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第3章:魔導国家編 ②
第15話 記憶の狭間 ②
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◆◇◆
幾度となく切り替わる記憶の断片。
覚悟していたとはいえ、壮絶な過去の記憶にシエルは胸を痛めた。
(いつまで、見ないといけないの……?)
このまま記憶の狭間に飲み込まれ、元の世界に戻れないんじゃないか――という不安に苛まれた。
(私は、元の世界に……戻れるの?)
呆然とするシエルの眼前に、滅びゆく王都の姿が飛び込んできた。
空には巨大なドラゴンが滑空し、都市には魔族の大軍が攻め入っていた。
「……あぁ、さっきの少女は――魔王の娘、だったのね……」
崩れかけの王城に佇んでいたシエルは、謁見の間の奥にシャルティアナと王の姿を見つけた。
『我が国自慢の騎士たちも、打ち倒されてしまった……。そこで、魔導師シャルティアナよ……魔王を封じ、平和を取り戻すのだ』
「だめ……断るのよ、シャルティアナ――!」
シエルの悲痛な叫びは届くことなく、シャルティアナは承諾した。
『はい!必ず、魔王を封印して平和を取り戻してみせます!』
力強く答えたシャルティアナは城壁が崩れ落ち、見晴らしの良くなった王城から王都の街並みを見下ろした。
『なんてことを……許せない』
燃えるような深紅の瞳で宙に浮く魔王を睨みつけた。
漆黒の魔法杖を高々に掲げ、短い呪文を唱えた。
『――神聖審判!』
シャルティアナの声に応えるように、複雑な模様が描かれた大きな黄金色の魔方陣が足元に浮かんだ。
天地が激しく揺れ、眩い神聖な光が矢のように降り注いだ。
無数の魔族たちは、悲鳴を上げる間もなく――塵と化し、消えていった……。
――グワァァァッ!
同時に、魔王の咆哮が王都中に響き渡った。
身体からは黒紫色の瘴気があがり、ゆっくりと崩れ落ちた。
「一瞬で消滅した魔族たちと違って、魔王は瘴気があがっているだけ……?」
見守ることしかできないシエルは格の違いを見せつけられ、気圧された。
魔王の黄金の瞳が鋭くシャルティアナを射抜き、静かに呟いた。
『この地の人間など、守る価値も無い……異質な存在だと、蔑まれてきたお前だって……そう思うだろう?』
少女は静かに目を伏せ、慎重に言葉を紡いだ。
『確かに私は、異質で異端な存在かもしれない。それでも、この地が大好きなの。だって……』
シャルティアナは覚悟の炎が宿った瞳で魔王を射抜いた。
『……ここは私の、大切な場所だから!』
杖を高く掲げ、力強く叫んだ。
『魔族の王よ!罪なき者の血をすすり、終わりなき戦火をもたらした咎……今こそ、その報いを受けよ!』
呪文を唱えると黄金色の魔方陣が淡い光を放ち、静かに浮かび上がった。
「この場面……夢には、無かった」
夢とは違う出来事が起こり、シエルは驚きの表情を浮かべた。
『シャルティアナ・フェンリースの名のもとに誓う!悠久の封印を、ここに刻まん――』
『我が娘を……奪った、人間の分際で――!』
怨みのこもった低い声で魔王が叫んだ。
最期の力を振り絞り、シャルティアナめがけて攻撃を放った。
「危ないっ――!」
シエルは咄嗟にシャルティアナの前に飛び出した。
――ザシュッ!
しかし、魔王の攻撃はシエルにあたることは無く……。
彼女の身体を通り抜け――背後にいるシャルティアナへと命中した。
『……カハッ――!』
心臓を貫かれ、シャルティアナの口から鮮血が零れた。
膝をつき、ゆっくりと崩れ落ちるように倒れこんだ。
「シャルティアナ――!」
『シャティ――!』
シエルが駆けよろうとした瞬間――視界の隅で、白い人影が横切った。
「……えっ?」
(どうして……この人が、ここに?)
白いドレスに身を包んだレテナシスが倒れたシャルティアナを優しく抱き上げた。
『シャティ……何故、君がこんな目に――』
『テシ……ス、ごめん……ね』
苦痛に顔を歪めるシャルティアナは最期の力を振り絞り、レテナシスの頬に手をあてた。
『もういい、喋るな。リザレク――』
回復魔法を発動させようとしたレテナシスの唇を、頬にあてていた手でそっと塞いだ。
『……やめて。もう、いいの……最期に、テシスに逢えて――良かっ……た』
柔らかく微笑んだ後、力を失くした腕がパタリと落ちた……。
『死ぬな、シャティ……シャルティアナッ――!』
レテナシスは自身の腕の中で冷たくなっていくシャルティアナを強く抱きしめ、涙を流した。
「うそ、でしょ……?」
シエルは両手で口を覆い、驚いた表情で事の顛末を見届けていた。
「……真実の黒本には、シャルティアナの亡きあと……レテナシスが駆けつけた――って書いてあったのに……」
シエルは唇をかみしめ、そっと2人から目を背けた。
「最期を、看取ってたなんて――!こんなの、悲しすぎるわ……」
顔を伏せるシエルの深紅の瞳から大粒の涙が零れ落ちた。
『……お前だけは――シャティを葬ったお前だけは……絶対に許さん!悠久の柩!』
怒りと絶望に満ちたレテナシスの低い声が響き、短い呪文を力強く叫んだ。
漆黒の夜空に降り注ぐ流星群のように黄金の鎖が放たれ、魔王の身体に絡みついた。
黒紫色の柩が現れると同時に魔王が中へ封じられ、眩い純白の光が王都全体を包み、シエルの視界も真っ白に染まっていった——。
幾度となく切り替わる記憶の断片。
覚悟していたとはいえ、壮絶な過去の記憶にシエルは胸を痛めた。
(いつまで、見ないといけないの……?)
