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挑戦状(3)
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西条さんと零の勝負、二日目。オムライス対決…これだけ聞けば穏やかなんだけどなぁ…。今日の零は凄く気合いが入ってる。何故わかるかと言うと…それはお昼に遡る。
─お昼休み─────
『皆さん!コレ、食べ比べてみてください!』
みんなでお昼を食べようと集まって、お弁当を出したり、サキは購買に行こうとしてると零が四つの中くらいのタッパーを取り出した。カバンから財布を取り出そうとしてたサキが
『零、それ何?』
と指さしながら言った。零は妖しく笑って
『オムライスです、4種類の。』
と言った。それを聞いた花ちゃんは目をキラキラさせながら
『オムライス!どんなのがあるの?食べたい!』
と箸を片手に言った。零は
『えーと、豚肉、牛肉、鶏肉、全部、の4種類の具材それぞれで作ったものですよ。個人的には鶏肉が好きなんですけどね、審査をするのは皆さんですから、皆さんの好みを教えて下さい。卵は昨日と同じふわとろで本番は作ります。どうぞ、召し上がれ。』
そう言いながらパカパカと蓋を開けて僕達の前にタッパーを並べた。保温性のあるタッパーなのか中身はまだほんのりと温かった。
みんなで鶏肉、牛肉、豚肉、全部、の順で食べ比べる。みんな二、三口食べてから多数決をした。自分の好きなヤツを指さす、と言って花ちゃんが音頭を取る。
『せーのっ。』
結果は満場一致で鶏肉だった。すると零が口を開く。
『えっと…皆さん、私の好みに合わせなくて良いんですよ?自分のお好きなのを…。』
『自分の好みだよ。俺は鶏肉が好き。…残り食べていい?』
零の言葉を遮るようにサキはそう言って鶏肉のオムライスの入ったタッパーを持って、食べ始めた。
『私も!鶏肉が好きー!油っこくないし、食感も良いし!あ、他のももちろん美味しいよ!?その中でもって事だよ!?』
言い訳するように慌て始める花ちゃんを零はクスクスと笑って眺めていた。すると
『…蓮は?蓮も鶏肉がお好きですか?』
と零が僕に問いかける。急な問いかけに
『えっ!あ、僕!?うん!その四つだったら鶏肉が一番好きかなぁ。すっごく美味しかったよ。』
と最初は慌ててしまったけどすぐに冷静になった。零は嬉しそうに微笑んでいた。
『零~、他のも残り食べていい?俺お弁当ないし。』
鶏肉のを食べ終わったのかサキが残りのタッパーを手に零にきいた。零は
『はい、良いですよ。全部食べちゃって下さい。』
とまた嬉しそうに笑った。さっき見た笑顔より嬉しそうな笑顔に少しモヤっとした。
…そうやって少しモヤっとしつつもお昼休みは終わった。
────
放課後になってみんなで調理室に向かってる途中でそういえば、と思う。
『ねぇ、零。そういえばオムライスの材料とかってどうするの?買ってあるの?』
零にそうきけば
『一応、私の方で準備もしてありますが、西条さんに言われまして…用意して欲しいものがあったら用意するから教えて欲しい、と…。お言葉に甘えて材料などは伝えましたが…。どうなっているかは…。』
と少し不安そうにする。まぁ、零も準備はしてあるみたいだし…大丈夫だよね…?
