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第4章 放牧
第27話 初めての外出
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あの日から、俺は昼食後に研究棟に向かい、牧場と畑の仕事に向かうレオンと別れてラーシュの研究に協力しつつ、変化魔法を練習する日々を送っていた。
俺が研究に参加したことで、楽園の座標特定はいくらか進展があるようになったらしく、俺が地球に居た頃の話を聞きながらラーシュが嬉しそうに笑う姿をよく見ていた。
そして、今日も魔法陣の上に座りながら地球の風景を思い出す俺だ。昼食からだいたい三時間ほど経過して、目の前の結界が消される。
「よし。ニル、今日の研究はこのくらいにして、あとは魔法の練習をしよう」
『分かった』
ラーシュの声に頷いて、俺は自分の額の魔石に手を当てる。変化魔法のコツもだんだん掴めてきた。コツを掴めさえすれば、変化すること自体はそんなに難しいことではない。
『ヴェナス・カランナ! 姿を変えよ!』
呪文を唱えれば、俺の身体が光に包まれて。光が収まると、そこには後ろ足二本で床の上に立つ、小さなカーバンクル獣人の俺がそこに立っている。
「よし」
「うん、だいぶ安定して変化できるようになってきたね」
俺の姿を見て、安心したようにラーシュが屈みながら声をかけてくる。彼の顔を見上げてそちらに手を伸ばしながら、俺は彼に言葉をかけた。
「ここからは、へんげを『いじ』できるようにするだんかいか?」
「うん、そうなる。ああそうそう、そろそろトルディも変化が出来るようになっている頃かな」
俺の言葉を聞いて頷くラーシュだ。俺と並行してトルディにも変化魔法をレクチャーしていたのだが、性質によるものなのか俺よりもさっさと身につけていた。ちょっと悔しい気もするが、山野さんは元々優秀な人だったし、そういう差もあるのだろう。
俺は自分の手でペタペタと研究室のテーブルを触りながら、ラーシュに質問を投げていく。
「らえるやふぇりすには、どうやっておしえる?」
「二人には、僕が直接いるところに向かって教えに行くよ。二人にもこっちに来てもらうよりは、僕が行ったほうが早いから」
そう話しながら、ラーシュが俺の手を握った。そのまま研究室の外へと足を向ける。
「じゃあ、ニル、散歩ついでに皆のところに行こう」
「いいのか? おどろかれないか?」
その言葉に驚いて俺は目を見開く。普段の小さく愛らしいカーバンクルの姿しか知られていなくて、研究室の中でしか変化した姿は見せていないのに。混乱を引き起こさないだろうか。
だが、ラーシュはいたずらっぽく笑いながら研究室の扉を開けた。
「驚かせに行くからいいんだよ。それに、歩きながらや話しながら変化を維持する訓練にもなる」
そして研究室を出ようか、というところでラーシュが振り返る。
「マティルダとトルディも来るかい?」
「はい、ご一緒します」
「ゴイッショイタシマス」
そこではマティルダと、小さな鉱石生物から中学生の女の子らしい体格になった人型の鉱石人形になったトルディがいる。トルディは喋れるようになったようだが、やっぱり口調は固い。
「とるでぃ、こえがかたいぞ。ごーれむだからか?」
「ハイ、ソノトオリデス」
「まぁ元々念話の声も固かったからね、仕方ないだろう」
話しながら城の中を歩き、他のメンバーにおやという顔をされながら中庭に向かう。そこではいつものように、カトーやレオンが畑の世話や動物の世話をしていた。
ラーシュが我先に、カトーに歩み寄って声をかけていく。
「やあ、カトー」
「おやラーシュ。珍しいね、あんたが昼間に研究棟の外に出てくるなんて」
青年の姿に目を見開きながら、仕事の手を止めるカトーだ。そして彼女の視線は当然、ラーシュと手をつないでいる俺に向かう。
「で、そっちのは……もしかして?」
山吹色の毛皮をして、額に魔石の埋まったカーバンクルの獣人。見覚えがあるだろうその姿に、彼女が面白いものを見るような目を向けてくる。俺はラーシュとつないでいない方の手を上げながら、カトーに声をかけた。
「かとー、おれだ。にる」
「ああニル、やっぱりあんたかい」
名前を告げれば、得心がいった様子のカトーが俺の頭に手を伸ばした。そのままくしゃりと俺の頭を撫でる。やはり、頭を撫でられるのは気持ちがいい。人間の中学生だったことを考えると、少し複雑な気持ちだけど。
レオンが作業の手を止め、こちらに歩み寄りながら口を開く。
「凄いな、もう自力で変化できるようになったのか、ニル」
「なった。まだいちじかんくらいしかへんげをいじできないけれど」
ラーシュの手を放して、俺はレオンの方に駆け寄っていく。そのまま彼に抱きつくと、土の匂いが鼻をくすぐった。畑仕事をしていたらしい。
と、レオンが俺の頭を撫でてきながらくすりと笑った。
