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第2章:王都編
第17話 夕餐
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黒を基調とした小食堂の壁には歴代当主の肖像画が飾られ、白いクロスが敷かれた食卓には煌びやかな燭台と美味しそうな料理が並んでいる。
公爵家らしい豪華な夕餐をとりながら、ノクターンたちはアストラルヴィエンの事について話し合っていた。
「アストラルヴィエンまで俺たちは馬を走らせればいいとして……問題はシエルだな。」
優雅にワイングラスを揺らしながらノクターンはグラスを傾けてワインを飲む。
その洗練された美しい所作は、ノクターンが公爵家の次期当主だということを象徴しているようだった。
「そうだねぇ……荷台や馬車に乗ってもらうのはどうかな?」
レイノルドは分厚いステーキを器用に切り分けながら提案する。
「どうして?いつもみたいにフェリルに乗って移動すればいいじゃない。」
そう言ってシエルは一口サイズに切ったステーキを口に運ぶ。
(あっ、このステーキ、美味しい……!何のお肉なんだろ?)
シエルは食べているステーキにそっと鑑定スキルを使って何の肉なのかを確認すると……。
(ドラ……ゴン――うん、見なかったことにしておこう。……あら?これは――)
そっと鑑定画面を閉じようとした瞬間、ステータスの隅に見慣れない名称が映った――。
しかし、確認する前にレイノルドの声が遮る。
「ダメだよ、シエルさん。王都から出たら、周りは見晴らしのいい草原なんだよ?そんなところを堂々と神獣様と横断するなんて……」
そこでいったん口を閉ざし、真剣な眼差しでシエルを射抜く。
「どうぞ、狙ってください――って言っているようなものさ」
普段の穏やかで柔らかな雰囲気は消え、まるで獲物を捕らえる猛禽のような鋭い眼差しでシエルを捉えて凛とした声で静かに告げる。
突然まとう気配が変わったレイノルドに驚き、思わず息をのむ。
「っ……」
(び……っくりした……レイノルドさんに気付かれたかと思った……)
ドキドキと早まる鼓動を落ち着かせようとシエルは深く息を吸い込み、ゆっくりと吐き出した。
「レイ、そこまでにしとけ。ま、俺もレイの案に賛成だがな。」
ノクターンがレイノルドを鋭く見据え、シエルの荷台・馬車案に同意した。
「あ、あの~……移転魔法で一斉に移動するのは、どう……かな?」
ノクターンとレイノルドの反応をうかがいながらシエルは恐る恐る意見を述べる。
「残念ながら、アヴァルディアにはそんな高度な魔法を使える者は……って、お前まさか……!」
否定しかけたノクターンの表情が、一瞬にして驚きに変わる。
「その、まさか……だったり?」
苦笑いを浮かべ、視線を逸らしながら自分が移転魔法を使えることを告知する。
「さすがは召喚者ってだけあるねぇ……アストラルヴィエンの魔導士たちよりすごいんじゃない?ねぇ、ノクス」
レイノルドはクスっと笑いながら感心するが、一方のノクターンは深いため息をついて頭を押さえる。
「お前は本当に……規格外すぎる!……で、どこまで飛ばせるんだ?普通は一度行ったことがある場所にしか飛べないが。」
シエルの能力に驚きつつも、移転魔法で行ける距離がどこまでなのかを尋ねる。
「実際に試したことが無いからぶっつけ本番になるけど……多分アストラルヴィエンの入口近くに転移するはずよ」
シエルはスキル画面を確認しながら答え、これまで黙ってステーキ肉にかぶりついていたフェリルが口を開いた。
「お主、移転魔法があるなら何故ヴェルグリムで街を目指すときに使わなかったのだ……」