調理室に着くと前回同様西条さんはまだ来てなかった。花ちゃんとサキは今回は気にしてない風にニコニコしてたけどそれが逆に怖かった。
十分後くらいに西条さんとその取り巻き的な人が来た。
『…お待たせ致しましたわ。さ、始めましょ。』
西条さんの言葉を合図に西条さんと、零は調理の準備を始める。
『あの、西条さん。材料を伝えましたが、それはどこに?』
零は不安そうに聞く。西条さんは
『あぁ、忘れてましたわ。今から買ってきてはいかが?』
とぼけながらそう言う。零は慌てずに
『あら、そうでしたか。大丈夫ですよ、そんな事もあろうかと材料は買っておいたので。お気遣い感謝致します。』
とニコッと笑顔を西条さんに向けた。零が西条さんから離れて自分のテーブルで調理をし始めると、西条さんは小さく舌打ちをした。それが聞こえたらしい花ちゃんとサキは
『『は?』』
と酷くドスの効いた声で呟いた。暴れられては困るから二人を必死になだめる。イライラはしつつも二人とも手を出すには至らなかった…。よかった…。
淡々と調理をする零。無駄のない動きで料理を完成していく。鶏肉の炒められる香ばしい香り。和えられたケチャップの酸味のある食欲を誘う香り。
気づいた時には僕は唾を飲み込んでて、お腹がすいて仕方がなかった。一方西条さんは少し覚束無い手付きで包丁を扱っていた。…指切りそう。零も少し不安そうにチラチラと西条さんの様子を見てた。フライパンでお米と具材を混ぜる時も跳ねる油にビックリしてたりして…絶対普段料理してないんだろうな…って思ってしまった。零は心配する事なく着々と完成させていく。最後の仕上げにふわっふわとオムレツをケチャップライスに乗せる。六人分の少し小さいサイズのオムライスはあっという間にできてしまった。零は少し物足りない様子で野菜を切り始めた。その包丁さばきが早すぎて怪我しないかハラハラしてしまった…。そして零はお酢と塩コショウとオリーブオイルで作ったドレッシングを切った野菜にくるっと一回りかけて料理を完成させた。
『完成です。どうぞ、席に着いてください。』
楽しげに薄く微笑みながら料理を並べていく姿は酷く綺麗だった。
そして、ホントの最後の仕上げ。小さめのナイフでふわっふわのオムレツに切れ目を入れてとろけさせる。湯気がぶわっと立ち上がり、湯気にのって美味しそうな香りまでが僕らの鼻を掠めた。全員分の仕上げをし終わると零は満足気に微笑んだ。
『どうぞ、お召し上がりください。』
零がそう言った瞬間に僕らは一斉に食べ始めた。出来たてで熱々のオムライスはやっぱり凄く美味しくて、口に入れすぎてしまった。喉につまらせそうで少し手を止めると零がさりげなくコップに水を入れたのをそばに置いてくれた。全員分の水を用意してそばで立って僕らを眺める零の瞳はとても暖かくて優しかった。
全員がオムライスを食べ終わり、口の中をリセットするのに零のサラダを食べてると甲高い声が聞こえた。
『出来ましたわ!私特性!超高級オムライスですの!』
全員の前にドンッと置かれたオムライスはお世辞にもみてくれは綺麗とは言えなかった。…そして若干焦げ臭い。ライスを包む卵は薄くペラペラで破けてしまいボロボロだった。僕らはさっきの零の出来栄えと自然と比べてしまいため息が零れた。それでも西条さんは自信ありげに
『さぁ!召し上がって?』
と言う。明らかに僕らのテンションはさっきとは違っていた。恐る恐るスプーンをオムライスに刺し、すくって口へ運ぶ。
『ごほっ!っえ?!しょっぱっ!零ごめん!水くれる?!』
食べてすぐに言葉を発したのはサキだった。…僕も正直キツイ。
『零僕にもくれる…?』
口の中を塩分に攻撃されながら零に声をかける。零は直ぐに用意してくれて、察したのか全員のところにおかわりの水を用意してくれた。西条さんは意味がわからない、とでも言うような顔をしてポカンとしていた。サキはごくごくと水を飲み干し立ち上がった。
『悪いけど、俺もうこれ以上は食べれない。』
『なっ!?』