このまま記憶の狭間に飲み込まれ、元の世界に戻れないんじゃないか――という不安に苛まれた。
(私は、元の世界に……戻れるの?)
呆然とするシエルの眼前に、滅びゆく王都の姿が飛び込んできた。
空には巨大なドラゴンが滑空し、都市には魔族の大軍が攻め入っていた。
「……あぁ、さっきの少女は――魔王の娘、だったのね……」
崩れかけの王城に佇んでいたシエルは、謁見の間の奥にシャルティアナと王の姿を見つけた。
『我が国自慢の騎士たちも、打ち倒されてしまった……。そこで、魔導師シャルティアナよ……魔王を封じ、平和を取り戻すのだ』
「だめ……断るのよ、シャルティアナ――!」
シエルの悲痛な叫びは届くことなく、シャルティアナは承諾した。
『はい!必ず、魔王を封印して平和を取り戻してみせます!』
力強く答えたシャルティアナは城壁が崩れ落ち、見晴らしの良くなった王城から王都の街並みを見下ろした。
『なんてことを……許せない』
燃えるような深紅の瞳で宙に浮く魔王を睨みつけた。
漆黒の魔法杖を高々に掲げ、短い呪文を唱えた。
『――神聖審判!』
シャルティアナの声に応えるように、複雑な模様が描かれた大きな黄金色の魔方陣が足元に浮かんだ。
天地が激しく揺れ、眩い神聖な光が矢のように降り注いだ。
無数の魔族たちは、悲鳴を上げる間もなく――塵と化し、消えていった……。
――グワァァァッ!
同時に、魔王の咆哮が王都中に響き渡った。
身体からは黒紫色の瘴気があがり、ゆっくりと崩れ落ちた。
「一瞬で消滅した魔族たちと違って、魔王は瘴気があがっているだけ……?」
見守ることしかできないシエルは格の違いを見せつけられ、気圧された。
魔王の黄金の瞳が鋭くシャルティアナを射抜き、静かに呟いた。
『この地の人間など、守る価値も無い……異質な存在だと、蔑まれてきたお前だって……そう思うだろう?』
少女は静かに目を伏せ、慎重に言葉を紡いだ。
『確かに私は、異質で異端な存在かもしれない。それでも、この地が大好きなの。だって……』
シャルティアナは覚悟の炎が宿った瞳で魔王を射抜いた。
『……ここは私の、大切な場所だから!』
杖を高く掲げ、力強く叫んだ。
『魔族の王よ!罪なき者の血をすすり、終わりなき戦火をもたらした咎……今こそ、その報いを受けよ!』
呪文を唱えると黄金色の魔方陣が淡い光を放ち、静かに浮かび上がった。
「この場面……夢には、無かった」
夢とは違う出来事が起こり、シエルは驚きの表情を浮かべた。
『シャルティアナ・フェンリースの名のもとに誓う!悠久の封印を、ここに刻まん――』
『我が娘を……奪った、人間の分際で――!』
怨みのこもった低い声で魔王が叫んだ。
最期の力を振り絞り、シャルティアナめがけて攻撃を放った。
「危ないっ――!」
シエルは咄嗟にシャルティアナの前に飛び出した。
――ザシュッ!
しかし、魔王の攻撃はシエルにあたることは無く……。
彼女の身体を通り抜け――背後にいるシャルティアナへと命中した。
『……カハッ――!』
心臓を貫かれ、シャルティアナの口から鮮血が零れた。
膝をつき、ゆっくりと崩れ落ちるように倒れこんだ。
「シャルティアナ――!」
『シャティ――!』
シエルが駆けよろうとした瞬間――視界の隅で、白い人影が横切った。
「……えっ?」
(どうして……この人が、ここに?)
白いドレスに身を包んだレテナシスが倒れたシャルティアナを優しく抱き上げた。
『シャティ……何故、君がこんな目に――』
『テシ……ス、ごめん……ね』
苦痛に顔を歪めるシャルティアナは最期の力を振り絞り、レテナシスの頬に手をあてた。
『もういい、喋るな。リザレク――』
回復魔法を発動させようとしたレテナシスの唇を、頬にあてていた手でそっと塞いだ。
『……やめて。もう、いいの……最期に、テシスに逢えて――良かっ……た』
柔らかく微笑んだ後、力を失くした腕がパタリと落ちた……。
『死ぬな、シャティ……シャルティアナッ――!』
レテナシスは自身の腕の中で冷たくなっていくシャルティアナを強く抱きしめ、涙を流した。
「うそ、でしょ……?」
シエルは両手で口を覆い、驚いた表情で事の顛末を見届けていた。
「……真実の黒本には、シャルティアナの亡きあと……レテナシスが駆けつけた――って書いてあったのに……」
シエルは唇をかみしめ、そっと2人から目を背けた。
「最期を、看取ってたなんて――!こんなの、悲しすぎるわ……」
顔を伏せるシエルの深紅の瞳から大粒の涙が零れ落ちた。
『……お前だけは――シャティを葬ったお前だけは……絶対に許さん!悠久の柩!』
怒りと絶望に満ちたレテナシスの低い声が響き、短い呪文を力強く叫んだ。
漆黒の夜空に降り注ぐ流星群のように黄金の鎖が放たれ、魔王の身体に絡みついた。
黒紫色の柩が現れると同時に魔王が中へ封じられ、眩い純白の光が王都全体を包み、シエルの視界も真っ白に染まっていった——。
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