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二食目
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『い~い日~だ~なぁ~♪』
なんて口ずさみながら家までの道をスキップ気味に歩く。今日は凄くいい日だった。仕事では、滅多に褒めてくれない上司が褒めてくれたし、同僚も褒めてくれた。帰り道の商店街でひいたクジでは、可愛いもこもこしたパジャマが当たった。さらにたまたま寄ったスーパーでは私が丁度来店三千人目だったらしくて、割引券を貰ってしまった。
『ふんふんふふ~ん♪』
いい事、嬉しい事が沢山重なって、今日の私は凄く気分がいいのだ!なので!今日の晩御飯は私の大好物に決定したのです!ふわっふわで、とろっとろで、食べるだけで幸せになるアレ!定時帰りだから時間はたっぷりあるし!ゆっくり食べて、ゆっくりお風呂に入ろう。前に友達から貰ったいい匂いの入浴剤がまだ残ってたはずだし。早く帰ろう!
『た~だ~いま~。』
待ってる誰かがいる訳じゃないけど、ついつい言ってしまう。…返事してくれるインコでも飼おうかな…。ダメだ、ここペット不可だ…。
部屋に入ってスーツを脱いで掛ける。そして今日当たった可愛いパジャマを袋から取り出した。
『かぁわいい!』
改めて見ても可愛い。淡い紫と白のシマシマで、白猫のシルエットと足跡の柄が入ってる。そして何より!手触りが!しっとりしてて、ふわふわしてて、もこもこで…ずっと触っていられる…。……って、こんな事してる場合じゃない。ご飯の支度をしなくてはっ。ひとしきりパジャマの手触りを堪能してから早速着て、ご飯支度を始める。今日使う食材は…玉ねぎ、じゃがいも、きゅうり、鶏肉、卵…くらいかな。
まず最初に大きめのお鍋に水をたっぷり入れて、火にかける。その間にじゃがいもを。しっかり水で洗って土を落としていく。洗ったじゃがいもはボウルに入れておく。包丁で剥くのは危ないからピーラーでね。綺麗に皮を剥き終わったら、包丁の角を使ってじゃがいもの芽を取る。じゃがいもの芽にはソラニンっていう毒が含まれてて危ないから、少しも残すことなくしっかりと取る。次にじゃがいもは火が通りにくいから…4分の1くらいかな、それくらいに切っておく。じゃがいもはすぐに酸化しちゃうから、ボウルには水を入れてその中にじゃがいもをポイッと入れておく。お鍋がふつふつしてきたから
ちゃぷんっとぷんっ
とじゃがいもを入れていく、火が通って箸がスっと入るくらいまで茹でる。
その間にきゅうりをうすーく小口切り。端っこは固くて食べられないから、もったいないけど処分。薄く切るから1本あれば十分。切ったきゅうりは浅いお皿に置いておく。次は…玉ねぎも切っておこうかな。
玉ねぎの茶色い皮をペリペリと剥いていく。この作業が実は結構好きだ。小さい頃お母さんのお手伝いでよくやった。剥く前に頭とお尻の部分を切っておくのがポイント。剥きやすくなるからね。今回の玉ねぎはみじん切りにしていく。最初は1個を半分にしてから、半分になった玉ねぎを繊維にそって切れ目を入れる。この時玉ねぎがバラバラにならないように注意しなきゃいけない。全体を切ったら次に繊維を切るようにして切っていく。そうすればすぐにみじん切りの出来上がり。あ、豆知識としては、玉ねぎを切る時は玉ねぎと包丁を冷やしておくこと。そうすると涙が出にくくなる。今日は冷やしてなかったから目が痛くてしょうがない…。