眉間に皺を寄せながらサキは言い放つ。西条さんは不機嫌な顔をしていた。サキは西条さんを睨みつけながら
『西条さんさぁ、ちゃんと味見、した?』
『へっ?』
珍しく女の子に対してサキが目付きを鋭くする。サキは呆れたような声を出す。
『絶対してないでしょ。してたらこんな味になるわけない。しょっぱすぎるし、ご飯は焦げてて苦い。卵も火を通しすぎて焦げてるアンドボロボロ。具材の大きさはバラバラ…。火がよく通ってない所もあるし…。よくこんな腕前で零に勝負挑んだよね。西条さん、普段料理なんてしないでしょ?お嬢様だもんねぇ、する訳ないよね。』
呆れながらイラついた様子のサキに西条さんは言葉をなくす。すると零が
『サキ、お皿お借りしますね。』
とサキが食べてた西条さんのオムライスを一口食べた。サキは怪訝そうな顔をしていて、モグモグと口を動かす零を眺めていた。飲み込んでから零は
『…確かに、少し濃すぎますね。焦げの味もします。けれど、使っている食材は一流品ですね。』
と呟く。サキの言葉を聞いてから西条さんは俯いていたが、零の言葉を聞いて顔を上げた。
『具材は人参、玉ねぎ、牛肉にエビ。どれもが高級品の最高品質。美味しいです。ですが、調理の仕方がなってません。西条さん、まだ使った食材は残ってますか?』
淡々と告げる零に西条さんはポカンとしながらも
『え、えぇ…ありますけれど…どうなさるおつもり?』
と返す。零は優しげに微笑んだ。
『一緒に作りましょう?』
『は…?』
西条さんは今度こそ意味がわからない、という顔をした。
『西条さんはお嬢様ですから自分で料理をする必要は無いかもしれませんが、いつまでも出来ないままではいつか困ることになるかもしれませんから。ほら、もう一度同じ材料で、作ってみましょう?』
『なっ、どうして貴女に教わらなければいけないんですの!それに、我が家には料理人がいますから、私が出来なくても何も困ることは…』
『いつまでも、恵まれた環境にいられるとは限りませんよ。』
…一瞬だけ、零の目に影がさした気がした。僕と花ちゃんには零が今何を考えてるか少しわかった。
『貴女にそんな事を言われる筋合いはありませんわ!教えも結構!さぁ、早く結果を発表しましょ!』
西条さんはそっぽを向きながら零の提案を蹴って、結果を急かした。零は少し寂しそうに笑いながら
『あら…断られちゃいました…。まぁ…仕方ありませんね。』
と言った。花ちゃんは少し泣きそうになってた。
結果発表の仕方は、美味しかったオムライスを作った人の前に集まる、だけ。でも、みんな結果はわかりきってた。結果は…零の前に僕らを含めた六人の審査員全員が集まった。西条さんは不愉快そうに零をみつめた。
『…ふんっ、まぁいいですわ。料理は庶民の方が慣れてますものね。これは元から捨て試合ですの。私の慈悲ですわ。次の勝負は運動ですの。明後日の放課後グラウンドに来なさい。では、また。』
不機嫌なまま歩き出した西条さんに取り巻きの人たちは気まずそうについていった。
僕らは残った食器の片付けを任された。だって、あの人たち何もしないで帰ったから…。残った食材は零が家で使う、と零のものになった。片付けが終わってからの帰り道、花ちゃんは耐えきれないように
『零ちゃぁぁぁん!おめでとう!まぁわかってたけどね!』
と零に抱き着いた。零はそれをしっかり抱きとめた。零は嬉しそうに笑いながら
『ありがとうございます。花たちが応援してくれたからですね。』
と言った。零の技術の賜物だと思うけどな…。僕とサキが目線でそう話してると花ちゃんが言った。
『あ、そういえば次の勝負は運動だっけ。何するんだろ?』
『ジャンル運動ってちょっと範囲広すぎるよねぇ。まぁ、一対一だし、簡単でわかりやすいのだと思うけど。』
サキが若干呆れながらこたえた。
『なんでもいいですけどねぇ。運動は嫌いじゃありませんし、何より、勝負ならなんでも本気で挑まなければ!』
零は楽しそうに手を力強く握った。
