大関誠は温泉大臣~俺、異世界に温泉旅館作ります!~

八百十三

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第2章 驚きの温泉

第11話 決意なう

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「「「オンセンリョカン??」」」

 エドマンドと、アリシアと、俺の声が一様に重なった。
 温泉旅館を知らないだろうエドマンドとアリシアについては仕方が無いが、元の世界で年一ペースで温泉旅館を利用していた俺までもが、同じイントネーションになってしまったのはいっそ笑える。
 だがそれほどまでに、申し出の内容が現実離れしていたのだ。この異世界に、温泉旅館を、俺が作るなど。
 そんな一同の困惑をよそに、イーナが眼鏡を指でついと押し上げながら自慢げに口を開く。

「オオゼキさんはご存知でしょうから説明は不要でしょうが、他の皆さんには馴染みが無いでしょうし説明いたしましょう。
 温泉旅館おんせんりょかんは有り体に言いますと、宿屋の機能を持った共同浴場です。温泉を堪能することを主目的として、同時に遠方からの来客が宿泊するための部屋も、宿の食堂で堪能する食事も、一つの施設内で提供する。
 この国にも共同浴場や療養温泉は数多ございますが、いずれも宿泊用の施設は伴っておらず、浴場も共同で使うため腰を据えて療養にあたるには不向きです。
 温泉旅館として運営していくことで、宿泊と入浴で二重に料金を支払う手間を省け、さらに小規模な浴場を用意して個人単位で貸し切らせ、利用させることもできます。さらに近隣の村々の働き口としても機能します」

 イーナの説明にエドマンドもアリシアも、ついでに「四風の剣キャトルヴァント」のメンバーも、開いた口が塞がらないという様子でぽかんとしていた。
 様子を窺うに、温泉旅館のような概念は一般的でないどころか、まるで無いものだったのだろう。これまでの常識を根底から覆すような発想は、どうしても理解できるまでに時間がかかる。
 俺からしてみれば、イーナの説明は実に理論的で、分かりやすく、それでいて理にかなっていた。メリットが実に分かりやすい。
 その場に立つ一同をぐるりと見渡して、最後に俺を見つめながら、イーナが改めて口を開く。

「この万能霊泉ソーマスプリングは世に知られれば、世界中から人を集めることのできる力を持っている。受け入れる側も相応の体制を整えるのがいいでしょう。
 オオゼキさんのいらっしゃった世界「ソレーア」では、この手の温泉旅館が数多く運営されていると伺っています。やっていただけないでしょうか」
「ちょちょ、ちょっと待ってください!俺は確かに日本出身で、温泉大好きな人間ですけど、経営についてはド素人なんですが!?」

 イーナの改めての申し出に、俺は冷や汗を垂らしながら両手をぐっと前に突き出した。
 確かに温泉は好きだ。温泉旅館にもいろいろ行ってきた。しかし経営する立場に立ったことなど、これまでの人生で一度も無い。
 大学で勉強していたのは地域社会学で、経営学ではないし。バイトをしたことはあるけれど、接客とレジ打ちの経験がある程度でお金を管理する部分に触れたことは無い。
 正直な話、無茶だと思う。俺に出来るはずがない。
 しかしイーナは頭を振った。自信ありげに足を踏み出し、俺をまっすぐ見据えてくる。

「ご心配なく、旅館の経営には別に適切な人物を派遣いたします。オオゼキさんの役割はいわゆるオーナー、所有者としてこの案件に関わっていただきたいのです。
 ただ、我々には経営の知識はあっても、温泉旅館を作る上でどんな設備が必要で、何を用意すればユーザーが喜ぶのかといった実体験に基づく・・・・・・・知識がまるでありません。
 旅館を作っていく上で、オオゼキさんがこれまでにソレーアで体験されてきた事例と、知識を、お貸しいただきたい。私の提案はつまりそういうことです」