『っ…あー保冷剤ーー。』
冷やすと痛みって和らぐよね。少しだけ冷やして、痛みがマシになってから作業を再開。一人分だし、玉ねぎは1個で十分かな。
ピーッピーッ
『あ、茹だった。』
茹で上がったじゃがいもをザルにあけて、またボウルに入れる。そして、穴の空いた、平たいお玉みたいなので全体的に潰していく。この時ボウルの下にはタオルを引いておくのがオススメ。ズレにくくなるからね。この作業をしてると懐かしい光景が頭に浮かんでくる。
小さい頃、お母さんはまだ包丁は危ないから、と使わせてはくれなかった。代わりに安全な玉ねぎの皮剥きや味見係をさせてくれた。お母さんがポテトサラダを作ろうとしてた時、私も手伝いたくて、道具を貸してもらってじゃがいもを潰そうとした。けど、小さくてまだ力のない私にはそれは凄く大変な作業で全然出来なくて、泣きながらじゃがいもを潰そうとしてた時があった。けど、そんな時はお母さんは私の手を包み込んで一緒に作業をしてくれた。自分一人でやった方が早いはずなのに一緒にやってくれるお母さんの手は凄く暖かくて、安心した。だから、私はこの作業が好きだ。お母さんの優しい手を思い出す。
『また…一緒に料理したいな…。』
今度の休みは実家に帰ろう。ぼんやりとそう思いながら私は作業を続けた。
滑らかになるまでじゃがいもを潰し終わってから、さっき薄く切ったきゅうりを混ぜていく。ポテトサラダの味なんてほとんどマヨネーズな気がしなくもないけど…。マヨネーズをチューブからそのまま絞り出して混ぜる。そして、塩コショウ…となんにでも取り敢えず入れたら味が整うクレイジーソルトを入れてから更に混ぜる。満遍なく味が混ざったところでコレはボウルのまま取り敢えず放置。軽くラップはかけておこうかな。
次に鶏肉を切る。一口大の鶏肉を今回は少し多めに用意っ。だっていい日だったから!そしてフライパンに少しのバターを敷く。まだ少し溶け残ってるくらいでみじん切りの玉ねぎと鶏肉を投入。玉ねぎが飴色になる少し手前で朝炊いたご飯を入れる。全体が混ざったところでケチャップを混ぜる。満遍なく、味のバラつきが出ないようによく混ぜる。そしてクレイジーソルト。コレは…ホント助かるよね…お手軽…。鶏肉はしっかりと火を通さないといけない。食中毒の危険があるからね。ゆっくりと火にかけて混ぜていく。鶏肉の焼ける匂い。少し酸味のあるケチャップの匂い。飴色になった玉ねぎの香ばしい匂い。その全てが私のお腹を刺激して止まない。
グゥ~ッ
お腹の虫はマテができないようだ。
『味見は!大事だから!』
混ぜていた木のヘラに少しだけケチャップライスを乗せる。出来たてでまだ湯気が出てるソレを
ふーっふーっ
と少しだけ冷ましてから、口に運ぶ。
『あっふっっ!』
火傷しそうなくらいの熱さ。けど口に広がるケチャップの程よい酸味と飴色玉ねぎの甘みでそれは緩和される。いい出来。けど!次がいっちばん大事!
