたくないのに、涙は止まらない。

 けれどセシルは、静かに一歩近づくと、ユキの肩にそっと手を置いた。

「心が壊れたとき、人は自分の一番醜い面しか見えなくなるわ。でも、それだけよ。
 鏡が映すものは、今だけ。
 あなたの中には……まだ咲いていない美しさが、ちゃんと眠ってる」

 その言葉に、ユキの瞳がわずかに揺れた。

 鏡に映るのは、確かにズタズタの、みじめで泣き顔の自分。
 でも、セシルはそれを“否定”しない。ただ、そっと包み込むように見てくれている。

「……私に、まだ……何か残ってるの……?」

 絞り出すように呟いたユキに、セシルは頷く。

「ええ。あなたの心の奥には、小さな蕾のようなものが、ちゃんと残っているわ。
 この雨がやんだら、きっと……開く時が来る」

 その微笑みは、あまりにもやさしくて、ユキはもう抵抗する力をなくしていった。


 セシルの指先が、静かに、しかし確かな意志をもってユキに触れる。
 濡れたブラウスの襟元に指をかけ、一枚ずつ――まるで羽を脱がせるように、ユキの衣服を解いていく。

 その手つきは優雅で、まるで儀式のようだった。
 ボタンが外れ、布が滑り落ちていくたびに、ユキの身体から、今まで守ってきた何かが剥がれていく。

 抵抗は、できなかった。
 頭のどこかで「やめて」と叫ぶ声がかすかに響くのに、身体は動かない。
 セシルの瞳に見つめられると、そのすべてが甘やかに絡みつき、鎖のようにユキを縛る。

 ――怖くないわけじゃない。だけど、それ以上に、もう何もかも自分では支えきれなかった。

 委ねたい。
 この人に、全部、任せてしまいたい。
 泣きすぎた心が、そう囁いていた。

 やがて、最後の一枚が指先から滑り落ち、床に静かに落ちる音が響いた。

 鏡の中には――
 生まれたままの、真っ白なユキの姿があった。

 震える肩、腕に抱きしめた自分の身体、潤んだ瞳。
 それは、どこまでも脆く、壊れやすく、そして……どこか神聖だった。

 セシルは、静かに囁いた。

「美しいわ、ユキ。
 壊れそうなほど繊細なその姿が……私は、たまらなく愛おしいの」

 その声に、ユキの心は震えた。

 羞恥、恐れ、戸惑い――そのすべてが、紅茶の余韻に溶けて、じわじわと甘く痺れていく。
 心はまだ痛んでいるのに、不思議と温かく、
 まるで「再生」の始まりに、立ち会っているかのようだった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

乳首当てゲーム

はこスミレ
恋愛
会社の同僚に、思わず口に出た「乳首当てゲームしたい」という独り言を聞かれた話。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

触手エイリアンの交配実験〜研究者、被験体になる〜

桜井ベアトリクス
恋愛
異星で触手エイリアンを研究する科学者アヴァ。 唯一観察できていなかったのは、彼らの交配儀式。 上司の制止を振り切り、禁断の儀式を覗き見たアヴァは―― 交わる触手に、抑えきれない欲望を覚える。 「私も……私も交配したい」 太く長い触手が、体の奥深くまで侵入してくる。 研究者が、快楽の実験体になる夜。

落ち込んでいたら綺麗なお姉さんにナンパされてお持ち帰りされた話

水無瀬雨音
恋愛
実家の花屋で働く璃子。落ち込んでいたら綺麗なお姉さんに花束をプレゼントされ……? 恋の始まりの話。

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

処理中です...