「そうか。それならちょうどいい」
「うん?」
彼の言葉に、キョトンとして顔を見上げる俺。その俺の大きな耳に、カトーの声が聞こえてくる。
「そろそろ、うちの動物たちを放牧に連れて行こうと思うんだ。ニルが両手を使えるようになるなら、手伝いも任せられるからありがたい」
「ほうぼく?」
その発言に、俺は小さく首を傾げる。
放牧。地球でもアルプスとか北海道とかの牧場が、牧場から離れた場所に家畜を連れて行って草を食べさせる、あれか。こんな荒野の広がる世界でもやるんだ。
カトーが大きく頷きながら説明を続ける。
「牧場の動物や魔物を、近隣の草原に連れて行ってリフレッシュさせるんだ。この城の牧場の中に居るままだと、ストレスが掛かって肉質が悪くなっちまうからね」
「なるほど……りふれっしゅはだいじだな」
彼女の言葉に俺も納得した。確かにこんな城の中庭にずっと留められていては、動物にもストレスがかかるだろう。食肉にとっていい影響を与えるとは、とても思えない。
俺だってこちらに召喚されてから、一度も城の外に出たことがない。カーバンクルの姿でそんなあちこちほっつき歩け無いというのもあるが、やはり退屈にはなるものだ。
トルディが瞳の宝石を輝かせながら口を開いた。
「りふれっしゅ、ダイジデス。らーしゅサマヤますたーモ、りふれっしゅヲオコナッテクダサイ」
「そ、そうですね……でもなんだかんだで研究が忙しくて、そんな暇が……」
彼女がマティルダを見やると、マティルダも頷きながら申し訳無さそうに頭を下げる。確かに研究班の面々は、今は休んでなど居られないだろう。ラーシュが二人に、申し訳無さそうに苦笑を向ける。
「今は特に忙しいからね、僕達は。しばらくは辛抱してくれ、どこかで埋め合わせはするから」
そう告げるラーシュに、マティルダも苦笑を返す。自分の上司がこう言うのだ、反論は出来ないだろう。
「分かりました」
「ヨロシクオ願イシマス」
トルディも一緒になって、ラーシュへと頭を下げる。そんな三人のやり取りを見ながら、俺は中庭から見える少し黄色みがかかった空を見上げた。
今まで城の中庭から見るだけだった空を、外で見ることが出来る。
「はじめての、しろのそとか……」
「そうだな、この世界の町の外がどんな風になっているのか、是非とも見てみるといい」
言葉を零す俺の頭に手を置きながら、レオンが柔らかな笑みを向けてくる。
初めて、この城の外に出て、このヴァグヤバンダという世界を見ることが出来る。俺の心の中に、いつしかわくわくが生まれ始めていた。
俺が研究に参加したことで、楽園の座標特定はいくらか進展があるようになったらしく、俺が地球に居た頃の話を聞きながらラーシュが嬉しそうに笑う姿をよく見ていた。
そして、今日も魔法陣の上に座りながら地球の風景を思い出す俺だ。昼食からだいたい三時間ほど経過して、目の前の結界が消される。
「よし。ニル、今日の研究はこのくらいにして、あとは魔法の練習をしよう」
『分かった』
ラーシュの声に頷いて、俺は自分の額の魔石に手を当てる。変化魔法のコツもだんだん掴めてきた。コツを掴めさえすれば、変化すること自体はそんなに難しいことではない。
『ヴェナス・カランナ! 姿を変えよ!』
呪文を唱えれば、俺の身体が光に包まれて。光が収まると、そこには後ろ足二本で床の上に立つ、小さなカーバンクル獣人の俺がそこに立っている。
「よし」
「うん、だいぶ安定して変化できるようになってきたね」
俺の姿を見て、安心したようにラーシュが屈みながら声をかけてくる。彼の顔を見上げてそちらに手を伸ばしながら、俺は彼に言葉をかけた。
「ここからは、へんげを『いじ』できるようにするだんかいか?」
「うん、そうなる。ああそうそう、そろそろトルディも変化が出来るようになっている頃かな」
俺の言葉を聞いて頷くラーシュだ。俺と並行してトルディにも変化魔法をレクチャーしていたのだが、性質によるものなのか俺よりもさっさと身につけていた。ちょっと悔しい気もするが、山野さんは元々優秀な人だったし、そういう差もあるのだろう。
俺は自分の手でペタペタと研究室のテーブルを触りながら、ラーシュに質問を投げていく。
「らえるやふぇりすには、どうやっておしえる?」
「二人には、僕が直接いるところに向かって教えに行くよ。二人にもこっちに来てもらうよりは、僕が行ったほうが早いから」
そう話しながら、ラーシュが俺の手を握った。そのまま研究室の外へと足を向ける。
「じゃあ、ニル、散歩ついでに皆のところに行こう」
「いいのか? おどろかれないか?」
その言葉に驚いて俺は目を見開く。普段の小さく愛らしいカーバンクルの姿しか知られていなくて、研究室の中でしか変化した姿は見せていないのに。混乱を引き起こさないだろうか。
だが、ラーシュはいたずらっぽく笑いながら研究室の扉を開けた。
「驚かせに行くからいいんだよ。それに、歩きながらや話しながら変化を維持する訓練にもなる」
