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第3章:魔導国家編 ②
第14話 記憶の狭間 ①
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眩い白銀の光が次第に消えていき、シエルはゆっくりと目をあけた。
「……えっ?ここ、どこ……?」
視界に飛び込んできたのは魔導図書館の秘匿区域……ではなく、石造りの街並みだった。
「セラフィウス……?」
周囲を見渡してもセラフィウスの姿は無く、彼の名前を呼んでも返事が返ってくることは無かった。
少し離れた場所に見覚えのある大きな噴水を見つけた。
「あの噴水……王都の中央広場、よね?」
だが、シエルの知る王都とは全く雰囲気が異なっていた。
人々の話し声もなく、まるで活気が感じられない。
いつもは賑やかに行き交う獣人やドワーフの姿も、どこにも見当たらなかった……。
「もしかして、タイムスリップしちゃった……?」
『町から出て行けっ――魔族の娘が!』
背後で低い怒鳴り声が響き、シエルはビクッと肩を震わせて振り返った。
そこには――。
「……あれはっ――シャル、ティアナ……?」
ウェーブがかった銀色の髪をなびかせ、俯いている少女の姿があった。
『この、穢らわしい魔女め……!』
町人たちはシャルティアナ目掛けて石や卵を投げつける。
「なんてことをするのよっ――!」
シエルが駆け寄ろうとした瞬間――。
ぐにゃりと空間が歪み、風景が変わった……。
◆ ◇ ◆
「えっ……?」
王都の街並みから一変し、幻想的な森の中にシエルは佇んでいた――。
「これって……記憶の、断片……?」
視界に広がる森の中には大きな湖があり、周囲に色鮮やかな薔薇が咲き誇っていた。
湖畔にはシャルティアナが座り、森の動物たちと戯れていた。
「王都に、こんな場所があったのね……帰ったら探してみよう」
幻想的な森に見惚れているシエルの背後から、聞き馴染みのある声が響いた。
『……また、ここに来たのか?』
「この声って……」
『テシス!』
シャルティアナとシエルが同時に振り返った。
そこには黒紫のローブを羽織り、白いシャツを着たセラフィウスが佇んでいた。
「テシス……?」
(レテナシス、じゃ……なかったっけ?)
シエルは不思議そうに首を傾げ、2人を見つめた。
『王都の連中は、見返せそうか?』
そう言いながらテシスはシャルティアナのいる湖畔へ歩み寄った。
『うーん……まだ厳しいかな。思うように剣が扱えなくて……』
シャルティアナは深紅の瞳を伏せ、自身の手を見つめた。
そういう彼女の手にはマメがたくさんできていた。
『あんま無理すんなよ……って言いたいとこだが、秘密の訓練といこうか』
テシスは悪戯な笑みをシャルティアナに向けた。
「この時には、もう既に恋人同士……なのかしら?」
シエルは仲睦まじい様子の2人をじっと見つめた。
『秘密の訓練?』
シャルティアナは首を傾げ、テシスを見つめていた。
『俺が剣を教えてやる』
セラフィウスがどこからともなく木の棒を2つ取り出し、そのうちの1つをシャルティアナに渡した。
『……いいの?私、すっごく下手だよ?』
遠慮するシャルティアナの姿にセラフィウスがクスっと笑った。
『だから、訓練するんだろ?魔法も使えて剣も使えるときたら――王都の連中も驚くだろうさ』
彼女の銀髪を優しく梳き、そっと髪に唇を落とした。
「……認めてもらおうと必死で努力してるのに、結局認めてもらえないんだよね……」
シエルは少し先の未来を知っているからこそ、2人の健気な姿に胸を痛めた。
「それどころか、王様から駒として戦場に送り出された挙句――命を、落としちゃうなんて……」
剣の鍛錬に励む2人をシエルは柔らかい眼差しで見守っていた。
その瞬間――時空がぐにゃりと歪み、足元の地面が消えた。
(今度は、どこへ――!?)