ケチャップライスを小さな丘のようにお皿に盛り付けておく。そして別のフライパンを取り出す。卵はしっかりと溶いて、白身がわからないくらいまで混ぜる。この時空気が入るように箸で斜めから切るように混ぜるのがポイントだ。弱火で温められたフライパンに溶いた卵を入れる。1度フライパン全体に卵を広げて、表面だけを箸でクルクルとかき混ぜる。とろとろふわふわにするにはここからが勝負。まだ半熟でとろとろしてる状態の卵を端っこからチョイチョイとめくっていく。表面がうっすらと焼けて、破れなければよし。そして3分の1くらいまでパタンと卵を折る。反対も同じようにして、反対側に重なるようにする。ここで破けたら全てが水の泡になる。そして、フライパンを持ち上げ、片手で持つ。そして、片手をグーにして…フライパンを持つ手首をトントンする。
トンットンットンッ
とリズム良く手首を叩けば、フライパンの上の半熟オムレツさんは
ふるん、ふるるん
と揺れながら少しずつ回る。こうやって全体を少し火を通す。少し濃い、美味しそうな黄色になったら出来上がり。コレをお皿に盛り付けておいたケチャップライスの上にそ~っとそ~っと端っこからゆ~っくり乗せる。そうじゃないとフライパンの角に引っかかって破けてしまう。それは困る。とても困る。
『…っよしっ!綺麗に出来た!』
細いレモンみたいなだ円形のオムレツの乗ったふわふわとろとろ特製オムライス。私はこれがだいっ好きだ。まだ仕上げが残ってるけどそれは食卓の上で楽しむ。
『ふふ~ん♪ふんふんふ~ん♪』
綺麗に出来たオムライスを両手でそっと持ち上げて食卓まで運ぶ。オムレツがケチャップライスの上からズレないようにあくまでも慎重に…。次に放置してたポテトサラダを小さめの底の深いお皿に軽く盛り付ける。残ったポテトサラダはそのまんまラップをかけて冷蔵庫にイン。ついでに冷えたお茶も冷蔵庫から出して、せっかくだからお気に入りの桜の花びらが彫ってあるガラスのコップにお茶を注ぐ。
トポットポポットッ
ペットボトルからお茶がコップに注がれる音だけが台所に響く。この音も結構好きだ。いつも変わらない、安心する音。夏に聞けば少しだけ涼しい気分にしてくれる音。
『…おっと。』
ボーッとお茶を注いでると溢れる一歩手前まで注いでしまった。
『危ない危ない…。』
幸い溢れはしなかったけど…。
『持ち上げたらこぼれるね、コレは…。』
表面張力に頼っているから零れないお茶…。それはホントのギリギリで少しでも動かしたら零れてしまいそうだ。
『ちょっと行儀が悪いけど…仕方ないよね、不可抗力っ。』
台所に乗せられた並々のお茶が入ったコップに零れないように直接口をつける。
『…ん、よし。』
チュッ...と少しだけそのまま吸うようにしてお茶を飲んだ。これで持ち上げても零れることはない。少し多めに入ったお茶と盛り付けたポテトサラダを持って食卓に運ぶ。
『あ、ちっちゃいナイフ持ってない。』
コトンッ
と二つを食卓に置いて手を離す。そそくさと台所に戻ってカチャカチャとナイフを探す。
『スプーンも出してなかった。』
少し大きめの、持ち手に猫の模様が入ったスプーンとそれとセットの同じ模様の入ったちっちゃいナイフを取り出す。
『ふふふふ…♪』
抑えきれない笑みを零しながら食卓に戻る。
『いざ!最後の仕上げ!』
ケチャップライスに
ぽてんっ
と乗っかるオムレツさんの端っこから焼けた表面だけを切るようにナイフを入れる。そうすればふわふわなオムレツさんはすぐにナイフを受け入れて、反対側までスッと通る。そして、切れ目をナイフで
チョチョイ
と開くようにして、広げる。そうすれば、半熟のオムレツさんからはとろっとろの中身が現れる。
『はぅ~っ!』
美味しそうな綺麗な黄色。出来たて故に熱が篭ってて、開くと現れる美味しそうな匂いを携えた温かな湯気。光を反射してキラキラと輝くとろっとろの中身…。おもわず感激の声が漏れる。
ぐきゅ~きゅ~
お腹の虫が叫ぶように音を上げた。口の中は
今か今か
とヨダレが溢れる。冷める前に、早く食べなきゃっ。急いで椅子に座って手を合わせる。
『ふぅ…いただきますっ!』
早速右手にスプーンを構えてオムライスに刺していく。刺したスプーンによってとろとろの卵がケチャップライスと絡んでいく。一口分スプーンに取って持ち上げれば、ちょうど全部が乗っかったのがわかる。ケチャップを纏って酸味を、飴色玉ねぎと和えられて甘味を携えたご飯。一口大に切られたぷにぷにでジューシーな鶏肉。それらに乗っかるほのかに甘い、とろっとろの卵。それをゆっくり口へと運ぶ。