 イーナのこの上なく真剣な眼差しが痛いくらいに俺に突き刺さる。
 だが話を聞いている限りでは、俺は旅館のオーナーとして旅館を所有しているだけでよさそうな雰囲気だ。経営は門外漢なのでやってもらえるのはとても有難い。
 更に、俺のこれまで温泉巡りをしてきた知識と経験を要求されている。つまり俺の好きなように、思うように温泉旅館を作り上げることが出来るのではないだろうか。
 俺は確信した。これは千載一遇の大チャンス。今この時をおいて、あれ・・を提案する好機はない。
 拳をぐっと握りしめて、俺はイーナの視線をまっすぐ受け止めた。そして口を開く。

「お話は分かりました。ただ……一つ質問があります。
 温泉は、地球の……ソレーアの入浴方法に・・・・・・・・・・してもいいですか?」

 そう、俺の提案とは、地球での入浴方式――湯船に湯を張って・・・・・・・・入浴する方法の採用・・・・・・・・・だ。
 この世界で一般的な入浴方法でないのは知っているし分かってもいる。だが一日当たり8,500トンもの湧出量を誇る温泉を、蒸し風呂形式でしか堪能できないというのは、あまりにも勿体ない。何しろ北海道の登別温泉にも匹敵する湯量だ。
 俺の夢である源泉かけ流しの湯船も決して不可能ではないはず。というか循環方式は色々と消毒とか循環設備とか面倒なので、かけ流しの方がこの世界の場合は楽、な気がしている。
 イーナに視線を向けると、顎に手を当てて考え込んでいる。質問の仕方が悪かっただろうか、俺の心に不安が湧き上がったところで、イーナが口を開く。

「ソレーア式の入浴方法ということは、湯を張った中に浸かる形で、ということですよね?」
「は、はい、そういうことです。あっちでは蒸し風呂よりもその方法のが一般的ですし、俺も馴染みがありますし……」

 身振りを付けながら、何とか押し切れないかと画策する俺。しかし俺が思うよりも早く、イーナは首を縦に振った。

沈み風呂ヴァン・エヴィエということですね。勿論です、むしろ湧出量の面からも、そうしていただいた方が有り難い。
 この世界で一般的な入浴方法でこそありませんが、療養温泉の中には湧き出す温泉に浸かる形を採用している場所も何ヶ所かございます。万能霊泉ソーマスプリングは療養温泉としてトップクラスですし、ユーザーの違和感もないでしょう」

 その答えに、俺は頬が紅潮してくるのが分かった。あの素晴らしい効能を持つ温泉を、源泉かけ流しで、ゆったり湯船に浸かって楽しめる。
 そこまで来れば俺に断る理由はない。握ったままの拳を胸の前に持ってきて、とんと叩いた。

「やります。俺、この村に温泉旅館作ります!」
「お引き受け下さりありがとうございます。それでは、諸般の契約の話もしなくてはならないので、戻りましょうか」

 満面の笑みを見せるイーナが俺の手に自身の手を重ね、ぐっと握ってきた。その体温の伝わりに、力に。期待されているんだと実感する。
 俺の隣でアリシアが何やら嬉しそうな、驚愕したような、それでいてちょっと怒っているような顔つきでこちらを見ている。そちらに顔を向けてにこりと微笑むと、怒っているっぽさは消えたが。

 そうしてこの、神聖クラリス帝国でも辺境に位置するタサック村に、周辺区域を巻き込んでの一大事業がスタートすることになったわけである。
 村の歴史の転換点とも言えそうな事態に、俺の胸は高まる期待と不安に踊るのであった。

 と、鉱山から管理事務所に戻る途中で、俺はふと気になっていた質問を傍らを歩くイーナに投げる。

「そういえば、なんだか随分とソレーアの入浴方法とか、温泉旅館のこととか、詳しかったですね?」
「あぁ、いえ……温泉好きの趣味が高じて、色々と調べまして。来訪者マレビトの方にもよく、故郷の温泉の話を聞いておりました」

 なるほど、ここにも温泉オタクが一人いたようだ。
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