転生召喚者は異世界で陰謀を暴く~神獣を従えた白き魔女~

*⋆☾┈羽月┈☽⋆*

文字の大きさ
78 / 83
第3章:魔導国家編 ②

第15話 記憶の狭間 ②

しおりを挟む
◆◇◆

幾度となく切り替わる記憶の断片。
覚悟していたとはいえ、壮絶な過去の記憶にシエルは胸を痛めた。

(いつまで、見ないといけないの……?)

このまま記憶の狭間に飲み込まれ、元の世界に戻れないんじゃないか――という不安に苛まれた。

(私は、元の世界に……戻れるの?)

呆然とするシエルの眼前に、滅びゆく王都の姿が飛び込んできた。
空には巨大なドラゴンが滑空し、都市には魔族の大軍が攻め入っていた。

「……あぁ、さっきの少女は――魔王の娘、だったのね……」

崩れかけの王城に佇んでいたシエルは、謁見の間の奥にシャルティアナと王の姿を見つけた。

『我が国自慢の騎士たちも、打ち倒されてしまった……。そこで、魔導師シャルティアナよ……魔王を封じ、平和を取り戻すのだ』

「だめ……断るのよ、シャルティアナ――!」

シエルの悲痛な叫びは届くことなく、シャルティアナは承諾した。

『はい!必ず、魔王を封印して平和を取り戻してみせます!』

力強く答えたシャルティアナは城壁が崩れ落ち、見晴らしの良くなった王城から王都の街並みを見下ろした。

『なんてことを……許せない』

燃えるような深紅の瞳で宙に浮く魔王を睨みつけた。
漆黒の魔法杖を高々に掲げ、短い呪文を唱えた。

『――神聖審判サグラード・ヴァーディクト!』

シャルティアナの声に応えるように、複雑な模様が描かれた大きな黄金色の魔方陣が足元に浮かんだ。

天地が激しく揺れ、眩い神聖な光が矢のように降り注いだ。
無数の魔族たちは、悲鳴を上げる間もなく――塵と化し、消えていった……。

――グワァァァッ!

同時に、魔王の咆哮が王都中に響き渡った。
身体からは黒紫色の瘴気があがり、ゆっくりと崩れ落ちた。

「一瞬で消滅した魔族たちと違って、魔王は瘴気があがっているだけ……?」

見守ることしかできないシエルは格の違いを見せつけられ、気圧された。

魔王の黄金の瞳が鋭くシャルティアナを射抜き、静かに呟いた。

『この地の人間など、守る価値も無い……異質な存在だと、蔑まれてきたお前だって……そう思うだろう?』

少女は静かに目を伏せ、慎重に言葉を紡いだ。

『確かに私は、異質で異端な存在かもしれない。それでも、この地が大好きなの。だって……』

シャルティアナは覚悟の炎が宿った瞳で魔王を射抜いた。

『……ここは私の、大切な場所だから!』

杖を高く掲げ、力強く叫んだ。

『魔族の王よ!罪なき者の血をすすり、終わりなき戦火をもたらした咎……今こそ、その報いを受けよ!』

呪文を唱えると黄金色の魔方陣が淡い光を放ち、静かに浮かび上がった。

「この場面……夢には、無かった」

夢とは違う出来事が起こり、シエルは驚きの表情を浮かべた。

『シャルティアナ・フェンリースの名のもとに誓う!悠久の封印を、ここに刻まん――』

『我が娘を……奪った、人間の分際で――!』

怨みのこもった低い声で魔王が叫んだ。
最期の力を振り絞り、シャルティアナめがけて攻撃を放った。

「危ないっ――!」

シエルは咄嗟にシャルティアナの前に飛び出した。

――ザシュッ!

しかし、魔王の攻撃はシエルにあたることは無く……。
彼女の身体を通り抜け――背後にいるシャルティアナへと命中した。

『……カハッ――!』

心臓を貫かれ、シャルティアナの口から鮮血が零れた。
膝をつき、ゆっくりと崩れ落ちるように倒れこんだ。

「シャルティアナ――!」

『シャティ――!』

シエルが駆けよろうとした瞬間――視界の隅で、白い人影が横切った。

「……えっ?」

(どうして……この人が、ここに?)