そして研究室を出ようか、というところでラーシュが振り返る。
「マティルダとトルディも来るかい?」
「はい、ご一緒します」
「ゴイッショイタシマス」
そこではマティルダと、小さな鉱石生物から中学生の女の子らしい体格になった人型の鉱石人形になったトルディがいる。トルディは喋れるようになったようだが、やっぱり口調は固い。
「とるでぃ、こえがかたいぞ。ごーれむだからか?」
「ハイ、ソノトオリデス」
「まぁ元々念話の声も固かったからね、仕方ないだろう」
話しながら城の中を歩き、他のメンバーにおやという顔をされながら中庭に向かう。そこではいつものように、カトーやレオンが畑の世話や動物の世話をしていた。
ラーシュが我先に、カトーに歩み寄って声をかけていく。
「やあ、カトー」
「おやラーシュ。珍しいね、あんたが昼間に研究棟の外に出てくるなんて」
青年の姿に目を見開きながら、仕事の手を止めるカトーだ。そして彼女の視線は当然、ラーシュと手をつないでいる俺に向かう。
「で、そっちのは……もしかして?」
山吹色の毛皮をして、額に魔石の埋まったカーバンクルの獣人。見覚えがあるだろうその姿に、彼女が面白いものを見るような目を向けてくる。俺はラーシュとつないでいない方の手を上げながら、カトーに声をかけた。
「かとー、おれだ。にる」
「ああニル、やっぱりあんたかい」
名前を告げれば、得心がいった様子のカトーが俺の頭に手を伸ばした。そのままくしゃりと俺の頭を撫でる。やはり、頭を撫でられるのは気持ちがいい。人間の中学生だったことを考えると、少し複雑な気持ちだけど。
レオンが作業の手を止め、こちらに歩み寄りながら口を開く。
「凄いな、もう自力で変化できるようになったのか、ニル」
「なった。まだいちじかんくらいしかへんげをいじできないけれど」
ラーシュの手を放して、俺はレオンの方に駆け寄っていく。そのまま彼に抱きつくと、土の匂いが鼻をくすぐった。畑仕事をしていたらしい。
と、レオンが俺の頭を撫でてきながらくすりと笑った。
「そうか。それならちょうどいい」
「うん?」
彼の言葉に、キョトンとして顔を見上げる俺。その俺の大きな耳に、カトーの声が聞こえてくる。
「そろそろ、うちの動物たちを放牧に連れて行こうと思うんだ。ニルが両手を使えるようになるなら、手伝いも任せられるからありがたい」
「ほうぼく?」
その発言に、俺は小さく首を傾げる。
放牧。地球でもアルプスとか北海道とかの牧場が、牧場から離れた場所に家畜を連れて行って草を食べさせる、あれか。こんな荒野の広がる世界でもやるんだ。
カトーが大きく頷きながら説明を続ける。
「牧場の動物や魔物を、近隣の草原に連れて行ってリフレッシュさせるんだ。この城の牧場の中に居るままだと、ストレスが掛かって肉質が悪くなっちまうからね」
「なるほど……りふれっしゅはだいじだな」
彼女の言葉に俺も納得した。確かにこんな城の中庭にずっと留められていては、動物にもストレスがかかるだろう。食肉にとっていい影響を与えるとは、とても思えない。
俺だってこちらに召喚されてから、一度も城の外に出たことがない。カーバンクルの姿でそんなあちこちほっつき歩け無いというのもあるが、やはり退屈にはなるものだ。
トルディが瞳の宝石を輝かせながら口を開いた。
「りふれっしゅ、ダイジデス。らーしゅサマヤますたーモ、りふれっしゅヲオコナッテクダサイ」
「そ、そうですね……でもなんだかんだで研究が忙しくて、そんな暇が……」
彼女がマティルダを見やると、マティルダも頷きながら申し訳無さそうに頭を下げる。確かに研究班の面々は、今は休んでなど居られないだろう。ラーシュが二人に、申し訳無さそうに苦笑を向ける。
「今は特に忙しいからね、僕達は。しばらくは辛抱してくれ、どこかで埋め合わせはするから」
そう告げるラーシュに、マティルダも苦笑を返す。自分の上司がこう言うのだ、反論は出来ないだろう。
「分かりました」
「ヨロシクオ願イシマス」
トルディも一緒になって、ラーシュへと頭を下げる。そんな三人のやり取りを見ながら、俺は中庭から見える少し黄色みがかかった空を見上げた。
今まで城の中庭から見るだけだった空を、外で見ることが出来る。
「はじめての、しろのそとか……」
「そうだな、この世界の町の外がどんな風になっているのか、是非とも見てみるといい」
言葉を零す俺の頭に手を置きながら、レオンが柔らかな笑みを向けてくる。
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【作者より、感謝を込めて】
この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
本当に、ありがとうございます。
【これまでの主な実績】
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