『っ~!さいっこうっ!』
ご飯はとろとろの卵と絡んでさっきの味見の時よりまろやかで甘いし、一口大の鶏肉は柔らかくて、けどしっかりとした弾力もあって食べごたえがある。鶏肉から出る少ししょっぱい肉汁がご飯全体に混ざって、さらにコクと旨味が生まれる。たった一口食べただけでこれだけ幸せになれる。だからオムライスは大好きなんだ。
次に口に運ぶのはポテトサラダ。スッとスプーンをポテトサラダの山に入れる。ポテトサラダの材料は至ってシンプル。じゃがいもときゅうりだけ。けど、それだけで料理として成立する。まぁ、マヨネーズが美味しいからね。カロリーは美味しいの。穏やかな黄色に瑞々しいきゅうりの緑がよく映える。パクッと口に含めば、それだけで口の中は幸せになる。滑らかなじゃがいもは口の中で緩やかに溶け、口を動かせばシャキシャキとしたじゃがいもとは正反対のきゅうりの食感もやってくる。まろやかでありながら塩気のあるマヨネーズはじゃがいもには本当によくあう。マヨネーズはほとんどが油だ。けれど、それを爽やかにしてくれるきゅうりがいるから口の中が油っこく、重たくなることはない。塩コショウで整えられた味付けは濃くなく、薄くなく、ちょうどいい塩加減でいつまでも食べていられそうだ。
オムライスの暖かくて柔らかな味と、ポテトサラダの冷たくてまろやかな味を楽しみながら、途中でお茶を飲んで味をリセット。それで更にまた料理の味を楽しめる。
『美味しいっ。』
緩みきった口元を隠すことなく、美味しいご飯を口へと運ぶ。楽しい一日を過ごして、大好きなご飯を食べる。こんな平和で幸せな事が他にあるのだろうか。あるのかもしれないけど、私は知らない。きっと知ることはないのかもしれない。けど、今はそれで、この幸せが一番でいい。これが私の一番の幸せ。鶏肉の柔らかさを口いっぱいに楽しみながら頭の隅でそんなことを考える。難しい事は考えない。今が幸せならそれでいい。それがきっと一番幸せだと思うから。
パクパクとほとんど休むことなく食べ続けた。
『はぁ~、お腹いっぱい…。』
少し多くご飯を盛りすぎたかもしれない。そう思いながらいつもよりパンパンのお腹をさする。そして手を合わせる。
『…ご馳走様でしたっ。』
『さぁて…片付けよ~う。』
ホントはお腹が苦しいから今すぐにでも横になりたいけど…今それをしたらきっとそのまま寝てしまう…。さっさとお皿を片付けてお風呂に入ろう。先にお風呂のスイッチを。
ピッ…ジャーッ!
お風呂のボタンを押せばすぐにお湯が溜まっていく。その間にゆっくりお皿を洗う。
カチャ…ザーッ…キュッ...カチャ…ピチャンッ…
特に何も考えないでボーッと手元だけを見つめる。お腹がいっぱいで少し眠くなってきた…。ボーッとしながらも少しだけ今日の出来事を振り返る。本当に今日はいい日だった。明日も、今日までとはいかなくても…いい日だったらいいな…。小さい事でいい。何か一つでもいいことがあったなら、それだけその日はいい日になる。いい事があった日のご飯はいつもよりきっと美味しい…だから、私は毎日小さな幸せを探して過ごす。虹が出てたとか、子供たちが楽しそうに遊んでたとか、道端の昨日は咲いてなかったお花が今日は綺麗に咲いてた、とか。疲れてる時はそれを探すのは少し大変だけど、見つけられたら疲れも少しはどこかに行くから。明日も私は小さな幸せを探す。それは別に…自分で作ってもいいんじゃない?自分で作った幸せだって、幸せに違いはないんだから。だから、私は今日も考える。
『明日は何を食べようかな。』
なんて口ずさみながら家までの道をスキップ気味に歩く。今日は凄くいい日だった。仕事では、滅多に褒めてくれない上司が褒めてくれたし、同僚も褒めてくれた。帰り道の商店街でひいたクジでは、可愛いもこもこしたパジャマが当たった。さらにたまたま寄ったスーパーでは私が丁度来店三千人目だったらしくて、割引券を貰ってしまった。
『ふんふんふふ~ん♪』
いい事、嬉しい事が沢山重なって、今日の私は凄く気分がいいのだ!なので!今日の晩御飯は私の大好物に決定したのです!ふわっふわで、とろっとろで、食べるだけで幸せになるアレ!定時帰りだから時間はたっぷりあるし!ゆっくり食べて、ゆっくりお風呂に入ろう。前に友達から貰ったいい匂いの入浴剤がまだ残ってたはずだし。早く帰ろう!