白いドレスに身を包んだレテナシスが倒れたシャルティアナを優しく抱き上げた。

『シャティ……何故、君がこんな目に――』

『テシ……ス、ごめん……ね』

苦痛に顔を歪めるシャルティアナは最期の力を振り絞り、レテナシスの頬に手をあてた。

『もういい、喋るな。リザレク――』

回復魔法を発動させようとしたレテナシスの唇を、頬にあてていた手でそっと塞いだ。

『……やめて。もう、いいの……最期に、テシスに逢えて――良かっ……た』

柔らかく微笑んだ後、力を失くした腕がパタリと落ちた……。

『死ぬな、シャティ……シャルティアナッ――!』

レテナシスは自身の腕の中で冷たくなっていくシャルティアナを強く抱きしめ、涙を流した。

「うそ、でしょ……?」

シエルは両手で口を覆い、驚いた表情で事の顛末を見届けていた。

「……真実の黒本こくほんには、シャルティアナの亡きあと……レテナシスが駆けつけた――って書いてあったのに……」

シエルは唇をかみしめ、そっと2人から目を背けた。

「最期を、看取ってたなんて――!こんなの、悲しすぎるわ……」

顔を伏せるシエルの深紅の瞳から大粒の涙が零れ落ちた。

『……お前だけは――シャティを葬ったお前だけは……絶対に許さん!悠久の柩セルクイユ・アヴァディ!』

怒りと絶望に満ちたレテナシスの低い声が響き、短い呪文を力強く叫んだ。

漆黒の夜空に降り注ぐ流星群のように黄金の鎖が放たれ、魔王の身体に絡みついた。
黒紫色の柩が現れると同時に魔王が中へ封じられ、眩い純白の光が王都全体を包み、シエルの視界も真っ白に染まっていった——。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

異世界!? 神!? なんで!?

藤谷葵
ファンタジー
【内容】 人手。いや、神の手が足りずに、神様にスカウトされて、女神となり異世界に転生することになった、主人公。 異世界の管理を任され、チートスキルな『スキル創造』を渡される主人公。 平和な異世界を取り戻せるか!? 【作品の魅力】 ・チートスキル ・多少ドジっ子な主人公 ・コミカルやシリアスなドラマの複合

死に戻ったら、私だけ幼児化していた件について

えくれあ
恋愛
セラフィーナは6歳の時に王太子となるアルバートとの婚約が決まって以降、ずっと王家のために身を粉にして努力を続けてきたつもりだった。 しかしながら、いつしか悪女と呼ばれるようになり、18歳の時にアルバートから婚約解消を告げられてしまう。 その後、死を迎えたはずのセラフィーナは、目を覚ますと2年前に戻っていた。だが、周囲の人間はセラフィーナが死ぬ2年前の姿と相違ないのに、セラフィーナだけは同じ年齢だったはずのアルバートより10歳も幼い6歳の姿だった。 死を迎える前と同じこともあれば、年齢が異なるが故に違うこともある。 戸惑いを覚えながらも、死んでしまったためにできなかったことを今度こそ、とセラフィーナは心に誓うのだった。

規格外で転生した私の誤魔化しライフ 〜旅行マニアの異世界無双旅〜

ケイソウ
ファンタジー
チビで陰キャラでモブ子の桜井紅子は、楽しみにしていたバス旅行へ向かう途中、突然の事故で命を絶たれた。 死後の世界で女神に異世界へ転生されたが、女神の趣向で変装する羽目になり、渡されたアイテムと備わったスキルをもとに、異世界を満喫しようと冒険者の資格を取る。生活にも慣れて各地を巡る旅を計画するも、国の要請で冒険者が遠征に駆り出される事態に……。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

コンバット

サクラ近衛将監
ファンタジー
 藤堂 忍は、10歳の頃に難病に指定されているALS(amyotrophic lateral sclerosis:筋萎縮性側索硬化症)を発症した。  ALSは発症してから平均3年半で死に至るが、遅いケースでは10年以上にわたり闘病する場合もある。  忍は、不屈の闘志で最後まで運命に抗った。  担当医師の見立てでは、精々5年以内という余命期間を大幅に延長し、12年間の壮絶な闘病生活の果てについに力尽きて亡くなった。  その陰で家族の献身的な助力があったことは間違いないが、何よりも忍自身の生きようとする意志の力が大いに働いていたのである。  その超人的な精神の強靭さゆえに忍の生き様は、天上界の神々の心も揺り動かしていた。  かくして天上界でも類稀な神々の総意に依り、忍の魂は異なる世界への転生という形で蘇ることが許されたのである。  この物語は、地球世界に生を受けながらも、その生を満喫できないまま死に至った一人の若い女性の魂が、神々の助力により異世界で新たな生を受け、神々の加護を受けつつ新たな人生を歩む姿を描いたものである。  しかしながら、神々の意向とは裏腹に、転生した魂は、新たな闘いの場に身を投じることになった。  この物語は「カクヨム様」にも同時投稿します。  一応不定期なのですが、土曜の午後8時に投稿するよう努力いたします。

処理中です...