転生召喚者は異世界で陰謀を暴く～神獣を従えた白き魔女～

第3章：魔導国家編 ②

第10話 文献 ①

『英雄伝説～白き魔女と王都アヴァルディアの厄災～』

――冬の年、王都アヴァルディアに未曾有の厄災が降りかかった。
魔界の王――すなわち魔王が膨大なる魔族の軍勢を率いて人間界への大侵攻を開始したのである。
この侵攻によって魔界と人間界の間に壮絶な戦争が勃発した。

漆黒のドラゴンが空を舞い、都市を焼き尽くす姿は、まさに厄災そのものであった。
幾度となく紅蓮の炎が都市へと放たれ、王都は業火に包まれた。

人間の騎士たちは応戦したが、魔族の圧倒的な力の前では次々と討ち果て、王都を含む多くの都市が壊滅した。
王はこの未曾有の事態を終息させるべく、王都唯一の魔導師に命じて、魔王の封印を試みさせた。

その魔導師とは、銀色の髪と深紅の瞳を持つ美しき女性であった。
彼女はたった一人で聖なる魔法を発動し、魔族の軍勢を一掃した。
さらに、崩壊寸前の王都の渦中で魔王を封じ、その脅威に終止符を打ったと伝えられる。

この勇敢な魔導師は、後の世において「白き魔女」と称えられ、彼女の偉業は英雄伝説として長きにわたり語り継がれることとなった――。

◆　◇　◆

「この文献……夢と、同じ……？」

シエルは文献を読む手を止め、前世で見た夢が鮮明に脳裏に蘇った。

崩壊した王城に佇む銀髪の魔導師。
逃げ惑う王都の人々。
禍々しい魔王の姿。

「いつも封印の光に包まれたところで目が覚めていたけど……無事に封印で来ていたのね」

シエルは自分の事のように安堵の息をついた。

「やっぱり、お前だったのか……」

セラフィウスはテーブルに頬杖をつき、シエルが文献を読み終わるのを待っていた。
静かに微笑み、納得した表情でシエルを見つめていた。

「……やっぱりって、どういうこと？」

不思議そうに首を傾げ、セラフィウスに問いかけた。

「その問いに答えるより先に、文献の真実を教えてやる。」

セラフィウスの濃紫の瞳がシエルを射抜く。

「真実って……この文献は偽物なの？」

シエルは文献とセラフィウスをじっと見つめた。

「いや？文献自体は本物だ。……だが、中身は当事者が都合の良いように書き換えているから偽物といえば偽物だな。」

頬杖をついていたセラフィウスが体勢を変え、テーブルの上で手を組んだ。

「書き換えた、ですって！？……一体なんのために？」

セラフィウスの言葉に驚いたシエルが目を見開き、声をあげた。

「そんなの……知られたくない事実を隠すために決まっているだろ。」

氷のように凍てついたセラフィウスの濃紫の瞳が文献を鋭く射抜いた。

「教えてやるよ。500年前に起きた事件の真相を……」

低く、冷たい声色が静寂の秘匿区域に響いた。

セラフィウスがパチンと指を鳴らすと、どこからともなく1冊の本がポンっと現れた。
ふわりと宙を舞い、そっと彼の手中へ収まった。

「この本に、当時の真実が書かれている」

そういってシエルに本を手渡した。

黒い革表紙の本は高級感が漂い、どこか威厳があるように見えた。
まるで、ただの本では無いぞ――ということを示しているかのように……。

(隠蔽されるほどの真実って、一体何なの……？)

本を持つシエルの手に汗が滲み、震える指先で表紙をめくった。
暗闇の中に封じられていた驚愕の真実が、500年の沈黙を破って静かに呼び覚まされようとしていた――。