ふわりと宙に浮くような感覚を覚え、ゆっくりと落下していった――。
◆ ◇ ◆
幻想的な森で剣の鍛錬をしていたシャルティアナとテシスの姿はなかった。
代わりに今度は、厳格な雰囲気が漂う廊下にシエルは1人で佇んでいた。
「ここは……王城かしら?」
白い大理石の床に赤いカーペットが敷かれた廊下。
その奥から黒い人影が2つ、こちらに向かって歩いてくるのが見えた。
『いいからこっちに来るんだ!』
煌びやかな服に身を包んだ1人の皇子が、抵抗する少女を無理やり引っ張って歩いていた。
『嫌!離して!』
大きな声で拒絶をし、必死に抵抗する少女。
黒紫色の長い髪をなびかせ、黄金の瞳で皇子を鋭く睨みつけた。
「あれ……?あの少女、どこかで……」
初めて見るはずの少女に、シエルは既視感を覚えていた。
(誰だっけ……?どこで、見たのかしら?)
少女をどこで見たのかを思い出そうとした……。
だが、強引に連れて行こうとする王族に腹が立ち、シエルは止めに入った。
「っていうか――嫌がっているじゃない!やめなさいよ!」
シエルは少女を無理やり引っ張っている王族の手を掴もうとした――。
――スカッ
「……掴めない」
鳩が豆鉄砲を食ったような表情でシエルは自身の手を見つめた。
まるで幽霊にでもなったかのように、掴みかかった王族の手をスルリと通り抜けたのだ。
「本当に……見てるだけなのが、悔しいわ……」
シエルの表情が悲痛に歪み、唇をかみしめた。
『お前……いい加減に――しろっ!』
「何をっ――!」
――ザシュッ
反抗的な態度をとる少女に腹が立った王族はスッと剣を抜き、勢いよく少女を斬りつけた。
静寂な廊下に響く鈍い音。
白い壁に飛び散る色鮮やかな真っ赤な血。
少女は抵抗する間もなく、ゆっくり崩れ落ち、そのままピクリとも動かなかった……。
「――っ!」
凄惨な光景を目の当たりにしたシエルは声を上げることもできなかった。
(もう、知りたく……ない――)
シエルの拒絶も虚しく、ぐにゃりと歪む空間へと飲まれていった――。
「……えっ?ここ、どこ……?」
視界に飛び込んできたのは魔導図書館の秘匿区域……ではなく、石造りの街並みだった。
「セラフィウス……?」
周囲を見渡してもセラフィウスの姿は無く、彼の名前を呼んでも返事が返ってくることは無かった。
少し離れた場所に見覚えのある大きな噴水を見つけた。
「あの噴水……王都の中央広場、よね?」
だが、シエルの知る王都とは全く雰囲気が異なっていた。
人々の話し声もなく、まるで活気が感じられない。
いつもは賑やかに行き交う獣人やドワーフの姿も、どこにも見当たらなかった……。
「もしかして、タイムスリップしちゃった……?」
『町から出て行けっ――魔族の娘が!』
背後で低い怒鳴り声が響き、シエルはビクッと肩を震わせて振り返った。
そこには――。
「……あれはっ――シャル、ティアナ……?」
ウェーブがかった銀色の髪をなびかせ、俯いている少女の姿があった。
『この、穢らわしい魔女め……!』
町人たちはシャルティアナ目掛けて石や卵を投げつける。
「なんてことをするのよっ――!」
シエルが駆け寄ろうとした瞬間――。
ぐにゃりと空間が歪み、風景が変わった……。
◆ ◇ ◆
「えっ……?」
王都の街並みから一変し、幻想的な森の中にシエルは佇んでいた――。
「これって……記憶の、断片……?」
視界に広がる森の中には大きな湖があり、周囲に色鮮やかな薔薇が咲き誇っていた。
湖畔にはシャルティアナが座り、森の動物たちと戯れていた。
「王都に、こんな場所があったのね……帰ったら探してみよう」
幻想的な森に見惚れているシエルの背後から、聞き馴染みのある声が響いた。
『……また、ここに来たのか?』
「この声って……」
『テシス!』
シャルティアナとシエルが同時に振り返った。
そこには黒紫のローブを羽織り、白いシャツを着たセラフィウスが佇んでいた。
「テシス……?」
(レテナシス、じゃ……なかったっけ?)