『た~だ~いま~。』
待ってる誰かがいる訳じゃないけど、ついつい言ってしまう。…返事してくれるインコでも飼おうかな…。ダメだ、ここペット不可だ…。
部屋に入ってスーツを脱いで掛ける。そして今日当たった可愛いパジャマを袋から取り出した。
『かぁわいい!』
改めて見ても可愛い。淡い紫と白のシマシマで、白猫のシルエットと足跡の柄が入ってる。そして何より!手触りが!しっとりしてて、ふわふわしてて、もこもこで…ずっと触っていられる…。……って、こんな事してる場合じゃない。ご飯の支度をしなくてはっ。ひとしきりパジャマの手触りを堪能してから早速着て、ご飯支度を始める。今日使う食材は…玉ねぎ、じゃがいも、きゅうり、鶏肉、卵…くらいかな。
まず最初に大きめのお鍋に水をたっぷり入れて、火にかける。その間にじゃがいもを。しっかり水で洗って土を落としていく。洗ったじゃがいもはボウルに入れておく。包丁で剥くのは危ないからピーラーでね。綺麗に皮を剥き終わったら、包丁の角を使ってじゃがいもの芽を取る。じゃがいもの芽にはソラニンっていう毒が含まれてて危ないから、少しも残すことなくしっかりと取る。次にじゃがいもは火が通りにくいから…4分の1くらいかな、それくらいに切っておく。じゃがいもはすぐに酸化しちゃうから、ボウルには水を入れてその中にじゃがいもをポイッと入れておく。お鍋がふつふつしてきたから
ちゃぷんっとぷんっ
とじゃがいもを入れていく、火が通って箸がスっと入るくらいまで茹でる。
その間にきゅうりをうすーく小口切り。端っこは固くて食べられないから、もったいないけど処分。薄く切るから1本あれば十分。切ったきゅうりは浅いお皿に置いておく。次は…玉ねぎも切っておこうかな。
玉ねぎの茶色い皮をペリペリと剥いていく。この作業が実は結構好きだ。小さい頃お母さんのお手伝いでよくやった。剥く前に頭とお尻の部分を切っておくのがポイント。剥きやすくなるからね。今回の玉ねぎはみじん切りにしていく。最初は1個を半分にしてから、半分になった玉ねぎを繊維にそって切れ目を入れる。この時玉ねぎがバラバラにならないように注意しなきゃいけない。全体を切ったら次に繊維を切るようにして切っていく。そうすればすぐにみじん切りの出来上がり。あ、豆知識としては、玉ねぎを切る時は玉ねぎと包丁を冷やしておくこと。そうすると涙が出にくくなる。今日は冷やしてなかったから目が痛くてしょうがない…。
『っ…あー保冷剤ーー。』
冷やすと痛みって和らぐよね。少しだけ冷やして、痛みがマシになってから作業を再開。一人分だし、玉ねぎは1個で十分かな。
ピーッピーッ
『あ、茹だった。』
茹で上がったじゃがいもをザルにあけて、またボウルに入れる。そして、穴の空いた、平たいお玉みたいなので全体的に潰していく。この時ボウルの下にはタオルを引いておくのがオススメ。ズレにくくなるからね。この作業をしてると懐かしい光景が頭に浮かんでくる。
小さい頃、お母さんはまだ包丁は危ないから、と使わせてはくれなかった。代わりに安全な玉ねぎの皮剥きや味見係をさせてくれた。お母さんがポテトサラダを作ろうとしてた時、私も手伝いたくて、道具を貸してもらってじゃがいもを潰そうとした。けど、小さくてまだ力のない私にはそれは凄く大変な作業で全然出来なくて、泣きながらじゃがいもを潰そうとしてた時があった。けど、そんな時はお母さんは私の手を包み込んで一緒に作業をしてくれた。自分一人でやった方が早いはずなのに一緒にやってくれるお母さんの手は凄く暖かくて、安心した。だから、私はこの作業が好きだ。お母さんの優しい手を思い出す。
