大関誠は温泉大臣~俺、異世界に温泉旅館作ります!~

八百十三

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第2章 驚きの温泉

第7話 山村なう

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 異世界チェルパに転移してきて、四日目の昼。
 城塞都市ヴェノから馬車で移動すること二日半、俺は山間に佇むひっそりとした山村、目的地であるタサック村の地を踏んだ。
 鉱山を有する村ということもあり、辺りに漂う鉄錆と炭の匂い。兵庫の有馬温泉や岩手県の新安比温泉が、こんな感じの匂いを漂わせていただろうか。

「これで含鉄泉でも湧き出していたら最高なんだけどなぁ」
「ほんとに寝ても覚めても温泉のことばっかだなぁ、マコトは」

 思わず独り言ちた俺の頭を、馬車から降りだしてきたエドマンドがぽんと叩く。
 二日間ほど狭い馬車の中で一緒にいたこともあり、人見知りの激しい俺も含めて俺達はすっかり打ち解けていた。
 そしてそれについては、エドマンドのパーティーの面々についても同様であって。エドマンドの後ろから次々と降りてくる人員が、からからと笑っていた。

「ほんとよねぇ、この三日間の間にどれだけマコトの温泉話を聞いたことか」
「やっぱり来訪者マレビトの方のお話は、耳新しくて退屈しませんね」
「……宿の風呂、早く行きたい」

 三者三様、口調も性別も職業も違う仲間たちが、揃って俺に視線を投げる。一斉に注目を浴びた俺の顔が、自然と下を向いた。

 一番最初に口を開いたのが、パーティー唯一の女性でエルフの魔法使い、シルヴァーナ。
 その次の丁寧な口調なのが、背が低い人間の僧侶、マテウス。
 一番最後の寡黙な人物が、ユキヒョウの獣人ビーストレイスでスラリとした体格の盗賊、ローランド。
 いずれもエドマンドと古くからパーティーを組んでいる人物。今回の依頼を受けたパーティー、ということになる。パーティー名は「四風の剣キャトルヴァント」というらしい。

 ……アリシアはどうしたかって?彼女はヴェノで留守番である。ギルドの仕事もあるしね。

 ちなみに俺は当初の予定通り、商業ギルドからの派遣要員という形でエドマンドのパーティーに同行している。
 冒険者になるよりも商人になった方が、俺の鑑定スキルや深部探知のスキルは活かしやすいだろう、というアリシアからのアドバイスに従った形だ。
 ちなみに商業ギルドの構成員にはS、A、B、Cの四ランクがあり、それぞれのランクでギルドに収める年会費と税金が変わってくるんだそうだ。

「タサックに着いたわけですけれど、まずはどうしますか?」
「そうだな、まずは鉱山の管理事務所に行こう。依頼主だしな。状況の確認をせねばならん」

 後方を振り返ってエドマンドの顔を見上げると、彼はくいと親指を自身の肩越しに上げた。
 シルヴァーナもマテウスも、ローランドもそれに頷きを返す。やはりこの辺りは連携が取れている。デコボコに見えて随分と統制が取れているようだ。
 かくして俺達5人は山裾に立つログハウスに足を向けた。タサック村重金属鉱山の管理事務所の看板が掛けられているのが見えた。



 管理事務所の中は意外にも広さがあった。話を聞くと、作業員の休憩スペースも兼ねているんだそうだ。
 俺達は事務所の一角で鉱山を管理する会社の係員に挨拶と軽い自己紹介を行うと、早速坑道の状況の聞き取りに入った。
 係員は、俺が深部探知の技能スキルを持っていることを聞くと、途端に雰囲気が明るくなって握手を求めてきた。希少価値が高く、引く手数多な技能スキルであるのは本当のようだ。

「タサック村の鉱山は重金属……主には金鉱石と銀鉱石、それに付随して産出する少量の黒金鉱石こくきんこうせきを掘り出すための鉱山ですが、どうやら地下に地下水脈があるようでして。
 なるべく水脈を避けるようにして掘り進んでいたのですが、近頃水脈が拡大しているのか坑道に干渉するようになってきまして。
 既に浸水したり、岩盤が脆くなって岩崩が発生している坑道が、主要坑道の中にも出始めてきております」
「なるほど……あんまり悠長に構えてもいられないな」