モグモグとドラゴンの肉を頬張るフェリルを見てシエルは苦笑いを浮かべる。
「ごめんね?私も今、初めて知ったんだもん……この魔法持ってること。」
シエルは申し訳なさそうな表情で告げる。
「ぶっつけ本番もかなり怖いが……長時間移動のリスクを考えるとシエルに任せた方が良さそうだな。レイはどう思う?」
ノクターンがレイノルドに問いかける。
「うん、良いと思うよ。馬車移動だと最低でも2日はかかるからね。多少のリスクはあっても短時間で移動できるなら疲労の心配をしなくて済む。」
くるくるとワイングラスを揺らしながらノクターンの意見に賛同する。
「決まりだな。シエル、明日は移動を頼んだぞ」
「分かったわ。」
そう言ってシエルは食後のデザートに手を伸ばした。
「ん~、このベリータルト、最っ高に美味しいわ」
シエルは頬に手を当て、幸せそうに目を細めた。
ベリーの甘酸っぱさが口いっぱいに広がり、妖精蜜のさっぱりとした甘さに思わずとろけそうになる。
「……草原リスみたいだな」
美味しそうに頬張っているシエルを見たノクターンは、ふっと笑って静かに呟く。
「あはは、確かに」
ノクターンの言葉に頷いたレイノルドは眩しい笑みを浮かべてシエルを見る。
「……プレリー、何ですって?」
タルトを食べる手を止めて怪訝そうな顔で2人を見つめる。
「プレリーエキュルイユ、草原に生息しているオレンジ色の可愛らしい小動物の事さ。巷では草原リスって呼ばれているよ」
レイノルドが分かりやすく説明し、シエルは驚く。
「リス……いるんだ、この世界にも。」
シエルはポツリと呟いた。
「それにしても意外だなぁ……ノクス、甘いの嫌いじゃなかったっけ?」
食卓に並んだベリータルトをつつき、くるくるとワイングラスを揺らしながらレイノルドはニヤリと笑う。
「え、団長さん甘いもの苦手なの?」
シエルは驚いた表情でノクターンを見る。
「……客人の好みに合わせるのは当然だろ」
そう言いながらノクターンはグラスの縁を指でなぞる。
少しだけ視線を逸らしたその仕草に、レイノルドはクスッと笑う。
「ふーん……?」
ノクターンがわずかに顔を背けたのを見て、彼は心の中で勝ち誇ったように思った。
「あ、本当に美味しいねコレ。」
タルトを一口食べたレイノルドが絶賛する。
「明日は早いんだ。そろそろお開きにして休むぞ。」
ノクターンは静かに立ち上がって食堂を出ようとする。
シエルが最後のタルトをフォークで刺した、その瞬間――。
シュッと影のような動きでノクターンが手を伸ばし、タルトがさらわれた。
「……甘ったるいな」
そう言って小食堂を後にした。
「〇△※□~!?」
ノクターンが去った小食堂には声にならないシエルの悲鳴が響き、レイノルドはお腹を抱えてケラケラと笑う。
賑やかな食堂とは裏腹に、静かに黒い影が動き出していることに気付いた者は誰一人としていなかった――。
公爵家らしい豪華な夕餐をとりながら、ノクターンたちはアストラルヴィエンの事について話し合っていた。
「アストラルヴィエンまで俺たちは馬を走らせればいいとして……問題はシエルだな。」
優雅にワイングラスを揺らしながらノクターンはグラスを傾けてワインを飲む。
その洗練された美しい所作は、ノクターンが公爵家の次期当主だということを象徴しているようだった。
「そうだねぇ……荷台や馬車に乗ってもらうのはどうかな?」
レイノルドは分厚いステーキを器用に切り分けながら提案する。
「どうして?いつもみたいにフェリルに乗って移動すればいいじゃない。」
そう言ってシエルは一口サイズに切ったステーキを口に運ぶ。
(あっ、このステーキ、美味しい……!何のお肉なんだろ?)