『また…一緒に料理したいな…。』
今度の休みは実家に帰ろう。ぼんやりとそう思いながら私は作業を続けた。
滑らかになるまでじゃがいもを潰し終わってから、さっき薄く切ったきゅうりを混ぜていく。ポテトサラダの味なんてほとんどマヨネーズな気がしなくもないけど…。マヨネーズをチューブからそのまま絞り出して混ぜる。そして、塩コショウ…となんにでも取り敢えず入れたら味が整うクレイジーソルトを入れてから更に混ぜる。満遍なく味が混ざったところでコレはボウルのまま取り敢えず放置。軽くラップはかけておこうかな。
次に鶏肉を切る。一口大の鶏肉を今回は少し多めに用意っ。だっていい日だったから!そしてフライパンに少しのバターを敷く。まだ少し溶け残ってるくらいでみじん切りの玉ねぎと鶏肉を投入。玉ねぎが飴色になる少し手前で朝炊いたご飯を入れる。全体が混ざったところでケチャップを混ぜる。満遍なく、味のバラつきが出ないようによく混ぜる。そしてクレイジーソルト。コレは…ホント助かるよね…お手軽…。鶏肉はしっかりと火を通さないといけない。食中毒の危険があるからね。ゆっくりと火にかけて混ぜていく。鶏肉の焼ける匂い。少し酸味のあるケチャップの匂い。飴色になった玉ねぎの香ばしい匂い。その全てが私のお腹を刺激して止まない。
グゥ~ッ
お腹の虫はマテができないようだ。
『味見は!大事だから!』
混ぜていた木のヘラに少しだけケチャップライスを乗せる。出来たてでまだ湯気が出てるソレを
ふーっふーっ
と少しだけ冷ましてから、口に運ぶ。
『あっふっっ!』
火傷しそうなくらいの熱さ。けど口に広がるケチャップの程よい酸味と飴色玉ねぎの甘みでそれは緩和される。いい出来。けど!次がいっちばん大事!
ケチャップライスを小さな丘のようにお皿に盛り付けておく。そして別のフライパンを取り出す。卵はしっかりと溶いて、白身がわからないくらいまで混ぜる。この時空気が入るように箸で斜めから切るように混ぜるのがポイントだ。弱火で温められたフライパンに溶いた卵を入れる。1度フライパン全体に卵を広げて、表面だけを箸でクルクルとかき混ぜる。とろとろふわふわにするにはここからが勝負。まだ半熟でとろとろしてる状態の卵を端っこからチョイチョイとめくっていく。表面がうっすらと焼けて、破れなければよし。そして3分の1くらいまでパタンと卵を折る。反対も同じようにして、反対側に重なるようにする。ここで破けたら全てが水の泡になる。そして、フライパンを持ち上げ、片手で持つ。そして、片手をグーにして…フライパンを持つ手首をトントンする。
トンットンットンッ
とリズム良く手首を叩けば、フライパンの上の半熟オムレツさんは
ふるん、ふるるん
と揺れながら少しずつ回る。こうやって全体を少し火を通す。少し濃い、美味しそうな黄色になったら出来上がり。コレをお皿に盛り付けておいたケチャップライスの上にそ~っとそ~っと端っこからゆ~っくり乗せる。そうじゃないとフライパンの角に引っかかって破けてしまう。それは困る。とても困る。
『…っよしっ!綺麗に出来た!』
細いレモンみたいなだ円形のオムレツの乗ったふわふわとろとろ特製オムライス。私はこれがだいっ好きだ。まだ仕上げが残ってるけどそれは食卓の上で楽しむ。
『ふふ~ん♪ふんふんふ~ん♪』
綺麗に出来たオムライスを両手でそっと持ち上げて食卓まで運ぶ。オムレツがケチャップライスの上からズレないようにあくまでも慎重に…。次に放置してたポテトサラダを小さめの底の深いお皿に軽く盛り付ける。残ったポテトサラダはそのまんまラップをかけて冷蔵庫にイン。ついでに冷えたお茶も冷蔵庫から出して、せっかくだからお気に入りの桜の花びらが彫ってあるガラスのコップにお茶を注ぐ。