『あはは…本気でやるのも楽しんでやるのも全然いいけど、怪我しないでね?今回の西条さん見てたら次で何してくるかわかんないし…。』
僕が不安そうにそう言えば
『あら、蓮心配してくれるんですか?嬉しいです。』
ニコッと僕に笑いかけた。それだけで嬉しくて不安なんてどっかにいってしまった。それを見たサキは羨ましそうで
『零!俺も!心配してるから!絶対怪我しないでよ?』
と言い出した。けど零は楽しそうに笑いながら
『二人とも心配症ですねぇ。大丈夫ですよ。ご心配なく。体は人より丈夫だと自負してますから。』
と力こぶしを作る真似をした。僕とサキは前に花ちゃんが倒れた時のことを思い出した。
((それは…うん、知ってた。))
苦笑いする僕らをキョトンした顔で零はみつめる。
『まぁ!どんな内容でも零ちゃんが負けるわけないもんねー!』
花ちゃんはそう言いながら零と両手を繋いでくるくると回り始めた。零はくすくすと笑って
『任せて下さい。次も勝ちますね。』
と言った。零が負けるなんて想像がつかないし、勝ち負けの心配はしてない…けど…何故か僕の心の中に理由のわからない不安が広がっていた。
─お昼休み─────
『皆さん!コレ、食べ比べてみてください!』
みんなでお昼を食べようと集まって、お弁当を出したり、サキは購買に行こうとしてると零が四つの中くらいのタッパーを取り出した。カバンから財布を取り出そうとしてたサキが
『零、それ何?』
と指さしながら言った。零は妖しく笑って
『オムライスです、4種類の。』
と言った。それを聞いた花ちゃんは目をキラキラさせながら
『オムライス!どんなのがあるの?食べたい!』
と箸を片手に言った。零は
『えーと、豚肉、牛肉、鶏肉、全部、の4種類の具材それぞれで作ったものですよ。個人的には鶏肉が好きなんですけどね、審査をするのは皆さんですから、皆さんの好みを教えて下さい。卵は昨日と同じふわとろで本番は作ります。どうぞ、召し上がれ。』
そう言いながらパカパカと蓋を開けて僕達の前にタッパーを並べた。保温性のあるタッパーなのか中身はまだほんのりと温かった。
みんなで鶏肉、牛肉、豚肉、全部、の順で食べ比べる。みんな二、三口食べてから多数決をした。自分の好きなヤツを指さす、と言って花ちゃんが音頭を取る。
『せーのっ。』
結果は満場一致で鶏肉だった。すると零が口を開く。
『えっと…皆さん、私の好みに合わせなくて良いんですよ?自分のお好きなのを…。』
『自分の好みだよ。俺は鶏肉が好き。…残り食べていい?』
零の言葉を遮るようにサキはそう言って鶏肉のオムライスの入ったタッパーを持って、食べ始めた。
『私も!鶏肉が好きー!油っこくないし、食感も良いし!あ、他のももちろん美味しいよ!?その中でもって事だよ!?』
言い訳するように慌て始める花ちゃんを零はクスクスと笑って眺めていた。すると
『…蓮は?蓮も鶏肉がお好きですか?』
と零が僕に問いかける。急な問いかけに
『えっ!あ、僕!?うん!その四つだったら鶏肉が一番好きかなぁ。すっごく美味しかったよ。』
と最初は慌ててしまったけどすぐに冷静になった。零は嬉しそうに微笑んでいた。
『零~、他のも残り食べていい?俺お弁当ないし。』
鶏肉のを食べ終わったのかサキが残りのタッパーを手に零にきいた。零は
『はい、良いですよ。全部食べちゃって下さい。』
とまた嬉しそうに笑った。さっき見た笑顔より嬉しそうな笑顔に少しモヤっとした。
…そうやって少しモヤっとしつつもお昼休みは終わった。
────
放課後になってみんなで調理室に向かってる途中でそういえば、と思う。
『ねぇ、零。そういえばオムライスの材料とかってどうするの?買ってあるの?』
零にそうきけば
『一応、私の方で準備もしてありますが、西条さんに言われまして…用意して欲しいものがあったら用意するから教えて欲しい、と…。お言葉に甘えて材料などは伝えましたが…。どうなっているかは…。』
と少し不安そうにする。まぁ、零も準備はしてあるみたいだし…大丈夫だよね…?