シエルは食べているステーキにそっと鑑定スキルを使って何の肉なのかを確認すると……。
(ドラ……ゴン――うん、見なかったことにしておこう。……あら?これは――)
そっと鑑定画面を閉じようとした瞬間、ステータスの隅に見慣れない名称が映った――。
しかし、確認する前にレイノルドの声が遮る。
「ダメだよ、シエルさん。王都から出たら、周りは見晴らしのいい草原なんだよ?そんなところを堂々と神獣様と横断するなんて……」
そこでいったん口を閉ざし、真剣な眼差しでシエルを射抜く。
「どうぞ、狙ってください――って言っているようなものさ」
普段の穏やかで柔らかな雰囲気は消え、まるで獲物を捕らえる猛禽のような鋭い眼差しでシエルを捉えて凛とした声で静かに告げる。
突然まとう気配が変わったレイノルドに驚き、思わず息をのむ。
「っ……」
(び……っくりした……レイノルドさんに気付かれたかと思った……)
ドキドキと早まる鼓動を落ち着かせようとシエルは深く息を吸い込み、ゆっくりと吐き出した。
「レイ、そこまでにしとけ。ま、俺もレイの案に賛成だがな。」
ノクターンがレイノルドを鋭く見据え、シエルの荷台・馬車案に同意した。
「あ、あの~……移転魔法で一斉に移動するのは、どう……かな?」
ノクターンとレイノルドの反応をうかがいながらシエルは恐る恐る意見を述べる。
「残念ながら、アヴァルディアにはそんな高度な魔法を使える者は……って、お前まさか……!」
否定しかけたノクターンの表情が、一瞬にして驚きに変わる。
「その、まさか……だったり?」
苦笑いを浮かべ、視線を逸らしながら自分が移転魔法を使えることを告知する。
「さすがは召喚者ってだけあるねぇ……アストラルヴィエンの魔導士たちよりすごいんじゃない?ねぇ、ノクス」
レイノルドはクスっと笑いながら感心するが、一方のノクターンは深いため息をついて頭を押さえる。
「お前は本当に……規格外すぎる!……で、どこまで飛ばせるんだ?普通は一度行ったことがある場所にしか飛べないが。」
シエルの能力に驚きつつも、移転魔法で行ける距離がどこまでなのかを尋ねる。
「実際に試したことが無いからぶっつけ本番になるけど……多分アストラルヴィエンの入口近くに転移するはずよ」
シエルはスキル画面を確認しながら答え、これまで黙ってステーキ肉にかぶりついていたフェリルが口を開いた。
「お主、移転魔法があるなら何故ヴェルグリムで街を目指すときに使わなかったのだ……」
モグモグとドラゴンの肉を頬張るフェリルを見てシエルは苦笑いを浮かべる。
「ごめんね?私も今、初めて知ったんだもん……この魔法持ってること。」
シエルは申し訳なさそうな表情で告げる。
「ぶっつけ本番もかなり怖いが……長時間移動のリスクを考えるとシエルに任せた方が良さそうだな。レイはどう思う?」
ノクターンがレイノルドに問いかける。
「うん、良いと思うよ。馬車移動だと最低でも2日はかかるからね。多少のリスクはあっても短時間で移動できるなら疲労の心配をしなくて済む。」
くるくるとワイングラスを揺らしながらノクターンの意見に賛同する。
「決まりだな。シエル、明日は移動を頼んだぞ」
「分かったわ。」
そう言ってシエルは食後のデザートに手を伸ばした。
「ん~、このベリータルト、最っ高に美味しいわ」
シエルは頬に手を当て、幸せそうに目を細めた。
ベリーの甘酸っぱさが口いっぱいに広がり、妖精蜜のさっぱりとした甘さに思わずとろけそうになる。
「……草原リスみたいだな」
美味しそうに頬張っているシエルを見たノクターンは、ふっと笑って静かに呟く。
「あはは、確かに」
ノクターンの言葉に頷いたレイノルドは眩しい笑みを浮かべてシエルを見る。
「……プレリー、何ですって?」
タルトを食べる手を止めて怪訝そうな顔で2人を見つめる。
「プレリーエキュルイユ、草原に生息しているオレンジ色の可愛らしい小動物の事さ。巷では草原リスって呼ばれているよ」
レイノルドが分かりやすく説明し、シエルは驚く。
「リス……いるんだ、この世界にも。」
シエルはポツリと呟いた。
「それにしても意外だなぁ……ノクス、甘いの嫌いじゃなかったっけ?」
食卓に並んだベリータルトをつつき、くるくるとワイングラスを揺らしながらレイノルドはニヤリと笑う。
「え、団長さん甘いもの苦手なの?」
シエルは驚いた表情でノクターンを見る。
「……客人の好みに合わせるのは当然だろ」
そう言いながらノクターンはグラスの縁を指でなぞる。
少しだけ視線を逸らしたその仕草に、レイノルドはクスッと笑う。
「ふーん……?」
ノクターンがわずかに顔を背けたのを見て、彼は心の中で勝ち誇ったように思った。
「あ、本当に美味しいねコレ。」
タルトを一口食べたレイノルドが絶賛する。
「明日は早いんだ。そろそろお開きにして休むぞ。」
ノクターンは静かに立ち上がって食堂を出ようとする。
シエルが最後のタルトをフォークで刺した、その瞬間――。
シュッと影のような動きでノクターンが手を伸ばし、タルトがさらわれた。
「……甘ったるいな」
そう言って小食堂を後にした。
「〇△※□~!?」
ノクターンが去った小食堂には声にならないシエルの悲鳴が響き、レイノルドはお腹を抱えてケラケラと笑う。
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