トポットポポットッ
ペットボトルからお茶がコップに注がれる音だけが台所に響く。この音も結構好きだ。いつも変わらない、安心する音。夏に聞けば少しだけ涼しい気分にしてくれる音。
『…おっと。』
ボーッとお茶を注いでると溢れる一歩手前まで注いでしまった。
『危ない危ない…。』
幸い溢れはしなかったけど…。
『持ち上げたらこぼれるね、コレは…。』
表面張力に頼っているから零れないお茶…。それはホントのギリギリで少しでも動かしたら零れてしまいそうだ。
『ちょっと行儀が悪いけど…仕方ないよね、不可抗力っ。』
台所に乗せられた並々のお茶が入ったコップに零れないように直接口をつける。
『…ん、よし。』
チュッ...と少しだけそのまま吸うようにしてお茶を飲んだ。これで持ち上げても零れることはない。少し多めに入ったお茶と盛り付けたポテトサラダを持って食卓に運ぶ。
『あ、ちっちゃいナイフ持ってない。』
コトンッ
と二つを食卓に置いて手を離す。そそくさと台所に戻ってカチャカチャとナイフを探す。
『スプーンも出してなかった。』
少し大きめの、持ち手に猫の模様が入ったスプーンとそれとセットの同じ模様の入ったちっちゃいナイフを取り出す。
『ふふふふ…♪』
抑えきれない笑みを零しながら食卓に戻る。
『いざ!最後の仕上げ!』
ケチャップライスに
ぽてんっ
と乗っかるオムレツさんの端っこから焼けた表面だけを切るようにナイフを入れる。そうすればふわふわなオムレツさんはすぐにナイフを受け入れて、反対側までスッと通る。そして、切れ目をナイフで
チョチョイ
と開くようにして、広げる。そうすれば、半熟のオムレツさんからはとろっとろの中身が現れる。
『はぅ~っ!』
美味しそうな綺麗な黄色。出来たて故に熱が篭ってて、開くと現れる美味しそうな匂いを携えた温かな湯気。光を反射してキラキラと輝くとろっとろの中身…。おもわず感激の声が漏れる。
ぐきゅ~きゅ~
お腹の虫が叫ぶように音を上げた。口の中は
今か今か
とヨダレが溢れる。冷める前に、早く食べなきゃっ。急いで椅子に座って手を合わせる。
『ふぅ…いただきますっ!』
早速右手にスプーンを構えてオムライスに刺していく。刺したスプーンによってとろとろの卵がケチャップライスと絡んでいく。一口分スプーンに取って持ち上げれば、ちょうど全部が乗っかったのがわかる。ケチャップを纏って酸味を、飴色玉ねぎと和えられて甘味を携えたご飯。一口大に切られたぷにぷにでジューシーな鶏肉。それらに乗っかるほのかに甘い、とろっとろの卵。それをゆっくり口へと運ぶ。
『っ~!さいっこうっ!』
ご飯はとろとろの卵と絡んでさっきの味見の時よりまろやかで甘いし、一口大の鶏肉は柔らかくて、けどしっかりとした弾力もあって食べごたえがある。鶏肉から出る少ししょっぱい肉汁がご飯全体に混ざって、さらにコクと旨味が生まれる。たった一口食べただけでこれだけ幸せになれる。だからオムライスは大好きなんだ。