調理室に着くと前回同様西条さんはまだ来てなかった。花ちゃんとサキは今回は気にしてない風にニコニコしてたけどそれが逆に怖かった。
十分後くらいに西条さんとその取り巻き的な人が来た。
『…お待たせ致しましたわ。さ、始めましょ。』
西条さんの言葉を合図に西条さんと、零は調理の準備を始める。
『あの、西条さん。材料を伝えましたが、それはどこに?』
零は不安そうに聞く。西条さんは
『あぁ、忘れてましたわ。今から買ってきてはいかが?』
とぼけながらそう言う。零は慌てずに
『あら、そうでしたか。大丈夫ですよ、そんな事もあろうかと材料は買っておいたので。お気遣い感謝致します。』
とニコッと笑顔を西条さんに向けた。零が西条さんから離れて自分のテーブルで調理をし始めると、西条さんは小さく舌打ちをした。それが聞こえたらしい花ちゃんとサキは
『『は?』』
と酷くドスの効いた声で呟いた。暴れられては困るから二人を必死になだめる。イライラはしつつも二人とも手を出すには至らなかった…。よかった…。
淡々と調理をする零。無駄のない動きで料理を完成していく。鶏肉の炒められる香ばしい香り。和えられたケチャップの酸味のある食欲を誘う香り。
気づいた時には僕は唾を飲み込んでて、お腹がすいて仕方がなかった。一方西条さんは少し覚束無い手付きで包丁を扱っていた。…指切りそう。零も少し不安そうにチラチラと西条さんの様子を見てた。フライパンでお米と具材を混ぜる時も跳ねる油にビックリしてたりして…絶対普段料理してないんだろうな…って思ってしまった。零は心配する事なく着々と完成させていく。最後の仕上げにふわっふわとオムレツをケチャップライスに乗せる。六人分の少し小さいサイズのオムライスはあっという間にできてしまった。零は少し物足りない様子で野菜を切り始めた。その包丁さばきが早すぎて怪我しないかハラハラしてしまった…。そして零はお酢と塩コショウとオリーブオイルで作ったドレッシングを切った野菜にくるっと一回りかけて料理を完成させた。
『完成です。どうぞ、席に着いてください。』
楽しげに薄く微笑みながら料理を並べていく姿は酷く綺麗だった。
そして、ホントの最後の仕上げ。小さめのナイフでふわっふわのオムレツに切れ目を入れてとろけさせる。湯気がぶわっと立ち上がり、湯気にのって美味しそうな香りまでが僕らの鼻を掠めた。全員分の仕上げをし終わると零は満足気に微笑んだ。
『どうぞ、お召し上がりください。』
零がそう言った瞬間に僕らは一斉に食べ始めた。出来たてで熱々のオムライスはやっぱり凄く美味しくて、口に入れすぎてしまった。喉につまらせそうで少し手を止めると零がさりげなくコップに水を入れたのをそばに置いてくれた。全員分の水を用意してそばで立って僕らを眺める零の瞳はとても暖かくて優しかった。
全員がオムライスを食べ終わり、口の中をリセットするのに零のサラダを食べてると甲高い声が聞こえた。
『出来ましたわ!私特性!超高級オムライスですの!』
全員の前にドンッと置かれたオムライスはお世辞にもみてくれは綺麗とは言えなかった。…そして若干焦げ臭い。ライスを包む卵は薄くペラペラで破けてしまいボロボロだった。僕らはさっきの零の出来栄えと自然と比べてしまいため息が零れた。それでも西条さんは自信ありげに
『さぁ!召し上がって?』
と言う。明らかに僕らのテンションはさっきとは違っていた。恐る恐るスプーンをオムライスに刺し、すくって口へ運ぶ。
『ごほっ!っえ?!しょっぱっ!零ごめん!水くれる?!』
食べてすぐに言葉を発したのはサキだった。…僕も正直キツイ。
『零僕にもくれる…?』
口の中を塩分に攻撃されながら零に声をかける。零は直ぐに用意してくれて、察したのか全員のところにおかわりの水を用意してくれた。西条さんは意味がわからない、とでも言うような顔をしてポカンとしていた。サキはごくごくと水を飲み干し立ち上がった。
『悪いけど、俺もうこれ以上は食べれない。』
『なっ!?』
眉間に皺を寄せながらサキは言い放つ。西条さんは不機嫌な顔をしていた。サキは西条さんを睨みつけながら
『西条さんさぁ、ちゃんと味見、した?』
『へっ?』
珍しく女の子に対してサキが目付きを鋭くする。サキは呆れたような声を出す。
『絶対してないでしょ。してたらこんな味になるわけない。しょっぱすぎるし、ご飯は焦げてて苦い。卵も火を通しすぎて焦げてるアンドボロボロ。具材の大きさはバラバラ…。火がよく通ってない所もあるし…。よくこんな腕前で零に勝負挑んだよね。西条さん、普段料理なんてしないでしょ?お嬢様だもんねぇ、する訳ないよね。』