シエルは不思議そうに首を傾げ、2人を見つめた。
『王都の連中は、見返せそうか?』
そう言いながらテシスはシャルティアナのいる湖畔へ歩み寄った。
『うーん……まだ厳しいかな。思うように剣が扱えなくて……』
シャルティアナは深紅の瞳を伏せ、自身の手を見つめた。
そういう彼女の手にはマメがたくさんできていた。
『あんま無理すんなよ……って言いたいとこだが、秘密の訓練といこうか』
テシスは悪戯な笑みをシャルティアナに向けた。
「この時には、もう既に恋人同士……なのかしら?」
シエルは仲睦まじい様子の2人をじっと見つめた。
『秘密の訓練?』
シャルティアナは首を傾げ、テシスを見つめていた。
『俺が剣を教えてやる』
セラフィウスがどこからともなく木の棒を2つ取り出し、そのうちの1つをシャルティアナに渡した。
『……いいの?私、すっごく下手だよ?』
遠慮するシャルティアナの姿にセラフィウスがクスっと笑った。
『だから、訓練するんだろ?魔法も使えて剣も使えるときたら――王都の連中も驚くだろうさ』
彼女の銀髪を優しく梳き、そっと髪に唇を落とした。
「……認めてもらおうと必死で努力してるのに、結局認めてもらえないんだよね……」
シエルは少し先の未来を知っているからこそ、2人の健気な姿に胸を痛めた。
「それどころか、王様から駒として戦場に送り出された挙句――命を、落としちゃうなんて……」
剣の鍛錬に励む2人をシエルは柔らかい眼差しで見守っていた。
その瞬間――時空がぐにゃりと歪み、足元の地面が消えた。
(今度は、どこへ――!?)
ふわりと宙に浮くような感覚を覚え、ゆっくりと落下していった――。
◆ ◇ ◆
幻想的な森で剣の鍛錬をしていたシャルティアナとテシスの姿はなかった。
代わりに今度は、厳格な雰囲気が漂う廊下にシエルは1人で佇んでいた。
「ここは……王城かしら?」
白い大理石の床に赤いカーペットが敷かれた廊下。
その奥から黒い人影が2つ、こちらに向かって歩いてくるのが見えた。
『いいからこっちに来るんだ!』
煌びやかな服に身を包んだ1人の皇子が、抵抗する少女を無理やり引っ張って歩いていた。
『嫌!離して!』
大きな声で拒絶をし、必死に抵抗する少女。
黒紫色の長い髪をなびかせ、黄金の瞳で皇子を鋭く睨みつけた。
「あれ……?あの少女、どこかで……」
初めて見るはずの少女に、シエルは既視感を覚えていた。
(誰だっけ……?どこで、見たのかしら?)
少女をどこで見たのかを思い出そうとした……。
だが、強引に連れて行こうとする王族に腹が立ち、シエルは止めに入った。
「っていうか――嫌がっているじゃない!やめなさいよ!」
シエルは少女を無理やり引っ張っている王族の手を掴もうとした――。
――スカッ
「……掴めない」
鳩が豆鉄砲を食ったような表情でシエルは自身の手を見つめた。
まるで幽霊にでもなったかのように、掴みかかった王族の手をスルリと通り抜けたのだ。
「本当に……見てるだけなのが、悔しいわ……」
シエルの表情が悲痛に歪み、唇をかみしめた。
『お前……いい加減に――しろっ!』
「何をっ――!」
――ザシュッ
反抗的な態度をとる少女に腹が立った王族はスッと剣を抜き、勢いよく少女を斬りつけた。
静寂な廊下に響く鈍い音。
白い壁に飛び散る色鮮やかな真っ赤な血。
少女は抵抗する間もなく、ゆっくり崩れ落ち、そのままピクリとも動かなかった……。
「――っ!」
凄惨な光景を目の当たりにしたシエルは声を上げることもできなかった。
(もう、知りたく……ない――)
シエルの拒絶も虚しく、ぐにゃりと歪む空間へと飲まれていった――。
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