次に口に運ぶのはポテトサラダ。スッとスプーンをポテトサラダの山に入れる。ポテトサラダの材料は至ってシンプル。じゃがいもときゅうりだけ。けど、それだけで料理として成立する。まぁ、マヨネーズが美味しいからね。カロリーは美味しいの。穏やかな黄色に瑞々しいきゅうりの緑がよく映える。パクッと口に含めば、それだけで口の中は幸せになる。滑らかなじゃがいもは口の中で緩やかに溶け、口を動かせばシャキシャキとしたじゃがいもとは正反対のきゅうりの食感もやってくる。まろやかでありながら塩気のあるマヨネーズはじゃがいもには本当によくあう。マヨネーズはほとんどが油だ。けれど、それを爽やかにしてくれるきゅうりがいるから口の中が油っこく、重たくなることはない。塩コショウで整えられた味付けは濃くなく、薄くなく、ちょうどいい塩加減でいつまでも食べていられそうだ。
オムライスの暖かくて柔らかな味と、ポテトサラダの冷たくてまろやかな味を楽しみながら、途中でお茶を飲んで味をリセット。それで更にまた料理の味を楽しめる。
『美味しいっ。』
緩みきった口元を隠すことなく、美味しいご飯を口へと運ぶ。楽しい一日を過ごして、大好きなご飯を食べる。こんな平和で幸せな事が他にあるのだろうか。あるのかもしれないけど、私は知らない。きっと知ることはないのかもしれない。けど、今はそれで、この幸せが一番でいい。これが私の一番の幸せ。鶏肉の柔らかさを口いっぱいに楽しみながら頭の隅でそんなことを考える。難しい事は考えない。今が幸せならそれでいい。それがきっと一番幸せだと思うから。
パクパクとほとんど休むことなく食べ続けた。
『はぁ~、お腹いっぱい…。』
少し多くご飯を盛りすぎたかもしれない。そう思いながらいつもよりパンパンのお腹をさする。そして手を合わせる。
『…ご馳走様でしたっ。』
『さぁて…片付けよ~う。』
ホントはお腹が苦しいから今すぐにでも横になりたいけど…今それをしたらきっとそのまま寝てしまう…。さっさとお皿を片付けてお風呂に入ろう。先にお風呂のスイッチを。
ピッ…ジャーッ!
お風呂のボタンを押せばすぐにお湯が溜まっていく。その間にゆっくりお皿を洗う。
カチャ…ザーッ…キュッ...カチャ…ピチャンッ…
特に何も考えないでボーッと手元だけを見つめる。お腹がいっぱいで少し眠くなってきた…。ボーッとしながらも少しだけ今日の出来事を振り返る。本当に今日はいい日だった。明日も、今日までとはいかなくても…いい日だったらいいな…。小さい事でいい。何か一つでもいいことがあったなら、それだけその日はいい日になる。いい事があった日のご飯はいつもよりきっと美味しい…だから、私は毎日小さな幸せを探して過ごす。虹が出てたとか、子供たちが楽しそうに遊んでたとか、道端の昨日は咲いてなかったお花が今日は綺麗に咲いてた、とか。疲れてる時はそれを探すのは少し大変だけど、見つけられたら疲れも少しはどこかに行くから。明日も私は小さな幸せを探す。それは別に…自分で作ってもいいんじゃない?自分で作った幸せだって、幸せに違いはないんだから。だから、私は今日も考える。
『明日は何を食べようかな。』
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果たして・・
秘密などあったのだろうか!
むちゃくちゃ、1回投稿文が短いです。(^^ゞ💦アセアセ
10秒~30秒?
何気ない隠し事が、とんでもないことに繋がっていくこともあるんですね。
❦ イラストはAI生成画像 自作
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
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食いしん坊だから食べ物系の話しが好きであちこちで読んでいます。ケチャップライスを作るくだりは、ご飯の投入部分も書き入れたらもっと良くなると思います。