 係員の状況説明にエドマンドは低く唸った。
 鉱山の地下に地下水脈が走っているケースは、世界でもちらほら見かける。日本でも、数少ないが操業している金鉱山である鹿児島県の菱刈鉱山は、山の地下から温泉を汲み上げていたはずだ。
 今回のケースもそんな具合に山に地下水脈があり、その水脈が拡大して坑道を侵食してきているのだろう。
 そんな具合に思案を巡らせた俺は、小声で隣に立つマテウスに声をかけた。

「(ところでマテウスさん、黒金ってなんですか?)」
「(魔法の護符に使われる金属ですよ、特殊な波動を発しているんだそうです)」

 打てば響くように、マテウスはさらりと答えを返してきた。なるほど、この世界固有の金属だろうか。魔力を含有する金属があっても何らおかしい話ではない。

「今回は深部探知ダウジング持ちもおりますので、坑道深部の水脈、ならびに鉱脈の位置関係を中心に調査します。
 その上で浸水や崩落の起こった坑道をどうするか、決めていきましょうや」
「よろしくお願いします、鉱山はこの村の貴重な働き口ですからな」

 エドマンドの言葉に係員は深く頭を下げた。この村の行く末がかかっていると言っても過言ではない、その言葉が現実感を伴って俺の双肩に重みをかけてくる。
 俺は背筋を冷たいものが走るのを感じ、ごくりと唾を飲み込んだ。


 問題の坑道の中は、それこそ惨憺たる有り様だった。
 天井から吊られたランプの幾つかは石に打たれて地に落ちて砕け散り、地面のあちこちに湧き出した水が澱んだ色を見せている。
 エドマンドがランプを翳しながらうっと声を漏らした。

「こりゃ……酷いな」
「入ってまだ5分でこれじゃ、この坑道は閉鎖するしか無いんじゃないかしら」
「……妙な匂いだ。あの水か?」

 シルヴァーナとローランドが揃って顔をしかめた。確かにこの坑道には何とも表現しがたい、湿った匂いが満ち満ちている。
 雨の日に部屋の中で洗濯物を干した時のような、その洗濯物が生乾きになった時のような、あの不快な感じの匂いだ。坑道はどうしても閉鎖的で空気が籠もるから、こんな匂いが土の臭いに混じるのは仕方がないにしても、これは酷い。
 マテウスがしゃがみ込んで水たまりに手を触れながら口を開く。

「これは、深部探知の前にこの水が何かを調べてみた方がいいかもしれないですね。
 マコトさん、何か分かりませんか?」
「と言ったって、俺の鑑定スキルは温泉にしか反応しませんよ。ただの水だったら不発ですから……その時は言いますね」

 俺はスキルが発動するか半信半疑になりながら、足元に広がる水に視線を向けてみる。果たして瞬時に、瞼の裏に浮かび上がるウィンドウ。どうやらこの水たまりは温泉らしい。
 そこには。

『タサック村 鉱山1号源泉
 泉質:含放射線ーナトリウム―炭酸水素塩泉
 総湧出量:8,500トン/日
 pH:7.2
 泉温:63.2℃
 陽イオン:ナトリウムイオン:455.0mg/kg
      カルシウムイオン:74.0mg/kg
      ・・・
 陰イオン:炭酸水素イオン:1530mg/kg
      塩化物イオン:200mg/kg
      ・・・
 遊離成分:メタケイ酸:57.2mg/kg
      ・・・
 放射線:ラジウム:480マッヘ単位(6480Bq/L)
     トリウム:50マッヘ単位(675Bq/L)
 適応症:神経痛、筋肉痛、関節痛、五十肩、運動麻痺、関節のこわばり、うちみ、くじき、慢性消化器病、痔疾、冷え症、病後回復期、病後回復、健康増進、痛風、動脈硬化症、高血圧症、慢性胆のう炎、胆石症、慢性皮膚病、慢性婦人病、肝臓病、糖尿病、胃腸病、切り傷、火傷、皮膚病、皮膚乾燥症
 禁忌症:急性疾患、活動性の結核、悪性腫瘍、重い心臓病、心臓病(但し高温浴の場合)、呼吸不全、腎不全、出血性疾患、高度の貧血、高度の動脈硬化、高血圧症(但し高温浴の場合) 妊娠中(特に初期と末期)』

「……はっ!??」

 思わず素っ頓狂な声が俺の口から漏れた。
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