呆れながらイラついた様子のサキに西条さんは言葉をなくす。すると零が
『サキ、お皿お借りしますね。』
とサキが食べてた西条さんのオムライスを一口食べた。サキは怪訝そうな顔をしていて、モグモグと口を動かす零を眺めていた。飲み込んでから零は
『…確かに、少し濃すぎますね。焦げの味もします。けれど、使っている食材は一流品ですね。』
と呟く。サキの言葉を聞いてから西条さんは俯いていたが、零の言葉を聞いて顔を上げた。
『具材は人参、玉ねぎ、牛肉にエビ。どれもが高級品の最高品質。美味しいです。ですが、調理の仕方がなってません。西条さん、まだ使った食材は残ってますか?』
淡々と告げる零に西条さんはポカンとしながらも
『え、えぇ…ありますけれど…どうなさるおつもり?』
と返す。零は優しげに微笑んだ。
『一緒に作りましょう?』
『は…?』
西条さんは今度こそ意味がわからない、という顔をした。
『西条さんはお嬢様ですから自分で料理をする必要は無いかもしれませんが、いつまでも出来ないままではいつか困ることになるかもしれませんから。ほら、もう一度同じ材料で、作ってみましょう?』
『なっ、どうして貴女に教わらなければいけないんですの!それに、我が家には料理人がいますから、私が出来なくても何も困ることは…』
『いつまでも、恵まれた環境にいられるとは限りませんよ。』
…一瞬だけ、零の目に影がさした気がした。僕と花ちゃんには零が今何を考えてるか少しわかった。
『貴女にそんな事を言われる筋合いはありませんわ!教えも結構!さぁ、早く結果を発表しましょ!』
西条さんはそっぽを向きながら零の提案を蹴って、結果を急かした。零は少し寂しそうに笑いながら
『あら…断られちゃいました…。まぁ…仕方ありませんね。』
と言った。花ちゃんは少し泣きそうになってた。
結果発表の仕方は、美味しかったオムライスを作った人の前に集まる、だけ。でも、みんな結果はわかりきってた。結果は…零の前に僕らを含めた六人の審査員全員が集まった。西条さんは不愉快そうに零をみつめた。
『…ふんっ、まぁいいですわ。料理は庶民の方が慣れてますものね。これは元から捨て試合ですの。私の慈悲ですわ。次の勝負は運動ですの。明後日の放課後グラウンドに来なさい。では、また。』
不機嫌なまま歩き出した西条さんに取り巻きの人たちは気まずそうについていった。
僕らは残った食器の片付けを任された。だって、あの人たち何もしないで帰ったから…。残った食材は零が家で使う、と零のものになった。片付けが終わってからの帰り道、花ちゃんは耐えきれないように
『零ちゃぁぁぁん!おめでとう!まぁわかってたけどね!』
と零に抱き着いた。零はそれをしっかり抱きとめた。零は嬉しそうに笑いながら
『ありがとうございます。花たちが応援してくれたからですね。』
と言った。零の技術の賜物だと思うけどな…。僕とサキが目線でそう話してると花ちゃんが言った。
『あ、そういえば次の勝負は運動だっけ。何するんだろ?』
『ジャンル運動ってちょっと範囲広すぎるよねぇ。まぁ、一対一だし、簡単でわかりやすいのだと思うけど。』
サキが若干呆れながらこたえた。
『なんでもいいですけどねぇ。運動は嫌いじゃありませんし、何より、勝負ならなんでも本気で挑まなければ!』
零は楽しそうに手を力強く握った。
『あはは…本気でやるのも楽しんでやるのも全然いいけど、怪我しないでね?今回の西条さん見てたら次で何してくるかわかんないし…。』
僕が不安そうにそう言えば
『あら、蓮心配してくれるんですか?嬉しいです。』
ニコッと僕に笑いかけた。それだけで嬉しくて不安なんてどっかにいってしまった。それを見たサキは羨ましそうで
『零!俺も!心配してるから!絶対怪我しないでよ?』
と言い出した。けど零は楽しそうに笑いながら
『二人とも心配症ですねぇ。大丈夫ですよ。ご心配なく。体は人より丈夫だと自負してますから。』
と力こぶしを作る真似をした。僕とサキは前に花ちゃんが倒れた時のことを思い出した。
((それは…うん、知ってた。))
苦笑いする僕らをキョトンした顔で零はみつめる。
『まぁ!どんな内容でも零ちゃんが負けるわけないもんねー!』
花ちゃんはそう言いながら零と両手を繋いでくるくると回り始めた。零はくすくすと笑って
『任せて下さい。次も勝ちますね。』
と言った。零が負けるなんて想像がつかないし、勝ち負けの心配はしてない…けど…何故か僕の心の中に理由のわからない不安が広がっていた。
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